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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season2

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51/75

曹灰針石(ブルーペクトライト)──日常、一つ。





「あ。」

「よ。」


 1週間程前に商店街でやらかした二人が、また、商店街でガッツリかち合う。

 前回それに遭遇した外野が数人、たまたまその場に居合わせて、再び乱闘かとチラリと視線を送る中、

「何、買い物?」

「味噌と酒が切れた。後、親爺のところの頼まれ物な。」

「そういや、新しい人入れたんだって?」

「ああ。あの手で親爺が一人で台所は厳しいからな。」

「お前が厨房入るのかと思ってた。」 

「毎日店に入れねぇよ。突発的に別の仕事もあるし。」

「あ、そっかそっか。なるほどね。」

「でも、メルリーナは、料理がうまいし愛想もいいから安心して任せられる。」

「元々の常連さんだっけ?」

「まぁな。子持ちの、あの、『ラディアン』での件の人だよ。」

「あぁ・・・。」

 当の二人は、何でもないように、立ち話にふける。その様に、毒気を抜かれたように、人々が立ち去る中、

「珍しいな、こんな時間に。」

 未だに日が高い中で、出会でくわしたことに、シオンが首を傾げる。

 シオンが言う通り、まだ平日日中と呼べる時間で隊を率いる立場のクロウが、単独で街中をうろつくと言うのは殆ど有り得ない。

 すれば、クロウは、至極当たり前の様に、へらりと笑う。

「半休とってんの。や、丁度良かった。」

「ん?」

「おまえんち、書類忘れた。」

「は?」

 思わず、シオンが目を見張る。同時に、そんなものが我が家にあったのか、と思案するが、思い当たるものは見覚えがない。

「いや、棚の上にこっそりと、ね。機密でもなんでも、ないんだけど、提出期限、明日なんだわ。」

「阿呆かよ。」

 呆れたような顔をしてシオンが一つため息を吐く。すればクロウが、

「お前と呑みながらさ、寝落ちしたスキとかにちょいちょい進めてた程度の物なんだけど?気付いたら明日だ、とか、やべ書類そっちだ、とか、ねぇ。」

「・・・だからの、半休かよ。」

「ま、そういうこと。」

「仕方ねぇなぁ・・・。」

 ため息交じり、シオンが、ついて来いと言わんばかりに、先導すれば、シオンの手からさりげなく荷物を奪っては、

「悪ィねぇ。」 

 形ばかりの謝罪だけ漏らして、でも、何処か嬉々とした様子で。クロウがその背に続いた。









 商店街から、他愛のない話をしながら、歩を進めて。親爺の店の前まで来れば、軒先を掃き掃除をしていたメルリーナと出会った。

「ああ、シオンさん。こんにちは。」

「メルリーナ、今日も悪いな。」

 シオンがそういえば、メルリーナは柔らかい笑みで応えた。


 メルリーナ=ミシェル。

 茶髪碧眼の、穏やかで素朴な雰囲気を持つ、美しい女性だ。

 出勤には早い時間だが、時折こうして彼女は、店周りの掃除や、普段目が届かないような場所の整理など気配ってくれる。そういった配慮にまで目が届かないシオンや片腕が不自由な親爺、こと、サカザキにはもはやありがたい存在だ。


