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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season2

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紫黄水晶(アメトリン)9









 エッダとシオンの二人がファウスト達と出会うよりも、1時間ほど前に・・・



 サナトリウム内の会議室に十数名が集まっていた。

 魔人皇ファウスト。 

 サナトリウム内研究者代表二名。

 サナトリウム内治療担当二名。

 上記は何れも魔人である。

 そこに軍の実質的トップになる第一大隊長ビクトル。

 そして、第四大隊副長のハルオミと、リシリィ。


 この会議には、常にクロウではなく、副隊長のハルオミかリシリィが出席している。偶々初回に出席したハルオミが、以降の出席を副隊長とした。そして、リシリィもハルオミの意図を理解し、二人は決してこの会議にクロウを近付けなかった。


 そして、今回、初めて二人で参加をしていた。

 

 この会議での主な議題は『アイファ』の研究、対策と対応の確認。

  

 サナトリウム内では、主に『アイファ』に汚染された魔人達への治療と対応を行なっている。同時に研究施設にもなっていて、『アイファ』という薬の解明や、予防薬、治療薬の研究に日夜明け暮れていた。


 ただ、正直なところ・・・

 ここ最近の研究結果は目覚ましいものでは、なかった。


 そもそも、ルミナスプェラには、魔人皇ファウストが存在している。魔族の中では、彼こそが神だと信じるものがいるほどに、膨大な魔力を用いる彼には、大凡不可能がない。

 魔人の魔力、そこから振るわれる『魔力行使』というのは、個人によって強さも質も大きく異なる。

 魔力の質は、個性だ。

 風を操る。大地を操る。空間を移動する門を作る。その性質は千差万別であり、個人によって大きく異なっている。

 そこに、魔力の量での変化が起こる。同じ、風を操る、でも大きく変わる。クロウの様に剣速を速める、投げナイフの向きの微調整程度のものから、自ら宙を舞う、嵐を起こすなどは、その効果は魔力の量によって大きく変わる。

 魔力量は、通常魔人、魔人種、魔人亜種の順で変わる。魔人は魔力量が多く、魔人種、魔人亜種によって魔力量が減る。


 魔人皇ファウストは別格である。


 通常の魔人とは比べるべくもない魔力量を、誇り、また、その、質も桁違いだ。

 ある意味万能とも言えるその力は、人が魔人を食い物にしようと作り出した『アイファ』すらも凌駕する。 

 ただ、少しばかり、排出に時間がかかること、微力な魔力コントロールのためか、一回の対象が一人であることが、対アイファでの欠点だ。


 その、唯一の欠点が、『アイファ』発覚当初、重きをおくか、否かが、議論の的になった。  


 時間制約は重要視するべき問題であると主張したのは、主に人間側だった。

 魔族達の寿命は長い。

 そのせいか、魔人達は当初、さほど気にしなかった。

 ファウストがいる。

 この、万能の、神にも等しい存在がいる限りは、大丈夫なのだと。発見次第、ただ、ファウストの力で除去してもらえばよいとだけ、主張していた。


 ただ、調べていくうちに、72時間という時間制約が生まれた。そこを越えた魔人達は、例えファウストの力を持ってしても二度と『個人』として、戻ることはなかった。

 命は、長い。

 命、だけは。

 本当に初期にアイファに汚染された者達は、ファウストにアイファを除去されて、なお、破壊された脳に自我は喪われたままで。食事や排泄、清潔など一切を他人に依存したまま、ただ、生かされるままには、生きていた。

