表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/74

EP.8:藍方石(アウイナイト)③




 身体の不調を感じて、目が覚める。下腹部違和感と、眠りの浅さ。何となく感じる、わずかな嘔気。ゆっくりと、体を起こして、気の所為とは違う感覚は、35日周期にくる前駆症状に、他ならない。


 まだそれ自体は来てはいないが、近々来るものの、合図でもある症状に


「・・・くそ。」


 シオンは、小さく悪態をついた。ふらつく頭を押さえ、窓を開ける。


 二階から階下を歩く人々を見下ろす。この苛立ちを募らせるコトすらが、やはり、『ソレ』の一種ではあるのだと。理解しているけど、己の身体的・精神的変化にシオンは少し落ち込む。


 と、


「・・・あ、れは―――」




 西方種の凛々しい軍服姿がこちらに向かってくるのが見えて・・・


 シオンは、首を傾げた。


















「身体拘束の、協力要請・・・?」


「すまない、シオン。事態は少し急を要する。こんな不甲斐ないお願いをしなくてはならない事、非常に残念に思う。」


 玄関先で、簡単に事情を説明するや否や、第二大隊長エリザベッタ=ラクシュミトフは頭を下げる。事情を聴いたとはいえ、簡単には頷くことができない。シオンは暫くうつむいたまま顎に手を当て、そして、


「・・・親爺、はどうなる?まだ怪我も治ってない。」


「一緒に連れて行くことはできない。」 


「・・・・・。」


「ただ、わが隊が責任を持ってこの辺りの安全確保と管理に努めよう。」


 先の出来事で、負傷したサカザキは、まだ本調子には程遠い。日常生活を送る程度ならなんとかなるだろうが、治安を考慮すると、一人にしておくのは一抹の不安が残る。そんなシオンに、エリザベッタは真摯な言で応えた。シオンは、安心する。ならば、エリザベッタの話を考慮するなら、自分がここにいる方が、周囲に危険が及ぶ可能性があるのだろう。シオンは一つ息を吐いた。


「・・・なら、わかった。よろしく、頼みます。」


「・・・すまない、ありがとう。」


 エリザベッタが、もう一度小さく頭を下げた。




 軍で設置された住所不明の場所。案内されるシオン自身も場所が特定できないように、目隠しのまま連れて来られたのはそれなりの広さのある一軒家だった。セーフハウスとして使用することが多いらしいこの場所の説明を第二大隊副隊長のリヒト=ワグナーから受けながら、シオンは室内ぐるりと見渡す。


 二階建ての居住スペース。一階は広さ三十畳ほどの広すぎるリビングダイニングキッチン。中央の階段から二階に上がって、八畳の洋室が3つ。


「・・・広いな。」


「そうねぇ、元々4名迄は対応可能な場所、だからね。でも、結構素敵な室内でしょ?アタシは結構好きよ、ココ。」


「そうか・・・。」


 少し楽し気なリヒトの声色に、シオンは小さく笑う。棚の上に置かれた白いクマのぬいぐるみにそっと手をやれば、思いの外柔らかい手触りがした。ふと、リヒトがそのぬいぐるみの後ろの窓を指さして、


「窓はあるけど、基本的には空かないようになってるの。唯一この窓だけ内側から空くわ。これは最悪の脱出経路だと思って覚えていて欲しいの。」


「そうか、わかった。」


「あと、食材は基本的にそこの冷蔵庫に入っているわ。飲み物も同様。無論、この室内にある物は自由に使用していいし、後でシオンちゃんの負担になることはないから安心して。」 


「ああ・・・。」


「ただし、約束は一つ。ここから一歩たりとも外へは出ないコト。誰が来ても玄関を開けないコト。」


「だよな・・・。」


「私は玄関の鍵があるからそれで入ってくるわ。来るとしても、私かエリザベッタ大隊長だと思うから、大丈夫だとは思うけど・・・。後日ここに訪れる可能性があるメンバーは一度私と一緒に顔を出す様にするわね。」


