薔薇輝石(ロードナイト)2
「・・・それ、は確かに今更な気がしますかねぇ。」
国へ戻った『聖女』リィンの御前に呼ばれたの、第五大隊長フェルナンド=アルバ=フラングライザーは彼女の話を聞くやいなや、訝しげに眉根を寄せる。ただ、同時にその目元は酷く楽しげだ。
こういった話を聞かせると興味津々という風に聞いてくる。
存分性格の悪い男だが、役には立つ。そう考え、聖女リィンは相談相手に彼を選んだ。
「でしょ?普通に考えたら兄と妹の感動的な再開よ?演出してもいいわ?だけど、ね?ちょっと裏がある気がするの。」
「・・・・・。」
「探りたい気はするわ。『ノブル=オルガヌス』は新派だし、友好的に行きたい数少ない国よ?」
新派、とは人唯一の宗教であるアリシアン宗教の中でも『新アリシアン派』を指す。
『旧』は魔族を認めず、下に置く派閥。『新』は魔族の立ち位置を明確に定めず、人と同権を置く派閥だ。ルミナスプェラが人も人以外も平等をにおく国として、リィンが目指す一つの先が『新派』の拡大である。
ただ、
「同時に、弱みと手綱もを握っておきたい国だし。」
それがいばらの道であることも、良く理解していた。『新派』と言っても、その中身は知れたものじゃあない。それでも表向きを謳っているならば、せめて何かの時に確実な『新派』の立ち位置を押さえるべく、握っておきたいものはある。
フェルナンドの事を散々言っておきながら、存外自分も性悪だと、リィンは自らを嗤った。それでもその表情を隠しもせずに、正面のフェルナンドを見据えてカップの紅茶に口を付ける。
自らをわかったうえで、それを隠しもしない『聖女』に、フェルナンドは呆れたように天を仰いだ。
「怖い御方だ。」
「今のワタクシの思考に一番近いのはフェルナンド第5大隊長サンだと思ってるの。」
「お褒めに預かり光栄至極。」
「軍がお払い箱になったら文官にしたいわ。覚えておいて?」
「過分なお言葉だね。ただ、面倒見なきゃいけない子供が多いからなあ、しばらくは軍に置かせていただきたいんですよね。給金いいし。」
「ふふふ。まあ、いいわ。ワタクシは暴君だから、貴方がどの立場にいても貴方を使うことに変わりないし。」
「わー、本当に暴君・・・。」
「じゃあ、どうしていくか少し詰めましょうか?あんまりにもお兄ちゃんを待たせ過ぎるのも良くないでしょうしね。」
「・・・ちなみに」
ふと、フェルナンドが、口にしたのは、お兄ちゃんの妹――シオンに、もはや付属していると言っていい、男の事だ。
「あの我が国誇る『白銀』のワンコロさんはどう考えてます?」
すれば、にんまりとリィンは、当然だと言わんばかりに、
「知ってるでしょう、忠犬は置いていくとうるさいのよ?」
「そうでしょうけど、ちょっと無理がありません?」
「ただ、ね。ただ、さっきも言ったけど、やっぱりおかしいのよね、今更なお兄ちゃんの『妹心配宣言』は。」
「ええ。」
「って事は、お兄ちゃんが今シオンさんを呼び出したのは本心じゃない。必ず誰かが裏にいる。」
「それは、言うまでもないですねぇ。」
「回りくどく、兄弟の感動の再開を煽って。きっと裏で何か企んでるのよね。そんな悪党が、ね?」
――― あんなキラキラしたシオンさん見て、表立って接触してくるかしら?
リィンの指摘に、フェルナンドはうーんと腕を組む。正直言うと、相手が接触してくる可能性は低い。が、巻き込まれる可能性は断然、ある。
と、いうか、彼女の今までの巻き込まれ具合を考えると、むしろ向こうから寄って来そうな気配もあるが。
(ただ、それは完全なオレの直観だからなぁ・・・。)
そう考えると、リィンの発言は一理ある。
「・・・まあ、王道のヒーローみたいなもんですからな、彼女は。」
あそこまで、比較的真っ直ぐ育った表の人間には、本来裏の人間は近づこうとはしない物だ。嵌める時以外は。
「ヒロインじゃないのね。」
「外見だけならヒーローでしょ。まあ、ヒロインでもいいですが。暗躍するならせめて悪女に仕立てないと。」
「悪女!それ!採用!」
「・・・へ?」
不意に目をキラキラさせたリィンが、パンと手を叩く。
「シオンさんには、悪女の設定背負ってもらいましょう。それでお兄ちゃんに呼ばれたついで、護衛代わりにウチの大隊長さん連れてって不倫旅行よ!きゃー!」
「いやいや不倫って、誰も結婚してないじゃん。」
思わず立ち上がって自らの両頬を抑え、狂喜するような顔でぶんぶんを顔を振る。そんなイカれた『聖女』のふるまいに、フェルナンドが、あぁ、と納得する。
(あの第三を狼狽させ、第四(クロウ君)を辟易させた、彼女の悪癖ってのが、コレね・・・。)
外見通りの恋愛脳だけだったら、まだカワイイで済むのだが。
「こうなったらシオンさんには悪女バリバリのドレスを何着か仕立てなくっちゃ!なるべくセクシー路線ね!ホルターネックとスリットは必須!ガーダーベルトも!ああ、せっかくだから下着――あ、あの時上げた下着!絶対持って行ってもらおう!」
「え、待って。何あげたの?下着・・・?」
「この作戦中に、絶対第四大隊長さんが我慢できなくて襲っちゃうような装いを仕立てるわよ!l緊急避妊薬いくつ持たせたらいいかしら!?」
「ちょ、ちょいちょい!落ち着いて!目的ずれてっから!」
「ああああ、やだ!凄い楽しみ!」
もはや、彼女は人の話を聞いてない。ついていけないテンションにフェルナンドは、苦笑いと溜息とを、両方零した。
「・・・あの、落ち着いてくれる?ホント。」