 きっと、生かされる限り、彼等は寿命を、全うしていくのだろう。

 魔人達の平均寿命は、人よりも圧倒的に長い。



 その、長い長い生命の中、果たして、何処までが彼等が『活きていた』と、いえるのか、と。



 それを、何よりクロウ=シキジマ第四大隊長から指摘をされて、歯がゆくも『マザリモノ』からの指摘に、魔人達は何一つ言い返せなかった。


 そうしてようやく、アイファ解明の為に動き出した。アイファが発見されてから、すでに大分経過していた。


 研究の結果、どのような経緯を経て、アイファが人格破壊に至るのかは解明された。

 どうすれば、それを防げるのかも研究されたが、それについては中々解明がされない。


 そただ出来るのは、なるべく多くの魔人達を奴隷拘束の場から助けだすことだけだった。

 第二大隊の情報精査から、第四大隊が動き、助け出せる人数は、それなりには増えた。

 ただ、魔族自体、元々絶対数が少ない上に、何よりルミナスプェラ台当以降、慮ってか、魔人を表立って奴隷とする国が明らかに減った。否、隠れてしまった。 


 表立って売買されなくなると、時間切れになるものも増えてくる。

 サナトリウムの研究者たちは、何故早く助けてやれないのかと、軍の者に──とりわけ、実働部隊である、第四大隊に不満を漏らした。


 そんな中で、その結果がえられたのは、もはや偶然にも等しいことだった。


 第四大隊が助け出した者の中で、とりわけ性的搾取を多く受けた者たちの幾人かが、比較的72時間の間際になっても、ファウストの御業で人格を再形成できた、というのだ。


 今までの結果と比較すると、その差は明らかだった。ただ、それだけではどういう理由かがわからない。

 その様を本人達に聞き出すのは酷以外の何物でもなく。

 ただ、研究を重ねる事で、ある一つの仮説にたどり着いた。


 ある期間であれば、アイファが精液や愛液に混ざって排出されるのではないか、と。それによって大脳皮質の破壊が遅れて、72時間間際であっても、回復しやすいのではないのだろうか、と。

 ただ、コレを証明するには、保護対象者を見つけた瞬間から調査が必要になる。


 投与時間と、即ち、絶頂したか否か。


 前者は発見時の、性的な興奮状態と、自我の有無で把握。

 性的絶頂の、有無は?

 把握ができないなら、その場所で、すぐに・・・。


 研究者達は告げた。自らの仮説と、その核心を求めるための方法を。


 こうして、アイファ汚染からの人格再形成を目的とした、『処置』が始まったのだ、




 


「・・・・・。」

「以上から、『人格の再形成率は上昇』している、と判断。故に、現行の『処置』は妥当と判断できます。」

「こちらとしては、引き続き、現行『処置』の継続と、可能ならば、処置可能な人員の増員を検討していただきたく、申請致します。」

 しばらくした後、相わかった、とファウストが、頷く。

 それを、何処か冷めた目でみながら、


「・・・・・。」

 吐き気がする、と。

 現場を知らない研究者どもに、ハルオミは、心の中で舌打ちをすした。


 ハルオミもリシリィも知っていた。

 『処置』のあと、たまにクロウが震えながら吐いていることも。それが、特にシオンと出会ってからより顕著なのも。 

 それは、翁にも、ましてや、サナトリウム上層部にも何遍も報告している。それでも、なにも変わらない。アイファに犯された魔人達への対処も、『処置』を行う人手も。


 始めは、ハルオミやリシリィも、その責を担うとクロウに申出た。だが、クロウが断固として首を縦には振らなかったのだ。

 サナトリウムからも、人手が欲しければ、副隊長以下を使えとも、御達しは来ていた。

 それでも、クロウは決してハルオミやリシリィをその処置に加わらせようとはしなかった。

 その代わりに、提案したのは、いざという時の即断即決の任。


『悪ィ、オレのワガママに、巻き込んで・・・。』


 初めて『処置』の任務が説明された時、クロウは何度も何度も必要性や代替え制、緊急性等を確認して。サナトリウムの上層部が舌打ちと苛立ちを露わにして、それでも一歩も引かないで確認を繰り返していた。

 そして、最終的にそれしかないのだと判断された時の、クロウの絶望した表情を、ハルオミは、今でも覚えている。


 そして同時に、『処置』を行う代わりに、クロウが提示した条件。



『『直行排出』は意味がない。あくまでも、達する事で薬効排出に繋がること。ならば、挿入に至る必要は断じてない。』


 そもそも、研究者達は、何を考えたか、排出に伴う行為に直接的な性行為を提示した。所謂、性器の挿入になる。それを、『直接行為による排出』、略して『直行排出』とし、強要してきたのだ。