「わかった。」


 来るのは第二大隊。それを聞いて、シオンは小さく唇を噛みしめる。


「あ、のさ・・・。」


 聞いても、どうしようもないとは思いつつ、つい口をついて出てしまう。


「ハルオミや、リシリィは・・・。」


「あの子たちは、別の任務で忙しいから。多分、隔離中は来れないと思うわ。」


「・・・そう、か。」


「多分、クロウちゃんも・・・。」


「・・・・・。」


 申し訳なさそうに、リヒトはシオンの顔を覗き込む。予想はしていたことだ。どうせなら知っている顔が訪ねてくれれば少しでも気分が晴れるかもしれないと思ったが、それではセーフハウスの意味もなくなってしまう。理解は、していた。だけど・・・


「今、アイツらが大変なのは、『災厄』ってヤツのせいか・・・?」


「そう、ね。」


 リヒトは軽く頷いた。


「厳密には・・・『災厄』は二つの大きな括りに別れるの。一つが『人災』。人でありながら人の力を大きく超えた剣技をもってしてルミナスプェラに仇なすもの。もう一つが『天災』。魔人が魔力を駆使して相対してくる者。『アルベルト=ルデラック』『リュウシン=シキジマ』この2全部で5人いる人災のうちの2人。」


 リヒトは丁寧に教えてくれた。


「要は、凄く危険な奴らって事よ。思想のヤバさもあるけど、なにより、その武力がね。あんまり人一人でどうこう、なんて言わないのよ?だって集団戦法は私たち軍人の当たり前の力じゃない?それで鎮圧できないってどういうことって思うでしょ?でも、世の中には本当にそのレベルってあるのよね・・・。」


 リヒトは小さく苦笑いをした。そうして少し遠い眼をして思い出す。


「一度、別の『人災』と対峙したことがあったけど・・・ホント、何もできなかったわ。その時50名ほどで相対したのよ?たった一人に。結果は半数が死傷。向こうは無傷で逃走。何が起こったのかもよくわからなかったわ。」


「・・・・・。」


 想像が、できる気がした。『アルベルト=ルデラック』。その人物の剣技のすさまじさは、シオンはよく知っていた。自身の師としても腕を磨いてくれた人物でもあるが、実際に、その剣技を振るった時、周囲にいた『人』は全て『人だったもの』に変わっていた。


「だからね、軍でも、対応できるのはすごく限られてる。ファウスト翁、田貫と班田の有能コンビ、それと多分、クロウちゃん、かな?要は、剣技とは別の、魔力がある人達じゃないと厳しいっていう考えよ。」


「・・・・・。」


「狂った思考と引き換えに、純粋な剣技を極めた者達。それにまともな思考で相対するには剣技以外の何かがいるってことなのよ、本当に・・・。」


「・・・そう、か。」


 ふと、以前ハルオミが、クロウが人と魔人との相の子だと話していたのを、思い出す。剣技以外の何か、を彼はもっているんだろうか。シオンはふと、あの柔らかい髪の感触を思い出す。


 少し手持無沙汰を感じて、棚の上のくまのぬいぐるみを抱えてみる。柔らかい感触に、少しだけホッとして、シオンはそのまま、手近なソファーへと腰を下ろした。


 リヒトは、一度腕時計を見る。


「ごめんなさい、そろそろ行かなきゃいけないんだけど・・・。」


「ああ、大体わかったから大丈夫だ。」


「初日くらい、もう少しいたいけど、ごめんなさいね。」


「いいよ、色々ありがとうな。」


 そう告げてふわりと笑えば、眼を細めて少し痛ましげな視線を向けたリヒトが頷いた。


 室内でその背を見送れば、しばらくして鍵のかかる音が聞こえた。


 本格的に一人取り残されたと実感したシオンは、そのまま白いぬいぐるみに顔を埋めた。正直、少し腹痛が押し寄せてきている。眠気も出てきた。


 自身の体調不良は誰にも告げてはいないからエリザベッタもリヒトも気付いてはいなさそうだ。




(もう、色々考えるのは後にしよう・・・。)




 シオンはそう決めて、抱き枕代わりのぬいぐるみを押し抱いたままソファーへと寝ころぶ。


 押し寄せる眠気に身を任せるよう、ゆっくりと、目を閉じた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