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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season2

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紫黄水晶(アメトリン)3






 純粋なる魔人の少年。

 エッダ=グリフィス。

 

 ココに来る前に、エルカが教えてくれた。


「当初は、常時瞳が赤い、というので、クロウ=シキジマ大隊長の様に混血も考えられました。」


「ただ、彼のお姉さんを保護する際に彼も一緒に確認しましたが、やはり、彼は純粋な魔人です。魔力量が格段に多くて、コントロールが上手くできてないんです。」


「故に、今はファウスト様が直々に指導なさっています。まだ、わかりませんが、国としては、将来の軍の優良株、ですかね?まぁ、彼が人の国に尽くしてくれる、とは、思いませんが。」









 自分の家の前にいる二人を見て、なんとも、訝しげな表情を浮かべたエッダ少年。

 特に、軍服を着たクロウを見据えて、少し複雑な表情を浮かべ、顔を見上げれば、クロウの緋い眼に一瞬驚いた様な顔をするも、


「何だ・・・。アンタが噂の軍のマザリモノか。」

「・・・・・。」

 出会い頭にしては早々に不躾な眼と不遜な言葉で。魔人の少年がイビツな笑みを浮かべた。

「コントロールが下手くそな魔人種辺りかと思ったけど、それにしちゃ、魔力量はクソだな。本当に大隊長張れんの?」

「・・・口の減らねぇガキだなおい。」

「ごめんなさいねー、本当のこと言ってー。」

 十一、十二の年の頃というのは、こんなに斜に構えたものだったのか?と。

 スカした少年の様子に、クロウが舌打ち交じりに応じれば、それすらサラリと、受け流して。魔人の少年、エッダ=ファーレンが、特に態度を改める事もせずに、皮肉げな笑みを浮かべる。


 と、

 

 シオンが、二人の間に立つように、少し前へでる。エッダがシオンへと目を向ければ、

「げ!」

「・・・・・っ!」

 何かに気付いた様にシオンを指差して、その様に、シオンも思わず目を見開いた。

「あの時のイケメンじゃん!マジで!?わざわざこんなとこまで!?暇人かよ!」

「・・・・・。」

 蓮っ葉な物言いに、シオンも咄嗟に言葉を失う。

「そもそも、アンタ人だろ!?なんでこんなトコいんだよ!」

「・・・・・。」

 こちらに関してはもっともな台詞に、シオンが少し考え込んだ。


 なんと告げれば良いのだろうか、と。どうしても会いたかった。話を、聞いてみたかった。

 何も知らないまま、流される様に積み重ねた過去は、何一つ戻らない。

 だけど、これからの事は、知れば、動けば、変えられる、かもしれないから。そのためにも、まずは話をしたかったの、だ、と。


「俺、は・・・」

「あ、なになに?もしかして、そこのマザリモノ誑し込んで中に入り込んだの?そんなにオレに会いたかった、とか?」

「・・・・・。」

 ニヤニヤと笑う、スカした子供を前にして。

 先程も思った事ではあるが、と、十を少し越えただけの子供にまでそんなことを言われる事に、シオンは少し目眩を覚えた。

「・・・俺の周り、こんな奴ばっかりかよ。」

「男運、悪すぎなんじゃない?」

 さらりと応えた隣の男こそが、最たる証だと気付いて・・・。

 シオンが、冷めたような目で同意の視線をクロウに向ければ、

「・・・本当だな。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・いや、あの。・・・オレの方見んの、やめてくんない?」

「ああ、自覚あるのか。」

「・・・・・。」

「・・・自覚あるだけマシかぁ。」

「改善する気ないけどね。」

「自覚ありのヤバい奴じゃねぇか。」

「え?今更知った?」

「・・・あぁ、知ってたわ。」

 お互いにしか聞こえない様なやり取りで、シオンが思わず小さく笑えば、クロウが、酷く嬉しそうに目を細める。

 ナニがこんなしょうもないやり取りで、と呆れながらも、シオンの胸の奥に、光が灯った様な温かさが宿る。

 


「・・・なに二人でコソコソ乳繰り合ってんの?」

 不意に、我慢できなくなったのか。エッダの、どこか苛立ち気な眼がシオンに向けられる。それをシオンが涼しげに受け止めれば、挑発でも、するようにクロウがべーっと舌を出すから。

