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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)8







 一応、追撃を警戒して。シオンが家までは送る旨を提案すれば、女性も老婆も、一も二もなく頷く。


「もし、良ければそのまま是非我が家にてお礼を・・・!」

「あ、いや、それは・・・。」

「いえ!恩人をそのまま返したとあれば、我が家門に傷が付きます。」

 そう告げた彼女の身なりは確かに、整ってはいた。シオンはともかく、トラヴィスは冷静に彼女の様子や仕草を観察する。

(まさか、なぁ・・・。)


 本来はただの街歩きが目的では、当然、ない。この街にいる或る令嬢の調査が目的だった。前もって調べておいた『ノルブ=オルガヌス』の主だった貴族の血筋と容貌、外見など。

 その中で浮上した一人の令嬢。

 トラヴィスとも同じ『中央種』の、だけど、純血。

 彼女の家柄的には長く続く名家ではあるが、純血ではない。中央種と多種族が混じった血筋。ただ、時々、中央種純血の様な容貌をした姿の子が産まれることはあるらしい。

 その隠れ蓑を利用したのか、それとも、望まれて引き取られたのか、令嬢はしばらくしてその家に養子に出されている。養子を出した先は、不明、だが・・・。


 中央種の純血は、この国の、王族と同じ。


 そして、この国で純血を、維持しているのは、他に三貴族のみ。そしてこちらは、いずれも子供がいるが、所在も血縁関係も明らかにはなっている。 


 ソレが、ナニを指すのか。

 まぁ、言うまでもない。

 ない、が・・・


(その、理由が、ね・・・。)


 そうして、今トラヴィスは目の前の令嬢を、見る。何の因果か、彼女は茶髪の巻髪に明るいオレンジの瞳。『中央種』だ。

 純血か否かは、その見た目での判断になるが、何分、その血の混ざり具合によるものだから、何とも安易な判断はできないけれど。


 談笑しながら通りを歩く二人の背中を見つめながら、トラヴィスが、ふと、周囲の景色を眺める。左右共に店先が軒を連ねたレンガ通りから、一方が塀に囲まれた大きな庭園と変わっている。

 その先の大きな本邸宅を視界におさめて、トラヴィスは、これは、とほくそ笑んだ。

 元々中への侵入は、自分が、シオンには見張りを頼むつもりだった。最も、シオンが良くも悪くも目立つ為、見張りに置くのは返って危険が高まるかと懸念していたくらいだ。

 それが・・・

(もしかしたら、もしかすると?)

 手段を考える手間が省けたかもしれない。


 そうして、邸宅前の大きな門の前で、彼女が綺麗なカーテシーでシオン達を改めて迎える。


「改めて、本日はありがとうございました。わたくし、ハルメニア=アリーチェ=メルリットが、心からの御礼を申し上げます。」

 ゆっくりと開く両開きの門に、シオンが少し驚いた様に目を丸くし、トラヴィスが、


(ビンゴ!!)


 心の中でガッツポーズを、した。




  


「メニー!」

「お父様・・・。」 

 邸宅に入るや否や、血相を変えた初老の男性が彼女を迎える。白髪交じりのふくよかな男性は、彼女の父親にしては少し年がいっているようにも見えた。

 少し困ったような顔したハルメニアを、父親は肩を抱き、あちこちふれながら

「だ、大丈夫なのか!?怪我は!?何処か痛いところはないか!?」

「大丈夫ですって・・・」

「だが!」

「もう、本当に過保護なんだから。お客人の前ですよ?」

 そう、ハルメニアがたしなめれば、初老の父親はハッとしたようにシオンの方を見た。そして、少し慌てた様に

「これは失礼した。我が娘の危機を掬っていただき、誠に感謝する。本当にありがとう。」

「あ、いや・・・。」

 貴族というのは、本当に千差万別だと、シオンは庶民にも素直に感謝の礼を述べるハルメニアの父親を見てしみじみと感じる。自身の両親も、比較的、貴族以外とも交流をとり、積極的に関わっていく家ではあった。だから、ハルメニアの家には親近感が湧く。だけどそんな貴族の方が稀だというのは、本来のセレスティニアであった頃から実感はしていた。

 オブシディアンを、セレスティニアを求める時、貴族たちは往々にして、金銭と権力とを押し付けるような形で彼女を物にしようとしていた。極力そういった輩からは父親も、セリアンも、彼女を近づけようとはしなかったが、時として彼らが想像もしないような形でセレスティニアの前に罷り出る事もあったから―――・・・。

 

