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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season1

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39/75

EP8.:藍方石(アウイナイト)②






 建国祭の賑わいは、日が暮れても続いていた。

 街中の建物と建物につながれたランタンが灯りを灯し、夜なのに昼間のように明るい。どの人も酒瓶を片手に赤ら顔で夜の祭事を楽しんでいる。


 そんな賑わいを階下に見て・・・


 軍部の会議室では、建国祭のパーティーに参加しているリィンの護衛のため、席を外している第三大隊長以外が会し、先のパレードでの出来事の確認と共有が行われていた。

 円卓の周囲にかける五人の大隊長と、そこに侍るそれぞれの副隊長達が一同に会する。

 先のパレードの中で現れた、総勢13名のフードの人物は、いずれも処理対応されている。内3名を息がある状態で捕縛。現在は軍の地下牢へと収監済みだ。現在は第一大隊の数名が情報聴取のための聞き取り──と、言う名の尋問を行なっている最中だった。

 厳重警備が幸いにして、人民の外傷被害はゼロ。一部の建物損壊はあったようだが、対応可能な微々たるものだった。人々の中には、アレは軍の強さを提示するための自作自演、もしくは演目の一つじゃないのか、なんて、声も上がっている。それはそれで勘違いしてくれるなら、これほど都合の良いこともない。故に、パレード後に、リィンは、驚かせた事への謝罪と、経緯について簡単に述べる程度だけですませた。

 無論、演目でも、自作自演でもない。今のところは少数による国家転覆を狙ったテロリスト、と情報は上がっている。国境を隔てた隣国や、大きな組織との関わりは薄い。周辺への警戒をしている班からは大きな動きはないと、報告を得たばかりだ。引き続き目下捜査継続、というかたちにはなっている。


 ただ・・・


「『人災』同士の接触が、確認されたそうだ。」


 ビクトルの言葉に、副隊長クラスから息を飲む様子が見られた。流石に大隊長達は大きな反応を見せることはない、が。それでもエリザベッタは眉根を寄せ、そう告げたビクトル自身も僅かに顔を顰めていた。


 『人災』

 

 人とそれ以外の共存を目指さんとする国、ルミナスプェラを敵視し、人至上主義を思想の根幹としている者たち。

 人にして人に非ざると称される程の剣技を持ち、この国に厄災をもたらさんとする者。

 基本彼らは単独で動く。個々での思想が強すぎて協力が取れないものがほとんどだからだ。ましてや、一部『狂人』ともいえるほど傾倒的な思考を持つ者も多い。群れない、ゆえに、まだ対応のしようがあったのだが。

 そんな、彼等同士の接触。

 

「接触が確認されたのは、リュウシン=シキジマと、アルベルト=ルデラック。確かに、元々面識があるとされた二人だが、以前よりも直近での接触回数が増えている。先の公開剣技会・・・公剣では、リュウシン=シキジマの存在は確認されているが・・・。その際のでの経験は既に共有されている通りだ。」

「・・・・・。」 

 リュウシンの名前を聞いて、クロウが小さく舌打ちをした。先の公剣での失態に、苦虫を噛みつぶしたような表情になる。

「たしか・・・」

 ふと、確認するように、第五大隊長のフェルナンド=アルバ=フラングライザーがクロウへと眼を向ける。この、探るような試すような視線が、クロウは元々好きではなかった。加えて、今は軽そうな笑みすら浮かべて、フェルナンドは指摘する。

「第四大隊長殿の名前は、確か、クロウ=シキジマだったけど、『人災』リュウシン=シキジマと同じなのは、偶然、かな?」

「・・・・・。」

(知ってるクセに。毎度毎度飽きねぇな、ホント。)

 しっかりと面倒臭そうな表情でクロウはフェルナンドを見返す。が、無論これは、フェルナンドが純粋にクロウの揚げ足を取りたくてやっていことでは無い。それは、クロウも、理解している。

(そういえば、第三の代理が、初参加、か?)

 相変わらず抜け目がない、と、クロウはふっと、息をついてフェルナンドから視線をそらした。

「血縁での関係性を言うならと、二親等程度の関係、だよ。最も、『シキジマ』は馬鹿の一つ覚えみたいに『刀技』と『血』を重んじるからね。その血を引く者は全てすべからく『シキジマ』を名乗れ、てのが教えらしいけど。」 

