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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season1

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EP.8:藍方石(アウイナイト)⑩


 




「「ボス・・・ッ!」」

「───・・・ッ!」

 二人の声よりも、僅かに早く振り下ろされた斬撃を、クロウは振り上げた刀で受ける。同時に展開した魔力操作で刃に纏わせた風力が下から吹き上げるようにしてクロウの小烏丸の剣速を上げる、けど。

「・・・・・っ!」

 吹き飛ばす直前に、リュウシンの体が羽のように軽く飛び去り、その分、クロウの刀が大振りになり、空を裂く。

 そのまま、クロウとの間合いをとったリュウシンは、少し目を細めて、忌々しげに見返すクロウを見下ろす。

 遠の昔最盛期を超えたはずの老体は、それでも、未だに続けられる鍛錬と狂気の果て、しなやかな柳の様に、クロウの刀を受け流していた。受け流しては、いた、が・・・。

「ふぅむ。厄介だな、貴様の魔力は・・・。」

それでも、自身の強みである速度が、その風のような魔力によって、この身に届く。ただ、それを、リュウシンは愉しげに唇をつり上げて、笑った。


 また、クロウもクロウとて・・・ 

「ふざけやがって・・・。」

 こちらはもはや、笑うしかないと言う風に、引き攣った笑みを浮かべた。

「早すぎて・・・」

「間に合わないよ!」

 田貫と班田が珍しく焦ったように別々に叫ぶ。それをクロウが軽く首を振って

「元々隔離と足止めだからね、あのクソジジイの。」

「・・・ボス、頭冷えてる?」

「ま、ぶち殺したいのは本音だけど?」

 田貫が訝しげにこちらを見上げる。クロウは、ぺろりと、一度唇を舐めて、

「アレが前線で、猛威を振るわれたら、分刻みで死人が増える。分離して足止めできてりゃ、まずは

十分。基本戦略が変わらないよ、大丈夫。」

 それに、と。クロウが僅かに視線を遠くへと向ける。

 瞬間、リュウシンが間合いを詰めようとするを、礫の如く降り注ぐ石の弾丸が、その歩みを防いだ。

「ありがたいわ、少しの油断を作る余裕があるのって。」

「でも、一歩間違えば・・・。」

「地獄への、片道切符!」

「地獄かよ!でも、そんなヘマしないでしょ?」

   ─── 悪魔皇の写し身は・・・? 


 自らの誇りとなるその存在理由に、田貫と班田が僅かに胸を張る。


「「無論!!」」

「いいね、なら、もうしばらく時間稼ぎと行こうか。そうすれば、きっと───・・・」

(きっと・・・。)


