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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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紫黄水晶(アメトリン)8


 







 手を引く力は存外強くて。足取りが少しおぼつかなくなる。躓いて転びそうになるのを、だけど、咄嗟に振り返った身体が、

「───・・・っ」

 抱き締めた。

 そのまま、

「わっ、あ・・・っ!」

 その身体をしっかりと縦抱きにかかえ上げて、クロウが、早足でサナトリウムの廊下を通り過ぎていく。

 すれ違う人───すなわち、魔人たちが、嫌悪よりも、興味深そうにこちらを見てくるのが見えて、

「───っ、一回、下ろせ!」

「嫌だ。」

「おい!」

「この方が速い。」

「そう、いう、問題じゃ・・・!」

 食い下がれば、やけに、必死な、切羽詰まったような顔。一度額がこつんとぶつかる。

「・・・もう、黙って。」

「・・・・・。」

 その様子に、その目に、ソレ以上、シオンは何も言えず。ただ、揺られるがままに、身を任せるしかできなくて。

 ただ、時折感じる周囲の視線だけは、どうしても気になってしまうから。せめて、と。

 その首筋に腕を回して、顔を隠す様にして。

 ただただ、早く、目的地にたどり着くのを待つ。


 と、


「ねぇ・・・。」

「・・・なんだよ。」

 不意に、クロウに声をかけられて。シオンが視線を上げないままに返事を返せば、少し戸惑った様な声色と、

「なんで、そんなに、その・・・」

「・・・・・。」

「・・・あんな風に、言えるの?」

「あんな風って・・・?」

 よく、意味がわからずに、シオンが首筋に顔を埋めたまま、身動ぎする。

 すれば、その身体を抱く力が、少しだけ、強くなる。

「普通は、その・・。不誠実って、思う、よね?オレの事、聞いて・・・。」

「・・・そう、なのか?」

「死にたくなった。」

「───・・・ッ!」    

 間髪入れずクロウが零した言葉に、シオンがバッと顔を上げる。だけど、抱き上げられた位置からは、彼の顔が見えなくて、

「絶対にバレたくなかった。知られたら、終わりだと思ってた。誰でもない、お前にだけは・・・。」

「・・・・・。」

「お前が、あそこにいて、保護対象者も、いて。」

「・・・うん。」

「全部終わりだと思った。正直、もう、色々どうでもよくなった・・・。」

 その声色に、絶望の切れ端が残っていて。

 乾いた響きがシオンの耳まで届き、思わず、首に回していたその腕の力を、強くする。


「・・・わかんねぇ。」

「・・・・・。」

 不意に、シオンがはじめに問いかけられた答えを、その首筋に零す。

「・・・正直、よく、わかんない。まだ、お前から、何も聞いてない。」

「・・・・・。」

「その、薬の事も色々言われて、はじめは、少し・・・、驚いた、けど。」 

「・・・・・。」

 ふと、シオンの手が伸びて、クロウの、手触りの良い髪をゆっくりと、なでる。

「ちゃんと、話せ。」

「・・・・・。」

「きちんと、聞く。お前の言葉は、誰よりも、ちゃんと聞きたい。」

「・・・うん。」

 

 いつの間に戻ったのか、と軽く、周囲を見渡して。たどり着いたのは、軍の一室。

 ただ、足の低いテーブルとソファーが二つ。それと、奥には給水室。窓が一つの、少し無機質な部屋。

「内容が内容だから、軍の一室で悪いけど。」

「・・・あぁ。」

「今から話すことは、キチンと上の許可を取ってる。即ち、軍のトップ、国の統治者、あと、魔族の長。ただ、機密事項もあるから、それだけ、了解してもらえる?」

「・・・わかった。」

 シオンをソファーへと下ろすと、クロウがそのまま給水室へ、向かう。

 湯を沸かし、スティックサイズのコーヒーを入れて、シオンの前へと置いた。口を付けたそれは、以前飲んだものよりも、甘かった。


 向かい合わせに座ったクロウが、一つ、息を吐く。


「アイファ、は。人が作った、魔人の魔力を対外的に操作する為の準備段階の薬。対外的に操作するには、その魔人が、自身の意思を持って魔力を使用する『意思』を取り除く必要がある。故の、人格破壊。人格破壊された魔人が、特殊な機械に組み込まれることで、その魔力を抽出され、それを利用した兵器ができる。具体的なのは、人間戦争時の、『火の雨』。」

