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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season2

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紫黄水晶(アメトリン)7





 シオンがしゃがみ込んだまま。

 小太刀をグレッタに、大刀を彼を押さえ込んでいる隊員に突きつける。

 上目遣い。

 探るような目を向ける。


「気になってた。俺との会話に聞き耳を立てて。」


「俺が動揺したら、ちょっと気配が変わったよな?どちらかというと、愉しげな感じに・・・。」


「何より、この場で押さえ付けるだけって・・・。」


「何で?」

「・・・・・。」





 見上げた隊員が、赤い唇を、吊り上げた。












 隊員モドキが、懐に手を入れた瞬間、シオンがその、大刀を振り上げる。

 それを、間髪入れずに避けるから、


「敵だ・・・ッ!!」


 直球の言葉でシオンが声を張り上げ、そのまま相手に斬りかかる。グレッタを、視界の端に納めながら、短剣を両手に構えた相手と、二つ三つ斬り結んだ。

 シオンの声に反応して、一番側にいたハルが何人かと隊員に合図を送るのが見え、シオンが手で這いつくばったままのグレッタの位置を示す。

 が、


「───・・・ッ!?」

 シオンが先程叩きのめした筈の男が一人、シオンを背後から羽交い締めにする。

 シオンの身体が容易に浮き上がって、だけど、逆手に持ち替えた『夕凪』をその太ももに突き立てた。怯んだその身体を押し退け、着地の瞬間に振り向き、その身体を二刀で切裂く。

 上がる血華と沈む巨体。ニセモノの隊員が息を飲む声が聞こえた。


 そして、再び、一投足で隊員モドキのところまで距離を詰めるも、隊員モドキが赤い唇で笑いながら、更に背後へ距離を取る。

 もう一歩詰めて、シオンが迫る短剣を大刀で受け止める。それをいなすようにして、相手の体勢を崩し、潜り込んだ懐から、


 小太刀を振り上げる。




「───・・・ッ!」

 その、頬に、縦に一文字。


 鋭い痛みに、シオンを見下ろす目が・・・





  ─── 赤く、緋く、変わる。



「───・・・ッ!?」


(魔、族・・・ッ!?いや、でも、この目は・・・。)


  

 シオンが、息を飲む。

 隊員モドキの目が、赤い、ことではなく。

 誰かと、よく似た、緋色の、目、で、あること、に・・・。

 

「───・・・。」

 シオンがその目を見て、驚嘆した事を、赤い唇の相手が、愉しげに笑う。そのまま不意に大きく飛び、シオンの背を超えていく。

 そして、


「ハルオミ・・・ッ!」

「ぐ・・・ッ!」

 地面に這いつくばるグレッタに、手を伸ばすハルオミよりも、早く。隊員モドキが、グレッタの、襟首をつかむのが早かった。

 そのまま、止めてあった場所の荷台へと飛び移ると。

 気絶していた筈の、また別の男が、いつの間にか準備をし、馬車の手綱を引いている。

 高く、響く、馬の嘶きと共に。

 隊員諸共、夜の闇を蹴散らすように。

 馬車が勢いよく、闇の奥へと消えて行く。 

 




 遠ざかる蹄の音を聞きながら。

 シオンが、はぁっと一つ息を吐いた。

 ハルオミがすぐさま、他の隊員に指示を出しているのが聞こえる。 

 だけど、

( 厳しい、かな・・・。 )

 血糊を懐紙で丁寧に拭い、二刀を収める。

 夜の空を見上げれば、普段よりも闇が深い。それでも、煌々と輝く星が見える。きっとこの星は、いつもの街でも見えるのだろう。

 怒涛の一日だったと、一つ息を吐いて、


「ハルオミ・・・。」

「あ、シオンさん!貴女にもちょっと話を・・・」

「わかってる。ここまで関わって知らんぷりはしない。」

 きっとこの話はクロウの耳にも入るだろう。少し怒られるかもしれないが、それに関しては覚悟を決めて・・・


 彼らの元へと、歩を進めた。

 


