「・・・そちら、は。」

 と、メルリーナの手が止まり、視線がクロウへと向いた。少しだけその視線が泳ぐ。なんとなくその正体にも察しがついているのだろう。

 元々、クロウは目立つ。

 人には有り得ない眼と髪の色彩、その風貌を逆手に取って、圧を強く、軍としての威圧と畏怖を追うような事も多々あるから・・・。

 そもそも、知人と歩いて、声をかけられる、なんて状況に陥ることが、今までなかった。ゆえに、こういう時に、正直、どうすればいいかよく分からなくて、


「あー・・・。」

 メルリーナから、視線を離して、クロウが誤魔化すように髪をかきながら、シオンに耳打ちする。

「・・・悪い、オレ先に───」

「コイツ、知ってる?」

 不意に、シオンが親指で背後のクロウを指さす。すれば、一瞬、動きが止まるクロウと、同様に、メルリーナが目を見開く。

「え?あ・・・。ええ、まぁ。軍の、第四大隊長、様・・・。」

「てか、俺のサシ飲み相手。」

「へ?」

「え?」

 二人が同時にキョトンと、した顔をした。シオンが、特に意に返さず、メルリーナに紹介するように、クロウの背をとんと叩く。

「酒強くてさ?いっつも、俺が先に潰れてんだよね。多分、店にもよく来ると思うから、さ?よろしく頼むよ。」

 そう言って屈託なくシオンが笑えば、メルリーナは、シオンとクロウを交互に見比べながら。

 少しの間の後、小さく頷いた。


「ええ・・・。そう、そうね、シオンさんのお友達ね。わかったわ。」

「あ、いや・・・。」

 不意に、メルリーナの視線が和らぐ。あまり向けられたことのない視線を受けて、クロウが僅かにたじろいだ。

「よろしくお願いしますね、えーと、確か、シキジマ、様。でしたよね。」

「・・・え、あ、はい。どうも。」

「シキジマ様、だって。似合わねぇの。」

「え?ソコ、ツッコむ!?」

 慣れない様を揶揄するシオンに、クロウが思わず目をむければ、シオンは彼の隣で愉しそうに笑ってみせた。


 その笑顔は、ずっとずっと、欲しかったもの。


 その様に、クロウがら思わず眩しそうに眼を細めた。



 その肩を抱き寄せて、耳元に唇を落とす。





「・・・あの、さ?」


   ── 彼氏って紹介は、してくれないの?

  




「・・・え!?」

 思わず、箒を取り落とすやいなや、破顔して口元を押さえたメルリーナと、

「───・・・ ッ!」

 瞬間、沸騰湯沸器。真っ赤になったシオンがその鼻っ柱に、思いっきり拳を叩き込むから・・・。


「死ね!」

「いっだぁっ!!」


 

 掃除したばかりの軒先に鼻血をまき散らかす事になって・・・。

 慌ててちり紙を持ってきたメルリーナに、二人して、頭を下げた。


 








 メルリーナと別れて、率先して階段を上がっていくシオンを後ろから眺めながら。クロウは上着のポケットに、手を突っ込みながらその後に、ゆっくりと、続く。

「だって・・・そこは知っといてもらってもよくない?」

「・・・・・。」

「いや、今度親爺さんには、きちんと挨拶に行くけどさ・・・。」

「・・・行かなくてもいい。」

「それはダメでしょ。」

「ダメじゃねぇ、ダメなのはテメーの頭の中だ。」

 淡々と、感情の乗らないに声色に、人前で触れるのを極端に嫌がるシオンに、流石にまずかったか、とクロウは少し肩を落とす。と、同時に、少しだけ、

「・・・そんなに、怒らなくても。」

 小さく本音をこぼせば、


「べ、つに・・・。」

 少し揺らいだ声に、クロウが顔を上げる。

「怒ってる、わけ、じゃ、ない。」

「・・・あ。」 

 ふと、背後から覗くシオンの耳が仄かに赤いのが見えて。

 足を止めたクロウが、ぐっと、息を飲む。


 そのまま、階段を先導していたシオンを通り越して、その手を引いた。早急に玄関に飛び込む。 


 室内に入るや否やクロウがくるりと向きを変えれば、その腕を更に強く引いて、シオンの体を正面から受け止めた。


「・・・っ、んっ!」 

 そのまま顎を取って、唇へ噛み付くようなキスをする。

 少しだけ、と。

 僅かに開いた口内から舌を押しこんで、一瞬だけ舌を絡める。

 掌を頬に添えて、滑るように、そのまま後頭部へと這い、髪を撫でた。

 もう一方の手がしっかりと腰を抱き、隙間なく体を寄せて、触れ合う。

「はぁ・・・っ。」

 唇を離せば、それほど長くはないキスにも、溺れる様にシオンが大きく口呼吸を、する。その様を可愛らしいと、頬を緩めて、その唇をべろりと舐めれば

「い、ぬかよ・・・っ!」

 真っ赤になって顔を背けたシオンが、肩を押すようにして、思わず距離をとった。

 濡れた唇を拭うように自身の手の甲を口に当てれば、

「・・・そういや、『待て』もできない駄犬って言われたねぇ。」

 ふと、こういう関係になる切っ掛けの日に、触れ合ったり、はぁはぁしたり、我慢ができなかったり同様に蹴られたり。悪態混じりに色々されたコトを思い出して、クロウは赤くなればいいのか青くなれば、いいのかと、思わず吹き出す。

 そのまま、ぺろりと自身の唇にも舌を這わせて、クロウの緋い目が、シオンを見上げた。

 そのまま、シオンの体をいとも簡単に抱え上げて、

「お、い・・・!」

「『待て』できないんで。駄犬ですから。」

 制止の声もスルーして、シオンを抱えたままクロウが室内を、勝手知ったるばかりに奥へと歩いていく。

 心持ち忙しない動きなのは、逸る気持ちゆえ、か・・・。書類仕事と言う名目でついてきたくせに、そういう気がサラサラなさそうな相手に思わずその白銀の頭をパシリと叩いた。

