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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)5

 




「・・・・・。」

 いつもより、少し眉根に力を入れて、姿勢よく。視線はやや相手を下に見る様な、もしくは、誘う様な上目遣い。

 唇は基本、常に両角を吊り上げて。


(・・・俺、何してんだろ。)


 『悪女セレスティニア様』を演じながら・・・。

 シオンは、遠い目をした。心の中で。








 

 登城の声がかかれば、一度城内はざわめき、そして、彼女が姿を見せるや否や、皆が同時に息を飲んだ様な、瞬間の沈黙が流れる。


 貴族女性としては、婚期も過ぎ、明らかに角の立つ年齢だったはずだ。なのに、幾分か派手な化粧と装いは、それでも彼女に酷く良く似合い、輝かせた。

 長い黒髪は軽く巻かれて横に流し、惜しげもなく晒された白く綺麗な背中の、大きく開いた黒のホルターネックのドレス。右側には深いスリットもあり、かなりの露出がある。それでも、彼女の身体はそれを見事に着こなしていた。

 同時に、胸元で輝くピジョンブラッドの宝石と、左腕に絡みつく様に巻かれた繊細な白いレースのリボンが明らかにナニか示唆して、傍目にもわかるソレに、周囲からひそひそ話が沸き立つ。


 そして何より、


 『オブシディアン』を示す、ニ刀。

 

 本来城内に貴族ですらない彼女が武器の帯刀を許されるのはあり得ないことだ。それを、願いでたのは外でもない、彼の兄だった。

 彼等は『オブシディアン』、刀技の一族である。元々の国であれば、どこであろうと帯刀を許された身分であり、立場でもあった。それは同時に、彼らとその国主との深い関係をも示唆し、当時の彼らの存在感をまざまざと見せつけられたものではあった。が・・・


「まさか帯刀を許されるとはな・・・。」

「お兄ちゃんと、何よりウチの『聖女』様の頑張りだってよ。」

「へぇ・・・。」

 表情を崩さないまま、本当に隣のクロウにしか聞こえない声で呟けば、彼も同様に演技の表情のまま声だけは普段の彼のまま返事を返す。

 その様が面白くて、崩れそうになる表情を、せめて『セレスティニア』としての笑みで交わせば


 周囲が息を飲むのが、わかった、が、シオンに至っては


(・・・お貴族様の趣味はよくわからねぇな。)


 淫靡にも見える笑みの下で、正直ため息をつきたい気分のまま、クロウにエスコートされ、城内を進高いヒールで優雅に歩く。

 ちなみに、警護であると同時にエスコートとして入場しているクロウには帯刀は許されなかった。最も、クロウとて小烏丸は置いても、数本の投擲ナイフはバレない範囲で身に付けてはいたし、いざとなれば何と言われようと、シオンの刀を拝借して事にあたるつもりでもあった。


 まずは、この広場で、最も位の高い相手であるノルブ=オルガヌス現国王と王妃へ挨拶と感謝を告げに行く。玉座には、国王夫妻と共に、三人の子供が、それでもセレスティニアに見惚れるような視線を向けていた。

「・・・この度は」

 いつもの、凛と響く声とは、少し違う。

「またわたくしと、兄との再会の為、機会と場所をご用意くださったこと、感謝いたします。」

 甘い毒の様な響きを含んだ声。きっと悪魔がいるならこんな声で人を惑わし、堕落させるのだろう、と。

「ノルブ=オルガヌス国王、セルサス陛下。」

 国王セルサスが、それでも、僅かに眉根を寄せた顔をすぐに打ち消して、親しみを込めた笑顔でもって彼女を迎えた。

「よくいらっしゃった。『オブシディアン』の姫君。」

「もう、姫と呼ばれるような立場でも年齢でもないですわね。」

「そんなことはない、名前の通りの、未だ衰えるコトのない美しさだよ。」

「・・・ありがとうございます。」

 謙遜か皮肉か、どちらとも取れる様な言葉でもって王に返せば、一国の主らしく大きな器を見せて返す。それにセレスティニアは素直礼を述べた。そして、

「可愛らしいお子様たちですわね。」

 セレスティニアが目を細めて子供たちを見やれば、

「そうだろう、自慢の子等だ。」

 一番年長の子は直血の中央種らしく、父親と同じ茶色の髪とオレンジの瞳を持っている。ただ、下の子二人は金髪にオレンジの瞳だった。王妃は西方種らしく、金髪碧眼の美人だ。

「皆様、とても利発そうなお顔立ちですこと。」

 そう言って微笑めば、王妃は僅かに目を伏せて軽く頷いて見せるにとどまった。


 そうして、以降はかけられた声に無難な返事だけを返して、セレスティニアは、その場を離れる。クロウのエスコートの元、皆が見守る中、セレスティニアが、緊張した面持ちで彼女を見つめていたセルゲイの元へと向かった。