 様々な事柄を済ませて・・・


 ようやくルミナスプェラの首都に戻ってきたシオンは、今、例の保護区にいた。

 サナトリウムの一室。エルカに案内された、落ち着いた応接室の一室で、エッダ少年がソファーに掛けて待っている。


 名物のケーキは、当日その日の内にハルオミに頼んでエッダにまで届けてもらった。賞味期限がそれほど長い物ではなかったから。確かに、普通に馬車で向かったら食べられなかったかもしれない。


 その話かな、なんて少し軽い気持ちで、シオンがエッダと相対するように向かいのソファーに腰を掛ける。

「ケーキ、食べられた?」

「・・・え?あ、まあ。」

「ごめんな、少しいざこざに巻き込まれてちょっと形が崩れた・・・。」

「それは聞いた。」 

「・・・姉ちゃんは、食べられたのか?」

「・・・・・。」

 一瞬聞こうかどうか迷った質問を、それでも口にすれば、エッダはふいっとそっぽを向く。


 代わりに、


「わけわかんねぇ・・・。」

「・・・なにが?」 

「オレの話真に受けて、あんなトコ行って。しかもヤラれかけたって?」

「・・・・・。」

 小馬鹿にしたような言い回しなのは以前からだったから、シオンは気にとめない。だけど、今は、その紅い眼に、僅かな揺らぎが見て取れる。


「人間なんか、所詮オレ等と違う種族なんだから近付いて来なきゃいいんだよ。」

「でも、側に行かないと、声は聞こえない。」

「・・・ナニ?マガイモノと話す気があるの?」

「その言い方やめろ。」

 人の多くが進行する神の、魔族を貶める考え方を主とした派閥が付けた別称。エッダが歪んだ唇で口にするのを、シオンが止めた。

 それでも、その歪を深くして、エッダはシオンを見つめる。

「あぁ、アンタの犬はマガイモノのマザリモノだったっけ。」

 ひくりと、シオンが米神を揺るがす。その瞳孔が、僅かに引き絞られる。

「次言ったら・・・いくらお前でも許さない。」

「いくらお前でも、って・・・、なに?オトモダチにでもなったつもり?」

「友達かどうかはわかんねぇけど、少なくとも、他人じゃねぇだろうが。」

 だから余計許せねぇよ、と真摯に、真っ直ぐに、シオンがエッダの視線を受けた。

「・・・・・。」

 『カルベラ』に行った前と後とで、何も変わらないシオンの瞳に、エッダが少し面白くなさそうに歯ぎしりをする。それでは、いったい何のためにコイツをあの町に行かせたのか、と。

「撤回してもらう。」

 繰り返し、そう告げるシオンに、

「・・・オレ、知ってるもんね。」

 ならば、揺さぶってみようか、と。 

 エッダが再び嗤う。


 エッダの思惑通り、シオンはあの街で鉢合わせした。第四大隊の捕り物よりも早く対象に接触し、『アイファ』に汚染された魔人の、よりによって珍しい筈の男性体に襲われかけたところを、到着した部隊――というか、ブチ切れたあのマザリモノ助けられたというのだから

(本当にウケるんだけど・・・。)

 意地の悪い笑みを浮かべてエッダが薄っすらほくそ笑む。

「あぁ?」

「アイファから回復させるためには、24時間超えて72時間以内。性的接触での体外排出が初期対応のしては効果的。」

「・・・・・ッ」

(ああ、知ってるんだ。)

 それは重畳・・・、と、ますます笑みを深くする。

 

