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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season1

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44/75

EP8.:藍方石(アウイナイト)⑦







 セーフハウス襲撃より、少し前・・・。



 第四大隊長クロウ=シキジマは『ラディアン』最上階の一室に通されていた。この国最大の複合娯楽施設『ラディアン』には一部政府管轄の施設もあった。クロウがいるこの場所も、それにあたる。外交や交渉にも使われる部屋でもあり、防音そして外部からのあらゆる介入をシャットアウトできる最高機密の部屋。

 クロウをそこにとおしたのは、第三大隊長、キリングス=レヴァイスト=アゼーレ。東方種の混血らしく、黒髪の長髪を後ろで束ね、眼鏡をかけている。軍の中でも諜報・情報統括をメインとして活動する隊の主でもあり、公にはされていないが、この施設の経営・管理にも実はかかわっている、『ラディアン』の裏の王の一人、でもあった。今は大隊長としてこの場所にいるため、クロウと同じ軍服に身を固めている。

 最上階らしく、最高級品のソファにかけたクロウは、それでも若干不機嫌そうに足を組み、束ねた資料を目の前のガラスのテーブルへと放り投げる。


「もらった資料の場所は全て潰した。肝心の相手は影も形も見つけられなかったけどな。」

「それでいいさ。コッチの捜査状況を知られないための撹乱の意味もある。」

「クッソ面倒臭ェ事させやがって・・・。」

「お前が遣るから意味があるんだろう。」

 露骨に舌打ちをして見せるクロウに、キリングスは薄く笑う。この男にしろ、フェルナンドにしろ、よくよく人を手駒にしたがるもんだと、クロウは眉根を寄せる。最も、もしそれを聞いたら、二人とも共有見解で、手駒が優秀で使い勝手が良すぎるのが悪い、と笑うだろうが。

「んで?」

「そうだな。おかげさまで、何人かの軽はずみな連中の足取りが見えたよ。」

 キリングスはそう言ってもう一つの書類を出した。クロウが胸元から眼鏡を取り出す。

 機密資料では、特殊なインクが使用されており、その内容を正しく理解するには特殊な光を可視化する眼鏡が必要だった。基本的には大隊長のみが持ち歩いており、副隊長には必要に応じてその場で配布される。

 キリングスから渡された書類には、ルミナスプェラを中心に、周辺の国々が記載された地図だった。そこに、赤線でルミナスプェラから出ていく矢印が記載され、その中でも、東のある場所に大きくバツが記載されている。その位置は・・・


「・・・レグラリア国、跡地、に?」

「そこに約300人ほどの、金で集められたらしい無頼漢共、それとアルベルト=ルデラック、あと、リュウシン=シキジマの姿が確認された。」

 レグラリア国。人外戦争で真っ先にファウストによって直接滅ぼされた国。ルミナスプェラ、と、いうより、正確にはこの国の前身ともいえる『グランセザリア』神皇国と国境を接した東に位置し、更に東の未開拓地、通称『魔の森』との最前線を担っていた。その一方、更に過去へと遡れば『魔の森』は魔族たちの領域だ。まだ親交があった頃は、頻繁にそこから魔人や魔人種たちがその国へと立ち寄り、交友を気付いていたのだが・・・。

 現在のレグラリア国跡地は、人外戦争でも最前線であったゆえに、大半が荒廃したままでいた。ルミナスプェラと接する一部の地は、武装自立した商業都市として確立はしているが、それ以外は、東に行けば行くほど人の手も眼も介入はしていない。もはや滅びた王国であり、何より『魔の森』とも接していることもあり、今後も十分な復興に至ることはないだろうとされている。

 この大陸で最大の危険がある場所であり、ゆえに、何かを行うなら、最大の隠れ蓑の地、ともいえるのは、事実だった。


「・・・なんの、ために?」

「さぁな。正確な目的まではまだ不明だが・・・。」

 クロウの問いに、キリングスがわずかに首をかしげる。

「・・・単純に考えるなら、亡国の、再興。」

「・・・・・。」

「アルベルト=ルデラックの目的としては、ありえるがな。そこに、リュウシン=シキジマが加担する理由はわからない。」

「・・・まあ、狂人の行動理念なんざ、えてして理解できねぇからな。」

「それを言ったら何もできないな。」

「ごもっとも。」


 クロウが両ひざに肘を付いて、組んだ手に顎を乗せる。気には障るが、フェルナンドの想像は間違ってはいなかった。アルベルトの目的がそうならば、その旗印に添えるべきは『オブシディアン』の血。

そうなれば、シオンの存在は格好の的だ。

 ただ・・・



  「元々戦争前に死んだ、一番上の兄様の、従者だったんだ。」


  「アルは、兄様に、心酔していて、どこに行くにも一緒だったよ。俺は・・・」


  「ただ、その心酔が・・・、ちょっとだけ、怖かった・・・。」



「・・・・・。」

 あの時、シオンが告げた言葉の中で、『従者』に対しての信頼や信用はあまり見られなかった。正直、畏怖しているようにも見られる。無論、それは師としての感情や尊敬の念が転じてのことかもしれないけれど。


(本当に、アルベルト=ルデラックは、シオンを旗印にしての『再興』や『復興』が目的なのか?)