 ヒクリと、エッダが不穏な眼でシオンの顔を覗き込む。

「てか、なに?そこのマザリモノと仲いいの?アンタ、相当趣味悪いね。」

「・・・・・。」

「そんなヤツ選ばなくたって、男も女も他に選び放題だろうよ。その顔なら。」

「・・・・・。」

 鼻で笑う様に、あからさまな物言いにも、シオン特に怒ることもなくエッダを見る。その様が更に癇に触るのか、エッダが尊大な顔をして、

「男同士、そんなハマっちゃうほどのテクなりブツなりお持ちなんでしょうかね、そのマザリモノの大隊長様が。」

「・・・・・。」

「毛色の違うペット飼って喜んでんのかもしれないけど?そんなマザリモノ、側に置いといてもいいことない───」


「うるせぇよ、クソガキ。」 


 不意に、シオンが舌打ち交じりに、エッダを鋭く見据えた。その剣幕に、一瞬たじろぐように、エッダが息を飲み、なにより、クロウの方が、驚いた様にシオンを見た。


 その視線を受けて、尚、シオンは先程までの清聴の姿勢を覆して。子供と思っていても、聞き捨てならない事というのが、あるのだと、言うように、エッダを睨んだ。


「黙って聞いてりゃ耳障りな言葉グダグタ並べやがって・・・。」

 その、切れ長の無駄に色気が乗った眼をスッと細める。



「俺の大事な恋人オトコを、勝手な言葉で語るな。おこがましい。」

「───・・・っ!?」


 盛大に切った啖呵。

 エッダ少年が、目を白黒させて肩を強張らせる。

「はぁ!?なんで!?アンタ、人だろ!?なんで人がこんな半端モンに手ェ出してんだよ!」

「関係ねぇだろうが。さっきからなんでそんな下らねぇところにグチャグチャ絡むんだよ。」

「か、関係、ない、って・・・!」

「・・・あと、な?ソッチの言い方が凄ェ腹立つから教えてやる。亅

「な、なにを・・・」

「人は人でも、な?」

「・・・・・。」


「俺は、女の、ヒト。」

「・・・は?」


 ペロリと舌を出して、ニヤリと笑うシオンに。

 むしろそっちの方が衝撃的だったというように、エッダが一度止まって、

「はぁぁあああ!!?お、女ァ!!?」

 真っ赤になって、でも、再びエッダが、わけがわからないとばかりに絶叫すれば、その様子に、クロウが思わず吹き出し、そのまま肩を揺らして笑いだす。

「失礼だよねぇ、こーんな可愛い女の子捕まえて、さ?」

「んなわけねぇだろ!どっからどう見ても──」

「悪ィな、どっからどう見てもイケメンで。」

「・・・うわ、何か凄くハラタツ・・・!!」

 エッダが、ぐっと眉根を寄せてシオンを睨む。

 その視線を真っ直ぐに受け止めて、シオンは彼の目の前まで歩み寄る。

 そして、その視線を合わせるように、シオンはエッダの背に合わせるようにして、背屈み込んだ。


「・・・ま、でも、お前の言う通りだよ。」

「な、にがだよ!」

「頼んで、ココに連れて来てもらって、さ?何しに来たって、お前に会いに来たよ。」

「・・・・・っ。」

 シオンが素直にそう告げれば、エッダが少し息を飲んでは、何度か瞬きを繰り返す。

「お前があの商店でしてたのは、盗み。それは間違いない、けど・・・。」

「・・・・・。」

「ただ、それを突きつけて終わり、てのは、ちょっと違う様に感じた。」

 先ほどとは違う、優しい眼で。シオンが、エッダを見つめる。

「話をしたい。俺は、人だけど。魔人のお前とも、ちゃんと、話をしたいと思っている。」

「なに、言ってんの・・・?」

 ギラリと、エッダの眼が憎悪に歪む。

「何が話だよ。上から目線で施しを与えてやるとでも思っているつもりか?人風情が!気に食わねぇよ!」

「・・・・・。」

「人はいつだって偽る!謀る!裏切る!そんな奴と話なんかするつもりはねぇよ!」

「・・・・・。」

「中途半端野郎を手懐けたからって、オレも簡単に落ちるとか思ってんじゃ──・・・」

「さっきも言ったが・・・」

 エッダが感情任せに吐き出す言葉を黙って聞いていたシオンだったが、それでも、その時だけは、その言葉を遮る様に、決意を秘めた眼差しを向ける。

「大事なヒトを貶める様な言い方はしないでくれ。それに関しちゃ一片たりとも譲る気ねぇよ?」

「・・・ぐっ。」

 ただならぬ強さに、エッダが、結果として言われた通りに口を閉じる様になるのを、シオンは小さく笑った。歪みも僻みもない微笑に、今度こそ、エッダは、言いかけた悪態を噛み締める。