 まぁ、ただ?と、クロウは底冷えがするような、笑みを浮かべた。

「まさかその一族に、『マガイモノ』の血が入る、とか思ってなかったんじゃない?それなら丁度いいよね、オレが『シキジマ』名乗ってんのは、イヤガラセ。」

 この辺りのやり取りは、もはや会議に新人が入った時の定番ではあった。クロウの背後に立つハルオミもリシリィも、ナニ食わぬ顔でこのやりとりを聞き流す。

「身内になるわけだけど、それは大丈夫なのかな?」

「身内、ね。」

 酷く尊大な顔をして、真逆の言葉を吐き捨てる。

「身内もなにも、あっちは、毛ほどにも思ってないだろうよ。」

「・・・・・。」

「こっちも同じ。一片の情すらわかない。」

「なるほど。」

 フェルナンドが、僅かに目を伏せて、見上げる。

「なら、君の首輪の手綱(ちゅうせいしん)は、我らが聖女様が握っている、として、いいわけだよね?」

「・・・・・。」

 その言葉は、いつもの定番にはない。クロウが訝しげな顔をしてフェルナンドを見返す。

「何が言いたい。」

「もう一つ大事な報告を聞いていてね。」

 フェルナンドが目を細めた。

「かの、亡国レグラリア。『シキジマ』と双璧を成すといわれた『刀技』の純血種、オブシディアン。」

「てめぇ・・・。」

 一瞬脳裏に浮かんだ姿に、ゾワリと、クロウの怒気と殺気が一気に膨らみ、フェルナンドに向かう。その剣気に当てられたフェルナンドの副隊長である双子姉妹が、思わず剣の柄を握りしめた。

 そんな彼女らを、フェルナンドは手を振って制して、飄々とした表情のまま、クロウを見据えた。

「黒曜石の姫君、随分懇意にしている、よね?」

「・・・だからなんだよ。今この場で言うことじゃねぇだろうが。」

「言うべき事でしょうが。そんな大事な立場にいた程の人物だよ?所在の把握と、行動の周知は共有事項として挙げとくべきでしょう。」

「今回の事にあの子は関係ない。ほっとけ。てか、今現在の議題には関係ないだろう。」

「うーん・・・」

 クロウの反論に、考え込むような演技を見せて、フェルナンドは一瞥する。

「彼女が、その存在にせよ武力にせよ、我軍誇る白銀の大隊長殿を制する唯一の存在ってダケでも、大分大事なことじゃない?」

「・・・・・。」

「なにより、さ?」

 フェルナンドが酷く真摯な顔で、でも眼は確実に嗤った様子で、クロウを見据えた。こういう時は、大概、碌な事を言わないが・・・。

「『人災』が一人、アルベルト=ルデラック。」 

「・・・・・。」

「知ってる?彼・・・」


   ─── あの子の、ムカシノオトコ、らしいよ?


 ざわざわと秒刻みで上がっていたクロウの殺気が、


「・・・てめぇ、本当に死にてぇらしいな・・・。」


 その瞬間、最高潮に達する。






quiesce(とまれ)



 クロウが動き出そうとしたその瞬間に、ファウスト翁が指先を振る。同時に発せられた言葉は、人には理解できない発音であり、魔力を介してクロウの動きを縛りつけた。

「落ち着け、小僧。これ以上、一々会議を止められてはかなわん。」

「止めるのは下らねぇ事捲し立てるアッチの舌じゃねぇのかよ!」

「必要なら事なら致し方あるまい。」

「ナニが必要なことだ!」

 ファウストの力で動けないとしても、それでもクロウの剣幕は凄まじく、ビリビリと会議室内の空気を揺らす。大隊長等はともかくとして、第四大隊以外の副隊長達は全員背中を汗でびっしょりと濡らしていた。

 そんな中、一人緊張感がないかのようにニヤニヤと唇をつり上げたフェルナンドは、大隊長達が座る椅子により深くかけ直した。

「あぁ、ごめんごめん!間違えた。アルベルト=ルデラックの正体、ね。」


「彼は、オブシディアンの元従者だ。」

「・・・・・!?」

 その言葉に、ハッとしたようにクロウと、背後の二人も眼を見開く。

「さて、そんな彼がオブシディアンの姫君を見つけた場合、取るべき行動はどういったものだろうねぇ?想像できないや!」

「・・・・・。」

 にんまりと笑うフェルナンドに、クロウはギリギリと、奥歯を噛み締めた。想像なんざ、容易にできる。間違いなく、直系のオブシディアンとして祭り上げる。その先を彼女が望む望まないに関わらず、それを旗印に祭り上げて、自身の目的の為に悠々と利用するだろう。