「まさか、誰彼構わず、見つけ次第早い物勝ち、みたいに手を出させるなんてこと、流石にさせないよね?」

「・・・・・。」

「むしろ、その情報自体、軍の人間も、一体何人が知ってるのかなぁ?」

「・・・・・。」


 黙して語らないシオンを、追いつめている気分で、エッダが止めの言葉を抜き放つ。













「アンタの犬だろ?それにかまけてあっちこっちで腰ふってんの───・・・」

「アイツを侮辱したら、許さないって、・・・言ったぜ?」













 瞬間、シオンの漆黒の瞳が、怒りで縮瞳する。










 エッダが気付くよりも、はやく、その眼前を、シオンの掌が覆った。


「がっ!?」

 重量級のソファーごと、床に張り倒されて、後頭部を強かに打ち付ける。痛みとともに、仰向けに投げ出されたエッダの体にシオンが伸し掛かってその胸倉を掴み上げた。


 至近距離で見る、黒く深い、深淵の瞳。


「・・・・・っ。」

 エッダが小さく息を飲む。

 怒気を孕んだその眼に射すくめられる。

 それでも、その瞳のまま、綺麗に綺麗に、シオンは笑って見せた。

 笑みは、冷たい刃となってエッダを射貫く。



「別に、な?」

「・・・ひ。」


「てめェが俺をキライで貶めたくて、あんなこと言って困らせてやろうって考えてた、とか。」


「なんで、その場で聞いたはずのアイツ等の任務の事知ってんだ、とか。」


「そんなこと、俺、は。どうでもいいんだけど。」




「普段、どれだけ体張って、命晒して大隊長やってるアイツを。碌に知りもしないてめェが、ぐちゃぐちゃグチャグチャ語るんじゃねぇよ。」





「生い立ちも緋い眼も、アイツ自身じゃどうしようもない事だろうが。」





「それがアイツを貶める理由?ふざけやがって。小せぇにも程がある。」





「抱いたからどうした。少しでも助けたいからだろ?それしか方法がないんだろ?それが解った上で、そんな邪推か?」

「・・・・・。」






「だったらてめェがやってみろ、クソッタレ。」

「・・・・・。」








 その剣幕と、迫力と、何より説得力に。

 目を見開いて、なに一つ言えなくて。

 ただ一度だけ、エッダがぶるりと震える。

 その嘲りと嗤いに歪んだ眼が、怯えと少しの後悔に揺れ、変わり。その視線が、下へと落ちて。

 ようやく、シオンがその襟首を離す。その上から立ち上がって離れ、


「・・・俺が、お前と話したい気持ちは、変わらない。」

「・・・・・。」

「ただそれは、対等に、だ。俺はお前の下手に出るつもりなんかサラサラねぇよ。勘違いすんな。」

「・・・・・。」

「人が魔人にした事は、わかっている。理解してる。」

「・・・・。」

「だからって、俺が、何をされてもいいわけじゃない。俺の周りの人を傷付けるなら、真っ向から対峙する。」

「・・・・・。」

「傷つけ合うために会うなら意味はない。理解し合うために、話したいんだ。お前を、知るために。」

「・・・・・。」

「それでもお前が話したくない、受け入れられたくない、って言うなら、それでもいい、教えてくれ・・・。」



 シオンが、そのままエッダに背を向ける。

 そして、扉の前で、一度だけ、エッダの方を、振り返った。



「お前、なんで、今日、俺を呼んだんだ?」

「―――・・・っ」

「こうやって傷付けたかったからか?」


 帰ってこない返事は、元々気にしていなかったと。

 シオンはさほど待たずに、



 再び背を向けて、ドアノブに手をかける




   ――― よりも、先に





 扉が開く。





「話は、終わったか?」

「な・・・っ!」



 扉の向こうに立っていたのは、ファウストと、もう一人。

「お、まえ・・・。」

「・・・・・。」

 いつから、と続けようとしたシオンの、その口をそのまま食む。

「―――・・・ッ!?」

 人目も憚らないその行為に、シオンが思わずクロウの体を押しのけようとするが、それを気にも留めずに、抵抗を優しく押さえつけながら、その口内に舌を這わせて、息を奪う。

 両手で頬を優しく包み込んで、そのまま手を滑らし、髪を優しく弄り・・・


 ─── そのまま、耳を、塞いだ。


「―――・・・!てめ、いい加減に」


 唇が離れていく。

 紡がれる、抗議の言葉を、酷く優しい、嬉しそうな眼を、一度だけシオンに向けることで、遮って、

 




