珪孔雀石(クリソコラ)3
「な、なんでこんなとこにあの人がいるんだよ!」
「知らないよ!オレだって知りたい!」
「あ、あれが、噂の第四大隊長さん!?」
思わず顔を隠すように、三人が顔を突き合わせて、ヒソヒソ声。動揺した様子を隠せないように第四大隊長を盗み見る。
三人の視線の先、どうやら顔見知りなのか、大隊長とイケメン店員の、気心しれた会話が、聞こえた。
「お前かよって・・・酷くない?客なのに。」
「客だな。でも、お前かよって。」
「・・・素直なのは、わかった。」
入るや否やの不躾な発言を、咎めるとも不貞腐れるたも取れる、言動。それに対して軽口で返す店員に、ディックを含めた三人の方がハラハラして見守った。
だけど、溜息一つ、まるで慣れているかのように、自身等の上司は、カウンターの端に腰を下ろして、慣れているかのように注文を伝える。それに頷きながら、ふと、店員が何か小声で伝えると、
「・・・・・。」
見たことがない様に、目を細め表情を和らげて。頷きながら何か返事をする。
了解した様に、離れていく店員の、その手を一度掴んで、
不意に、引き寄せた。
顔を寄せて、耳元で何かを告げる、様にも見えた、けど。
振り払われるよりも先に手を離して、見せて
「じゃ、それで、よろしく。」
「───・・・っ!」
と、少し意味深な表情でニヤリと笑って。すれば、その目尻を少し赤らめて、目に毒だと思うような表情のまま、はぁっと一つ溜息を吐く。
「な、ななな、な、なにを言われた、の、かしら!!?」
「「・・・・・。」」
明らかに動揺したような、むしろ興奮したような顔でサラが鼻息荒く二人を眺める。
それに対して、男二人は見なかったフリをするしかできない。夢中で唐揚げにかぶりついた。
じゅわっと、口のなかで広がる鶏の油に、香ばしくかおるごま油が混じり、塩気のある旨味が舌に広がる。
一瞬、何もかも忘れて、ほっこりと表情を綻ばせれば、店員に、視線を送るのに、夢中になっていたサラが二人の美味しそうな顔に惹かれて、再び唐揚げにかぶりつく。
「これ、酒に会うな・・・。」
「あぁ。」
「本当、美味しい・・・!」
そのまま、くっと酒を煽るサラが思わず破顔した。
と、
「そりゃよかった。」
「───・・・っ!」
背後から告げられた声に、バッとサラが振り返る。すれば、三人の食べっぷりを眺めていたのか、嬉しそうな目を細めた店員が立っていた。
「まだ食えるか?」
「「「・・・・・っ!」」」
こくこくと頷いた、三人に、笑みを深めて、コトリと大皿に乗せた焼きそばを置く。
「コレ、サービスな?」
「え・・・!?」
「い、いんですか!?」
ディックとイヴァンが口々に告げれば、東方種の店員は頷いて、
「あんた等の食べっぷり、親爺も喜んでるよ。」
「あ、ありがとうございます!」
すれば、ひらりと手を振って、再び彼が厨房へと入っていく。
焼きそばを食べながら、ふと、ディックが顔を上げた。
視線の先には、自分の上司が日本酒の徳利を傾けている。彼が向けている視線が見たこともないくらい、柔く、優しく、甘い。
その視線の先には・・・
とん、と。
カウンターの前にあの店員が立って、何かあきれたような、顔をしながら、小鉢を二つ程前に置く。
すればますます目を細めて、盃を軽く回しながら、大隊長は彼に何かを告げれば、眉間に皺を寄せた店員が、顔を寄せる。それを、至極嬉しそうに、見上げて、大隊長が言葉を紡ぐ。
と、
二人が、破顔して、笑い合う。
その笑顔が、あまりに、素直で、無邪気で、幼くて。
あぁ、お互いをこんな顔にしあえる様な間柄なのか、と。
ディックは、思わず目を奪われていると、二人の視線が、こちらに、向けられる。
緋と黒の目がディックを射抜いて、
「・・・・・。」
二人が、唇に人差し指を当てる。
しーっと、
何かを示唆する様が、あまりにも、楽しげで。
ディックが思わず視線を反らす。
二人の関係性を、これ以上考えてはイケナイものに見えてしまう。いや、これはほとんど確定だろう。あの二人は、そういう関係だ、と。
唐揚げを貪りながら、あの、恐ろしくも怖くも真っ直ぐな大隊長が。正直めちゃくちゃ怖くて、ビビっていた大隊長が。
あの、格好良すぎる店員を、どんな風に・・・。
(・・・て、)
「うぁぁあああ───・・・っ!!」
「な、なに!?」
「なんだよ急に!!」
不意に奇声を上げたディックに。
驚いて、声をあげた二人の、視線に、彼自身が耐えられなくなる。
テーブルに、突っ伏してぷすぷすと燻り続けるディックに。
気付かれないように、彼の上司がカウンター端で、突っ伏して肩を震わせた。
帰り際に・・・
支払いは既に済んでいる、と告げられて、呆気に取られた二人と、視線が落ち着かないディックに、
シオンが二人の隙を見て、そっと耳打ちする。
「アイツの下で、働いてくれて、ありがとな?」
「───・・・っ!?」
交わる視線が、不意に優しく柔らかく細められる。
不意に、腑に落ちた。
今までどうして男だと思っていたのかと、思うほど。
化粧っ気がないのに彩られた唇も、長いまつ毛に縁取られた瞳も、酒のせいか少し彩られた目元も。
(いや、完全に、女の人じゃん、この人・・・)
「また来てくれると嬉しい。」
「あ・・・、はい、もちろん・・・」
「今度は、差し障りがない程度に、仕事の・・・」
「・・・・・。」
「アイツの、話とか、聞かせてくれ、な?」
「・・・・・は、い。」
小さく、照れたような笑みは、多分明らかに自分よりも年上の相手の、愛らしさというか、可愛らしさに溢れていて。
何故今まで思い込んでいたのかと、不思議に思うほどに、綺麗な顔した相手から。
これからも、頼む、と真っ直ぐな目で見られて。
高鳴る胸は気付かないフリ。
「やだ、飲みすぎたの?」
「・・・多分」
「明日仕事だろ?早く寝ろよ?」
「・・・うん。」
ディックは、明日から、どんな顔で自身の上司の前に出ればいいか、頭を悩ませた・・・。