「書類が先、だろ?」

「そんな、急がないんで。ほぼできてるし。」

「明日提出、なんだろ?」

「夕方までに出せばいいし。」

「阿呆、見る方だって仕事中に、確認したいだろ・・・?」

 

 いつもの居間へと、たどり着く。

 クロウがその定位置へと、シオンを下ろして。

 背後の壁に、とんと手を付いては、ちょっと余裕がなさ気なその、緋い目。

 シオンが不思議そうな顔をして見つめれば、クロウがゴクリと、生唾を飲み込んで・・・


「・・・オレ、勃っちゃったんで。」

「・・・・・。」

 

 まだ、燦々と日が差し込む室内で、とんでもないコトを口にした。 


「はぁ!?」

「ちょっと!ちょっとだけだから!」

 瞬間、立ち上がろうとしたシオンと、その両手を掴んで押し倒そうとする、クロウ。

 世にも残念なせめぎ合いが始まる。

「昼間っから何考えてんだ!ふざけんな!」

「道中ずっと我慢してたの!凄ェ頑張ってたの!路地裏引っ張りこまなかったダケ褒めてよ!」

「発情期迎えた犬か、テメーは!!」

「ちゅーしたら、もう、ダメ!ダメだった!」

「知るか!自業自得だアホ犬!駄犬!」

「アホでも駄犬でいい!触りたい!触らせて!触るだけだから!」

「ど、こ、触るって・・・!」 

「・・・あァ?」

 無駄に強い力を、腹立たしいとばかりに口にすれば、よりギラついた緋い眼に射抜かれて、シオンが小さく息を飲む。


「触らせてくれんなら、どこもかしこもに決まってんだろうが。」

「・・・・・。」


 さっきまでの飄々とした様が信じられないほど、切羽詰まった様子で、クロウの押さえ込む力が更に、増す。シオンの身体が、床へと沈んでいく。

 

 それでも・・・


 すん、と座った眼で興奮の気味の犬を一瞥し、もぞりと、足を振り上げる。




「一旦、死んどけ駄犬。」


「ちょ!?待って!!今それされたら───」



 容赦無く、慈悲もなく。


 まるで慣れた行為の如く、シオンの足がクロウの股間を蹴り上げる。瞬間、無言の絶叫を経て、クロウの身体がびくんっと大きく跳ねた。

 そのまま、這い出たシオンを引き止めることも出来ずに、ふるふる、震えてうずくまる。


「こ、このままだと不能になる・・・。いつか絶対勃たなくなる・・・。」

「いいんじゃねぇか?それでも。」

「そ、そうなったら、絶対後悔すんのおまえだからな!」

「・・・するかバカ。」


 めそめそと、情けない泣き言をぶつぶつ呟きながら丸まって震えるクロウを、ハァッと、ため息一つシオンが見下ろした。


 建国祭の、後の事件を経て、大凡、関係性としては恋人にも近い中になったと言うのに・・・。


 二人のやり取りは、まるで変わっていなかった。悪態もつくし喧嘩もする。かと思えば、街中で会えば雑談もする、呑みながらであれば猥談もある。  

 勿論、触れ合いは多くなったし、人目もなければ、それなりの事はしてる。してる、が、 


(まぁ、本気出されたら、コッチも止められないんだけど、な・・・。)

 

 こんなナリをしていても、自身が女性でしかないことを、シオンは誰よりも自覚はしている。男女の力の差というものは、本気で攻められれば、抵抗すら無意味になることを。

 故に、あんな風に半ば無理矢理押し倒そうとするような行為に至っても、クロウは、最後の一線を無理矢理越えるような事は決してなかった。

 一度目の当たりにした、シオンが複数の欲に晒された出来事は、彼にとっても衝撃が大きかったのかもしれない。

 それでも時折我慢ならないような、戯れの様なやり取りはするものの、二人が本格的な行為に及ぶような事は、未だに、無かった。どころか、対面で裸を晒すことすら、未だならず、だ。

 それに関しては酒の力もかりつつ、遠回しにシオンが尋ねたところ、クロウ曰く、『瞬間、絶対理性吹き飛ぶ。』と、真っ赤になって、うつむかれた事があり、それ以来、聞くのも考えるのも、やめておいた。