 存外、素直な性質タチなのかもしれない、と。シオンがエッダの髪に手を伸ばした。

「ただ、それ以外の話は、ちゃんと聞く。」

「・・・・・。」

 乱れた髪をそっと、耳に掛けてやる。奥歯を噛み締めながら立ち尽くすその姿に、少しでも、伝わる術がほしい。

「お前が、盗む理由も、人を嫌う理由も。ちゃんと、聞くから。」

「・・・・・。」

「ただ、お前の口から、聞きたい。」

「───・・・ッ!」

 息を飲む。

 息が詰まる。

 吹く風と共に、耳に届く声がやけに真摯な声色を帯びるのが嫌だとばかりに、エッダが大きく首を振る。

「なんだよ!人のクセに!大事だとか!なんで!」

「・・・・・。」

「どうせアンタも!いざという時はどうでもよくなるんだ。オレたちなんか、簡単に貶めて!」

「だから、お前がそう考える理由を知りたい。」

「人外戦争を知らないのか!?アンタ相当───」

「そうじゃねえよ、歴史とか、世界とか、そういうものじゃない。お前が見て、受けて、感じたこと。それを知りたい。亅

「・・・そ、んなこと、にっ!」

 なんの意味があるのか、と。問い質されてしまえば、何も言えない。だけど、

「過去は変えられない。人外戦争は起こって、人と人以外は袂を分ってしまった。それが世界の常識だとしても。」


「ココは、ルミナスプェラ、だろ?」


「ここにいる、なら、俺が、そうしたい。人外、じゃなくて」


  ─── エッダ・・・、お前を知りたい。


「───・・・ッ!」

 告げた名前が耳に届いて。エッダの瞳が大きく揺れる。息を飲む姿が、信用できない、人の、言葉に、耳を奪われらる。


 

 ただ・・・


「・・・あの、さ?」


 ソレ以上に、心がざわついた相手がいて。


 我慢できないとばかりに、伸びた手が、後ろから覆いかぶさる様にシオンを抱き締めた。

「うわ・・・っ!?」

 シオンが驚いた様に、思わず身体を強張らせる。同時に、その視線がエッダからクロウへとうつって。

 クロウが少し安堵するように、寄っていた眉根がふわりとゆるむのを、エッダが、遠目から見ていた。


「てめぇ!いい加減に───・・・」

「いい加減に、オレの目の前で他の男口説くの止めてくんない?」


   ─── なんか、本気で、キレそう・・・。


 思いの外、強い力。抱き締める、というよりも、しがみつかれているようで。シオンがわけがわからないと身動ぎする。

「なんでこれが口説くことになるんだよ!」

「何でもなにも、最高の口説き文句じゃん、それ。」

「子供相手にそんなことするか!」

「魔人の年齢、外見そのままじゃないことも多いから。」

「だ・だ・と・し・て・も!ちゃんと話したいって言ってるダケだろうが!」

 シオンが忌々し気にその身体を押しやるが、それでも回された腕は全く緩む気配がない。それが余計にシオンの怒りを煽って、思わず小さく悪態を吐けば、

「・・・お前が先に知るべき相手はオレじゃねぇの?」

「・・・・・。」

「言ってよ、オレにも。お前を知りたいって。そしたらもう、手取り足取り☓☓☓取り、カラダ全部でしっかりと教えてあげるのに。」

 酷く真面目ば響きはするのに、口にする言葉にナニかが混じった瞬間、シオンはすぐさま裏拳を繰り出す。

「いらねぇ!ふざけんな!てめぇ仕事中だろうが!邪魔すんなら帰れよ!」

 それも容易に受け止めて、それでも、やっぱり大まじめだとばかりに、クロウも段々とイライラを隠しきれない様に、受け止めた拳を強く握りしめた。

「・・・へぇ?そう?亅 


「てか、さっきから大切だとか、オレの大事な恋人とか色々言ってくれて、さ?もう、凄ェ浮足立つわムラムラするわで、正直、早くどっか連れ込みてぇとか思ってたのに・・・。」