「幸い、第四大隊長自ら、彼女の『動向把握』は行なってくれてたから?彼女自身には『人災』との関わりが無いことは証明されてはいそうだけどね。」

「───・・・。」

「それでも、利用されうる人物であるのは否定できない。」

 わかるだろう、と、目くばせを送られれば、クロウとてそれ以上は何も言えずに黙るしかない。ビクトルも、小さく頷く。

「それに関してはフェルナンドの言うことが一理ある。アルベルト=ルデラックの動向が不明である以上は、目下シオン=オブシディアンの身柄を押さえるのが、必要だろう。」

「わざわざ巻き込む必要はないだろうが!」

 ビクトルの発言に、ファウストの魔力拘束が解除されたクロウが思わず立ち上がるが、


「一番巻き込んでいるのは、どちらさん?」


 フェルナンドの言葉にクロウが一瞬息を飲む。言われている意味が解らなくて、でも、

「まあ、切っ掛けは何の意図もせずコッチが向こうを利用したことが始まりだけど?」

「・・・・・。」

「そこから、偶然が偶然を呼んで、どうにも関わり深い縁になっちゃったんだよねぇ。そうしているうちに、まあ、友達として?君はシオンちゃんに絡んでいってるみたいだけど?」

「・・・・・。」

「ただ、見る人が見ると、偶然なのかって疑ってくる事も多いみたいだよ?」

「な、にが・・・」

「『ルミナスプェラが、軍を使ってオブシディアンを抑えようとしている。』隣国から見れば、そういう扱いにはなっているね。」

「・・・・・。」

「もしくは、オブシディアンの生き残りの姫君が、失われた亡国を復活させようと、手駒になりそうな人物に?色仕掛け、なんてのも、あるね。」

「―――・・・ッ!?」

 眼を見開くクロウを、探る様な目つきでフェルナンドが見上げる。

「君も、君のかわいこちゃんも?存在価値がデカすぎるんだよ。そんな二人がじゃれ合っているとなると、まあ、色々な方々が無視できないって事、なんだよねぇ。」

「そ、ん・・・」

 思わず絶句したクロウを、ハルオミが心配そうな顔で背後から見つめる。リシリィがそれ以上を牽制する様にフェルナンドを睨むのが見えて、彼は更に楽し気に笑った。

「隊長以下、第四大隊の面々にも気に入られているみたいだし?まあ、うちの甥っ子しかり、田貫と班田しかり、中々姫君は人心掌握に長けているって評価もあるよね。むしろ大丈夫かなぁ、うちの軍は。」

 

 大げさにフェルナンドが演技をして見せれば、いい加減にしろ、と、ビクトルがその頭をパシリとはたく。そして、ふうっと一つ大きな息を吐くと。

「シオン嬢には協力を依頼しよう。まず期間は二週間ほど軍の隔離施設に身を寄せてもらう。以降は第二大隊が彼女の護衛を含め行動把握を行う。その上で、第三・第四大隊合同で、リュウシン=シキジマ・アルベルト=ルデラックの動向調査、および可能な限りの目的・計画の排除を目指そう。」

「・・・・・。」


 主席大隊長として、ビクトルが提示した作戦に、

『了解!』

 その場の全員が短い返事をして、会議は終了した。









 会議後の廊下にて・・・


 フェルナンドが大きく肩を落としているのを、エリザベッタが見つけて声をかける。

「悪かったな。一人悪役にさせて。」

「ほんと、幼気いたいけな若者を虐めるのは、胸が痛かったよー。」

 フェルナンドがそう言って困った顔をして笑う。

「あれ、完全に『恋は盲目』じゃん。だって『オブシディアン』だよ?見逃す、なんて普段のクロウくんならありえないでしょ。その存在確認だけで重要案件もいいとこじゃん。」

 少し遠い眼をして、フェルナンドが肩を落とす。その姿は、クロウに幻滅した、というよりも、そこまでの相手を見つけた彼への、その姿勢を、結果として彼を責める理由にしたことへの罪悪感の現れでもあった。フェルナンドとて、別に二人がキライなわけではない、ましてや好ましく思っている。できるなら、少しずつこうやって二人が心を通わせて、いつか花開くことになればいいと思っている。無論、エリザベッタも然り、だ。

「・・・オブシディアン、としては少しも見ていない、ということだろう?お前の言ったとおりだ、盲目。ただ、それゆえに、彼女もあそこまで心を許しているのだろうよ。」

「・・・そりゃ、否定しないけどさぁ?・・・手を出すにしちゃ、ちょーっと高嶺の花すぎない?」

「別に今は四ツ名の貴族ではないからなぁ。過去がどうであれ、ルミナスプェラでは受け入れられるコトだと信じているが。」

「まあ、世知辛い世の中だからねぇ・・・。」

 様々なことを考え、考えて考えて、そのすべてが杞憂でさえ、あれば・・・


「誰も彼も、二人をほっといてやればいいのにねぇ・・・。」

 と、フェルナンドは、重苦しい息を吐きだせば、

「誰よりも、お前にほっといてほしいだろうよ、シキジマ大隊長は・・・。」

「あ、そりゃ確かに。」

 エリザベッタが苦笑して指摘したことを、フェルナンドは納得したように頷いた





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