 それを、クロウは明確に拒否した。目的を考慮すると、過剰な行為は保護対象者の明らかな負担になると。

 目的は、アイファの排出だけではない。その魔人が、再び、自らの意思でその生命を、生き方を全うできることであると。


 ハルオミが、後からそれを聞いて、正直、開いた口が塞がらなかった。

 自分達と同じ種族を汚せと命じて、何をしたいのか、と。


 そして、同時にクロウは、こうも進言した。



『 一対一サシは駄目だ。』



『そこに問題なく処置が試行されたと判断できる、適任者の同席を求める。 』



『その際の立会人には、オレが、保護対象に不要な感情を向けたと判断した場合の、即断処罰の権利を。』



『それに関して、オレは、一切の判断をその相手に委ねる。』



 その場の全員が、絶句した。

 自身からの申出にしては、異常だ。


 その申請理由を、研究者達は誰一人理解しようとしなかった。


 提示した当人のクセして、腹の中で、彼の行動を嘲笑いながらも。

 何度かの議論の末、クロウの案が受け入れられた。と、言うよりは、ファウストの、一声であった。それもまたハルオミは気に入らない。


 結局、立会人は、各大隊長、および第四副隊長、班田と田貫、が該当者と、なった。

 

 実際、クロウの、処置は見事だった。   


 同族と、安堵させ錯覚させるほど慈愛を持った眼差し一つから、『処置』自体には、無機質なまでに淡々と。ただ、保護対象者には、一切それを悟らせないように、必要ならば笑顔をむけて。


 ハルオミ自身でさえ、初めて立会人としてその場に立った時は、正直緊張していた。いざと慣れば、自身で、唯一の上司の首を落とさなくてはならない、と。そこに容赦を含めるのを、クロウは、良しとはしていない。自分ならできると、信じた上での選出だとは理解していた。それでも、だ。


 ただ、一度立ち会って、それは、杞憂に終わった、と。

 唯の一度も剣の柄から手を離した事はなかった。いざとなったら素っ斬り落とす覚悟も出来ていた。

 なのに、その隙もなかった。

 本来なら欲望色入り混じる光景の筈が、崇高な祓いの儀式にも見えた。



 これならば、大丈夫、と、思った。



 思ってしまった。



 それ、が・・・



(僕の、罪だ・・・。)


 

 ハルオミは一度目を閉じた。

 ファウストが、第四大隊副長からは、なにかあるかと尋ねるから、


(なにか、しか、ないでしょ・・・。)


「確かに、クロウ=シキジマ第四大隊長だけにそれさせるのはもはや、意味がない、ですね。」

「・・・・・。」

「翁の気持ちも、サナトリウムでの研究結果もわかります。『処置』介入によって、アイファを多少なりとも排出させた方が、翁の完全排出による人格の再形成率がいいってこと。」

 理解したように、ハルオミが、頷く。魔人達ほ笑みが深くなる。それを、一蹴してやる。


「ただ?そもそも、『人格の再形成率が上昇』って、ナニ?」


 突き放す様に、射抜く。


「本来人格って不明確なものを、どうやって数値化に?」

「・・・そ、れは、あくまで、回復した割合を示したもので・・・。」

「なーるほど、回復した数は増した!いいですね!よかった!」 


「そんなに、処置を行なった方がいいなら、あえて言いますね?まぁ、これは僕達自身にも降りかかる話では、ありますが・・・」





「どなたが現場行かれます?魔人サマ方?」


「「「・・・・・。」」」



  

 毎度の事だ。ソコを突きつけると、誰もイエスと言わない。同種が良いと理解はできているのに、自分達はそれをする立場ではない、と。

 ただ、上からグチャグチャと口を挟むだけの、老害。

 ハルオミは、奥歯を噛み締める。


「仮に、人数増やして数増やして・・・マトモに助けられると思います?アンタ等が簡単に言うその『処置』が、双方にどれだけの負担がかかっているか。想像できますか?」

「そ、れでも、それしか今のところ方法が───」

「知ってますよ?アンタ等もソレ以上研究する気がないのも。だから僕等のボスがココロもカラダも振り減らして頑張ってんでしょ?赤い目で少しでも同族だって思わせて、丁寧に優しく、本来なら苦痛でしかない事を、少しでも負担がないようにって最大限に気を配って頑張ってんでしょ?」

「・・・・・。」

「誰が同じ事できる?ウチのボスだからできてんだよ。アレだけ懇切丁寧に苦しんでる魔人達を、心から気持ち向けてるから出せてる結果なんだよ。数増やせば右肩上がり?できるワケがない。それなのに、その、さも当然な上から目線はなんだ。アンタ等は嘲笑する相手に頼らなきゃ誰も救えないのに?」