 何にせよ、彼自身の中でも、大事過ぎて、距離を計り兼ねている、というのも事実だろう。


 シオン自身も、相手に我慢させている、という、思いはあるものの、自身の過去故に、突発的にどうなるかはわからない。

 何よりその時の無様な様はもう二度と見せたくはない。 

 クロウに触れられることに嫌悪はない。だけど、行為への嫌悪が突発的に沸き立つ。本心ではないのに、衝動的に、クロウを拒む可能性になることが、怖い。

 その結果、もう二度とあの温もりが手に入らなかったら、触れてくれる事がなかったら、どうしようかと、それを恐れる程には、クロウに特別な情があるのだ。


 ならば、お互いの為にも、もう少し、この生温いままで。お互いよい年なのは、百も承知。それでもマトモな恋愛なんて経験したことないし、そんな事を楽しむような時代ではなかった。硝煙と血に塗れて生きるか死ぬか、奪うか奪われるかの、世界で生きてきたから。

 ようやくこうして大切な者を見つけて抱きしめていられるというのなら、大人の関係、なんて到底言えないような青臭い関係でも、別によいのではないかと。


 シオンは、そう思っていた。


 まぁ、向こうは、知らないけど・・・



「あーあ、せっかく勃ってたのに・・・」

「え?なに?ふみつぶされたいって?」

「・・・なんでもないでーす。」

 うずくまったまま、深く深くため息を吐いて、クロウがぺったりと床に頬をくっつける。

 その隣にしゃがみ込んで、シオンがクロウの頬を突っつく。

「書類、するんじゃねぇの?」

「えー・・・。」

「えー、じゃねぇだろ・・・。」

「ヤル気がなくなった。」

「・・・・・。」

 まるで宿題をやらない理由を探す子供だ。シオンが呆れた様にもう一つため息を吐く。普段の仕事量がそれなりに多く大変なのは知っているが、だからと言って、今すべきコトをしなくていい、わけでは、ない。

「ちゃんと出来る子だろ、な?」

「・・・え?ナニ、それ。子供扱い?」

「もし、ちゃーんと終わったら・・・」

「え!?ナニ!?ご、ご褒美・・・!?」

 強制的に鎮静化された熱が思わずぶり返しそうになってクロウが思わず上体を起こせば、およそ、子供にはほど遠い・・・


「『●樂』純米大吟醸極上×割。」


 大人のご褒美に、クロウが思わず目を剥く。


「は!?なんでそんな高くてイイ酒あんの!?」

 当然なほど当然な疑問に、僅かにシオンが肩を落としつつも、先日の暴風雨の様な乙女の存在を思い出す。

「・・・テメーの、上司が、な?」

 瞬間、誰を指しているか思い当たったクロウが、引き攣った顔をする。

「・・・え?アレ?まさか、きたの?」

「・・・やっぱテメーの差し金か」

「は!?違う!違うよ!断じて!ホント!」 「・・・テメーの紹介で来たっつってたぜ?あんな遠慮も容赦もなくズバズバと言いたいこと吠えやがってあの・・・。」

「・・・・・。」

「クソアマ・・・!」

「・・・・・。」

 その、容姿のこともあってか、飲み屋街で女性に接する事も多い為か。シオンが女性を悪く言うことは殆どない。

 その、シオン、が。

 シオンが、だ。


 『クソアマ』と・・・。


(わぁ・・・。)


 一体どんな羞恥プレイを強要させられたのか、それはそれで非常に気になるし、あわよくば見たかったと思うところでもある。

 ある、が・・・。

 それを追求したら、もはやもう、へそを曲げたシオンが絶対に、うんともすんとも言わない方向になる。なるに、違いない。


「まぁ、もういい・・・。」

 小さく舌打ちして、自ら過去を掘り起こすのは止めつつ、そんな思いをしてまで手に入れた高級感溢れる酒瓶720ミリリットルをスッと撫でる。

 そして、

「どうする?」

「あー・・・。」

 ニヤリと、笑うその、笑みは、可愛らしいというよりも、男前で。

 そこまでされては、流石に終わらさないわけには、いかない。

 てか、昼間から盛るのはダメでも、昼間から呑むのは大いにアリなのか、と。嬉々として二人分のお猪口と、簡単なツマミがないかと冷蔵庫を覗き込む姿に、思わず笑みが零れる。

 ゆっくりと立ち上がって、自身の視線よりも高い棚の上に、こっそりと隠しておいたファイルを取り出す。

 ある程度は完成しているのを確認して、卓袱台の上におけば、内ポケットからボールペンだけ取り出し、上着を脱いで腰を下ろした。軽く丸めて側に置き、シャツの袖をまくり上げた。


 邪魔しないように、と、シオンが、台所へ消えたのを見止めながら、



 この後の美味しい楽しみの為に、と。



 クロウは広げた書類に、ペンを走らせた。

 


 





 読んでくださって、ありがとうございます。

 酒ばっか飲んでるのは誰よりも私が酒ばっか飲んでるからでしょうか。


 某上司突事件は、また後日アップ予定です。内容が酷ければnoxになるかもですが・・・。

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