 本当、なら・・・。


 今すぐこんな場所放棄して、何処かしこもしらみ潰しで、自身の手であの子を見つけて抱き締めて取り戻したいのを、必死で抑え込む。

「いいのか?」

「あぁ?」

 目の前のリュウシンが、ナニかを見透かしたように、含み笑いで挑発してくる。

「アルベルト殿の執着は凄まじいぞ?いくら将軍の娘とて、自らの信念のためなら簡単に踏み躙る。」

「それならそれで、あのアマぶっ殺すだけだよ。今はアンタと遊ぶのが先。」

「・・・気付いて、いたのか?」

 僅かに、リュウシンが驚いたように目を見開く。オブシディアンの従者、アルベルト=ルデラックは、女性であること。


「気付くだろ?流石にアソコまで露骨なら。」

 クロウが小さく笑った。


 兄の従者。『シオンが恐怖する』程の、傾倒。エリザベッタが見たシオンへの仕打ち。


 リュウシンも、アルベルトも、同じだ。

 自らを滅ぼすほどの、愛。

 それ故の、狂気の持ち主。

 二人の共通点。


「なら、尚更急いだ方がいいぞ?」

「あ?」

 リュウシンは、先程よりも、さらに愉しそうに、唇を吊り上げる。

「『オブシディアンの血』と『東方種の純血』その果てに、セレン様は、蘇る。」

「はぁ?」

「アルベルト殿がよく呟いていた言葉よ。何の意味かと、思ったが、くくく、あまり、よい趣味とは思えんが、なぁ・・・。」

「クソジジイ・・・ナニが言いたい。」

「わからんか?」



  ── あやつはオブシディアンの姫に東方種の純血の子種を注がせて孕ませ、想い人を産ませようとしておるのだよ。



「・・・・・。」

「「───・・・ひッ」」

 リュウシンが、告げた、アルベルトの計画の悍ましさに、田貫と班田が、小さく悲鳴を上げ・・・


「・・・ナニ、ソレ?」


 表情が、消えたクロウが、小さく、呟いた。





















「・・・お、まえ。」

 荒廃した王城の、戴冠の間で。

 その地に転がされたまま、告げられたアルベルトの狂気じみた計画に、シオンは体を強張らせたまま、動けなかった。

 心酔し、仕え、支え続けたその先に待っていた、破滅と破壊、慟哭。そして、生まれた、狂気と凶行。

 ひび割れ砕け散ろうとしている己を、アルベルトはセレンへの献身だけで繋ぎ止めているように見える。

 ただ・・・


「・・・・・。」


 シオン(自分)を生贄に、して。


 そこまでの思考に堕ちたアルベルトから、思わず一つ、二つ、シオンが、膝をついたまま、後退りする。ドクドク激しすぎる鼓動に、うまく息が吸えなくて、酸欠ゆえに、か、指先に僅かな痺れを感じて、思わず床をひっかく。

 そんなシオンに、容赦無く近付いて、アルベルトはニコリと笑った。

「貴女様の献身でセレン様が蘇る・・・。」

「そ、んな、わけ!」

「ねぇ?最高でしょ?その身体からセレン様を産み出すことができる。これに気付いた時には、なんと感動したことか!」

「ふ、ざけ・・・ッ!」

 反論を許さないようにその頬を打たれ、シオンが思わず横殴りに倒れ込む。

「すぐに迎えに行こうと思ったのですよ?だけど貴女にしっかりと張り付いていた、あの女・・・!」

 アルベルトが忌々し気に舌打ちしたのは、戦時中不安定なシオンを支え続けていたある女性。

「なんなら、貴女の決意の『タシ』になるかと思った『弱い』男達も、すべからく排除するなんて。おかげで、こんなにも時間がかかってしまった・・・!」

「・・・・・ッ」

「ねぇ?お嬢様?」

   ――― 戦争中は、『タノシカッタ』でしょう?


 不意に、思い起こされる。

 幼い自分の定めた四ツ名の誓い。


 戦争に参加したばかりの初期の頃。


 そう宣言したのは自分だろう、と。ならば彼らを救ってみればよいのでは?と。

 嘲笑うように、身に付けていた衣服を剥ぎ取られて、彼等の前に身体を押された。迫りくる手と手に、捕まえられて押さえつけられて、引き倒されていく様をあの人は愉しそうに見ていた。

 それでも必死で逃げてきた自分に、その献身を、誓ったのは自分でしょうに、と。冷ややかに言い放ったあの人は、むしろ舌打ち交じりに離れていった・。


 何度か繰り返されて、だけど、この人の手を離したら、本当に、一人になってしまいそうで、どうしても怖くて、あとを追う。

 まるで、刷り込みされた小鳥が、獣を親と勘違いし続けるように。


「・・・・・。」

(ああ、でも、多分、俺は、わかっていた・・・。)


 当の昔にわかっていた、と。

 わからないふりをして、真実から、自分は逃げていたのだということを。


 共に生き残ったアルベルトは自分を、酷く、憎んでいた。


 この厳しい態度も、何もかもなくした世界でも強く生きられる様にするため。何度も誓いを押し付けたのは、心ろ支えにして生きていけるようにするため。

 馬鹿みたいに繰り返し嘯いて、貴女のためにだという偽りを盲目的に信じていた。もうこの人しかいないと思って、ただ、強すぎる怒りと憎しみと狂気を、ぶつけられていたことすら信じずに、それを受け入れて生きていた、情けない生き様。


(俺は、もう・・・。)


 一粒だけ、その頬に涙が伝う。黒曜石の様な瞳は、何かを写すことはなく、ただ、呆然と、自身が信じていた信念を踏み付け、利用しながら、それを良しとし続けていた自分にどうしようもなく嫌悪が募る。

 そんな、壊れかけようとしていたシオンを、見つめながら

「あァ・・・。」

 熱いため息を一つ吐き出して

「『セリアン=アストラリア=コウ=オブシディアン』、私の、私だけの、セレン様。」


「その、四ツ名の誓いは『我が弟と妹の未来の為に』。」


「フフフ、貴女の妹が、今再びあなたを蘇らせる為に、その身を、捧げます。」


「・・・・・。」


(もう、俺なんか、いっそ・・・)




