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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)7



 『ノルブ=オルガヌス』は、気候的にはルミナスプェラとほとんど変わらない。どちらかといえば、首都よりも、『カルベラ』に雰囲気が似ている。レンガ造りの建物が並ぶ事も、噴水広場がある所も類似している。ただ明らかに、人通りと店の数、そして街を行く人の数が多い。

 賑わう人々の行方を、シオンは目を細めて眺めた。


「いやー、ホントに化けましたねぇ・・・。」

「ん?」

 背後からかけられた声に、シオンが立ち止まって後ろを向く。今の姿は、セレスティニアではない、慣れ親しんだ、いつものシオンとしての格好だ。

 ただ、トラヴィスとしては、そっちのほうが初対面なので。化けた、というのはどっちの意味なのか・・・。と、シオンは思いつつも、あえては口に出さず、曖昧に頷くに留めた。

 短い髪で快活に歩く中性的なその姿を、品定めをする目で眺めて、トラヴィスはニヤニヤと笑う。

「まだ同一人物って、信じられないや!」

「はいはい。」

 かく言うトラヴィスも、こうして見れば何処にでもいるような青年だ。混血ながらも、『中央種』が色濃く出ている──茶色の髪とオレンジの瞳の容貌。二人で歩いていても、別段、何処にでもいる、吊るんで歩く男性二人、にしか見えない。と、シオンは高を括ってた、が。


 トラヴィスから見ると、少し違うらしい。


「アンタ、すんごい目立ちますから。これ以上変なことはしないでくださいよ?」

「そこまでじゃねぇだろ。」

「・・・まぁ、自分じゃわからないもんですよね。」

 そう言って、トラヴィスがチラリと周囲を一瞥する。それだけでも、遠目にチラチラと、セレスティニアとはまた違った、興味と好奇の視線が、シオンへと向けられているのがわかる。

 まぁ、確かに、と。

 先を行くシオンを眺めながら、トラヴィスはうーん、と周囲の視線に同調する。

 確かに唯の美人、いうなればイケメン、とは少し違うのだ。それだけならそこまで人の視線は釘付けにはならない。それでもシオンは、人目を引く。

 多分、それは・・・


「おい、トラヴィス、コレ見てくれ。」

「はい?」

「凄いな、ルミナスプェラだと赤ランタンが呑み屋の印なんだが・・・。コッチだと、レンガ造りの灯籠になってる。」

「あぁ・・・。」

 仕事がら、他国へ出向く事もたまにあるトラヴィスにとってはそれほど珍しくはないその作りが、ここ数年、ルミナスプェラから出たことがないシオンにとっては、酷く珍しいのだろう。

 目に付く様々な景色が新鮮で、その度に、表情がころころ変わる。

(うん、なるほどなるほど。)

 その様子が、整った容姿と相俟って、酷く可愛いらしい。

「凄いな、初めて見た。」

「そう、でっか。」

「あぁ!」

 咄嗟にぎこちない返事になったトラヴィスにも、シオンは気にする素振りを見せない。唯、素直な笑顔を向けてくるだけなのに、それにすら、周囲から羨望の眼差しを向けられる。

(・・・まぁ、悪い気は、しない、よね。)

 ただ、幸か不幸か。トラヴィスは、彼、もとい、彼女には既に運命の相手がいることを知っている。もしこの状況を、彼女の酷く嫉妬深い恋人が、把握したと、すれば・・・。


(わー・・・怖い怖い!)


 思わずぶるりと、その背を震わせて。トラヴィスはこれ以上寿命が縮まる様な思いを避けるために、シオンへと釘を刺すことを決める。


「シオンさん。」

「んー?」

「やっぱ目立ってるんで。これ以上、はしゃぐのは無しでお願いします。」

「・・・別に、そんなにはしゃいでなんかないだろ。」

 指摘された内容がまるで子供にするような内容だったからだろうか。すれば、少し拗ねたような、恥ずかしがるような、上目遣い。

「あ、いや・・・。」

(あー・・・、マジ、怖い。)

 その愛らしさの背後にいる人の殺気を、トラヴィスは身をもって実感しているから。もはやなんといえばいいか分からず・・・。


「どうか頼みます。ホント、ボクのためにも。」

「だから、別にはしゃいでなんか・・・。」

 そう告げたシオンの目が、ふと、一角に止まる。

 視線の先で男が三人、誰かを取り囲んでいるのが見えた。裏路地に連れ込もうとしている男達の隙間から見えた淡い色のフリルに、シオンが思わず走り出す。


「え?え?ナニ!なんなんですか!?」

「あそこ!」

 シオンが短く示した先へ、トラヴィスも慌てて向かう。

「てか、さっきから言ってんじゃん!目立つなって!」

「そうもいかねぇだろ!」

「あーもう!」

「なるべく穏便に済ますから!」

「頼みますよ!ホント!」

 シオン達が歩いていた通りから、角を一つ。

 明るい大通りに反して、角を一つ曲がるだけでたどり着く薄暗い路地裏の先。

 うら若い女性とその付き人らしい老婆を取り囲んで、なにやら話している。徐々に大きくなるやり取りを聞き分けるよりも先に、女性へと伸びてきた、その手の前へ。シオンが辛うじて滑り込むのに成功した。すれば、突然の乱入者に、男達が一瞬驚いた表情を見せ、そして露骨に顔を歪める。

