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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season1

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45/75

EP8.:藍方石(アウイナイト)⑧


 

 この大陸の人の生息域は大陸の7割ほどだ。そこには、全部で六つの国と、一つの小国家連合、及び、自立した商業都市群がある。

 そして、大陸の東側、3割ほどを占める未開の地、通称『魔の森』。人外たちのテリトリーともされており人の手が及ばない地ともされている。そこにはまだ確認されていない人外、魔族たちが生息していると考えられている。


 現在、第一大隊が分散して、北側三国の国境警備。この三国は宗教解釈の違いを理由に、頻繁にルミナスプェラを刺激してくる。現在の『人災』による影響は機密として周辺国へは漏れてはいないと考えられるが、それでも予断は許さない。そこは、たった一大隊約1000名とはいえ、名将名高いビクトル=エインレスト=ロウ=バルサドールが睨みを利かして抑え込んでいる。また、フェルナンド=アルバ=フランクライザー率いる第五大隊は、ルミナスプェラ首都にて、全ての戦局の情報統括、処理、および国内警護へ。第三大隊は小隊ずつ活動し周辺諸国への撹乱や情報収集等。第二大隊は先の警護で一部負傷者が出現。それでも大きな影響が出る人数ではないため、今回、第四大隊と共に、旧レグラリア跡地へと足を踏み入れていた。








「・・・で?大丈夫なの?姐さん。」

「業務に差し支えはしないさ。」

 旧レグラリア跡地。先の戦地の中心になった個所でもあり、また、東に接するのは未開の『魔の森』だ。それでも、ルミナスプェラとの国境付近は比較的治安が保たれ、そこには、どこの国にも属さない、中規模程度の商業都市が軒を連ねている。彼らは二つの戦争を得て、国という者を見限った人々が造り出した、いわば商業ギルドにも近いものであろう。

 そのギルド都市の中心から更に東へ20キロほど移動して。

 第四大隊約400名、第二大隊約300名が待機していた。

 第五大隊長ファウスト=ブラッドバーレン。別名悪魔皇。その名にふさわしい膨大な魔力にて、彼らをルミナスプェラ国境まで超えさせて。そこから1時間で約15キロ東へ進んだ場所。

 レグラリア王国。土地の広さは小国に位置するが、魔族との交友にて得た『刀術』とそれを扱う一族の台頭、および、温和な王が統治していたこともあって、繁栄を見せていたが、それも今や過去の話、荒廃した家々の痕跡が過去の繁栄を物語っていた。更にもう数キロ、東へ行けば旧国の首都になる。なればよりその痕跡は強くなるだろう。

 

「・・・すまなかったな、シキジマ君。」

 首元に巻いた白い包帯に血がにじんでいる。珍しく長い金髪を、高い位置に一つで結い上げて。

 エリザベッタは遠く、レグラリア首都を見据えながら、クロウにつぶやいた。


 セーフハウスで応急処置を受けていたら、クロウが息を切らせて走って来た。手を挙げるコトはないだろうが、それでも、一言くらい、悪態なりあっても、と、覚悟はしていた。なのに


『 姐さん、無事!? 』


 飛び込んできた彼は、何よりもこちらの心配をした。そして、さっと周囲を見渡し、そのまま簡単に支持を出す。無論、この場ではエリザベッタに指揮権があることを考慮し、それを犯すことがない程度で。

 

