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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season2

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赤鉄鉱(ヘマタイト)5



 終了の声を聞いて、肩で息をしたまま、それでも、シオンが一礼すれば。

 クロウの、特に乱れてもいない呼吸が見えて、更に悔しくて、ぐっと唇を噛みしめる。


 結局届かず。

 結局また、その差を実感する。


 壁となって立ちはだかり続ける相手に悔しさを感じつつも、胸に広がる、満たされた充実感、この対峙を酷く、嬉しく楽しいと、


「は、ぁ・・・。」

 大きく、息を吐き、天を仰ぐ。

 

(あー・・・、やっぱ・・・。)


(凄ェ、楽しい・・・っ!)


 ぺろり、と。

 乾いた唇を舐めて、シオンが思わず頬を緩めれば


「だ、大、丈夫・・・ですか!?」

 かけられた声に、シオンが一瞥する。

 遠巻きで見ていた女性隊士が二人、タオルと水を持って声をかけてきた。

 差し出されたタオルに、

「ああ・・。ごめん、いいの?」

「ええ、もちろんです!使ってください!」

 シオンが小さく笑って礼を告げれば、流石に街中で出会う女性の様にきゃあきゃあはしゃぐ様子はないが、それでも、女性隊士達は、頬を赤らめ喜びを隠しきれないよう、破顔して見せた。

 それぞれ西方種と中央種のまだ二十歳半ば程度だろう。こんな過酷な訓練でも音を上げず、ついてくるんだから大したもんだと、シオンが目を細める。

 柔らかいタオルで汗を拭えば、その腕に付けられた横一文字の傷を目にした一人が、

「あと、傷の手当てを・・・!」

「・・・ああ、これくらいなら大丈夫。」

「そうはいきません!」

「いや、でも・・・」

 引かない二人に、シオンが繰り返し辞退を申し出ようとしていると、近付く見知った人影に、シオンが目を細める。

「シオン、お疲れ。」

「リシリィ・・・」

「もう、タオルもらったの?」 

 リシリィがシオンの持つ軍支給のタオルと、隣の二人にちらりと目を向ければ、

「ふ、副長!」

 二人が気圧された様に、敬礼して立ち尽くす。それを手で制して、

「あと大丈夫。コッチでやるから。」

「き、傷の手当は―――」

「うちのボスが責任とってやるってさ。」

「だ、大隊長が!?」

「そういうコト。」


 だから、さ?と、リシリィが、二人の方へ顔を寄せて、

「早くあの子、解放した方がいいよ?ウチのボス、結構嫉妬深いから。」

「―――・・・っ!!?」

 どういう意味で受け取ったのか、リシリィの言葉に、二人が思わず顔を真っ赤にして息を飲んだ。

「「し、失礼しました!」」

 それだけ言うと、二人が駆け足で去っていく。その様を見ながらシオンが、

「リシリィ・・・、ナニ言った?」

「まあ、事実だから。」

 ぺろりと舌を出して、リシリィがその手を掴んで引くのを、少し困ったように、それでもシオンは黙ってついていく。


 元々解散を告げられていた隊士達が、何やら口々に話しながらも足早に宿舎に去っていく。その様子を見送りながら、時折興味深そうな目がこちらに向けられるのを、シオンは甘んじて受けた。


