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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season2

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68/75

赤鉄鉱(ヘマタイト)1







「は?本気・・・?」

「残念ながら、本気。」

「・・・・・。」

 赤い目にマジマジと見上げられて。クロウが少し引き攣った顔で見下ろす。

 

 午前中に様々な書類を片付けて、午後は午後とて警備配置の下見に『ラディアン』に行く予定だったクロウが、たまたま通りがかった中庭で、一人の少年に袖をひかれた。

 

 少し前に、正式に第六大隊の平隊員に相成った、魔人の少年、エッダ=ファーレン。

 見た目は十を少し越えた程度の少年だが、実際の外見は二十歳近くでもあるし、これが実年齢となると、魔人特有の長寿となるため、正式な年齢は当人しか知らない。

 

 少し前に、商店街に出たスリがきっかけで、シオンやクロウたちと関わりを持ち、元々人嫌いだった筈の彼が、ルミナスプェラの軍人になるまでになった。

 確かにその膨大な魔力量から、ファウストが一目置いており、ゆくゆくは軍に招き入れる計画はあったとは聞く。

 だが、迫害を受けた魔人らしく、人への嫌悪に溢れていた彼が、一体どうしてここまで早々に、軍に絡むようになったのかは・・・


「・・・・・。」


 彼に深く関わった『人』、それが、クロウにとっての最愛とも同じ『人』を思い描くから。

 クロウは、より眉間の皺を深くしてエッダを見下ろす。

 そんな視線にも負けず、エッダはじっと伺うような目をクロウから離さない。


「で?」

「・・・・・。」

「やってくれんの?個別の剣技訓練・・・。」 

「俺じゃなくても、よくない?」

「アンタがいい。」

 面と向かってそう言われてしまえば、面倒と、断るのも少し憚られる。一蹴するのは、楽だが・・・、とクロウは溜息を落とす。

「で、得物はなによ?」

「・・・・・。」

 すれば、エッダは少し考え込むような顔をするから、

「え?まさかそこから?」

「そもそも、なんで得意武器が自分でわかってる事が前提なんだよ!」

「・・・まぁ、そりゃそうか。」

 鼻息荒く反論してくるエッダの、その言い分も最もだった。長く軍所属となると、そういったことにも疎くなるか、とクロウは少し反省する。

 そうなると、自分だけで決めるよりも、幾人かの目で見ていく方が良い気がした。


 ならば・・・


「今度、ウチの軍の剣技訓練に来れば?そうしたら、うちの副長達もそれぞれ得物が違うから、個々の視点でも見れるし。」

「お、おう。」

「ただ、部下の手前、態度は改めて?隊規に触れるし、示しがつかない。」

「わ・・・かり、ました。」

「あと、訓練するなら、最中は魔力行使は禁止で。」

「それは、わかる・・・ました。」


 実は思いの外、素直な性格なのか・・・。今から言葉遣いを改めようとする様に、クロウは、好意的な目を向ける。

 日取りと場所を告げて、ファウストへはこちらから連絡と許可を取ることを告げれば、エッダは何処か安堵したように頷いた。


 その背を見送りながら、クロウが携帯を取り出す。


「あぁ、悪い。今平気?今度の個別の剣技訓練に、一人、第六大隊所属の奴が混ざるから。そう、魔人・・・。」

 そのまま、電話で打ち合わせをしながら、クロウも、元の仕事へと戻っていった。












「訓練の手伝い、でいいのか?」

「ええ。個人技能の確認も兼ねた指導があるんですけど、手伝ってくれる予定の第二大隊のエリザベッタさん達がちょっと来られなくなりまして。」

 ハルオミの案内で、軍の敷地まで、中央通り(セントラル)を歩く。


 まあ、延期しても構わないのだが、とハルオミはうーんと考えつつも、やはり後に伸ばさないで済むことは済ませてしまいたいらしい。なんせ常に人手不足だ。後に送った結果様々な事柄がどんどん積み重なることになれば、自分で自分の首を絞めるコトにもなる。

 

 じゃあ、なんとかこなしてしまおうと、せめてもの人員として白羽の矢が当たったのが、シオンだった。

 

 外部の人間であることは、一時思案されたが、それでも第四大隊(彼ら)との関わりの深さに、第一大隊長のビクトルも、ファウストからも、了承は比較的容易に下りた、と。ハルオミがすぐさまかけてきたのだ。


 そうして、当日。

 銃剣道場はすでに隊士達で埋まっていた。各々が組になり、相対しながら動きを確認したり、指導を受けたりしている。

 参加しているのは、今回、大隊の約十分の一、それでも五十人ほど、だ。主に大隊長、副隊長、指導指揮担当隊士下の指示のもとにて、少数人数でまとまっての個人技の訓練となっている。