「・・・・・。」

「投与後七十二時間で人格の完全破壊。ただ、二十四時間経過後から、大脳皮質・・・理性とか司る場所が壊れていくっていうのも理由になるのかな?性欲にとらわれるようになる。その際の性行為や性的発散で排出するものに混じって、アイファが体外排出される。だけど、完全じゃない。」

「・・・・・。」

「研究上は、排出できても精々全体の3割程度。それでも、可能な限り排出できれば、それだけ破壊が抑えられて、人格が保持されやすくなる、らしい。ただ、七十二時間は、絶対の壁。そこはどうしても越えられない。」

「・・・・・。」

「薬物の完全排出できるのは、ただ一人。魔人皇ファウスト。」

「・・・・・。」

「ただ、じいさんは、ある特定の場所から、動けない。」

 納得が、いった。ファウストと会うのは絶対に軍の敷地内だった。軍の第六大隊長の立場にはあるのに、建国祭のパレードにも参加せず、それ以外で、あれだけ目立つ人物なのに、みたことが、ない。

「それに、じいさんの完全排出にも時間がかかる。一回に一人しか、実施できない。時間が、足りない。」

「・・・・・。」

 納得が、いく。

 ようは、時間稼ぎ。


「アイファで判断力、思考力が著しく低下していても、人に拒否反応が出る魔人が多い。でも、この、赤い目だと、魔人──同族と錯覚する。そうなると、色々な点での抵抗が緩む。・・・騙してるって言われたら、何も言えない。だけど・・・。」

 

「本人の意思を無視して、そういう行為をすること事態がどうなのかとか、そんな、議論はし尽くしたと思う・・・。その人に家族や身内がいれば、事前に確認したりもするけど、そんな事自体できないことが多いよね・・・。」


「ただ、まずはとにかく命を救う。結果としてはソコに、たどり着いた。」

「・・・・・。」

 命と、尊厳と。

 突き付けられたのは、本人達だけじゃない。救いたい立場の者にも、容赦なく、慈悲なく。 


「だから、ね?実際『処置』をする時にはキチンとルールがある。」

「ルール・・・」

 シオンが尋ねれば、クロウが静かに頷く。

「処置の実施はオレだけ、第四大隊長のみ。理由は、同族と錯覚されることでの、対象者の精神的苦痛の軽減。本当は、魔人の誰かが行えればいいのかもしれない、だけど、了解者は今のところ、なし。だから、オレが、やる。」

「な、ん・・・で!?」

 シオンが、初めて声をあげた。軍の決定ならば、軍の人間がやるべきなのは理解ができる。

 でも、だからといって、クロウだけが背負うのは、違う。それは、間違いなく。ただ、赤い目を理由に押し付けられたにしては酷すぎる責務に、シオンが拳を固めた。

 ただ、それでも、クロウは大隊長だ。何かを背負う立場に、ある。それを、理解している。

 思わず口に出た問いかけにクロウが答えずにいるのを、それでも、シオンがあえて口を閉ざすのを。軽く、ほほえんで見せて、

「んで、実施の際には、必ず、大隊長か副隊長、もしくはそれに、類似した職務の者が同席。ただし、可能な限り保護対象には察知されないように待機、と。」


「それと、『処置』の最中に、オレが少しでも、『そういった』欲求を出したと判断された、場合・・・」






「即断即決で、首を飛ばしてもらうことになってる。」 

「───・・・っ!?」





「これは、一番始めに、俺が頼んだ。そして、了承してもらった。」


「きちんと、『職務』として、やりきる。」


「それがオレと、・・・アイツ等で決めた事。」


「リリとかハルも、きちんと、本気。いつでも殺せる様に、ちゃーんと観察して、構えてるから。アイツ等。」

 

「そこに、馴れ合いなんか欠片もない。だから、アイツ等を信頼して、任せてる。」


「だから、ね?」


 吐息交じりの声。

 

「俺は立場と責任上、どうしても、お前以外に、触れなきゃならない。」


「だけど・・・。」


「心も感情も、一度だって、誰かに向けたことはないよ。」

「・・・・・ッ」

「本当に、お前だけ、なんだ・・・。」

 それだけは、分かってほしいのだ、と。緋色の目が、真っ直ぐにシオンを見る。

「生き残っている事を、その証明として。ただ、それを、信じてくれるか、そもそもこういった事をしているということをどう考えるかは、別。お前が判断していい、こと。」

「・・・・・。」


 行動と、責任。 

 尊厳と、証明。

 個人の満足と判断されないように、考えて、考えぬいて。

 この極限の状態でも、ただ、『命』を最優先にすると、決めた。

 そこに、相手の尊厳の有無を問うた時に、彼の行動を、それでも、非難する人が、人以外が、いたとしても。 


 シオンが、すっと背筋を伸ばした。


(俺は・・・・・。)


