表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/75

珪孔雀石(クリソコラ)2






 

 第四大隊に、ディックが所属して、三年程になる。


 中堅と呼ばれる立ち位置だし、必要な時は臨時で小隊を率いる程度にはなった。

 ルミナスプェラの軍の施設は中々充実しており、一人暮らしを始めて、特に困ることもなく、日々充実して、過ごしていた。

 ただ・・・。


 配置初日の出来事からか、大隊長である男とはまだまともに話が出来ないでいた。

 情けない話、前に出ると、足が竦む。

 うまく、言葉が出てこない。

 それを見越してか、第四大隊長からも、必要以上に、絡んではこない。

 元々、そういう相手だった。

 口数も少なく、誰にも最低限にしか話さない。

 副隊長達とは、戯れ合いの様な会話をしているのも、聞いたことがあった。だけど、とてもそうは出来ないだろう。上司だから、というよりも、あの強さや力を見て、だ。

 これほど頼もしい事もないのは、分かっている。いるといないでは、安心感が段違いに違う。

 だけど・・・。

 あの、赤い目を前にすると、恐怖で動けなくなる。魔族との混血とか、そういう話もあるけれど、ディック自身には、それによる嫌悪は不思議となかった。幸か不幸か、それを気にするよりも先にあの強さにヒビってしまったものだから。

 もはや、暗示にかかったようなものだと、ディックは小さく唸った。


     


「・・・よし。」

 今日分の仕事を終え、時計を見れば、定時を僅かに過ぎたところだった。これならば早く終えた方だろう。明日は休みだ。

 少し思案の後、ディックは最近見つけた店に、飲みに行くことにした。書類を提出し、部屋を出る。


「サラ、イヴァン」

 運よく廊下で出会ったのは、同期の二人だ。訓練生時代に出会い、意気投合した。

 サラ=ブライトは第三大隊、イヴァン=フラストレンは第五大隊に所属している。

 別々の隊になってからも、会えれば偶に酒を酌み交わしたり、談笑したりして過ごす。


「ディック!終わったの?」

 サラが小走りに駆け寄ってくる。確か、一つ二つ年上だと聞いていだが、年の割には少し童顔で、今も上目遣いにこちらを嬉しそうに見上げてくる様は、可愛らしいと、ディックは思う。

「丁度いい、これから飲みに行こうと話していたんだが、行くか?」

 イヴァンは反対に背が高く大人びていて、ディックよりも視線は上だ。筋肉質で近接戦闘が得意なディックと違い、細身の身体で近接よりも、射撃に才があり、後方支援などを得意としていた。


「なら、この間見つけた良い店がある。特にサラは喜ぶと思うぜ?」

「え、なに?女性向けなお店なの?」

「と、言うわけでもないんだけど、な?」

「飯が美味いならいいんだが・・・。」

 不安そうなイヴァンに、ディックは頷く。

「それに関しては間違いない。酒も豊富だし手頃だし、損はないぜ?」

「そこまで言うのは珍しいな、そこにしよう!」

「だから、なんで私が嬉しいのよ?」

 サラが首を傾げるのを、行けば分かる、とだけ話して。


 ディックが、先導して店への道を歩む。

 日が沈んだ街を、他愛もない話をしながら南下していけば、治安としては、あまり良いとは言えないながらも、賑わいを増す路地へと入り込む。

 途中酔っ払いが、地面に座り込んだまま、顔を上げて、

「なんだ、今日はあの、軍の兄ちゃんは来ないのか?」

 と、意味がわからない言葉をかけてくるのを、通り過ぎた。


 赤灯籠の店。横開きのガラス戸を開けば、


「いらっしゃい!」


 席が半分ほど埋まった店内で、心地よい声が迎えてくる。

 ちらりと、サラに目を向ければ、案の定、眼をキラキラさせて、店員に釘付けになっていた。

 彼女の視線の先で、純粋な東方種らしき、絵になるような美形が、笑顔をむけて近付いてきた。

「三人?」

「あぁ。」

「今ならテーブル席もカウンターも空いてるけど・・・」

「テーブル席で!」

 空いている席を素早く目をむけたサラが、すかさず手を上げる。

 その様を少し目を細めて笑って、

「じゃあ、こちらへどうぞ?」

 東方種の店員が、案内をする。


 通された席で、お冷とおしぼり、お通しを受けて。そのまま簡単な注文をした後、イヴァンが、おしぼりで、手を拭きながら、なるほど、と頷く。


「サラが喜ぶ、納得したよ。」

「だろ?初めて来た時に、真っ先に思ったよ。」

 男二人がヒソヒソと声を抑えて話すのを、聞きながらも、サラは店内をてきぱきと動く店員の彼に熱い視線を送っている。

 元々、東方種が好み、しかも面食いだと公言している彼女にとって、彼の外見はまさしく、どストライクと言っても良いだろう。

 ふと、彼女の視線に気付いたのだろう、彼がこちらに目を向ける。

 そして、ふわっと優しい笑みを向けて、

 

 もう少し、待っててな?


 と、返すから


「───・・・っ!!!」

 瞬間、突っ伏すして、テーブルをバンバン叩く、サラのテンションの高さに、思わず二人して天井を仰いで見せた。



「いや、うまいな!」

「だろ?」

「煮物が絶品。」

「この間は、煮付けがあったんだが、それも、うまかった。」

「うん!美味しい!」

 注文の品に舌鼓を打ちながら。三人から笑顔が零れる。 


「これ、唐揚げな。」

 とん、と。大皿に盛られた鶏の唐揚げが置かれる。同時に、彩りの良い葉物野菜中皿もそえて、

「あと、付け合わせのサラダ。ちゃんと野菜も食えよ?」

 ニヤリと、イタズラじみた笑顔を向けて、店員が三人を見た。その顔を、サラだけでなく、男二人も、僅かに喉を鳴らして、


「・・・なんだ、あの色気は。」

「知らねぇよ。てか、オレに男色の気はねぇ。」

「オレだってないよ。でも、思いっきり生唾飲み込んだだろうが。」

「・・・・・。」

 こっそりと。ヒソヒソ話をしながら、二人で競うようにサラダを盛る。そんな男二人を横目で見ながら

「いいのよ、美人を愛でるのに、男も女もないわ。」

 唐揚げを頬張りながら、サラが、ウンウンと、頷く。

 その様に、男二人が吹き出した、時



 横開きのガラス戸が開く音がした。

 


「いらっしゃ・・・、お前かよ。」


 馴染みの客なのか、客相手に使うには、不躾な言葉を吐く。なのに、声色は何処か、優しい気がした。


 なんとなく、ディックが顔を上げて、


 思わず息を飲む。



 私服ながらも、腰に下げた愛刀。

 銀髪に、赤い目は、今のところこの国には一人しかいない。



「うそ、だろ・・・っ」




 自身の上司である、第四大隊長が、そこに、いた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