 その姿を思い出し、エリザベッタは小さく微笑む。


「ナニが?」

「『人災』に奪われる様な失態を―――」

「元々それが前提だったんでしょ?」

「・・・・・。」

「オレだって流石に理解してる。本当に死守であれば、ファウスト(じいさん)は、ともかくとしても、オレが直接警備担当になるだろうしね。」

「まあ、そうだな・・・。」

「どうせフェルナンドさんでしょ?そんな性悪な作戦立てるの。オレを別で使いたいのも解る、ちゃんと理解してるよ。まあ、だけど・・・」


  ――― 帰ったら、一旦シバく・・・。


 露骨に座った眼をしながら、遠く首都のフェルナンドに殺意を向けるクロウに、

「ははは。」

 エリザベッタが小さく笑って、そして、一度足元に視線を落とした。

「違う、違うな・・・。」

「・・・ん?。」

「正直、言うなら、私は少し、君を誤解していた。」

 エリザベッタが一つ息を吐いた。

「初めて、どうしようもない程に惹かれて止まない相手ができて、優先度が変わって、職務としての判断が不十分になっていると。」

「・・・・・。」

「攻めているんじゃない、それでもいいと思っている。少なくとも、私は・・・。」

「あー・・・その、さ・・・」

 不意に、クロウがしゃがみ込んだ。掌で、少し顔を覆って、小さく小さく体を丸めて。よく見ると、耳まで赤い。

「いや、ごめんなさい・・・、虐めないで。」

「・・・いや、別に虐めているわけでは。」

「マジで恥ずかしい、ホント。」

 自覚はあるのだと、その態度で示して、クロウは深く息を吐き出しながら、徐に銀髪を掻きむしった。その様を哀れに思って、エリザベッタはぶんぶんと両手を振る。

「い、いいではないか!今まで殺伐としていた君よりもよっぽどいいと思うぞ!」

「・・・姐さんは優しいね。」

 肩で、はぁっと息を吐いてうなだれる。そうしてエリザベッタを見上げた顔は、少しばつが悪そうに視線は合わない。

「わかってる・・・。」

「・・・どうした?」

「わかってんのよ、ちょっと、その、アレだなって。」

「あ、自覚があるのか?」

「ありますッ!!てか、その、ハルにもちょっと、ね?怒られたことが、ありましてッ!」

「そうか・・・。」

「・・・ただ、」

 それでもどうしようもないのだと。うまく言葉にできないのか、クロウは一度口を開いては、閉じるを、二度三度繰り返す。そして、 

「オレは―――・・・。」


 瞬間、言葉を切ったクロウが勢いよく顔を上げる。次いでエリザベッタがその視線を追って振り向く。視線の先に見える、小さな人影。それが、次第に、増えてくる。

「あー・・・」

「あちらから来たか・・・。」

「ま、そりゃコイバナしてる場合じゃないわな。」

「全くだ。」

 エリザベッタが、ワグナーとは違う、もう一人の副長へ合図を送れば、その後ろに待機・小休憩していた隊士達に緊張が走り、更に・・・

「あ、いるわ・・・。」

 今度はクロウがひらりと手を振れば、ハルオミとリシリィ、それよりも先行して、同行してきた田貫と班田が彼へと並ぶ。


「出たぞ!『人災』・・・リュウシン=シキジマだ!」

 エリザベッタが叫んだ。

 緊張が、更に一段階、上がる。


 クロウが小烏丸を抜き放った。同時に

「田貫、班田はオレと一緒に『人災』対応。」

「「あいよ!」」

「ハルオミ、リシリィ両副隊長でそれぞれ小隊1から3、4から6を指揮。前者が『黒』の捜索、後者が『人災』以外の対象殲滅。」

「「了解・・・!」」

 

 そうしてクロウが詠唱宣言をする。

「田貫、班田両名に、第四大隊長クロウ=シキジマの名を持って、全魔力操作解放の許可。」

 基本的に、魔力行使には、前持っての大隊長による宣言許可が必要とされている。周囲にこれから人治の及ばぬ力が配慮されることを告げる様に。

「「クロウ=シキジマに、ファウスト=ブラッドバーレン代理、田貫と班田が、全魔力操作解放の許可!!」」

 抜き放った小烏丸の周囲に、僅かながら明らかに自然とは違う、空気の流れが起こり始める。

 田貫と班田が両手を合わせて、いつもより早く、二人が全身で印を組む。そして、


 砂を踏み鳴らす音が響くや否や、大地が二人と、クロウを持ち上げる様に、大きく盛り上がり、そのまま土壁のとなって後を遮る。すれば。三人がそこから下るように再度地へと下り立てば、『人災』リュウシン=シキジマとの距離は十メートル程度まで接する。