「やっぱり・・・。」

「・・・・・。」

「お前は、凄い。」

「・・・・・。」

 心からの、賛辞を送った。誰が何と言おうと、それは本心だ。

 要所要所では、しっかりこちらに視線を向けていたクロウが、再び俯いたままなのは気付いていた。その様が今、もう少しだけ、深くなる。

 どう受けとめるのかは、わからない。ただ、シオンは、シオン自身が思う素直な言葉を口にすると、決めた。

「重くて、苦しくて、辛いことを、こうやって、口にしてくれたことに、心からの感謝を。」

 そう告げて、一つ頭を下げる。

「例えば、上からの──軍からの命令で、お前がそれを受け入れたのならば、俺はお前の決定の全てを受け入れる。そこに、一個人の意見や考えを入れてはならないと考えてる。」

「───・・・ッ!」

 俯いたままのクロウが、少し、息を飲む。多分、少し違う方向で受け止めてるかもしれない、けど、あえて今は修正せずにいた。

 シオンが、少し目を細める。

「その行動で、少しでも、救われる魔人がいるならば。」

「・・・・・。」

「ただ、人の罪を、お前が背負うような形になって、すまない。人として、謝罪を。」

「そ、れは・・・ッ!」

「あと、な?」

 対面の距離は、少し遠いと、シオンは少し、うーん、と、首をひねった。ゆっくりと立ち上がって、隣のソファーへと、映る。

 そして、俯いたままの、彼が、自分をキチンと認識できるように、その膝へ手を置く。


「俺は、お前が、ちゃんと好き。」

「・・・・・。」

「好きだ。」

「・・・・・。」

 奥歯を、噛み締めて、何か言いたいのを、こらえる気配がする。だから、言える言葉は言ってしまおうと、シオンは続ける。

「だから、この話については、もう、何も、言わない。」

 そこは、とやかく言うことはでは、ない、と。そこに、個人の感情を乗せてしまったら、結局この先救えなくなってしまうものがでてきてしまう。

「言ったら、お互い溢れてしまうだろ。」

「・・・・・。」

 クロウは、何も言えない。例えば、そんなのは嫌だと告げて、わかりましたやめます、なんて、事にはならないから。

 ここでシオンに話すのは、現実と、それがまだ続いていくということ、だけ。

 だから、そこは、もう考えない、と。シオンは、今、決めた。

「今は、お前が決めたのなら、お前の使命を貫け。」

「・・・・・。」

「少なくとも、俺は、それを望む。」

「・・・・・。」

 クロウの項垂れたように膝に置かれた手が、強く、拳を、固める。

 


「あと、一つだけ、いいか・・・?」

「・・・なに?」

「お前が、その、俺にむけている感情や想いを、誰にも向けてないこと。俺にはわかるよ。」

「・・・え?」

 顔を上げないままに、クロウが、視線だけをシオンに向けるのがわかる。

「『カルベラ』の街で、任務中のお前と会った時に、改めて、実感した。」

 それを、実感したから、こそ、グレッタの言葉に翻弄されずにすんだ。だけど、

「俺を見る時の、お前の、目が・・・その・・・」

 改めて考えると、少し気恥ずかしさがあるな、とシオンは少し目尻を赤らめて小さく笑う。

「全然、違う、から。」

 そう告げると、クロウは少し理解できないような顔でこちらをみあげて、だけど酷く嬉しそうな表情のシオンに、思わず目を奪われる。

 そんなクロウの顔が、やっぱり可愛いと思ってしまう。

(ほら、今もすでに、違う・・・。)


「俺をみる時と、その、他の人・・・さっきの、魔人の女の人、も、含めて・・・全然、違う。」

「・・・・・。」

「ハルオミや、リシリィとかを、見る目とも、ちょっと違うんだ。俺は、それがわかってしまった。」

「・・・・・。」

「今も、ほら。」

「───・・・ッ」


「い・・・。」

「ん?」

「いや・・・いやいやいや!そ、こまでわかり、やすくは、ない、でしょ、ほんと。」

 元々、クロウは、シオンの前では幾分か感情豊かに接していた。幼い頃の愛されてきた環境と、戦時中の環境の、矛盾に苦しむ中で、彼女が少しでも愛されている、と感じていてほしいから。彼女に、きちんと、愛しているのだと、示したいから。

