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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season2

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赤鉄鉱(ヘマタイト)2







 背筋を這う様な殺気を向けられて、ディックがシオンへと顔を向ければ、


「な・・・!」

「・・・・・。」

 その酷く綺麗な殺意を帯びた顔は、すでに至近距離にある。認識した瞬間、死角からの一撃、下からの切り上げに

「―――・・・っ!」

 交わしきれず、ディックは右腕に一文字に、それでもかすり傷でとどめて。よける勢いのまま、距離を取る───のを、そのままシオンは離れず、再度『夕凪』を振った。

 ツヴァイハンターは間合いの広い大剣だ。昔は斬るよりも叩き潰す攻撃を主とする言われていたが、今は切れ味もそれなりにある。その分、厚みは減り、軽量にもなったが、まだまだ重い。なにより、その広い間合いゆえに、懐に入りこまれると、弱いと言った弱点はある。

 まず、シオンはそれを忠実に攻めていった。小回りの利く小刀『夕凪』を主に、なるべく距離を詰めての超接近戦。なんとか二度三度凌ぐが、すでに防戦一方になるのを感じたディックが奥歯を噛みしめる。

 けれど、大剣が超接近戦に弱いのは、無論、ディックも熟知していた。

 ふっと息を整えた彼が、内にいるシオンを剣の腹で弾くように

「失礼、します!」

 その腹を撃ちに来る。


 が、


「甘ェよ。」

 静かに笑った。


「・・・・・!?」

 入ったかに見えた横一線が空を斬る。地面を這うほどに体を沈めたシオンが、その足を払えば、

「が・・・っ!」

 その、崩れた体のどてっぱらを、思いっきり蹴り飛ばす。女性と侮っていた相手の、人体急所の一つに受けた一撃は思いの外強く、ディックから呼吸を奪った。そのまま地面を転がる中で、剣の柄から手が離れていないのを確認して、すぐさま起き上がろうとするのを、

「ぐっ!」

 その頭上から綺麗に頸動脈を狙って刀を振り下ろされる、のを、転がって避ける。

 ぐっと膝を付いて起き上がろうとするのを、間髪入れず、その顎を蹴り上げて、再び地面へ転がして、

「が・・・っ!」

「ほら・・・」

 その額を地面に押さえつける。殺気を放った視線のまま、『夕凪』を振り被る。

「早く逃げないと・・・」


   ――― 串刺しにするぜ?


 と、ディックがぐっとシオンの腕を押し返せば、小さく笑ったシオンが、距離を取ろうと、して「お?」

 腕が掴まれたままなのに目を向ける、と。

「がああああ!」

 力任せにシオンを投げ飛ばす様に、

「凄ェ、力・・・っ!」

 ボールの様に飛ばされて、シオンが受け身を取りながら地面を滑る。同時にディックがツヴァイハンターを拾い上げ、距離を詰めるのが見えた。

 地を両手でついて、顔を上げるより、その姿勢のまま『朝風』の束に手をかけた。


 深・・・と。


 地面にうつる影と、音。



「―――・・・っ」


 抜刀、一つ。




 瞬間、抜き放って




「あ、やべ。」

「ん、そこまでで。」

 確実に死地の間合いで抜刀したシオンの居合に、金属音が響いた。

 シオンが顔上げた先で、いつの間にか間合いに入っていたクロウが、小烏丸を縦構え、その、一撃を止める。

 また、ディックの方には

「・・・・・っ!」

「はい、おやすみ。」

 ディックの懐に潜り込んだリシリィが、自身の得物であるレイピアの束を容赦なく鳩尾にめり込ませ、その身体が地面に崩れるの、受け止めもせずに、転がす。

「誰か、念のため医務室連れてって」

 リシリィの声に、彼と同じ組にいた男性二名が、運び上げていく。


「悪ィ、つい・・・。」

「まあ、いいよ。死んだらそれまで。」

「よくねぇだろ!―――・・・助かった。」

 ほっと、息を吐くシオンに、クロウがぽんぽんとその頭を叩く。

「シオンは悪くない。あのガタブツがいつまでたってもふざけた事ぬかすから。」

「異性相手だと鈍るんだっけ。」

「中途半端。何フェミニスト気取ってんだか。」

「それでもさっきこの子投げ飛ばしてたけど・・・。」

「だから中途半端。投げ飛ばせるんだったら斬り殺せって言いたい。」

「・・・・・。」

 辛辣なリシリィの言葉に、シオンが小さく苦笑いをした。確かに、酒場でも、コッチが女性だとわかった瞬間から少し当たりが変わった印象はある。

 その辺りは、個人の価値観が大いに出るところではあるが・・・。


(まぁ、俺が口出すところじゃないしな・・・。)


 二刀を鞘に納めながら、シオンは一人で頷く。 


「ボス、そっち終わったの?」

 レイピアを収めながら、リシリィがクロウを見る。彼の背後には、直接指導を受けた隊士達が軒並み、死屍累々と地面に転がっているのが視界に入って、シオンが思わず息をのんだ。

「容赦無いコトで。」

「容赦したら死ぬからね。」

「訓練中の方が死亡率高そうだな。」

「まぁ、そこは腕次第?生かさず殺さず。」

「お前・・・。」


 溜息を吐きつつ。それでも少し羨ましそうに、シオンは唇を尖らせる。あわよくば、なんて、少し期待はしたが、それは中々難しいかもしれない。

 