  『 またそういうこと言ってる・・・。 』



「───・・・っ!」

 ゆらり、と。

 何も移さなかった黒い瞳に、白い光が灯る。


 

  『 相変わらず困った子だね。 』


  『 でも、頑張ったんだ・・・。 』


  『 疲れたでしょ?ここ、他に任せてオレと先に帰ろう。 』



 聞こえないハズの、声が、聞こえる。この胸に、響く。


 苦しくて、息もできないこの場所で、何よりも恐ろしい刃を突きつけられて。ああ、それでも、汚れに汚れていた自分を、抱き締めて抱き上げて、泣いてくれた、その姿を思い出す。


 二人してくっついたまま浴室でシャワーに打たれて。しがみついていたその銀髪が洗われる犬の様にしぼんだのを見て笑った。理由を尋ねてきた赤い眼が柔らかく笑うけど、自分の言葉に、少し眉根を寄せて、ああ、なんて温かいんだろうと感じてしまった。

 その癖に、ぐちゃぐちゃになった感情も擦り切れるほど吐き出してしまった吐物も。涼しい顔をして何もかも受け止めて見せる男が不意に腹立たしくなって、感情のままぶつければ、受け止めるどころか挑発するように唇を歪めて、嗤って、何かと思えば泣きながら『離すものか。』と喚いて見せて。

 

(ああ、クソッ・・・!)


 多分、待ってる。

 アイツが、待ってる。 


「・・・・・ッ!」

 奥歯を、噛みしめた、両手を突っ張るようにしてシオンが上体を起こした。血の混じった唾を吐き出しては、その唇を、汚れた手の甲で拭う。


(もう・・・。)

 再び涙が、零れ、溢れる。今度はがらんどうの眼からあふれたものではない、きちんとした感情が埋め込まれた涙だ。もうどうせなら流れてしまえと、いっそすがすがしい気持ちで声には出さずに泣きはらす。

 多分、もう、アルベルトは、止まらない。滲むような努力で、兄の横に立ち続けたアルベルトは、もう、壊れてしまった。今も昔も変わらない、態度の、それでも、彼女は完全に壊れてしまった。『人災』のアルベルト=ルデラック、それが今の彼女であること。

 それを選んだのが彼女であること。


(俺の言葉は、きっと、届かない・・・。)


(でも・・・)


「馬鹿だ・・・。」

 涙と共に零れた言葉が、土埃に塗れて、落ちる。それでもシオンは、ゆっくりと、膝立ちに、状態を起こした。そんな彼女を、アルベルトが壊れたままの目で眺めている。

「・・・・・。」

「馬鹿だよ、アルベルト。こんなこと、俺だって、わかる。」

 

「こんなことをしたって、兄様は、もう戻らないじゃないか・・・」

「―――・・・っ!」

 一瞬、引きつるような、怒りの造形に、その顔を歪ませて。アルベルトがシオンを睨みつけた。空気が凍て付くようその怒りにさらされながら、それでもシオンは立ち上がった。

「セレン兄様・・・。『我が妹と弟の、未来の為にこの身を捧げる』。」

「・・・・・。」

「誰も彼も、歪んでいく、世界の中で・・・。」


「人と、人以外の戦争を、止めようとしていたのは、・・・兄様だっただろ?」

「・・・・・ッ!」

 そうだ、そうだった、と。シオンは思い出す。世界が急速に人以外を抑えつけ、地に置き、支配しようと動き出した空気をいち早く懸念していたのはセリアンであった。

 元々あった人の宗教の中で、『人外はマガイモノだ』と。ゆえに『人に支配されるべきだ』と。これが真実だと歪ませられて伝え広がるその言葉を、必死に打ち払って、人と人以外が手を取るべきだと主張し尽力し、そうした先に


 魔人奴隷に、殺された。


 その一報を聞いて駆け付けたシオンともう一人の兄は、もう動かない兄の体に縋りついて泣き喚くアルベルトと、無言で奥歯を噛みしめ、刀を握る父親の無念の姿に、何も言えずにただ、涙だけをこぼしていた。


 そんな兄が、


「セレン兄様が!戦って、目指そうとしていた場所!」


「それこそが、『ルミナスプェラ』だった・・・!」 

「───・・・ッ!」

「それが、分からない従者(アンタ)じゃないだろうッ!!」



 叫んだ言葉に、声に、アルベルトが委縮したように、一瞬息を飲む。

 はあはあと、荒い息を吐いて、そのまま、シオンがゆらり、揺れながら言葉を続ける。

「始めは、父が信じていた魔物と魔族と魔人達の殲滅を目指して、ひたすら斬り続けたよ。」

 その後、世界は完全に人と人以外で別れ、相容れないままに戦争へと突入していく。シオンの父親も、息子を殺された怒りか憎しみか、セレンの目指したはずの世界へ、導く選択肢を選ぶことができないまま、そうして沢山の魔人を斬り魔族を斬り、悪魔皇に、殺された。