 懐かしい顔に、僅かにシオンが目を細める。記憶の中よりも少し年を重ねた兄の姿に、どこか懐かしさは覚えた。だけど、セリアンが亡くなってから、どこか他人行儀で、手を伸ばせば少し怯えた様に一歩引き下がる姿に、寂しさと切なさも同時に思い出して。

「・・・・・。」

 あの時の、同じ表情が、まだ、目の前にある。

 振り払う様に一度目を閉じた。

 セルゲイの前で、思いっきり他人行儀に、傅く。


「お久し振りです、お兄様。ご無事で何よりでございました。」

「・・・ああ、君も。無事で何よりだった。」

 

 気まずそうな、セルゲイの声を聴きながら、シオンは準備期間中のリィンとのやり取りを思い出す。



『一つ、まずは、セレスティニアさん、お兄様をちょっと恨んでおきましょう。』

『・・・いや、まあ、別にそこまでは。』

『うん、わかっているわ。だけど、ね?今は悪女のセレスティニア様、だから!』



(恨み言、か・・・。)

 仮にこんな状況じゃなかったら、そんな事、言うつもりもなかった、なんて、小さく笑う。だけど、今は、セレスティニア、だから・・・


「流れた年月も幾許か。まさか、こんな時分にお声掛け頂くとは、思いもしませんでしたわ。」

「───・・・っ!」 


 暗に、今更何の用だばーか、と、告げられて。記憶の中のセレスティニアはそんなことを言う子ではなかったと思ったのだろう、セルゲイが情けなくも、ビクリと肩を跳ねさせた。


「す、まなかった・・・。セレスティニア、私、は───・・・。」

「流れ着いたルミナスプェラにて、『聖女』リィン様には格別の御配慮を頂きまして。今は『客分』としてお引き立て頂いております。」

 兄の言い訳を聞きたくないとばかりに流して、セレスティニアは自身の現状を簡潔に告げて、にっこりと悪女らしく笑った。


「・・・それは、何よりだった。」

 そうされれば、セルゲイは、何も言えない。

 兄弟の久しぶりの会話はそれで終わった。少し困惑したような、どこか怯える様な視線に、彼がどうしてそこまで自身にそんな様をみせるのかはシオン自身はわからない。

 いくら待っても、次いの言葉はセルゲイからは降ってはこなかった。

 それなら、それで、と。セレスティニアはスッとクロウの腕を取った。

「それでは、せっかくですから、わたくしもパーティーを楽しませて頂きますわ。」

「あ、ああ。そうすればいい。」

「また後日、ゆっくりと、ね?お兄様。」

「・・・ああ。」

 意味深な笑みだけを残して、感慨もなく、セレスティニアはくるりと踵を返し離れていく。様々な感情を残した、兄の視線をその背に受けながら。


 華やかな宴席に戻れば、遠巻きにこちらを伺う視線が無数に突き刺さる。

 どうせなら、全て跳ねのけて今すぐ帰りたい気持ちを精一杯内側に隠して。シオン、もとい、セレスティニアは誘惑をする様な視線を周囲に振り撒く。


 すれば、


「セレスティニア様・・・。」

 餌に引っかかった・・・貴族らしき男が、一人。

「よければアチラでお話を───・・・。」

 少し浮き足立ったような男性が近付くのを、

「・・・・・。」

「な、なにを―――・・・!」

 すぐさま、クロウが前に出て制する。その噂に聞く緋い目の、冷かな視線に、貴族の男がたじろぐ。

 ナニか言ってやろうかと、二つ三つ口を開いては、結局なにも言えずに後退る様に、セレスティニアは侮蔑的な笑顔を向けた。

「あぁ、失礼しました。」

 クロウの肩に手を置けば、敬意を払う様にその手の甲に口付けを落す『白銀』の頬に掌を添えて。セレスティニアは満足そうな笑みを浮かべる。

「わたくしの『忠犬』は、自分以外がわたくしに触れるのを酷く嫌うんですよ。可愛らしいでしょ?」

「そ、れは・・・」

「まぁ、『犬』のした事ですから。許してくださいな。」


 ね・・・?と。


 身体を擦り寄せ会う二人の、赤と黒、二つの視線に射すくめられて、男がぶるりと震える。


「で、どうします?お話、できます?」

「───・・・っ!」


「・・・し、失礼、する!」

 大股で、不機嫌を露わに立ち去る男を、愉しげに見送りながら。

「ふふ・・・。」

 セレスティニアが、我慢できずに肩を震わせて、


「あはっ、アハハハハハ・・・ッ!!」

 

