表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/75

紫黄水晶(アメトリン)5






「ここ、が・・・。」

 

 今までいた都市とは違う空気に、シオンが周囲をぐるりと見渡す。

 過去に二度ほど、田貫と班田が作った『扉』を通ったことはある。空間が歪む光景。数歩歩けばそこはもう今までの場所とはがらりと変わり、二人が『つなげた先』の場所だった。そんな事ができるのか、と。素直に驚いたけれど。

 

 だけど、今回は、その二人が『つなげた』のではない。


 シオンは驚きのあまり、天を仰いで息を吐いた。

 どこまでも広がる青空は、きっと、あの街にもつながっているのだろう。

 それでも、なじまない街の空気は、少し冷たい。

 

 エッダからの頼まれごとを済ます為にシオンは、足早に、繁華街へと歩を進めた。







「・・・名、物?」

「そ。」

 エッダから提示されたお願いは、予想外な物だった。

 ここからほぼ北、国境付近の『カルベラ』でしか売られていない、名物という甘いケーキを二つ買ってきて欲しい、という事だった。

 正直、意外過ぎて、シオンが言葉を失っていれば、『昔・・・』とエッダが昔を懐かしむ様な顔で話し出す。


「姉ちゃんと、一度だけ食べたことがあるんだ。ふわふわの柔らかいヤツで、姉ちゃん、凄くおいしいって。」

「・・・・・。」

「何度も、また食べたいって。一回、人間のフリまでして買いに行ったけど、売り切れだったんだよね。そうしたら・・・。」


   ―― あんなことになったし・・・。


 エッダが言葉を濁したのは、この後すぐに姉が不幸な目にあったから、なのであろう。サナトリウムに保護されているとは聞いている。が、それがどういうことなのかは、まだ詳しくシオンは聞いてはいなかった。ゆえに、今は、

「・・・わかった。」

「・・・・・っ!」

「姉ちゃんとの思い出、教えてくれてありがとな。」

「―――・・・え。」

「買ってくるよ。そうしたら、また話そうぜ。」

 そう言って綺麗に笑う姿に、エッダが一瞬見惚れる。だけどすぐに、遠ざかろうとするシオンに待ったをかける。

「どこ、行くつもり?」

「え?だって国境付近だろ?帰ったら、旅支度して、次ここに来るのは・・・どれくらいだ?」

「は!?名物買うのに半月もかけるつもりだったの!?」

「・・・え?」

 本気でそのつもりだったシオンに、エッダが頭を抱えて呆れたように深いため息を吐いた。

「ちょっとだけ、あのマザリモンに同情する・・・。」

「だから―――!」

「はいはい、わかった!わかったから!ダイタイチョーさんね!」

 面倒くさげに、それでも、素直に言い方を修正するエッダに、シオンが嬉しそうに『よしっ』と頷く。それに、なんとも、言えない感覚を抱きながら、エッダはシオンを手招きをした。


「ついてきて。」

「・・・ああ。」

 言われるがままに、シオンがエッダの後に続く。ものの5分程でついた場所は、先ほどクロウにも示された場所、サナトリウムだった。


 療養所ともされるその場所は、迫害を受け傷つけられた魔人達の治療の場所でもあった。治療にあたるのは、ファウスト率いる、第五部隊だという。

 つまりは、魔族。

 魔人・魔人種・魔人亜種と別れる、決して多くはない人数が、迫害され傷ついた同種の為に必死の献身を捧げていた。本来ならもっと人手を割くべきところだろう。しかし、この場所に『人』を置くわけにはいかない。

 この場所に立ち入られるのは、基本、魔人、魔人種まで。

 今まで人が立ち入りを許可されていたのは、書類の受け渡しという業務にのみ限られていた。

 それほどに、人の立ち入りを制限している場所を、ゆえに、シオンがこの場所を訪れた、というのは、ある意味画期的な試みでもあった。彼女の生い立ちや、軍内部の魔族に対して全く分け隔てなく関わってくるその様を認めたファウストの判断でもあったのだろう。


 レンガの造り地上三階地下一階の、この場所で一番大きな建物。自動扉を潜り抜けて。それでもエッダは、一般の病室がある方向ではなく、すぐ傍の階下へと降りる階段を下りた。シオンがすぐさまその後ろをついて歩く。

 途中、エッダとシオン(人)が連れ立って歩くのを、軍の人間だろうか、少し訝しげに見つめるのを背に受けながら、それでもシオンは黙ってエッダの後についていった。

 地下一階、広い廊下を進んで、途中にいた警備をしているのか、軍服をまとった男がエッダに手を振り、そして、後ろのシオンを見て、思わず眼をむいた。

 シオンに、探る様な眼を向けながら、エッダの耳元で何かを告げる。

 それに対して、エッダがニヤニヤしながらその男に耳打ちする。

 二人してこそこそ話しているのは気に入らない、が、と。シオンはそれを黙って見守った。もしかしたら、先程の意趣返しもあるのかもしれない。そう思うと、やる事が子供だ、なんて。少し微笑ましくも感じながら。

