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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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赤鉄鉱(ヘマタイト)4






 最初から全力。

 力量の、差は分かっているから開始から本気で相対すると、シオンは決めていた。


 一気に駆け、詰めるその距離。

 牽制するようにクロウが、左右それぞれから投擲ナイフを放つ。それを弾き飛ばして、それでも、前身速度を極力落とさないまま、シオンがクロウの前へと躍り出た。

 起点は『夕凪』の攻撃。左右上下に、細かい攻撃で攻めていく。

 『朝風』は、抜かない。

 変わりに

「・・・あぁ。」

 目を細めて、感嘆したようにクロウが笑う。

 大刀『朝風』を束に収めたまま、先程同様、昆のように振り回す。

 『夕凪』を攻撃を通す為に、『朝風』で打ち、弾き、穿つ。

 シオンなりに、考えた近接戦闘の方法か、と、クロウが小さく笑った。

 それを視界の端に捕らえて、シオンがその余裕綽々の笑みに、小さく舌打ちする。

「―――・・・っ」

 二桁を超える打ち合いの、その一瞬に、フェイント。だけど、クロウは容易に見抜いて。逆に、次いでの踏み込みを殺すようにクロウが前へ出る。

「チッ!」

 合わさる一撃をなんとかいなして、シオンが手首を返し、その頭上へ振り下ろすのを、クロウがその束の方へ手を添えて押さえ込めば、


「力勝負の分が悪いのは、当然、理解してるだろ?」

「―――・・・ッ!」

 

 不意に、告げられた言葉は、どこか不躾で。赤い瞳は、分析する為か、酷く冷めている。宣言した通り、指導という名目での相対。それゆえに、か。

 背筋を走るゾクゾクとした感覚に、シオンは思わず唇を舐めた。

 その様にクロウが訝しげに眉根を寄せる。

「ナニ?自覚ねぇの?」

「──な、わけねぇだろっ!」

 無論、自覚は、当然、ある。

 ゆえに勝負するなら別の所だと自負しているから。

 一度距離を取り、そこから直ぐに切り返して距離を詰める。そのまま、二合と三合と切り結ぶが、その動きで、何かを感じ取ったのか、相対する男の眼がスッと細められる。


「機動力ったって、ずっと百で動ける程の体力じゃねぇだろ。緩急つけろ。隙じゃねぇ、緩急だよ。」


   ―― 意味分かってんの?


 とん、と。軽い力で、不意に足をすくわれる。 

「・・・・・っ」

 低くなった視線。

 転ぶより先に、そのまま地面に手を付いて、顔を上げれば、ほとんど同じ視線にある相手の顔に、息を飲む。


「目玉ついてんだろ、しっかり見ろ。」 

「かっ、あ・・・。」

 本来なら下から斬り上げられるのを、掌で顎を撃たれた。それでもだいぶ手加減されているから。脳震盪すらも起こさずに視界が少し揺れる程度。

 遠巻きから、小さな悲鳴が上がる。だけどシオンの耳には入らず。むしろ今はその目で、耳で、肌で。自身の全てでクロウの気配を感じ取り、勝機を探る。


 とん、と。距離を取れば、正念場とばかりに、離れた分だけ身体を寄せられ、左右に持った投擲ナイフで追い打ちをかけられる。

「───・・・っ!」

 接近戦にはどうしたって不利なはずなのに、左右別々の動きをするナイフに翻弄されて。一瞬、攻め手を欠いたその隙を、クロウは逃さずにシオンを追い詰めていくから、

「く、そ・・・!」

 必死に防ぐ。

 その動きを目に留めながら、クロウが

「視界に入れた情報を、きちんと理解しろ。追うのは相手の視線。それで行動の先読み。手や足は視界の端で情報を拾え。」

「───・・・っ!」

 目の前の相手は容易に言ってのけるけど、クロウの動きに、体が追いついているとは到底言えない。その悔しさが足に出たのか、不意に砂を踏んだ右足が取られ、


「───・・・っ!?」

 思わず視線がそこに向けば、


「それ、致命傷。」


 瞬間、視界の端からクロウの左手がその胸元に伸びた。

 遠巻きに見つめる隊士が息をのむ。

 ぐっと釣り上げられた足が、宙をかく。狭くなった気道から鳴くように息が零れた。


「くっ、は・・・っ!」

「しくじった箇所に目を向けるとか、ナニ?馬鹿なの?」

「ぅ、ぐ・・・。」

「隙見せてどうすんのよ。殺してくれってことじゃん。」

 緋い眼が容赦無く失態を責める。

 そのまま手を離されて、地面に膝を付いて肩で息をする無様な姿を、その目が無慈悲に見下ろす。


「そんな事するヒマあったら、その行動エサにして、釣れる動きを読みなよ。頭使え。」

「は・・・っ」

 一度、大きく息をついた。


「で?終わり?」

「ま、だ・・・!」

「上等。なら動いて。」

 瞬間、シオンのすぐ横をクロウの投擲ナイフが過ぎ、地面へと刺さる。シオンがすぐさま『夕凪』を構えれば、

「二メートル」

「―――・・・ッ!?」

 先程、エッダの指導で行われていた距離での投擲。直線の素直な軌跡に紛れて、

「・・・・・っ!」

 弧を描く時間差のナイフに、シオンの腕に一文字の傷が走る。咄嗟に動けないシオンに、小さくため息を吐いて。 

「動けって言ってんだけど。」


  ――― 動かないなら、そのまま磔にするよ?  


 紛れる弧の動きのナイフを一度見上げる。

 奥歯を噛みして立ち上がる、すぐさま駆け出す。『夕凪』と、束に納めたままの『朝風』。二つの刀からの連撃を、左右に一本ずつ持った投擲ナイフでクロウが凌ぐ。と、クロウが不意に笑って、

「ゼロ距離」

「―――・・・ッ!?」

 クロウが呟けば、眼前につきつけられていたナイフが、不意に放たれ、向かってくる―――のを、間髪交わした。

「ナイス反応。」

 茶化す様に口笛を吹かれて、忌々しそうに、シオンが強い視線でクロウを睨む。

 『夕凪』を振り被って、二合三合、クロウが一本の投擲ナイフで対峙するのを見止めて、


 ただ、シオンが、不意に


「なあ?」

「ん?」

「お前の大事な『アレ』あと何本だ?」

「え?『アレ』って・・・、いや、大事なアレは常に一本ですけど!?」

 一瞬、何のことを聞かれているのか、理解できなかったクロウが思わず答えた内容はさておき・・・。


「御名答。」

 眼を細めて、ぺろりと唇を舐めて、

 『夕凪』と『朝風』、二刀でクロウの手の中のナイフを絡め取って、


「・・・これで、ゼロッ!」

「───・・・っ。」


 弾く。


 瞬間、一歩引くと共に、遠心力を加えた、全力の横薙ぎ、『朝風』の、間合い。



  ─── 激しい、金属音が、鳴り響く。



「・・・・・。」

「く、そ・・・っ!」


 クロウが、小烏丸で受け止める。

 その様を見て、シオンが小さく舌打ちをする。悔しそうに、眉根を寄せて・・・

 






「はい、それまで。」

 ぱん、と、ハルオミが手を打てば、



 それが、立ち合い指導終了とあいなった。




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