 シオンが連れられるまま第四大隊役職者三人と、エッダの前に行けば


「す、すごかった!です!」

 エッダが、興奮冷めやらぬまま、といった様子で、シオンの方を向いた。それに、

「でも、全然だったな・・・。」

「そんなことないのに!」

「いや、まだまだだ・・・。」

 シオンが小さく眼を細めて、少し悔しそうに肩を落とせば、ハルオミが、

「でも、最後は見ごたえありましたね。見事でしたよ。」

 なんて笑ってくれる。そのまま、

「今日はお疲れさまでした。後で間違いなく報酬はお渡ししますから。ちょっと経理の方と話してからら、で。」

 と、少しすまなそうにハルオミが眉尻を下げるのを、

「構わない、最悪、コイツからもらう。」

「・・・え?オレ?」

「あ、じゃあそうしてください。」

「待って待って。それなんか納得いかない。いや、払うよ?払うけど、なんか違くない?」

 なんとも不服そうな顔でクロウが眉根を寄せるのを、

「いや、むしろ慰謝料払うべき。」

 と、リシリィが、シオンの傷の入った腕を指させば、


「ぐ・・・!」

 瞬間、クロウがビクリと固まり・・・。


「お、れの、せい・・・なんだけど!でも、指導下での軍の医務室対応可能な範囲の怪我は、一切の責任を問わずとして、でも、・・・あああああああ。」

 がっつりと頭を抱えて肩を落とすから。

「・・・いや、そんな、落ち込むな。大丈夫だから。」

「そういう問題じゃないのー。オレがケガさせたっていう事実がー・・・。」

「避けられなかったオレが悪い。てか・・・」


(散々蹴られて投げられて、斬られてきたんだから、ホント、凄い今更・・・)


 と、いうと、きっとまたこの男は凹むから。シオンは心に思ったことは止めて置き、


「そもそも、俺が望んで指導受けて、その結果だろ!その怪我は自分持ち!いつまでグダグダ言うな!」

「・・・はい。」

「次の対峙訓練とか、そういうコトする時!これを理由にやらない、とか言ったら許さないからな?」

「・・・あ、はい。」

 顔を寄せて本気で詰め寄るシオンに、クロウ含め、ハルオミやシリィが心の中で、


(そっちが本音か・・・。)


 と、納得する。


「ま、何はともあれ・・・。」 

 はぁ、と一つ息を吐いたクロウが、気を取り直すようにして、

「正直、投擲ナイフだけでいなそうとしたオレがちょっと甘かった、かな?」

「・・・当たり前だ。」

「大刀を抜かずに昆の様に、扱った発想は良かったとは思う。近接戦闘戦闘では、それも一つの方法かな。ただ、さ?」

 不意に、クロウが、未だに腰へはおびず、『朝風』の鞘をつかんだまま手に持っていた、ソレを

「あの程度の捌き方、なら・・・」

「・・・・・っ!?」

 手首をとん、と叩かれて。不意に痺れが走り、力が抜ける。手の中の『朝凪』が、指先からすり抜けて、それがクロウの手に渡っていく。


「容易に、奪える。」

「・・・・・。」


「昆って、刃が無いぶん、相手側も容易に掴めちゃうから。」

「たし、かに・・・。」

 自分なりに考えたつもりだったが、実戦に使うにはリスクが高い。そう、判断して。シオンは少し残念そうに視線を落とす。

 すれば、目の前で、ぐっと息を飲むクロウと、ほら見ろとばかりにため息を吐くハルオミ。

 リシリィがシオンを慰めるようにぎゅっと抱き締めた。


「頑張ったのに、虐められて可愛そうなシオン。」

「虐めてねぇよ!指導だよ!」

「あんまり、真に受けないでくださいね?この人の戦闘センスがちょっとアレなダケですから。」

「・・・ほめてねぇだろ、それ。」



「・・・いや、よかった。」


 大丈夫だ、と。

 リシリィを軽く押しやってシオンが、クロウに笑いかける。

「俺一人で考え、鍛えたところでたかが知れてる。こうやって卓越した技術を持つ相手から指導を受けられるのはとてもありがたい。」

 そして、シオンは真っ直ぐに、クロウを見つめて、深く、一礼した。



「ありがとう、ございました。」

「───・・・っ。」



 凛とした姿勢で、真っ直ぐに。

 真摯な感謝の気持ちを伝えるシオンに、クロウの目が大きく見開かれる。

 その、指先が、ピクリと震えて。

 ぐっと、込み上がる思いに、衝動的に行動しそうになるのを、懸命に抑え込んだ

 抑え込んで、だけど、それでも・・・


(だ・・・)


 自制して、周囲を見回して。


(抱き締めたい・・・っ!!)