 二つ三つ、そういったやり取りを交わすと、エッダが手を振り、その男の前を通る。どうするべきかと、シオンが迷っていると、入り口の男が顎でふいっと先へ促した。

 口を聞くのも嫌なのか、その眼は他の魔人と同様の色を浮かべて。

 仕方がない、とはいえ、胸が詰まる様な苦しさに、シオンが思わず鳩尾の辺りを撫でて、ふと


( アイツと、歩いている時は、そんな風に感じることを、忘れてた、な・・・。 )


 そんな相手に、小うるさい、邪魔だ、仕事しろ、なんて悪態しかついてなかったのを思い出して、今更ながら申し訳ない気持ちになる。

 

( 帰ったら、少し、良い酒買って・・・。謝ろう、か・・・。 )


 そんなことを想いながら、振り返りもしないエッダの背中を追えば、


「ココ。」

「・・・・・?」

 広い空間に、門の様な物が立っていた。『コ』と言う字の向きを変えて。様々な管や電気線と繋げた巨大なそれの前に立って、エッダはにんまりと笑う。

「軍の、ファウスト様の写し身は、知ってる?」

「・・・翁の、写し、身。」

 そう言われて、田貫と班田の顔――と、いうか、仮面が浮かぶ。

「あの御業を、この機械に固定させて、機械化による他力操作。それが、この門だよ。」

「・・・・・。」

「全然わかんないって顔してるや。つまり、これを使えば、写し身のわざと一緒!『カルベラ』までも一瞬だよ!」

 少し馬鹿にした顔で、エッダが楽しそうに笑う。確かに、シオンはわからない。その仕組みも、やり方も。

 ただ、わかるのは、その人の魔力でしか、その魔族でしかできないことを、エッダは他者ができるようにしようとしたのだ、と。

 とてもすごいこと、凄いことだ。


 凄いこと、なんだけど―――怖いこと。


「コレを、翁は・・・」

「知らないよ、言ってない。」

「なんで・・・。」

「言ったら、どうだろうな、怒られるかな?」

「怒らない。」 

 シオンはすぐさま否定する。それだけは、わかる、と。

 ただ、


「多分、造り出した、その意味は、問うと、思う・・・。」

「は?ナニそれ?」

「・・・・・。」


 キョトンとして、その後すぐに。褒めてくれない認めてくれない事を、少し不機嫌そうに顔に出して睨んでくる姿に、シオンは苦しそうに顔をゆがめた。

 この門をみて、彼女が思い浮かべたのは、『火の雨』だ。

 過剰な力が誰にでも操れるようになった時、そこには必ず、歪みが生じる。そしてその歪みは大きくなり、再び血が血を洗う様な事態が、起こる。そして、そうならない様、と。翁達が必死で是正しようとしているのも知っている。


「わかった・・・。」

 先ほどとは違った、胸を圧迫するような感覚を飲み込んで。シオンは、少し無理やり笑った。

「行ってくる。そして『名物』買って、あと、コレの感想も教えるから。だから、話そうな?これの事も、たくさん、話そう。」

「仕方ないなぁ、話してやるよ。だからちゃんと買ってきてよ?」

 ニヤニヤと嬉しそうに話してくる様は、やはり、誰かに認められたい欲求が強い子供の様だ、と。シオンは眼を細めてエッダに頷いた。


 そうして、門の前に立つシオンに合図を送れば、歪む空間の先を見据えて、シオンが一瞬だけ気後れして、だけど、その一歩を踏み出す。


 そうして・・・

 

 消えたシオンの、面影を、エッダは少し冷めた目で見つめながら・・・


「・・・『アイファ』の裏で、アイツらが何してるか。現実を突き付けられて、どうにかなっちゃえばいいよ。」

 

 歪んだ笑みで見送って、エッダは、その場所を後にした。










「泣きてェ・・・。」

 すん、と。鼻をすすりながら。

 路地裏のすでに閉店した店先、階段下でシオンは膝を抱えていた。


 頼まれていた名物とやらは親爺たちへの土産も兼ねて多めに購入した。シオンを見て頬を染めた売り場の女性定員が二つもオマケをしてくれたから、素直に笑って感謝を告げたら、ぜひまた来て欲しい、と手を振ってくれたのを、同じように返す。