 広間に響き渡る程の高笑いに、周囲が呆気に取られたように、彼女を見た。

 その、一見すると礼儀を欠く仕草すら、様になる。まるで淫靡な悪魔を見つめる様に、周囲は好奇と興味、それと一部、興奮と嫌悪の視線を織り交ぜた視線で彼女を見つめ続けた。




 程なくし、遠回しに『飽きた』と称して、その宴席から退出した二人が元の部屋へと案内される。滞在中にと用意された王宮の一室は華美で派手な部屋だった。重厚なシャンデリアに、天蓋付きのベッド。宝石のついたドレッサーに、座り心地が良さそうな大きなソファー。

 通された部屋の豪華さに、一何度見ても慣れない『シオン』が、呆気に取られたような表情を晒すよりも先に、案内した家政人メイドが、深く一礼をする。

「只今お茶をお持ち致します。」

「あぁ、結構。」

 家政人メイドが顔を上げるより先に我に返って、セレスティニアがひらりと手を振り拒否を示した。困惑したような家政人メイドに、セレスティニアが、

「疲れてしまったの。これ以降は誰も入らないで頂戴。」

「では、せめてお着替えのお手伝いを───」

「大丈夫よ。」

 不意にセレスティニアが赤く淫靡な唇を吊り上げる。

「手伝ってくれる人は他にもいるもの。」

「で、すが・・・」

「あら?聞こえなかった?」

「・・・・・。」

「今日はもう、誰にも会いたくはないの。ね?着替えも大丈夫よ?」


 ─── 脱がせるだけなら、犬にもできるわ。


 この後に待つ淫靡な関係を遠回しに示して見せて、愉しげに笑みを浮かべるセレスティニアに、家政人メイドが、思わず顔を赤らめて、再度深く一礼する。


「し、つれい、しました。」

 素早く出ていく背中を見送れば、入り口で警備宜しくずっと、無言で立ってクロウが、周囲の気配を探りながら、一度天井へと目を向ける。


 そうして、きっかり三秒。 


「いいよ。オーケー。」

 その合図を皮切りに、セレスティニアが、シオンへと戻る。へなへなとソファーへ、崩れるように座り込み、そのまま横倒しに、倒れ込む。

「あー・・・疲れる。」

「ぶふ・・・っ」

「・・・ナニがおかしいよ、第四大隊長殿。」

 吹き出す様に、シオンが舌打ち混じりに上目遣いでクロウを見やれば、

「全部。面白いくらいに、お前じゃないわ。」

「このやろ・・・っ!」

 シオンが悪態をついた瞬間、ピクリと反応したクロウが視線を気配の方へとむけながら、

「お疲れのとこ悪いけど・・・」


 ─── 残念ながら、舞台の時間だわ。


「・・・・・。」

 その言葉に、シオンがぐっと息を飲む。たった今解放されたと思ったのにと、悪態を吐きたい気分だ。それでもやらなくてはならない。その為に、ココに来たのだから。

 気配の方に露骨な視線を向けて、クロウが忌々しそうに舌打ちする。

「無粋だねぇ、覗きなんざ。」

「誰が?」

「・・・知らねぇ顔、てか、素人だな。」

 わざと、僅かに空けた窓の隙間。向こうはそちらから覗こうと思っているのだろうが、それはこちらからも、自分達が見えるということは頭に入ってないらしい。生業にしている様なダレカではなく、命じられだけの人間が来た、という事だろう。

 僅かに見えたその顔にクロウは、小さく首をふる。

「さっきの家政人メイドが情報漏らしてっかもしねぇな。」


(セレスティニアとオレの関係性がホンモノか調査って事かな・・・。)

 


「・・・まぁ、念には念を入れときますか。」

「ん?」

 不意にクロウが、ソファーに腰掛けるシオンをそのままそこへ組み敷いた。

 普段にはない、セレスティニアの長い黒髪がソファーのベルベットへ広がるのには、何の感慨も湧かない。

 なのに・・・


「え?え・・・?」


 少し焦った様に目尻を赤くして。先程同様、上目遣いに見上げてくる、シオンのその、素の、表情に。クロウはぐっと重怠く慣れ親しんだ感覚が下腹部に押し上がってくるのを感じて、


「・・・やば。勃つかも・・・。」

「え?やっぱ立つのか?」

「・・・あ、いや、そうじゃなくて。」


 一回だけ。深呼吸。

 全てを仕事モードに切り替える。


「このまま伸し掛かっちゃうから、突っ込まれた、と思って腰振って善がって?」

「───・・・っ!?」

「はい、よろしくー。」

 そのまま、半ば強引にクロウの身体が覆い被さってきて。


 その、重みに、セレスティニアがしっかりと腕を回し、目を閉じた。




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