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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)6










 と、或る、薄暗い一室にて。



「で?今度はいつ入荷だと聞いている。」

「ふふ、そんな風に急かされては、出せるものも出せないですよ。」

 不機嫌そうな男の声に、女はのんびりと答えた。

 すれば、男はその苛立ちをすぐ傍にあった高級なテーブルを叩くことで示してくる。ガシャンとカップが鳴き、波打った水面から、温かいお茶が無残にも溢れる。

 男のその様を他人事の様に眺め、女は少し考え込む様にして

「そんなに急ぎなのかしら?一人送ってからまだ一月も経っていないかと思いますけど?」

「すぐに壊れるだろう。」

「そんな乱暴な。もう少しかわいがってあげてくださいな?」

「楽しみが半減する。」

「ふふ、本当にお好きなのねぇ。」

 その女性の声には幾ばくかの侮蔑と嘲りが入り交じっていたが、男は、女の目をじっと見て

「なんなら、貴様を捕えても構わないんだぞ?」

「あらあら。」

 不意に伸びた手が、女を掴む。脅す様な男の声に、それでも女はゆったりとした口調で返した。

「それは構いませんけど、そうしたら、ソレで打ち止めですわねぇ?」

「・・・・・。」

「それにワタシ、そこまでお上手に相手できませんのよ?ね?お顔もそれほど美人でないのはわかってますし。」

「・・・・・。」

 不意に伸びた手が女の頬を撫で、そして、目尻に触れる。すれば、女がその目を細く細くして嗤った。

「ああ、それとも貴方様は・・・この目があれば誰でもいいのかしら?」

 女がそう告げて、自身の右目を押せば、その眼から何かが零れ落ち、現れたのは、


 赤い、赤い目。


「・・・・・ッ!」

 男の目が、ごくりと喉を鳴らす。

「ああ、本当にそういうコト。」

 なら、と。

 女が赤い唇を吊り上げる。

「今、一人、丁度いいのがいるじゃない?」

「わかっている・・・。」

 男が、興奮したように、その目を食い入るように覗き込みながら

「その為に、『オブシディアン』を利用したんだ。案の定、噂は本当だったらしい。」

「でしょう?だから言ったじゃないですか。ワタシのお得意様の体験談だからって。」

「ああ・・・。」

「問題は、捕まえられるか否か、でしょうね?正直申し上げて、ワタシは無理。魔力云々じゃない、アレの戦闘力は正直規格外だわ。人災捕まえるのと一緒。」

「・・・・・。」

「ただ、欲しいわよねぇ。結構言われるのよ、アレは手に入らないのかって。なんなら・・・」


 ――― あの黒い美人と一緒に、セットで欲しいわぁ・・・。


 そう言って、女はぺろりと唇を舐めた。

 その様に、男は淡々と

「黒い方なら貴様にやってもいい。」

「あら、お優しいわね。まあ、『オブシディアン』も、それなりに価値がありますから。ただ?ワタシは魔族専門でとりあつかってますからねぇ。」 

「そっちはオレが使う。」

「オトコノコでも?」

「どうでもいい。」

「あらあら。」

 下卑た笑みを浮かべて、赤い眼の女が嗤う。

「今回、ワタシは別のお仕事があるから、お手伝いはできませんが。」

「構わん、俺の私兵を使う。」

「戦力だけなら、何人いても同じですわよ?