 一つ食べたかったけど、どうせならエッダと一緒に口にして、新鮮な感想を伝えたかったから我慢した。

 すぐさま元の場所に戻ったけど・・・


 帰りの『門』は空いていなかった。


 少し、待ってみたけれど、空く気配もなかったから、シオンはもう少し時間をつぶそうと、カルベラの街をゆっくりと歩く。

 ルミナスプェラの街と同じくらいに賑わう、人通りの多い路地をきょろきょろと見回しながら歩く。すれば、すぐに、様々な人――主に、女性から声をかけられる。

 それらをうまく交わしながら、シオンは頻繁に『門』が開いた場所へ戻る、が、それは一向に開く気配がない。


「・・・うそ、だろ?」

 ついには、とっぷりと日が暮れて。幸いなのは、外で過ごしても寒くはない気候である、ということ。

 ただ、それ以上に、持ち合わせた金銭は、それほど多くはなかった。

 ここからルミナスプェラまで、となると、流石に無理がある。


 一瞬、持ったばかりの携帯を思い出すが、


「・・・・・。」

 真っ先に浮かんだ顔は、きっと今頃急な仕事に追われているのは知っているから。とりあえず、親爺にだけは一報をしておく。電話越しの声は酷く驚いて、どうしてそうなったのかと色々と問い詰めてはきたが、うまく言えないから帰ったら話すとだけ誤魔化して、早々に切った。


 もう少しだけ、待ってみよう、と。ため息交じりに『門』の出現場所を睨み、階段下に腰かけていれば・・・



「・・・なん、だ?」

 夜の深い闇に紛れて何かが蠢いている。

 訓練された馬の、それでも僅かな嘶きが聞こえた。

 シオンがゆっくりと、気配を消して近付く。遠目、闇に紛れた人影は


( 男が、三人・・・、いや、四人・・・? )


 しっかりした足取りが三人分、それとは違う、おぼつかない、気配が、一つ。


 物陰を利用しながら、少しずつ闇に紛れて距離を詰める。

 壁に背を這わす。

 息を殺す。

 刀の束に手をかける。


 ギリギリと距離で、見止めた―――紅い眼に、ざわりと、背筋が戦慄く。


  ――― 飛び出した。


「誰――・・・っ、ぐは!?」

 地に這う様な動きで、屈強な男の懐に潜り込み、刀の峰で顎を打つ。大きな体がビクンと跳ねて、急所への一撃に、反撃すらもできずに、そのまま地に沈む。次いで、剣を抜いた男の、大ぶりな一撃を、交わし、そのまま、抜き打ちざまにその腹を打った。ぐっと腹をまげてうめく、その低く沈んだ顔の、鼻っ柱に膝を打った。

「がっ、あ・・・っ!」

 ぐらりと、あおむけに倒れる体を視界に捉えながら、もう一人、びくりと肩を震わして、突然の事に思わず立ち尽くす男の手を掴む。

「お、お前、は・・・」

 手を掴んだ男が、シオンの、その後ろへと眼を向けて


 嗤う。


「―――・・・っ!?」 

 瞬間、背後から裸の男がシオンへと伸し掛かった。

「な、にが・・・!」

「――・・・っ、は、はぁ・・・」

「おい!アンタ、捕まったんじゃ・・・」

 シオンが驚いて背後に意識を向けた隙に、手首を掴まれた男が――グレッタが、その手を振り払い、距離を取った。

 ただ、逃げる様子はなく、背後から男に伸し掛かられたシオンを見て、


「ああ、ちょうどいい・・・。」


 歪に、唇を吊り上げる。


「せっかくだから、道中のエサにしておきましょうか。」


「―――・・・っ、くそ!」


 思わず背後の男を引き剥がそうともがくけど、シオンよりも体格が良く、何より、かなりの力でしがみつくように、抱きしめてくる。どうしても振り払いきれず、そのままシオンは地面に押し倒されてしまう。

 すれば、グレッタが、その様を見下ろしなが、

「ほら、さっさと一度犯してしまいなさい。動けなくなったらそのまま馬車の中で貪ればいい・・・。」

「―――・・・ッ!?」

 あまりにも露骨な言い回しに、シオンが思わず眼を見開く。その先で、伸し掛かって来た男の、


 眼が・・・


( 魔族・・・魔人・・・!? )

 

 荒い息を吐きながら、潤んだその赤い眼がシオンを射貫く。

 仰向けに転がされたその身体の上に裸の体が伸し掛かれば、露骨なまでに示された欲情の証に、

「・・・く、そ!」

 シオンが逃げを打つ、が、押さえつけられたままの身体は少しも動かせない。


 不意に首筋に顔を埋められて

「―――・・・っ!」

 首筋を、ねっとりと舐められて、その嫌悪感に吐き気がこみあげてくる。

 局部が押し付けられた腰を、強く、押し付けられて。ぐっと服を掴む手が少しずつ強まり、引き千切ろうと、力が籠められる。


「くそ・・・!やめろ!おい!」

 振り絞る力ですら、抗えない事に、シオンが奥歯を噛み締める。

 どうすればいいかがわからない。


(い、やだ・・・。)


 不意に浮かぶ、自身で殺した男の手が目の前に迫る。下卑た笑みで、数人がかりで、自身を貪ろうとした、あの、手が・・・。


(いやだ・・・!)

 上手く、力が入らない。

 焦燥感。

 指先に痺れが走って



 それでも、抗うことだけは、止めない、で






 ただ、虚空を、手がひっかいた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