 ゆっくりと、背後へ移れば、






「許さねぇよ・・・?」

「───・・・っ!?」




 ぞわりと、エッダの背筋に悪寒が、走った。




 不意に、雰囲気を、一変させて、クロウが露骨なまでに、怒気と殺気を入り混ぜた視線をエッダにぶつける。




「マジで許さねぇから。コイツ巻き込んだ事。コイツに教えた事。」

「・・・知、らねぇ、し。」



「『門』の作成は見事。音の魔力操作できる魔人使って、こっちの情報盗み聞いたやり方も悪くないよ。」

「・・・・・。」




「何より魔力量とか。コッチの手駒として使えるから、ね?だけど・・・。」

「・・・・・。」




「オレ自身としては、百分ひゃっぺん切り刻んでも、足りない。本気で殺したい。翁が何と言おうとも、知らない。」

「・・・・・。」




 クロウの静かながらも、危機迫るような気迫と。

 それを隣で聞きながらも、否定も肯定もしないファウストに。

 エッダが僅かにおびえたように二人を交互にみる。







「次、この子巻き込んだら、その瞬間、首飛ばすから。」



  ─── 得意だよ?オレ・・・。





 シオンとは、全然違う、慈悲も容赦もない視線。

 初めて、恐怖で体が震える、という体験をした。つい先刻、シオンの怒りの視線を受けて一度体を振るわせたけれど。

 底冷えがする、命の危機を味わうのは、初めてだった。


 明らかな怯えに竦むエッダを、物を見る様な眼で見下ろして。クロウがシオンの耳からそっと手を離せば、

「な、に―――・・・」

「いいよ、行こう。帰ろう。」

「ちょ、おま・・・!」

 強引にその手を引いて部屋に背を向ける。


 残されたエッダが、ファウストと共にその背を見送って、思わず喉を鳴らした。

「本当に面白い男になったものよ。」

「・・・・・。」

 エッダが、ファウストの言葉には応えず。腰が抜けたままの自身の姿と、未だ小刻みに震えるその手を見下ろす。

「・・・くそ。」

 小さく吐く悪態は、せめてもの抵抗だけど。だからと言って、先ほどの底冷えがする恐怖は、少しも消えなくて、エッダは奥歯を噛みしめて、耐える。

 その様を見下ろしながら、ファウストが、ふっと一つ息を吐いた。


「おまえは・・・。」

「・・・・・。」




「なぜ、あの門を作った?」

「―――・・・ッ!」




 不意に、エッダがファウストを見上げた。

 門をくぐらせる前に、シオンが告げた言葉



 『怒らない。』



 『多分、造り出した、その意味は、問うと、思う・・・。』




「力と権力を持つ者は、等しく、その意味と責任を考える必要がある。」


「あの混血の小僧とて、そうだ。そしてアイツはそれをよく理解している。」


「まだ、発展途上のこの国の歪みを理解し、他者からの妬みも、蔑みも、全部含めて、受けるコトもまた自分の役目だと理解してくれている。」


「だから、この国は、回る」


「ただ、それを理解できるものは、少ない、な。」


「お前は、どうだ?」


「自分の持つ力を、正しく、ふるえる者、か?」

「・・・・・。」


 今度こそ、エッダが言葉を失って、俯く。

 その様子に、それが、後悔に打ちのめされているのなら、とファウストは願いながら・・・











「お主に、な?」


  ─── 一つ、相談が、ある。



 項垂れたまま、顔を上げられないエッダに、ファウストが、一つ、息を吐いた。


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