 シオンもそのまま、悪魔皇から守ろうとしてくれたアルベルトの手を取り、そのまま戦争への道を歩んで行ってしまった。その先の事すらも考えられずに。


「たくさん斬った。ほとんどが、魔族。だけど、中には人に怯える魔人もいた、魔人種だって、たくさんいたんだ。」

 でも、全て斬り伏せて進んできたと、シオンは呟く。

「・・・そうして、倒れた身体は赤い血が流れる、人と何も違いはなかった。」

 魔人も、魔人種も、斬られ飛び散った血は赤かった。初めて斬り殺した時は、間違えて人を斬ってしまったのかと叫んだほどに。そんな姿を、無様だとアルベルトは嗤っていたけれど。


(ああ、でもフランチェスカは、それを当たり前だって、優しく笑ってくれたね・・・。)

 心の中に浮かんだ、もう一人の大切な人を、不意に思い出して笑う。少しずつ、ふらつく足取りに、力が戻る。

「縋り付いて来た人たちも、自分が人を殺してしまったという、罪悪感だけを、抱き込んでいた。泣いていたんだ・・・。」

 それがわかるから、どうしても放っておけなかった。四ツ名の誓いは、確かにアルベルトによって歪められてしまったけれど、それでも、幼くもシオン自身が誓ったものであることには変わりがない。

「誰も、お互いを、殺して、喜んだ人なんて、いなかった・・・ッ!」

 だから、助けたかった。自分が、救える心があるなら、と。


 シオンは、まっすぐに、アルベルトを、射貫く。


「そんな争いを、兄様が、一番、望んでいなかったじゃないか・・・ッ!!」

「―――・・・ッ!」


 衝動的に抜き放った二刀。シオンが、徐に構えた。黒曜石オブシディアンに伝わる、刀技。

 アルベルトが、息を飲むのを、感じた。その怯えを感じ取って、それでも、シオンは、もう一歩も引かないと決めていた。目の前の相手に、誰かが重なって見えるのか、アルベルトの唇が、音のない言葉でその人の名前が紡がれる。


 と、不意に、


「あァ・・・。」


 シオンが、普段の、男前の表情で、笑う。


「やっぱり、お前とは行かねェよ、アルベルト。」

「お、嬢・・・様?」

「俺は、八年、ただの、『シオン=オブシディアン』として生きてた、から・・・!」

 不意に、距離を詰めた。大刀から小太刀への連撃、それはアルベルトでは容易に受けられるようなものではあったけど、彼女が知っているお嬢様として刀技としてはまた違う、

「もう、アンタの知ってる、『オブシディアン(オレ)』じゃない。」

 『シオン』の眼が

「まだ、数ヶ月だけど、俺は、アイツを見てきた。」

 『シオン』としての、力を取り戻す。

「マザリモノ、マガイモノと言われながらも、人と一緒に生きてる、アイツを、見てきた・・・。」

 汚れた、堕とされたと思っていても、そのままの姿を抱き上げて、普段通りに笑って、抱き締めてくれる人。


 四ツ名の貴族として、『オブシディアン』の末裔としてではなく、

『セレスティニア=ハルベルテ=シオン=オブシディアン』でもなく、


『シオン=オブシディアン』としての


 自分を―――・・・してくれる、人。




 

「───・・・ッ」

 アルベルトが、小さく息を飲む。ひくりと、その肩を振るわせる。眼前の小さく弱く、憎むべき蹂躙すべきその姿が、不意に、大切な大切な、それゆえに狂った原因となった人と、重なって見えて・・・。初めて、アルベルトの、顔に恐怖が浮かぶ。