「ホントに仕事しろてめぇは!!」

「・・・その後からどんどんどんどん、あのガキに熱い言葉投げかけてくれて、まぁ、ホント・・・。」


「ガキのこと知る前に。お前が誰のモンか思い知らせてやりたいわ・・・。」

「・・・・・。」


 本気でふてくされた様に、唇を尖らせる様に、この男をどうしてくれようか、と。シオンはため息を吐きながら思案する。ちらりとエッダへ眼を向ければ、目の前で始まった痴話喧嘩――に、しては少々荒々しいやり取りの経過を、子供らしからぬ腕組みをしながら見守っているときたもんだ、が、


 不意に、このタイミングで鳴り響く携帯の着信音。

 

 ひくりとクロウの米神が引き攣る。

 極悪なまでに不機嫌丸出し。

 盛大な舌打ち。エッダが、うわぁ、と少し引き気味にクロウを見上げた。

 片手で未だシオンを離さないまま、器用に携帯を操作する。


「・・・緊急かよ、クソジジイ。」

 すれば、エッダもシオンも、電話の相手を察してハッとする。

『随分だな小僧。これは中々よいタイミングでの通話、ということか。さては、いるな?』

「うるせぇ黙れとっとと要件だけ言え。」

『・・・本当にキサマは解り易くなったものだ。』

「で!?要!件!は!?」



『見張っていた或る男の動きが気になってな。張り付いてもらったら、三人程保護対象が確認できた。』

「・・・・・。」

 魔族の長ともいえる電話越しの相手に容赦なく吐き捨てる姿に、関係ない事柄であっても、若干ハラハラした様子で見守っていたシオンの、その目の前で、クロウが仕事の顔へと変化する。

 


『対象のの様子から、リミットは二十四時間程度だろう。正直、奴隷化か兵器化か判断はできない。が、どちらにせよ、近く売買のタイミングだと見越している。』

 時計を見れば、昼を少し回ったばかりだ。クロウは少し考えながら、

「了解。三時間以内に準備するわ。このままハルとリリにも連絡しとく。」

『扉は準備しておこう。』

「どこまでいける?」

『ポイント距離十キロ手前、というところだろう。』  

「売買タイミングの明確な時間は出てんの?可能なら双方ぶっ叩きたいんだけど。」

『正直、まだわからぬな。』

「んじゃ、場合によっては張る必要もあるってわけね。」

『そこは相すまぬ。』

「いい、それはこっちの仕事。取り合えず、詳細はそっち戻ってからで。」


 そうして通話が切れた携帯を押し込み・・・。

 抱き締めた腕を一度強くして、そのまま首筋に顔を埋める様に深い深いため息を吐いた。


「・・・お前が仕事しろ仕事しろって連呼するから。残業どころか日付跨ぎそうな案件来ちゃったじゃん。」

「人のせいにすんじゃねぇ。労働は偉大だ。働けクソッタレが。」

「・・・お前。帰ってきたら説教案件だかんな。優しくしてもらえると思うなよ?ベッドの上で。」

「それ以前にこっちの敷居、跨げると思うんじゃねぇぞてめェは。」

「・・・・・。・・・それは、酷くない?」

「知るか。」

「・・・・・。」


 半泣きで鼻を啜るクロウが、もう一度、だけ、と強く抱きしめて。

「いい?たぬぱんが来るまでは知らない人について行かないコト。サナトリウムにいて?そこのスタッフには連絡しとくから。これ以上はここで動き回るのは厳禁。目の前の餓鬼にたぶらかされちゃ、絶対ダメだよ?」

「・・・子供か。」

 かっくりと肩を落として、でも離れていく腕を少しだけさみしいとか思うのを気付かないふりをした。振り向きもせずに、手で追い払うような仕草でごまかして、遠ざかる気配を追うことを、シオンはやめる。


「・・・・・。」

 離れ際に、一度、クロウの強い牽制の視線に、エッダは臆するように、一歩後退りそうになるのを、堪える。 

 どうにも魔力は混血だけあって少なく、純潔の魔人とは比べるまでもない。それでも、どうにも視線一つで威圧する力は、死地を潜り抜けてきたものしか持ちえない力なのだろう。

 マザリモノなんかに・・・と、エッダが小さく喉の奥で唸れば、


「・・・・・・。」  

 不意に、口元を隠して、嗤う。

 いい事を思いついたとばかりに。

「アンタが、オレと話をしたいというのなら・・・」

「―――・・・っ!」



 条件がある、と。



 そう言って、シオンを見上げる紅い眼。


「条、件・・・?」

「一つ、頼みがあるんだ。」 

 そう言って不意にしおらしく肩を落として見せるエッダの、隠れた、暗鬱とした感情を、シオンは気付きながらも、拒むことは、できなかった。






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