 だけど、あまりに露骨なのは、ちょっと違う、と。

 明らかに狼狽したような様でクロウはぶんぶんと首を振る。 

 だけど・・・

 シオンがその頬に掌を這わせて、正面からその顔を見る。

「わかるよ。」

「───・・・ッ!?」

 覗き込む様に、みれば、緋い緋い目が、自分に見られる事を喜ぶ様に輝き。もっと、もっと、と。強請るように、ワガママに揺らめく。

「お前、今、凄く、喜んでる。あと、ちょっと、興奮してる。それを、バレてたらマズイってのも、思ってる。」

「そ、れは!間、違って、ない、けど!それ、目のせいじゃないでしょ・・・!」

「でも、お前の目って、凄く素直なんだ。緋い目って、感情が、出やすいんじゃないか?」

 シオンがましみじとその顔を見つめながら、不意に、膝の上に乗ってくる。

「───・・・っ!?」

 クロウが衝動的に身体を強張らせて反応するけど、シオンは、その、緋い目を覗き込むのに、夢中だ。

「意外とリリやハルオミも、お前の目で、判断してるのかも。」 

 より、顔を寄せれば、欲情の、色があからさまに濃くなる。一瞬、指先が強張るように、引きつって、でもここで手を出すのは、駄目だと、ぐっと奥歯をかみしめて堪えるのが、伝わる、から。

 シオンが、より嬉しそうに、楽しそうに、その目を細める。

「普通、こんな真面目な話してんのに、がっつくようなギラギラした目、しないだろ?」

「し、してない!してないから!こんな真面目な話してんのに!いくら俺でも!」

「してる。不安も、心配もあるくせに、その一方で、ここまで近くにいるんだからって、どうにかして、俺にナニかしたいってのを、隠せなくて、ギラギラしてる。」

「し、しし、してないってば!!」

「嘘。勃ってるくせに。」

「───・・・ッ!!!?」

 瞬間、真っ赤になったクロウが、反射的に両足を閉じ、自身の股間を両手で隠すから、膝の上にいたシオンの、身体が大きく揺れて、その首筋に、しがみついて、益々クロウの身体が強張るのが、わかる。

 その身体の緊張が伝わって、ひどく、愛おしい。多分、それが、シオンの本音なのだ。

「エッダがいた部屋から、ずっと、俺のこと抱きたくて仕方がなかったくせに。」

「───・・ッ!!!??」

 少し煽るように。

 耳元で言葉を零せば、

「あんな、何でもない顔してキスして。なのに、一瞬、あの場で押し倒したいって。見られてもいいから、ヤリたいって考え、た?」

 息が荒くなってる。 

 耳まで赤くなって、必死で首振って。

「移動しながら、不安が先行したんだ?ココを選んだのも、こんな話をするから、話の末に拒絶されたらって考えて、いつもの場所に行けなかったんだろ?」

「・・・そ、んな、こと・・・!」

「そんなこと、ある、だろ?」

 突き付ければ、不安に揺らめく。その目がひどく愛おしい。


 だから・・・


「でも、俺は・・・」


「俺を見る時の、お前の目が・・・」


「凄く、好きだ・・・。」

「・・・・・」

「好き。」 



「愛、してるよ、ちゃんと。」

「お、ま・・・」




 だから、心配しなくても、大丈夫、と。




 シオンが、目を細めて、本当に、嬉しそうに、わらう。




「・・・・・ッ」

 一度、ぐっと息を飲んで。

 そのまま、クロウが俯く。

 耳まで赤いその姿が、可愛らしいと、素直に思って。

 思わずその髪に触れて、頭を、撫でれば、コクリと喉が鳴って、

 