 故に、シオンは素直に礼を尽くした。

 

「過分なお言葉、痛み入ります・・・。」

 貴族としての礼儀なんてものは、正直、遠の昔に忘れた。この一か月足らずで叩き込まれたのは、最低限の礼と、悪女としての品質だ。残念ながら、この場に使えそうなものは一つもない。だから

「ご令嬢をお助けできたことは、私自身も安堵しております。ただ、それは全くの偶然でもありますから。どうぞ、それ以上はお気になさらずに。」

 自身ができる礼を尽くした言葉で返して、シオンは踵を返した。

「え、ちょ、うそ!?」

 ニヤニヤとその背を付いてきたトラヴィスが、思わずシオンを引き留めようとして、


「待って!」

 それよりも先に、ハルメニアがその腕を掴む。

「お礼をしたいって連れてきたのに!まだ何も返せてないじゃないですか!」

「礼なら今丁寧に頂いたよ。それでいい。」

「そんな!」

 シオンがかたくなに引き下がろうとするのを、ハルメニアが縋る様な眼で自身の父親へと向ける。視線を受けた彼は、一度びくりと肩を震わせた。その反応は、これ以上部外者を娘に近付けたくない、と言った本心が滲み出ている。無理もない、婚期真っ最中の娘に、妙齢の男が近づくのは親としても良い物ではない。

 それが分かるから、

「あんまり親を困らせるなよ?」

 シオンが目を細めてその腕を離させれば、


 こつん、と・・・。


 何かが落ちる。


「ん?」

 ころころと転がったそれを、トラヴィスが拾う。彼が誰にも気づかれない様に、一瞬だけ眉根を寄せた。そして

「なんだろ?お嬢さんから落ちてきたよ?」 

 そのまま、わからないふりをして、掌に載せたそれを、ハルメニアへと付きだした。

 それを見て、驚いた顔をしたのは、父親の方だった。

「あ、ああ!よか、良かった!」

「きっと、さっき引っ張られて紐がちぎれたんだわ。」

「ダメじゃないか!決してなくしてはいけないと!」

「わかってるけど、でもアレは仕方がなかったのよ!」

 慌てに慌てる父親に、ハルメニアが必死で弁解する。それをみて、シオンが、ハルメニアの肩にぽんと手を置いた。トラヴィスの手にあったのは、指輪だった。それをシオンがスッと手に取り、ハルメニアの手に乗せる。

「良かったな、道中じゃなくて。大事な物なんだろ?」

「・・・ええ、本当。」

 すれば、ハルメニアが、その指輪を大事そうに握りしめる。

「お守りなんです。」

 ハルメニアが何か柔らかい顔で微笑むのを、シオンが嬉しそうに眺める。

 すれば、

「シオンさん、そろそろ行きましょうか!待ち合わせに遅れてしまう!」

 トラヴィスが、先ほどとは打って変わったように、シオンへ声をかける。それに短く頷けば、ハルメニアの縋る様な視線とかち合う。

「じゃあ、な?」

「―――・・・っ!」

 泣きそうに目を潤ませて、ハルメニアがシオンから手を離した。そうして一歩下がって見送るのを見て、シオンが改めて当主であろう彼女の父親に会釈をする。

 そうして背を向ければ、一度も振り返らずに、二人は真っ直ぐに邸宅を出た。その背が見えなくなるまで見送って、ハルメニアが切ない顔で手の中の指輪を握りしめる。

 父親が、その彼女の肩にポンと手を置けば

「・・・良い、若者たちだった、な。」

「ええ、とても・・・。」


 ふと、何故かハルメニアは、先日のパーティーでの出来事を思い出していた。確か行方不明であったオブシディアンの姫が見つかり、兄と会う為に開かれた物だ。そこに現れた女性は、東方種の純血らしい、透き通る肌とあふれるような黒髪、それに類まれな美貌の持ち主だった。だけど、その仕草は、酷く高慢で挑発的であり、ハルメニアは遠巻きで見つめながらも、決して好意的な感情は持てなかった。


(何故だろう・・・)


(あの人を見て、昨日の、オブシディアンの妹様が、浮かんでしまったのは・・・。)

 

 今別れたあの人は、庶民でありながらも、あんなに礼を尽くし、謝罪の言葉を真摯に受け止めてくれたというのに。


 同じ東方種、だからだろうか。

 相反するような二人、だったからだろうか。


 そんなことを考えながら、ハルメニアは、しばらくの間、二人が消えた二人が消えた、淡い空を、眺めていた。







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