 辺りに、自分達以外誰もいないのを確認するや否や、


「わ・・・っ!」

 クロウは、力いっぱいにシオンを抱き締めた。


「ちょ、おま・・・!」

「いない。誰もいないから。」

「アホか!目玉ついてんだろ!しっかり見ろ!」

「はい、見えませーん。」


「ほんと、僕等はなんなんですか・・・。」

「お前等はもうどうでもいい。」

「・・・どうしようもないね。」

「うるさい、はよ帰れ。」

「えーと、・・・じゃあ、もう解散でいいんで?」

「はい、解散!」


 どうあがいたって、もう、『公』に戻る気がないクロウに、ハルオミと、リシリィ、それにエッダが各々呆れた様に溜息を吐いた。

「じゃ、後はお任せしますので。」

 そのまま、こちらへ背を向けて歩き出す三人に、

「え?え?ちょ、待・・・っ!」

シオンが少し慌てたように、その腕の中から離れようとすれば、

「いーやーだ。」

「ま、まだ仕事中だろうが!」

「たった今終わったの!」

 逃がしたくないと言うように駄々をこねて、クロウの腕の力が、ぎゅーっと強まる。そのまま一度首筋にぐっと顔をうずめたクロウが、僅かにのぞいたその首筋に唇を落とすから、

「お、ま・・・っ!」

 びくりと肩をはねさせて、のけぞった彼女の、少し赤らんだ目元を覗き込めば、

「このままオレと帰ろう、うん、そうしよう。」

「いや、でも・・・!」

 気恥ずかしいさからか、シオンの視線が逸らされ続ける。ソレが、どうにも、気に障って、


「こっち、見て?」

「だから、まだ・・・っ」

「ほら、シオン?」

「───・・・っ!」


 クロウの赤い目がシオンを正面から、捕まえる。

 さっきまでの目とは全然違う、少し甘さを含んだ優しい眼差しが、彼女を捕らえて離さない。



「一緒に帰りたい。」

「───・・・っ!」


 少し仰け反るようなシオンの、その腰にしっかりと両腕を回して引き寄せて、だけど、まだ手で肩を押すシオンを、それこそ、半ば強引にクロウが腕の中にしっかりと抱き込んだ。


「帰ろ?」

 耳元に、吐息と共に落とされたおねだりに、背筋を這う感覚。ぐっと目を閉じたシオンがついには、白旗を上げた。


「わ、わかった、から・・・」


 もう、離せ、と、今度はシオンがクロウの肩に額をつけるようにして、その視線から、逃れる。 

 人前ではなくなったものの、いつ人が通るかわからないこの場所で、こんな恥ずかしい格好の

まま立ち尽くすのは勘弁願いたい、と、必死でクロウの肩を押す。

 すれば、クロウが、名残惜し気にその体を解放するも、滑らせるように、シオンの手をそっと掴んで、指をゆっくり、絡ませるから。


「・・・いや、だから」

 じっとりと、何か言いたげな視線を、それでもクロウが、ニコニコとしながらもわからないふりで手を握る。


「鍋しよう、鍋!熱燗でやりながら!」

「・・・まぁ、悪くないな、それ。」


 不意に提案された良案に、耳まで赤くしながらも、シオンがちょっと目をキラキラさせて。

 そんな様を見つめながら、

「白菜とネギと大根とかまぼこな。鶏肉あったから、肉団子にしてー・・・。」

「・・・なんで、うちの冷蔵庫の中身把握してんだよ。」

「朝見てきた。」

「・・・え?待て。お前昨日ウチ来てないよな?」

「まぁまぁまぁ。」

「・・・まぁまぁじゃねぇよ!ナニソレ!それ凄ぇ怖い!」

「いや、怖くないでしょ。・・・ちょっと、その、寝顔だけ見に明け方──・・・」

「頼むからちゃんと声かけてくれ!てか、何で鍵持ってんだよ!」

「まぁまぁまぁまぁ。」


 掛け合いの様な会話が楽しい。

 

 外に出ればすぐに誰かの目に止まってしまうから、その目がようやく自分だけを見て、笑って、怒って、反応してくれることに、真底安堵する。


(やっと、だわ、ほんと・・・。)


 黒曜石の瞳が、今は自分だけを映してくれるから。



   

 クロウは、ようやくこの手に戻ってきたと。

 安堵して、笑った。

 

 


 

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