「無論わかっている。俺自身が出ればいい。」

「あらまあ、贅沢。」

 それだけを告げて、目を覗き込む男のその手をゆっくり放した。

「応援しておりますわ。―――様」

「・・・・・。」

 それだけを告げて、女は、ひらりと手を振り部屋を出る。その背を食い入るように見ながら、男が

「ヴェラドンナ・・・。」

「あら、まだ何か?」

「・・・裏切るなよ?」

「まさか。」

 右目だけの紅い眼を晒して、目を細めた女は、笑顔のまま、否定の言葉だけは紡いで見せる。そのまま入り口からゆっくりと出ていけば。

 女の言葉がどこまで本心なのか、は、男は読み取ることができなかった。


















「・・・もう、大丈夫、かな?」

 セレスティニアの上から身体を起こして、視線だけを窓の方へ向ける。僅かに映った二人分の影に、小さく笑いながら、クロウが前髪をかきあげる。

 これで少し動きがあるのか・・・と、この後を思案しながら、ふと、自身の下に目を落とすと、


「・・・も、いいか?」

「・・・・・。」

「・・・どいてくれ。」

「・・・・・。」

 ぐっと胸元を押すその顔は、すでに演技から解放されて。ため息と共に、少し熱の籠った吐息を吐き出しながら、シオンはゆっくりと体を起こした。

 シオンの演技は決して上手、とは言えない。

 大勢の前で行う大胆な演技は、度胸が物を言うのもあって様にはなっているし、リィンとも相当設定を詰めたとも言っていた。

 が、いわゆる『セレスティニア』のまま、触れ合う事には、何か抵抗があるのだろう。ぎこちなさと恥ずかしさが勝った様な演技だから、流石に調査を専門とするような輩に見られた暁には一発でアウトだろう。ゆえに、ほとんどその身体をクロウ自身で隠した状態で、フォローと周囲への牽制。索敵とで、それなりにうまく交わしてみたけれど・・・。


(そこを期待するのはもう、どうしようもないよね・・・。)


(まあ、欲を言えば、もう少し大胆に声をだしたり、足開いたりしてくれれば、ヤリ様があるんだけど・・・。)


 そんな事を考えながら、ふと、見下ろす姿に、


「・・・・・。」

「・・・なん、だよ。」


 思わず、視線が泳ぐ。


(あー・・・。もう、ホント・・・。)


 完全に沈静していた筈の個所が、またムクムクと反応し始めて、クロウは思わず目を伏せた。


 たまらなく魅力的な、太腿が露わになっていて


 ふと、思う。


 これだけがっつり背中が空いて、これだけがっつり深いスリット入って。


「・・・あの、さ?」

「ん?」

「これ、下着どうしてんの?」


「───・・・っ」


 瞬間、黙秘権を行使した、シオンの、その表情に・・・。


(あ─・・・。)

 全てを察して、思わず本気で喉が鳴る。指先が戦慄く。可能なら、できるなら、ほんの少しでもいいから・・・


(ちょっとだけ・・・、めくって、開いて、触って、揉んで、舐め―――ああ!ダメだ!挿れたい・・・ッ!)

 本当に、正直に。心の中だけでは絶叫して。クロウは、ぐっと奥歯を噛み締めて耐える。


 と、


『ボースー!』

 ピクリと、耳元に落とされる呼び出しに、完全にクロウが我に返った。露骨に舌打ちして、不機嫌を丸出しにする。

『・・・なに?』

『にょっほー、ご機嫌斜めー!すんませんねぇ、お楽しみの直前にー!』

『うっさい。ナニ?』

『やっぱこの部屋担当の家政人メイドは黒ですなぁ。』

 念のため調べた結果に、クロウが小さくため息を吐く。

『ま、そりゃそうか・・・。』

『しかも、指示出し役の騎士の身なり、結構イイんですよねぇ。中々尊き御方々が絡んでそうですよぉー?』

『ちょい面倒だな・・・。』

『今、エルがちょっと奥の方まで潜りに行ってます。後で結果を報告できると思いますよ?』

『あいよ、了解。』

『あと、事前の調査も兼ねて、もう一つ調べてはいますけど・・・、確証がなかったですね。証拠の抑えには出なきゃならなさそうですわ。』

『・・・そう。』

『その際はボクが付きますんで。』

『・・・・・。』

『うわっ、嫌そう!ハルオミが言った通り!独占欲強すぎでしょ、ボス!仕事仕事!』

『・・・言われなくてもわかってんだけど?』

『ま、オレは美人さんの警護なんで役得役得ー!』

『・・・指一本触んなよ?殺すからな?』

『いや、無理でしょそれ!』

『・・・・・。』

『んじゃ、よーろしくー!』


 以前よりも格段に良くなった超小型の音声に、返って相手の声色まで拾える様になったのは

(いいんだか悪いんだか・・・。)


 ため息を吐き出しながら、クロウが天井裏を見上げる。

 第二大隊長キリングスの選択は確かに見事だった。

 選ばれた二人の内一人は妙にハイテンションのふざけた口調の男だった。打ち合わせの時に、面通しされた際には茶髪にオレンジ色の瞳をした純血の中央種の様相、その時からヘラヘラと笑い、気安く触れてくるような男で、年のころ二十台半ば程。