「お、嬢様・・・ッ!!!」

 今までとは違う、我武者羅な剣を、それでも、シオンは奥歯を噛み締めて、受け、流した。

 一度として弾いたことのないその剣を、押し返し、懐へと潜り込んで小太刀を、振る。

「ぐ・・・っ!」

 一瞬反応が遅れたアルベルトの、その肩を僅かに掠めて、シオンが、再び息を吐く。

 いつも通りの、まっすぐとしたら黒眼。

 セレンと同じ、その眼が

「う、ぁ・・・。」

「共に先へ進むなら―――・・・」

 まっすぐに見据え、アルベルトを、竦ませる。

 簡単に追撃してきたアルベルトの手が、足が。

 怯え、竦み、止まる。


 そのアルベルトに向かって、シオンは大声で叫ぶ。


「魔族とか魔人とか、混ざりモノだとか、そんなの関係ない!」 


「俺は、アイツと、この場所で、生きた―――・・・!!」


 突如。

 何かがすぐ傍まで吹き飛んでは、瓦礫の中へと叩きつけられる。

 土埃と土煙が舞い、一瞬視界が遮られた。沸き上がった瓦礫が細かく砕けぱらぱらと降り注ぐ光景に、呆気にとられたシオンが吹き飛んできたものに視線を送れば、



「あー・・・くそ、あんのジジイ・・・。」


 どかされた瓦礫から、心に宿していた、白い光が見えた。


「お、まえ・・・。」

 まさかの存在に、シオンが大きく眼を見開き、

「ねぇ、ちょっと、聞きたいんだけど・・・」

「は・・・?」

 一方の、銀髪緋眼、立ち上がるよりも先に、衝動的とも反射的とも言える速度でシオンを引き倒し、自身の腕の中へと引きずり込む。 

「いや、よそ見する余裕マジでないから。3秒で答えて。」

「ちょ!?なんでこの姿勢―――」


「共にイキたいアイツって、誰?」

「・・・なんか、意味違くね?」


「てかすんごい可愛い格好してんだけど変なことされてない?ないね?あ、でもいいならこのまま!このまま膝抱っこしてそのスリットから太腿なでなでさせてほしいけどあああああヤバい絶対勃つなそれどうしようたまんねえホントカワイイッ!!!」

「色々いっぺんに言うな何言ってか全然わかんねぇ!てかどさくさにまぎれて明らかに変なコト言ってねぇか!?」

「せ、せめて一番初め答えダケ聞かせ───」

 戦闘中とは明らかに違う興奮状態で荒い息のクロウに、文字通り『飛んで』きた田貫と班田が、着地と共に二度足を慣らし、印を組みながら叫んだ。

「「くるよ、ボス!」」

「ああもう邪魔すんなクソッタレ!!」

 クロウが小烏丸を握る手とは、反対の手でシオンの肩を抱き寄せた。そのまま轟音と共に振ってくる斬撃――リュウシン=シキジマの刀撃をクロウが受ければ、一瞬の隙、その眼前に、力を増幅させる印を踏んだ班田と手を組んだ田貫の蹴りがリュウシンに迫る。が、それを掌で払う様に受けて、リュウシンが一度間合いを取るようにして、静かに佇むアルベルトの傍へと下り立った。


 生まれた膠着状態にクロウがようやっと座り込んだままの姿勢から立ち上がる。 

「チッ、あのクソジジイ。マジで邪魔だなオイ。」

 蹴りを防がれた田貫と班田もシオンの隣へと下り立っては、動かないアルベルトの方をまじまじと見つめて、心底嫌そうに顔をゆがめる。

「「てか、コレ、もう1人面倒なの追加された?」」

「『人災』もう一個追加、かな?」

「「特別手当ーッ!」」 

 楽しんでいるのか投げやりなのか、そんないつもの雰囲気に包まれて、シオンは、安堵の気持ちで再び緩みそうになる涙腺を必死で、堪える。そんなシオンを振り返り、田貫と班田が、ひゅーっと口笛を吹いてみせれば、

「「やっほ、シオンさんかっわいー!」」

「見んな、減る。」

 そんな二人に、舌打ち交じり、不機嫌そうに顔をゆがめるクロウに、

「減るか、ばか・・・っ。」

 やっと、絞り出したような声で、いつも通り悪態を吐いて、シオンがわずかにうつむくのを、クロウが、その頭を抑える様に撫でる、

「てか、さ?」

 フリをして、そのままその肩をもう一度抱き寄せた。

「後で・・・」

「―――・・・ッ!」


 耳元に唇を寄せて、

 こんな戦場には、到底似つかわしくないのに

 どうしようもなく、普段のままの、甘さを感じる声色で、ささやいてくる。








「後で絶対、この場所で一緒に生きたい『アイツ』、誰か教えて・・・?」

「・・・・・っ。」



(大馬鹿野郎・・・。)

 息が詰まって出てこない言葉を、噛みしめて、シオンは、笑った。







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