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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)3








「兄、が・・・。」

 シオンが、小さく呟いく。



 目の前には『聖女』リィン=音=アンダルシアが。その左右には第三大隊長のキリングス=レヴァイスト=アゼーレと、第四大隊長のクロウ=シキジマがそれぞれ警護に立つ。


 今は『公』として。


 彼女の執務宮の一室である応接室に、シオンは『オブシディアン』として招かれた。正式に届いた招待状と、先日のノブル=オルガヌスでのセルゲイとの相対を説明する為に。

 

 すべてを聞いたシオンが、しばし言葉を失っている。無理もない。まさか十年以上も音沙汰のなかった家族からの連絡だ。どうすべきか考えあぐねているのだろう。

 多分考えるコトは同じだ。


 『どうして、いまさら』


 そして、シオン以上に、きっとそのことを強く考えているのが・・・


「クロウ=シキジマ第四大隊長さん?少々殺気を抑えて頂けるかしら?」

「・・・失礼、しました。」

 冷やかすように、だが、確実にたしなめる声色でリィンがキッパリと告げる。すれば、目の前のシオンがひくりと肩を揺らす。クロウは、軍帽を深くかぶり直して、視線を僅かに下げ、公的な返事を返すに留まった。シオンも、視線を上げずに、ただ、出されたティーカップを見つめ続けるにとどまる。

 そんな二人の様に、リィンが小さく笑う。

「まあ、お気持ちはわかるわ。ワタクシも一緒よ?」


   ――― 今更、ナニ?


「シオンさんには、悪いけどね?」

「・・・・・。」

 すれば、シオンは僅かにリィンへと視線を上げ、しばしのあと、こくりと僅かに頷いた。


「失礼だけど、兄弟仲は良いの?」

「悪くは、ありません。ただ、その・・・。」

「ん?」

「セレン兄さま・・・一番上の兄が亡くなってから、私を、避ける様に、は・・・。」

「・・・そう。」

 少し寂しそうに、シオンが正直にセルゲイとの関係性を告げる。すれば、リィンは、口元に手を当てて、


(なら、なおさら、よね・・・?)


 彼の行動に違和感を覚えた。彼はただ、慎重になりすぎたダケ、と言った。本当に慎重になるならば、もう少し言葉も選ぶはずだ。

 シオンとの関係性を考えれば、確実に誰かが、何かが背後にいる。


「シオンさんは、会う気が、ある?」

「・・・・・。」

 シオンは暫く無言のまま、少し考えている。即答できるほど、ではない、という事だろう。ただ、

「まあ、今生の別れを突き付けに行くのも、アリよね。」

「・・・・・っ!」

「迷っているなら、行ってちょうだい。公的な場所での約束もあるから。これは、この国の統治者としての依頼でもあると思って?」

「・・・はい。」

 すれば選択肢は一つしかない。彼女が会う気があらうがなかろうが、結局結論は一つだ。

 

 すれば、深く深く。

 一つ、大きなため息を、リィンは吐いた。


「あのね?貴方はどこの軍人さん?」

「・・・・・。」

 暗に名指しをせずとも、問い詰めれば、奥歯を噛みしめたクロウが後ろ手に組んだ手を強く握り占める。白い手袋にうっすらと血がにじんでいた。

 その様に、私的なら大喜びだけど、と眉根を寄せたリィンが

「シオンさんを、今から正式にルミナスプェラの客人として扱うわ。その間に準備を整えましょう。なんせ相手はノブルオルガヌスの貴族として名前を連ねているのよ。正式な訪問とするならばそれなりの準備と体裁が必要だから。」

「・・・・・。」

「向こうはまだ貴族社会が活きている国だから、その辺りは我慢してもらうしかないわ。」

 構わないわね、と念を押すリィンに、

「・・・ああ、わか、りました。」

 意を決したのか、シオンが、強い瞳で彼女を見返す。

 その眼に光が戻ったのを見て、リィンが、やっと次の話ができる、と


「じゃあ、次の話をするわね。」

 嗤う。

 彼女の雰囲気が変わったのを見て、シオンがいぶかし気に眉根を寄せた。


「ココからは『公』にはしないから、どうぞ、気を楽にしていつも通りにどうぞ?」

「・・・ああ。」

「さっきも言ったけど、正直『今更』よね?」

「・・・・・。」

「つまりね、今更でもお兄ちゃんが、貴女を呼ばなくちゃいけない理由があると、ワタクシは思ってる。」

「兄、さまが・・・」

「そう、ね。」


 兄さまってカワイイわね、なんて、リィンが口に出さずに微笑むと、シオンが兄を思い出す様にして

「正直・・・避けられていても、憎まれているとは思ってないぞ。」

 彼女がまっすぐな目でリィンを見る。

 無論、人の感情なんか複雑に渦巻いているから。それはあくまでもシオンの直観なのかもしれないけれど。セルゲイが自身を貶めようとしている、とは疑ってはいないという顔に、リィンは、笑みを深める。