    「アルは、兄様に、心酔していて―――」



(心酔しているのは、『オブシディアン』ではなく、あの子の、死んだ、兄・・・。)



「クロウ。」

 不意にキリングスに呼ばれて、クロウがハッと顔を上げる。

 目の前のキリングスが、何やら携帯で短く会話をし、こちらにチラチラと視線を寄せる。

 『すぐに向かってもらう。』とだけ告げて、通話を切ったキリングスが、はあっとため息を吐いた。


「落ち着いて、聞いてくれ。」

「・・・ナニ?」


「エダが・・・、第二大隊長が負傷した。数名の隊員にも死傷者が出てる。」

「・・・は?」


「セーフハウスで、だ。」

「―――・・・ッ!?」


「意味が、解るな。」


 キリングスの問に答える間もなく、クロウが、ラディアン最上八階であるこの部屋の窓をこじ開け、そのまま躊躇もなく外へと踊り出た。


「!?待て、お前・・・ッ!」

 いくら魔力持ちとはいえ、クロウの力では空を飛ぶなんて芸当は到底できないはずだ。思わずキリングスが窓から顔を出せば、ラディアンの外壁を這うパイプに捕まり、ブレーキ代わりにしながら速度を殺し、そのまま壁を蹴って隣の建物へと移る。その柵を更に蹴り、建物と建物の隙間を飛び越え、見る間もなく、その姿が消える。


「相変わらず、信じられない野郎だ・・・。」

 その能力を、素直に驚嘆しながら、キリングスは再度息を吐いた。


 フェルナンドが、シオンはさらわれる事前提でセーフハウス隔離を提案したのは理解していた。ゆえに自身を経由してのクロウへの報告だ。

 連絡は、


『黒曜石は消失ロスト。ただ、予定通り、発信機は身に着けている。』


 という内容だった。それらは、第四大隊以外の大隊長・および、全副隊長には一斉連絡として発せられている。

 フェルナンドの提案で、クロウにはその本質を告げられてはいない。もしそれを告げたら、彼自身は決して軍を許さないだろう。下手したら大隊長の職も辞さねない。フェルナンドはそこまでクロウが彼女に傾倒していると見ていた。

 その話を聞いた時、それは考えすぎだろうと、キリングスは小さく笑った。あのクロウが、誰かに心を奪われる、なんて想像もできないと。実際、建国祭夜の会議に出席しなかったからか、クロウが軍や作戦よりも優先するなんてことはあり得ないと。

 しかし、目の前で、彼は何の躊躇もなく八階から飛び降りていった。最速で彼女の元へと迎える様に。


「これは・・・、とても言えないな・・・。」

 キリングスは小さく笑う。フェルナンドがいたら、『でしょ!?』とさぞかし同意をするに違いない。

「さて、と。」

 局面が動いた。足元にかみついた。以降は少しでもバレない内に、相手側の潜伏地の特定・確定と、情報の吸い上げ、それに伴って軍を動かす必要がある。


 キリングスが、部屋から出た。入り口で待機していた副隊長の男が軽く頭を下げる。

「第四大隊長殿は?」

「窓からご退出だ。」

「・・・は?」

 自分よりも体格の良い、男が一瞬目を見開いて、そして小さく頷く。

「ああ、なるほど・・・。」

 すべてを理解したように軽く頷く。彼はあの会議にキリングスの代わりに出席していた。

「そういえば、お前は見ていたんだったな。」

「そうですね。アレはもう完全に大隊長としてはマズイと思います。」

「そうか・・・。」

「ただ、人としては、いくらかほっとしましたね。あの人の生い立ちはあの時に初めて知りましたが・・・。それまでは、本人の意図的な振る舞いもあったでしょうけど、或る意味、ルミナスプェラの、『畏怖と恐怖の対象』でしたから。」

「そうか。」

「酒の席では少し突っついてみたい気もします。」

「いいな、それ。その時は俺も仲間に入れてくれ。あ、フェルナンドは誘うなよ?アイツ入れると面倒になる。」

「そこは心得てますよ。」

 信頼のおける相手との、他愛のない雑談をしながらも、二人は着々と準備を進めていく。

別室にて、すでに起動されている機器のボタンを、何度か弄れば、映し出された画面に、青い光が点滅している。

 地図と方角を、確認しながら、キリングスが折り畳まれたスマホを手に取る。しばらく確認後、点滅した光の移動が止まり・・・

「やはり、レグラリア、か。」

 一つの確信を得たキリングスは、今は確実に電話には出ないだろうクロウではなく、彼の優秀な副隊長に連絡をつなぐ。

『はいよ。』

「確認が取れた。レグラリアだ。」

『了解です。』

「君等のボスは今、文字通りセーフハウスまで飛ぶように向かってる。」

『最悪の機嫌でしょうね、想像できますわ。』

「あの暴走男の手綱を取るのは君とリシリィの役目だ。任せた。」

『・・・それがシオンさん助けるより一番難しい気がします。』

「あとは打ち合わせした通りだ、頼む。」

『そちらも気を付けて。』

 キリングスが電話を切ると、隣で彼の副隊長が、小さく頷いた。手渡された愛用の、二つの短剣を腰元に背負い、二人は、その部屋を後にした。






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