 それでも臆することはなく、シオンはその背に女性を隠しながら、

「まぁ待てよ。いきなりそれだと、どう考えても暴漢って思われるぞ?」

「あぁ!?なんだてめーは。」

「ただの行きずりだよ。だけど、あまりにも男三人で寄って集って、おかしくねぇか?理由くらい聞いてもいいだろ?」

「てめーには関係ねぇだろ?」

「ナニ?アンタ等は関係ある者同士?」

「知りません!こんな人!」

 関係性を問えば、背後に隠れた女性の付き人らしき老婆が地べたに座り込んだまま、すかさず叫んだ。

 すれば、男の一人が老婆に迫るのを、シオンが更に制する。

「非がないってんなら!・・・一旦この場は引かねぇか?このままだと、人も集まってくるし、そうすればアンタ等も困るだろ?」


「うるせぇ!邪魔すんじゃねぇよ!」

「いや、だから──・・・」

「関係ねぇんだからすっこんでろ!」


 何とか落ち着いて話そうとするも、男三人は数にも体型的にも勝るせいか、どうにも強気に出てくる。

 人目も気にせずぎゃあぎゃあと喚き立てる男達に、段々とシオンの米神が震えてくるのが見えて、トラヴィスが、

(あ、ヤバいかもしれない。)


 と、感じた瞬間、



「てめー等こそうるせぇ!グダグダ管巻いてねぇでまともに頭働かせろ猿が!」

 


「・・・ダメだこりゃ。」

 トラヴィスが天を仰いだ。


 瞬間沸騰して襲い来る男三人を、シオンが酷く好戦的な笑みで迎え入れて、咄嗟腰に手を当てれば、

「あ。」

 瞬間、二刀が無いことを思い出すシオンが、間髪入れずに、先陣を切った男の頬へ、ナニかを思いっきり叩き込んだ。

 一撃で地面へと沈んだ男を見下ろしながら、シオンが手の中の得物を器用に回す。

 その両手に持つのは、今日ばかりは持ち歩けない二刀の代わり。



『まぁ、この間の捌き方、中々様にはなってたよ。』

 


 出掛けにクロウから手渡されたのは、白蝋の棍だった。以前彼の前で大刀『朝風』を根の様に振り回したのを見て、代わりの武器を決めたらしい。


 まだ手に馴染む、とまでにはいかないものの、遠心力を使っての戦闘方式は『朝風』の捌きにも近く、比較的使いやすい。

 今の一撃で完全に吹っ切れたシオンが、見惚れる程綺麗で、酷く凶悪な笑みを浮かべた。


「もう、知らねぇ。」

「は?」

「会話もしねぇ。来んなら来やがれ。」

「お、おま・・・!」 



「全員地面の一部にしてやる。」


 鬼の如く棍片手に仁王立ちし、残された男二人は、顔色を真っ青にして、思わず震え上がった。









 

 男三人を、宣言通り、地面にめり込むほどなぎ倒した後。

 トラヴィスが男達三人の身形や身元の分かるものを物色している間、少し離れた場所で、女性と老婆が深々と頭を下げる。

「本当にありがとうございます!」

「いや、大事がないならよかった。」

 そうして、女性の顔を覗き込む様に、怪我はないかと尋ねるシオンと、彼女は目が合って・・・


「・・・ヤダ、超好み!」

 ぐっと息を飲んだ女性が、素直な言葉を口にすれば、老婆が思わずたしなめる。

「お嬢様!はしたないですよ!」

「あら、つい、本音が。」

 老婆の指摘に我に返った女性がおもわず、といったように口元を押さえれば、その様を見て、シオンがくすりと笑みをこぼした。

「はしたないところを・・・!」

 そう恐縮する女性に、目線を合わせて、

「大丈夫、よく言われるから、な?」


  ── カッコイイだろ?俺・・・。


 なんて、冗談混じり。普通に言われれば顰蹙を買う様な台詞も、イタズラめいた様な顔で舌を出して魅せるシオンに。それだけで、女性はよろめき、頬を赤らめるから、


「・・・・・。」

 そのやり取りを側で見ていたトラヴィスが、うわぁ、とこっちは冷静にドン引いた様子。



(タラシだ。この人、天性の人タラシだわ。)


 男達の身分証を探る傍ら、心のうちでぼやく声は、流石にシオンには届かなかった。

  



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