「あ、よかった、いる!」

 不意に背後からハルオミの声がして、三人が振り返る。シオンがハルオミと一緒にいるエッダに目を留めて、反応すれば、エッダもまた、シオンを認めて、軽く頷く。


「どうだった?」

 クロウがハルオミに促せば、シオンは、うーんと、腕を組んで、眉根をよせる。


「そもそも、基礎体力や筋力・・・まぁ、基本的なところが足りないんですよね。」

「そりゃそうだろうね。」

「だから、重さのある武器や長さのある武器は論外。でも魔力行使を考えると近距離すぎるのも、どうかって思うんです。」

「第五は特殊だから。そういう基礎訓練もしないだろうし。」

「どうしましょうかね・・・。」

 三人がうーん、と考え込む。

 三者三様の視線が、魔人の少年を見る。

「えーと、エッダ少年?」

「・・・はい。」

「普段は、どっちの姿?」

「・・・こっちが多いかと。」

「ふーん、わかった。」

 本来なら成人体の方が有利にもかかわらず、ハルオミはさらっと聞いて他には何も聞かなかった。もしかしたら口振りからも、彼の家族の事を、きっと三人共聞いているのだろう。


 と、我慢できずに、シオンが、少し聞きたい、と手を挙げるから、ハルオミがどうぞ、と促してくれる。

「訓練中とはいえ、強力な魔力行使ができるなら、それを駆使した後方支援にはならないのか?」

「・・・まあ、僕もそれは本音です。」

 すれば、エッダがすかさず

「できれば、前線に立ちたい。」

「それは、田貫と班田みたいにか?」

 シオンが訪ねれば、思いの外素直にエッダは頷いた。ただ、リシリィが少し考えるように、

「あれはちょっと特殊。二人いて・・・ってのもあるし。あれを目標にはできないと思う。」

「・・・・・。」

「なら、せめて今は基礎体力や筋力の向上を目指して基礎訓練に徹し、技能訓練はもう少し先にするのは駄目なのか?」

 シオンの考えは最もだろう。エッダは、少し不服そうではあるが、普通に考えればそれが妥当だ。

 しかし、クロウは、それに異を唱える。

「ゆくゆくは魔力行使が主体になるとは思うよ。それでも、いざという時の為に、早期から馴染む物理攻撃手段があった方がコイツのためにもいいんじゃない?」

 それでも、とシオンは首をひねる。

「魔力訓練もして、武器も、だと・・・訓練の幅が広すぎて身につきにくいんじゃないのか?」

 それに対して、クロウは、冷ややかにエッダを見下ろす。

「悪いけど、その時はその時。死ぬ気で身に付けろ、としか言えないや。」

「───・・・っ!」

「すでにコイツは軍人だから。命令があれば明日にでも死地に飛ぶ。その時に生き残る可能性がある力を日毎に全力で身につけてもらってるって感じかな。」

「酷、すぎないか?」

「軍に所属するってのは、そういう事。まぁ、確かに?第五大隊と第四大隊(オレ等)じゃあ、ちょっと立ち位置も違うからね。そこまで過酷とは、思わないけど。」

「・・・・・。」

「珍しくコイツからオレに指導してほしいって、来たから。だからコッチのやり方でやる。そんだけ。」


 その言葉に、ぴくりと、シオンが反応する。そのまま、一度口を開いて、だけど発する前に、言葉を飲み込む。

 その様に、一度三人が『ん?』とシオンを見るが、

「そうか・・・。」

「え?なに───」

「余計な口出し、したな・・・。」

 少し突き放す様な、不貞腐れるような、シオンの言葉。視線を落として、表情が見えなくなって、思わずクロウの手が、伸びる、けど。

「じゃあ、どうするんだ?」

 それを拒否するかのように。

 ばっと顔をあげたシオンは、既にいつも通りで、時間がもったいないとばかりに先を促す。

 すればリシリィが、

「投擲武器、は・・・?」

「近距離遠距離対応・・・。魔力行使併用すれば遠距離可能性で、接近に持ち込まれたら短刀の様に扱う、か。」

「結局、今の状態で何がいいか、なんて決められない。なら、遠距離様の投擲ナイフが妥当。ボスも教えられるし。」

「まぁ、それが妥当か・・・。」

 筋力も技術もないエッダだが、魔力行使がある。しかも、偶然、クロウにほど近い技が使える。魔力が使えない中での勝手としては、どんな武器でもあまり意味がない。ならばもっとも扱いやすい物を身に付けていく必要がある。

「じゃあ、そうするか。持ち方、投擲方法その辺りを一通りやるから、お前はコッチ。二人は残りをいつもの基礎訓練させて解散に。」

「あいよ。」

「了解。」

「んで・・・。」

「・・・・・っ」

 クロウがシオンを見る。

「投擲の対応はできる?」

「・・・まあ、一応。」

「ならコッチの相手して?」

「・・・・・。」

 度が付く初心者に、生きてる人間を的にしていきなり投げさせる気か、と。容赦のないクロウに眼で問いかける。すれば、案の定、エッダはまさか・・・と、顔を引きつらせるが、

「まずは生き物相手に容赦なくできる覚悟と度胸が必要だから。」

 と、クロウはにべもない。

「どうせなら、この訓練来た甲斐があったって様にはしたいからね。技術身に付けるってより、まあ、度胸?体験?どちらにせよ、第五じゃ多分経験できないから。」

「・・・・・。」


 そう言って意地悪くニンマリ笑うクロウに、


 

(・・・・・。)


 シオンは無言で、ため息を吐いた。






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