「まあ、ワタクシも、貴女のお兄ちゃんだし?何より、セレンの弟だし、ね?そんなに歪んだ心の持ち主だとは思ってないわ。」

「え・・・。」

 リィンの、一番上の兄を知っている様な口ぶりに、一瞬シオンが大きく眼を見開いた。ただ、それよりも

「だからこそ、裏がある。」

「・・・・・。」 

 リィンが、続ける。 

「多分、セルゲイ様を使って、シオンに接触したい相手がいるのよ。シオンなのか、更にまた別の誰か。そこまでは、わからないけど。」

「・・・俺、に?」

「ただ、そんな風に隠れ蓑を用意して接触したい、なんて不誠実も甚だしいわ。大体悪党よね?」

 ふふっと、言葉に反して面白そうにリィンは笑う。

「ただ、もしワタクシが悪党なら、今のシオンさんには会いたくないわ?」

「え?」

「眩しくて、眼がくらみそう。別の理由があるなら良いけど、信念にまっすぐ過ぎて扱いにくそうだから。」

「・・・・・。」

 褒められているのかどうかよくわからなくて、シオンは少し困惑した眼を向ける。

「だから、ね?会いに行くなら、少しワルイ子になって欲しいの。」

「え?」

 予想外の言葉に、シオンがキョトンと眼を向けた。今の様子では、到底悪い子には程遠い、とリィンは少し考える。

「貴女は、ワタクシが容易した『客人』という立場を利用して・・・そうね、どんな悪だくみがいいかしら?まあ、簡単に、いっぱい贅沢をしたい、とか?そういうこと考えている悪い子。」

「・・・なんだ、それ。」

「できれば・・・そうね、悪女風に動いてほしいの!」

「あ、くじょ・・・?」

「お金とか権力とか、自分の欲望の為に、使えるものは何でも使うような女性。『客人』という立場、コネもカラダも。」


「ぶほっ!ぐっ、けほ、ごほ・・・っ!」

「「・・・・・。」」


 噴出したのは、シオンでも、勿論リィンでも、ない。


「・・・大丈夫?貴方。」

「・・・失礼、しました。」

 一体どういう意味で噴出したのかは問いただしたいところだが、それは一旦さておき、とリィンは続ける。

「申し訳ないけど、『セレスティニア』が、そういう感じの女性だと広まれば、同種の悪は必ず食いついてくるわ。すれば、お兄ちゃんの呼び出しをエサに使った悪党も、きっとアクションをかけてくるハズ。」

「そう、か・・・。」

「無論、ちょっとセレスティニアの悪評が広まって申し訳ないとは思うけど。」

「それは、構わない。」

 ようやくリィンの意図が分かって。シオンは納得したように頷いた。


 そんな、リィンとシオンの会話を黙って聞きながら・・・

 

 心中、非常に穏やかでないのは、その様子を眼前に納めながらも、この場での発言権のない、クロウだった。二人はともかく、公人の警護という立場上、彼とキリングスにはこの場での発言権は無いに等しい。

 眼の前で淡々とリィンの計画通りに訪問計画されるのを歯がゆい思いで見つめている。

 

(いっそ・・・、この後、仕事終了と共にあの子を、どこかに閉じ込めて・・・)

  

(いやいやいや、だめじゃん、この段階から客人扱いするんだ。マジで腹立つ、あのクソガキ・・・。)


 その眼に再びどす黒い殺気が入り交じるのを、隣でキリングスが呆れたような顔を見ているが、取り合えず、無視する。


 そんな中でも、二人の会話は淡々と進んでいくのだが。

 不意に、リィンが

「で、取り合えず一緒に着いて行くのは、ウチの第四大隊長さん、ね?」

「え・・・?」

「―――・・・っ!?」


 再び予想外の言葉に、シオンと、今度はクロウも息を飲んだ。

 そんな彼らに気付かないフリをして、リィンは更に爆弾発言を続けていく。


「できれば、軽く人目に付くところでまぐわったりして、ウチの大隊長を完全に囲っちゃってる風に動いて欲しいの」

「は!?え?ええ!?ちょ、待ってくれ!?なんでそうなる!?」

 思わず目尻を赤く染めて、テーブルを叩いて立ち上がるシオンに、リィンが紅茶に口を付けながら冷静に答えた。

「さっきも言ったけど、裏にいる相手がわからないからよ。そうなると大体ワタクシに黙ってナニか動きたい方、よね?」

「そう、だけど・・・ッ!」

「丁度いい噂もあるのよ。『オブシディアンの姫君が、目的の為に、手駒になりそうな人物に色仕掛けしてる』なんて。利用しましょう?丁度良く、骨抜きにされた大隊長サンもいるし。あら?噂も中々的を得ているかしら?」

「―――・・・ッ!!?」

「セレスティニア様がワタクシに隠れてナニか企んでいる悪女だと相手が判断すれば、言うまでもなく、絶対に接触をしかけてくれる。」

「・・・・・。」

「無論、他にも、人員は派遣するわ。ただ、公上は、『客人』の訪問だからね。そう人数は避けない。それに、あえて家政人メイドはつけない。表向き入国するのは大隊長サンと二人にしましょうか。その方が、あの噂の信憑性も増すし。無論、裏に間者を二人。伝達と裏からの警護。そこは第三大隊から人員選択をお願いするわ。」

「了解しました。」

 キリングスが敬礼と共に返す。そのままリィンが、クロウへも眼を向けて

「間違っても『客人』の警護が一人なのに異を唱えるような腰抜けじゃないわよね?」

 その見据える眼は、ルミナスプエラの独裁者としての視線であることに、クロウはかえって安堵の息を吐く。

「まさか。」

「じゃあ、それで。」

「了解。」

 キリングス同様敬礼で返したクロウに、満足そうな笑みを浮かべて、リィンは再びシオンへと向き直る。

「じゃあ、一旦休憩して、改めて『悪女セレスティニア様』を一緒に作り上げましょうか。」

 そう言って愉しげに唇を吊り上げるリィン。

 改めて、国家の統治者としての彼女の、大胆な采配に、シオンは小さく息を飲んだ。


 





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