 熱気渦巻く訓練場に置いて、早速と言わんばかりに、ハルオミがあれこれ支持を出した。こういう時の彼の采配は容赦なく、また適格だ。

 仕事として依頼してきただけあって、中々容赦なく使われ、走らされる様に、シオンの方が少し息切れしている。


 そんな中で、ふと、何人か知った顔に目が止まった。

 

 その内の一人が、ここ最近よく親爺の酒場に顔を出す青年。ディック=アーディンだ。

 使うの大剣ツヴァイハンター、両手持ちの比較的重量のある剣を容易に振り回す様は中々熟練している。

 同様に第一大隊のビクトルも似た様な大剣である、クレイモアを使用していた。同じような重量級の武器だが、本来なら、クレイモアはもう少し小ぶりのはずだ。多分彼の体格を考慮されて準備された物なのだろう。ディックの使うツヴァイハンターと遜色ないようにも見えたな、と、シオンは思い出す。


 シオンの視線に気付いたのか、一度立ち合いを止めた、ディックがこちらに視線を向けて


「―――・・・っ!」

 息を飲んだ。

 シオンが小さく笑いかければ、はくはくと口を二つ三つ開けたディックが、我に返って、そのまま丁寧に一礼する。


「参加してたんだな。」

「あ・・・いや、はい。」

「大きいな、結構重くないのか?」

「・・・いえ、その為に鍛えているので。」

「へえ。」


 ディックは背こそそこまで高くはない。それこそ、シオンとあまり視線は変わらない様に見えた。それでも、隊服からでもわかる腕の太さは中々だ。筋肉がつきやすい体質なのかもしれない。見た目だけで言うならば、ハルオミや、クロウよりもがっちりとして見える。


「あ、ちょうどいい。」

「ん?」

 ふと、背後から声をかけられて、シオンが振り向くと、リシリィがこちらに近付いてくる。ディックもそれを目に止めて、敬礼をしてリシリィを迎えた。

「お手伝いありがとう、シオン。」

 いつも通り表情が乏しいながらも、眼を細めて感謝を告げるリシリィに、シオンは大丈夫だと頷いてみせる。

 すれば、不意にディックを指さし

「彼と、立ち合いしてもらえる?」

「え?」

「え!?」


 リシリィの提案に、シオンよりもディックが慌てた様に反応した。


「そ、れは・・・!」

「ナニ?問題でも?」

「いや、この人は・・・」

「シオン、知り合い?」

「ん?店の常連。」

「ああ、顔見知りなの。まぁ、関係ない。」

 リシリィが一蹴する。それでもディックが、

「で、でも、あの・・・。」

 と、気後れしたような顔でシオンとリシリィを見る。その視線に、リシリィが眉間に皺を寄せ、

「シオン、貴方よりも強いから。」

「そ、うかも、しれませんが・・・。」

「貴方のその無駄なフェミニストは致命的。」

「・・・・・。」

「面倒だから。性別関係なしに叩きのめす事に慣れて。」

「・・・・・。」

 明らかに、軽蔑した目で、ディックを見下ろすリシリィに、シオンはなんとなくリシリィが言いたいことも、シオンに対峙をお願いしたことの理由も察した。

 軍にいる以上、そのクセは致命的だ。戦場に出ていたシオンは、よくわかる。


 ふぅと、一つ息を吐いて、


「いいぜ、やろう。」

「え?え?」

「いいんだよな、リシリィ?」

「徹底的に。」

「だってさ。たしか、ディック、だったけ?」

「あ、はい・・・」

 あれよあれよという間に、二刀を抜くシオンに、ディックはうろたえた様に、それでもツヴァイハンターを不本意な様子で構えた。


 すれば、その様子に、一瞬シオンがキョトンと眼を見開いた。

「大丈夫か?」

「いえ・・・オレ、馬鹿力なんです。だから、それが、心配で・・・。」

「ああ、そういうこと。」

 素直に不安を吐露するディックに、シオンが優しく目を細めた。


「当たらなきゃどんな力も意味ないぞ?」

「そ、れは、そう、でしょうが・・・」

「ま、安心してくれ、ディック・・・。」

「・・・・・。」




 シオンが喉を震わせて、嗤う。

 不意に、チリッとした気配に、ディックが思わず顔をあげた。





 綺麗に、綺麗に嗤う、シオンがニ刀を容赦無く、構える。







「・・・ちゃんと、殺す気でヤるから。」

「―――・・・っ!?」





 ペロリと、唇を舐めるシオンに、ディックは、赤くなればいいか、青くなればいいのか、わからなかった。



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