「貴様・・・」

「反論する気ならそれ相応の成果を持って話してくださいね。間違っても、人の分際で、とかほざくなよ?魔人の分際で。」

「───・・・ッ!」

  


「やめろ。」



 サナトリウム上層部、四人の魔人を、目の前に。ハルオミ=シェラ=アルトシアン第四副隊長は、普段の穏やかな表情のまま、淡々と容赦ない罵声を浴びせる。

 隣の、同職であるリシリィ=エルラントも静かな表情は変わらないものの、その目は怒りと嫌悪に揺らめいていた。彼女も、彼を止める気は全くない。


 二人の姿に、ファウストが小さく溜息を吐いた。

 


 その様すら、今は気に障る。

 ハルオミが、リシリィが立ち上がる。

 ファウストに、すら、譲らないとばかりに、背を向けた。


 そして、



「現行継続のままなら、第四大隊は、魔人救助に関する任務の一切から手を引くつもりがあります。」

「な・・・!?」


 瞬間、ハルオミが告げた宣言に、ファウスト以外の全魔人達が動揺に立ち上がった。ファウストは静かに目を閉じる。

「それは・・・、あの小僧も承知していることなのか?」

「問答無用で。」

「・・・・・。」

「いくらでも、言いくるめられます。もともと破綻だらけでしょう、こんな計画。それしかない、という一点において惰性で続けていくならもう意味はない。さらに言うなれば、彼にはやめるべき正当な理由ができました。」


   ─── 翁なら、わかるでしょう?


 まさか、わからないとはいわせない、と。ハルオミとリシリィの目が、ファウストを貫く。

 脳裏に浮かんだ、彼女と、初めて相対した時に、萎縮する彼女を意図も当然とばかりに抱き寄せ、圧倒的な自分から庇った彼の姿に、


「・・・そう、そうか。そうだな・・・。」


 深く、深く頷く。

 その、ファウストの様子に、魔人の一人が立ち上がった。


「そ、そんなことか通ると───・・・!」

「黙れ。」

「き、貴様等・・・。」

「これ以上、オレたちのボスを弄ぶな。」

「───・・・ッ!」




「口を慎め。」





 今で、ずっと黙っていた第一大隊長のビクトルが不意に鋭い口を挟んだ。

 ビリッと走る威圧に、ハルオミが、黙して敬礼する事で従う。

 組んでいた腕をほどき、まずは、と、ビクトルが、

「彼等の非礼は、上司への、すなわち、国への忠誠の証と思ってお許し頂きたい。」

 ハルオミとリシリィの、代わりに、と。ビクトルがサナトリウムの魔人達四人に丁寧に頭を下げた。

別の魔人が更に、立ち上がって何かを言おうとするのを、ファウストが止めるよりも先に、


「しかし。」 


 ビクトルが、その視線一つで、黙らせる。


「彼等の主張も最も。軍人とは国の為に死ぬものです。アレもいつ命を落とすとも限らない。その際の二の手三の手は、どの様にお考えです?」

「そこは、同じ様に次世代か───・・・」

「治療薬の開発は?」

「・・・・・。」

「大脳皮質が破壊される七十二時間を更新できない理由の解明は?」

「・・・・・。」

「何故に性的快感で、大脳皮質を破壊せんとする体内のアイファが排出される原因は?」

「この『処置』が開始されてからの月日に、一つでも導き出されたものが、ありますか?」 


 ビクトルの、問いかけに、全て無言の返答を返して、サナトリウムの、魔人達は一様に汗を浮かべる。

「彼等の大隊長が、本来大事にしていた自身の強い信念を、多少なりとも曲げて、貴女達同族を救おうとしている。」


「その献身に報いる気があるのかどうか、それだけは今、この場でお伺いしたい。」

「・・・・・。」

 

 最後の問いすらも、無言で返す魔人達に、ハルオミとリシリィは深い絶望を覚えた。

 人が、魔人達を食い物したように。この場所の魔人達も、自分達(人)を、食い物にするだけなのだ。ましてや、混血など・・・。



 ビクトルが、徐にファウストへと視線を向ける。


「翁は、何か考えがあるのです、よね?」



「───・・・っ!?」


 ハルオミとリシリィが、不意にファウストへと、目を向けた。


 ファウストは、僅かに引き絞った唇を、開かせた。



「計画の、修正を提案する。」


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