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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season1

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EP8.:藍方石(アウイナイト)⑤




 剣でも刀でも、人は容易には切れない。

 皮膚、肉、脂、はまだ、良い。

 そこに骨が邪魔をする。 

 何度か肋骨に防がれて、逆に手が痺れるような失態に、刀を取り落としそうになった事がある。  

 そんなシオンを見て、少し呆れた様な表情を浮かべたアルベルトが


『何度も言わせなさんな。骨断ちはまだ貴女には無理でしょう。』


『もう少し正確に相手の体をイメージしなさい。その肋骨の隙間に刃を滑らせて、心の上の魔力核を潰すのです。』


『ダメなら、一刀両断にして、手足を削ぎ、喉を潰すのです。そうすれば魔力行使はできなくなる。』


『ただ、それだと一体に時間を使いすぎですね。その間に☓☓☓様なら、三体は切れる。』


『全く貴女は・・・。』


『あぁ、まだそんな事を言っているのですか?』


『偉大なるアリシアンに造られた我らが人と、マガイモノを一緒にしてはいけないと言っているでしょう。』


『人に近い形をしようと、人の真似事をして、人の言葉を話そうと、所詮はマガイモノでしかないのです。』


『まぁ、いい。ほら、貴女は貴女の誓いを果たしなさいな。』


『自分よりも弱きものを救う、のでしょ?』


『ここには弱い物ばかり、身も心も貴女の助けを持っているものばかりです。』



『ココロもカラダも、全てを捧げなさい。』




『それが、貴女自身が決めた、誓いなのですから。』




「───・・・ッ!」

 引きつるように、息を飲んで。


 目を見開けば、白い天井。

 噎せ返る様な夢を見て、シオンは荒い息をする。

 早鐘を打つ心臓に、必死で酸素を身体中に、巡らせる。汗でじっとりと濡れた体が酷く不快だった。

 上半身を起こして、少し呼吸を、整える。慣れない高さのベッドから足を下ろして立ち上がれば、

「・・・・・ッ。」

 立ち眩みに思わずベッドに手をついた。そのまま、腰を下ろす。


 ココ最近昔の夢を見る、と振り払うように頭を左右に振った。目眩が一時的に酷くなるけど、それで悪夢が消えるなら、と構わずに。体調も、芳しくない。いつもなら随伴症状は落ち着くころなのに、と、シオンは長引く重怠い腹痛に眉根を寄せる。


 横になっていると色々考えてしまう。


 セーフハウスには、ナニか意図があるのかテレビがない。全ての情報はラジオから拾っていた。元々そこまで社会的な情報に興味があるわけでも、だからといって、無沈着なわけでもなかった。家にいる時は、朝と夜のニュースを軽くつけるくらいで、気にもとめなかったと言うのに・・・。



(親爺、大丈夫かな・・・。)

 昨日来たエリザベッタが今のところ問題なく過ごされていると、近況を教えてくれた。第二大隊の人間とも打ち解けて、たまに立ち話をするようになったらしい。先日の建国祭ではいつも出す露店が出せなくて残念だったと言っていた、と。


(二週間・・・、あとどれくらい・・・?)

 先週頭に来たから、まだ5日近くはここにいる事になる。1日毎どころか、数時間おきに考えてしまう内容に、自分が病んでいるんじゃないかとシオンは感じてしまう。


(おなか、いたい・・・)

 多分、その随伴症状を長引かせている要因だろう。思いの外ストレスフルで、自身には辛い状況らしい。


(ハルオミと、リシリィ、元気かな・・・。)

 懐かしい顔が浮かんで、彼等が既に自分の生活の中で、無くてはならない人達になっているのだと、思い知らされる。


 そして、それ以上に感じる、存在感。


「・・・・・っ。」

 最近は、何かの代わりのように、白いクマのぬいぐるみに触れている時間が増えた。ふわふわの毛並みに触れている時、少しだけ、癒やされる。

 ハルオミがくれたブランケットも、リシリィがくれたアロマグッズも。まだ使えずに袋の中にしまってあった。

 田貫と班田が持たせてくれたという、甘いチョコレートも、普段ならや喜んで減っていくはずなのに。二粒食べて、そのまま、だった。


 本だけ。半分くらい、読んだ。


 面白いけれど、面白くなればなるほど、その内容を共有できる相手が、今は側にいなくて、辛くなる。

(アイツ、また来てくれない、かな・・・。)

 ただ、横になって過ごすだけの日々。


(もう一度、顔を見て・・・)

 食事も、一食まともに取れれば良い方だ。動かないから、お腹が減らないと、誰に言う訳でもない言い訳だけ並べて。


(手、握りたい・・・。)

 浮かぶ相手の顔に


(会いたい・・・。)

 あぁ、こんなにも焦がれるものなのかと、恥ずかしくも、その存在を希う。

 



 なのに・・・




   ─── これほどにも、世界は残酷。







「お嬢様」


 と、かかる声に、シオンがゾクリと肩を震わす。

 その音に、背筋が、粟立つ。


 心臓が、痛い。

 動悸。

 締め付けられるように、苦しく。

 呼吸苦。

 回数かま促迫するも、それは悪手だ。


 体が言うことを効かない。

 

 2階寝室ベッドに、横たわるシオンを、確信をもった声が、もう一度放たれる。


「あぁ、お嬢様・・・。」


 聞き慣れた響きに、『ああ、やっぱり』と、理解してしまう。

 逃げられない。


 シオンは、ゆっくりと顔をあげる。視界に映る姿は、多分数年を経過している筈なのに、一目で、分かる。

 『中央種』と『東方種』の、混血。

 黒髪に、少しの白髪交じり。

 オレンジ色の、瞳が、感極まった様に、潤み、細められる。


「アル、ベルト・・・。」

「そうです、アルでごさいます!」

 膝をつき、恭しく畏まって一礼する。愛称で高らかに自身を宣言する姿は、やはり、従者らしく様になっている。黒の燕尾服に、腰に刀ではなく、ブロードソードを下げていた。

「どうして、ここに・・・。」

「軍の連中は鼻がきくようで、少々手古摺りました。

 一礼したまま、大袈裟なまでに首を振り、

「ですが、まあ、考えれば自身の柵の中に囲い込むのは定石。察してしまえばあとは早かったですよ?」

 シオンを見て、冷たく笑うアルベルト。

「特に、あのマザリモノのマガイモノ・・・。」


「撹乱のつもりか、至る所に出没して、こちらの眼を欺いていたようですが・・・。」

「───・・・ッ。」

 憎悪に燃えるアルベルトの表情に、シオンは、唐突に思い出した。異常なほどの敵対心を、アルベルトは魔族に抱いていたことを。


 そして、再び、夢見心地の表情を浮かべて


「やっと、セレン様に・・・。



 セレスティニア=ハルベルテ


       =シオン=オブシディアン様」



「・・・・・。」

 告げられるのは、シオンの本名。


 四ツ名。

 漢名字。

 失われたレグラリア王国、将軍家。   

 唯一の姫としての、名。


「さぁ、貴女を元の貴女様に!」

 立ち上がり、両手を上げてシオンを迎える、その眼には一抹の疑いすらが映らない。

 シオンは自分といるべきであると、信じて疑わない、オレンジの、瞳

 歪に、歪められたその目が、嗤う。


「さぁ、共に高貴なる者の使命、貴女のノブレスオブリージュを果たしましょうか。」

「・・・・・ッ!」



 シオンは、愛刀を、強く、強く、握りしめた・・・。



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