「ま、あんな風に言ったものの・・・?」

 不意に、クロウは嗤った。隣の田貫と班田がちらりとクロウを見て、引きつった表情をする。

「「ボス、超怒ってる。」」

「そりゃそうだよ。あの子が、みすみす?攫われる、とか、さ・・・。」

「「姐さんに?」」

「違う、自分に。」

「「なるほど!」」

「機嫌、最悪なのは仕方ないよね・・・?」

「「恋煩い怖ーい。」」

「もういいよ、なんでも・・・。」

 赤い瞳が目の前の敵への怒りで、くっと引き絞られる。


「とっととあの子、返せよ。」


 構える。


 相対するリュウシン=シキジマも、ゆっくりと刀を抜き放つ。大鋒の太刀。刃長65センチほど長い刃が沈む日の光を受けて、鈍く輝く。

 目の前のクロウを見据え、ああ、と小さく呟いた。

「レグラリアの大将軍の遺児か・・・。ルデラック殿が大層懸想していたな。」

「・・・そうかよ、じゃあ打ち(ブッ)殺して奪い返すわ。」

 まっすぐに刀を構えるクロウに、リュウシンが肩をすくめて見せる。

「野蛮なコトだ、これだから、魔族は。」

「アンタには言われたくないね。それに、アンタの嫁だって魔族っつーか、魔人だろうが。」

 すれば、リュウシンは、それでも決して笑っていない眼でうっすらと笑みを浮かべる。

「フェリシアは、フェリシア自身だ。何者でもない、唯一の私の妻。だが、魔族どもは何をした?人と結ばれた、ただそれだけで、同種のフェリシアを、迫害し吊るしあげ、産まれた子供を打ち捨てた!」

 一歩進むごとに、未だ褪せない過去の怒りを乗せる様に、その歩みが重く、強く踏みしめられる。

「・・・・・。」

「もはや私ができることは一つ。悪鬼尽く討ち果たし、フェリシアの骸を彩る花にしてくれる。」

 だけど、その、震えるほどの怒りすら、クロウには、ただ、偽物の様に感じてしまう。


 なぜなら


「・・・打ち捨てられた子供を拾わなかったのは、どこのだーれだ?」


 そう、説く。

 打ち捨てられた子は、その時生きていて。だけど、父親は少しも迎えには来なかった。それでも、魔人と人との相の子は、人以上の生命力をその子に与えていたけれど、その後の生き様に希望を与えてはくれなかった。繰り返される絶望の中で、クロウが生まれて、ただただ、繰り返されるの絶望を、幼いころから間近で見て、肌で感じて、直に触れて生きてきた、から・・・。

「魔族の血が入ってた子など、わが子ではない。」

「・・・・・。」


(やっぱ、最悪・・・。)


 取り巻く、全ての『人』の、醜悪さ。


 その中で、自身が正義だと嘯く目の前の相手に吐き気がする。


 皮肉な表情でクロウが続けた。


「それがフェリシアの子でもあっても?」

「フェリシアは、我が妻だ。」

「だから、フェリシアは魔人で、その子はフェリシアの子じゃないの?」

「フェリシアは、我が大事な、妻だ。」

「・・・・・。」

 ああ、とクロウは一瞬だけ憐れんだ眼をリュウシンに向ける。

 目の前の相手は怒りと、悲しみと、フェリシアへの愛情、なにより、フェリシアが魔人だという現実の拒否・逃避・・・。


「だーめだ、やっぱ完全に狂っちまってんだ。」

 もう、どうしようもないことだと。行き着いた結論からは、一つも救いは生み出せないのだと。だから、ただ、クロウは彼の罪だけを突き付ける。

「結局、アンタの自分勝手なせいで、母さん(あの人)は魔人の血を生む道具として死んだ。唯一、フランチェスカに会えた最後の一年だけが、あの人の幸福の全てだったよ。」

「ふん・・・あんなもの。どうだっていい。」

 その侮辱する発言すらも今はすがすがしい気持ちで聞くことができる。

「そう言うと思った。安心したよ、アンタを殺しても、何の気持ちも湧いてこない。」

 赤い眼が、心が、研ぎ澄まされるように、冷えていく。

「ほざけ!」

 距離を詰めたリュウシンが、激高したように刃を振り被った。その一撃を受けて、クロウは冷ややかに笑い、告げた。





「あの世で婆さんによろしく。」
























(その一篇の愛情の欠片ですら無かった、おかげで?)



(ありがとう、罪悪感さえ生まれてこないわ・・・。)



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