 ただ、動きを見る限りは、キリングスが推すだけはある。まるで猫の様なしなやかさを持つ男だ。天井裏でもどこでも貼り付いて何時間でも待つ忍耐力と体力もある。背後からの補佐という点では、確かに背中を任せても良い感じではあった。


「どうした・・・?」

 シオンが、ソファーの上に体を起こし、乱れた服を直す。その様をしっかり視界に納めながら

「いや、お仕事の事。」

「そう、なのか?」

 キョトンとした様子のシオンに、そう、とだけ小さく頷いて。そのままクロウが少し考え込む。もし、本当にノブル=オルガヌスの王族が関わっているのだとすれば、それはちょっと面倒な事になる。時として、権力のある人間ほど面倒な物はない。

「近く、さ?もう一回お兄ちゃんに会いに行こうか。」

「・・・近く、二、三日中とか?」

「うん。ちょっと、早めにアプローチして、出方を見たいなってね。」

 シオンが身に付けていたアクセサリーを外そうと首の後ろに手を回せば、クロウがすっと、その背後へ立つ。

 彼女へ、髪を上げるよう言えば、シオンが少しうつむいて長い髪をかきあげた。露になったうなじからピジョンブラッド―――見事な赤い宝石のペンダントを外す。更に白いレースのリボンをほどき、はらりと床に落とした。

「何度みてもイイわ、ホント。」

 赤いネックレスと白いリボンを見下ろしながら、クロウがちょっと愉しげに目を細める。そんな様を見上げながら、シオンが少し照れたように息を吐く。

「『聖女』さんからの采配だな。」

 クロウの目と髪の色を身に付けている。それは明らかに彼女のお相手が彼であることを示しているようなものだ。無論、これも相手への牽制や炙り出し、反応の確認などを判断するための策でもあるのだが。

「任務終わったら報酬に要求しておこうか。」

 とんでもない事を言うクロウに、シオンはぎょっとした顔でクロウに叫んだ。

「阿呆か!リボンはともかく・・・、この宝石いくらすると思ってんだ!」

「えー、それくらいの事、してない?」

「してねぇよ!てか、できねぇわ!」

 面白そうに喉を震わせて笑う様に、飽きれた様なシオンが、そのままぺたぺたと素足でクローゼットの方へと向かう。シオンよりも大きい開きの扉を開ければ、中に詰められたドレスの山を前に

「一着くらい、いつもの服を持って行きたかった・・・」

「いや、無理だね。『悪女』は着ないでしょ?胸帯に胴巻き防具、ジャケット、厚手のズボン、はこのクローゼットに不要。」

「なんか腹立つな。」 

「・・・ただ、クローゼットには不要でも、さ?」

 にんまりと、クロウが一つ笑みを作る。ベッドの下に放置していた、自分用の荷物の中に紛れさせて、ぐっと取り出したのは

「あ!」

 シオンのいつもの私服だった。

「いつの間に!」

「お前が打ち合わせ中の時に、ちょっとね。」

「・・・この間も言ったが、鍵、渡してねぇよな?」

「企業秘密で。」

「・・・企業なのか個人なのか、後日きちんと確認するからな。」

 ちょっと不信の目で見上げてくるシオンの視線をスルーして、

「ちょっと、調べたいこともあるんだけど、『セレスティニア』で行くわけにはいかないから。」

「そうなのか?」

「人選的には、お前にも行ってもらわないといけなくて。」

「そりゃ当然だな!」

 まだ初日ながら、少しでもセレスティニアから解放されるのがよっぽど嬉しいのか、少し楽し気にシオンが請け負う。

「で、お前は?」

「ン?オレはお留守番。」

「え?」

「ちょっと、心配なんだけどね?流石にセレスティニア様不在の部屋を、万が一でも家探しされるのは困るから。番犬が必要かなぁ。」

「・・・じゃあ、俺が一人で?」

「それはダメ。目立ちすぎる。」

「・・・だったらどうするんだよ。」

「・・・まあ、仕方がないから、さ?」 


 クロウが心底不服そうな顔で、ぱちんと、指を鳴らす。


 すれば、天井からざっと


「ハジメマシテーッ!」

「わっ!」


 妙に軽い男が、降って来た





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