「あ、あの・・・ね?」

「ん?」

「ここ・・・」


   ─── 監視、入ってる・・・。


「・・・・・。」

「・・・・・。」



「・・・は?」

 シオンが、固まる。それを見たクロウが、赤い顔のまま、やっぱり、と小さく頷く。


「いや、だから、その・・・」

「・・・・・。」

「監視・・・。」

「・・・いつ、から?」

「・・・最初。」

「てめぇ!!始めからそう言えやぁぁあああ!!」

「だ、だって機密事項話すって!だから、そういう場合って、相手が外部で話しそうか、とか複数人で確認するのが当たり前で!」

「そんな軍の常識知るわけねぇだろ・・・ッ!!」

 膝の上に乗ったまま撫でていた手が襟首を締め、そのままグラグラと揺さぶる。


 揺さぶる、が・・・


「ま、待て!ちょ!落ち、着い・・・っ」

「るせぇ!ふざけんな!」

「ゆ、揺さ、揺さっ、ぶら・・・っ、ま、ぁぁあああ─・・・っ!!」

 ソッチはソッチで別の方向で大変な事になりつつある相手など露も知らずに、思わずどこにカメラがあるのかと、キョロキョロ辺りを見回して


「だ、だれが、見て・・・!」

「・・・い、一応、アイファ・・・、対処処置に関しては、情報、せいっ、制限、かけ、られてる、から・・・。」

「・・・・・。」

「大隊長、以上、二名・・・か、と・・・っ」

「・・・・・っ!!」

 

 ほとんど、知り合い。

 聞くやいなや、毛を逆立てた猫の様なサマで、目尻を真っ赤にさせたシオンがはくはくと口を動かす。

 それを間近で見て、クロウは、もう嬉しいのと可愛いのと、正直すんごくキモチイイのとが込み上げて。


 失うかもしれない大切なものは、例えば人目がないからと思い込んだとはいえ、あんな酷い話の後でも、優しく可愛く、途方もなく愛しく微笑みながら自分を抱き締め、受け入れてくれた。

 

 こうなると、もう、正直監視もくそもない。ここまで来たらもっともっと満たされたい、と。


「あの、オレ・・・」

「───・・・っ!?」

 クロウの方が我慢できなくて、咄嗟に手を伸ばしたその手をすかさず、シオンが掴み上げる。

「な、なんで───・・・!?」

「なんでじゃねぇ!今、俺に触ったら・・・」

「・・・・・。」

「マジで、ぶった斬る・・・!」

「怖・・・ッ!!」

 シオンの片手がすかさず鯉口を切る。

 思わず本気の臨戦態勢に冷や汗が伝う、けど。

 だが、こっちもこっちで色々と、我慢ができない。てか、きかない。

 

「こ、ここまできたら、もう、気にしても・・・」

「気にする。」

「い、今更・・・」

「気にしろ。」


「べつにぎゅっとするくらい・・・」

「てめぇは絶対それですまない。」

「そ、んなこと・・・」

「コッチ見て言ってみろ・・・。」

「・・・・・。」

 それを指摘されたら、目が泳ぐ。

 抱き締めるじゃ、百パーセント収まらない。

 とりあえずちゅーはする気満々だった。あと、舌は入れる。これはさっきもしたし、多分オッケー。

 後は、何処まで・・・、だったけど、正直うっかり監視が入ってるなんて言わなきゃよかった、とクロウは荒い息を隠しもせずに心底後悔していた、


 もし、監視が入ってる、なんて言わなければ・・・


(言わな、けれ、ば・・・)



 とてもとても口には言えない妄想に、正直な下半身だけは一気に奮い立つ。


 瞬間、


「ほらみろ!ふざけんな!何考えてんだ!」

「こ、これ、は、その・・・」

「人前だぞ!?ホント、なんで!」

「正直言うなら、人前でも何でも!ヤリたい!」

「死ね!!!」

「危なっ!ぬ、抜かないで、ちょ!どうせ拭くなら、ほら、むしろコッチヌい───・・・」











「お前、本当に一回死ねよ・・・?」

「・・・・・。」











 あの時ほど、マジで殺気バリバリな、恋人の顔は、見たことありませんでした、と。

 

 後日、ルミナスプェラ誇る、第四大隊長は冷や汗混じりで自身の副隊長に、うっかりとこぼし、内一人からは、その背を思いっきり蹴られたとの事だった。

 











      





 ちなみに。

 監視モニター先では・・・


 吹き出した鼻血に詰詮をして。

 立ったり座ったりまた立ったり。

 最終的に、顔を両手で覆い隠したまま、高らかに天を仰ぐやたらテンションの高い『聖女』リィンの姿と、


 もはや尊敬する『聖女』のその姿に、どうすればいいかわからないまま・・・。

 少しでも落ち着けようと、変わらない表情のままでその背を撫で続ける、キリングス第二大隊長の姿が、あった。


少し難しい話でした。読んでくださってありがとうございます。

色々な考えが、あると思います。これは、彼らが出した一つの考えですが、正解ではないのかと。考えを、突き付ける話では、ないのです。ご理解頂けると幸いです。

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