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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season1

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37/76

EP.番外:天河石(アマゾナイト)④





 酒の入った徳利だけ手に持って、階段を上がる。

 先程までのペースを乱されるようなやり取りも、苛立つ空気もなくて、やっと望んでいた時間を得られたと、クロウは頬が緩むのを隠さない。

 

 玄関を空けて廊下を真っ直ぐ行けば、暖簾の先にその先が8畳程の台所になる。三口のコンロと流し、小さな食器棚、使い古された木製のダイニングテーブルと、椅子が四脚・・・


 そして、暖簾の下から覗く

 

 足が、4つ。



「・・・・・。」

「あれ?」


「あ、来た来た。」

「やっほー、シオンさーん」


 ダイニングテーブルの上には手土産代わりに持ち込んだであろう日本酒と焼酎の一升瓶が2つずつ未開封の状態で置かれている。それ以外に缶酎ハイの空缶が七つ八つ転がっていた。ハルオミが、真っ赤な顔してダイニングテーブルに身体を預けているのはそのせいだろう。

 クロウは呆気に取られたような顔で、二人を見据える。

「・・・え?何?なんで手前ェ等は家主の許可なく上がり込んで酒かっくらってんの・・・?」

「いやー、僕等遅番だったんですよー。」

「知ってるよ。勤務考えんのオレだよ。」

「うん、アンタこの祝日前夜の休み、絶対シオンさんとこ行くだろうなって。」

「わかっててなんで来んだよ!嫌がらせかよ!」


「そうですよ?」

「・・・え?」


 不意に、身体を起こしたハルオミの眼が、見開かれる。瞳孔が、収縮し、完全に殺気と怒気が入り混じった顔で笑っている。

「ずっとずっと言おうと思ってたんだけど、ね?」

「・・・・・。」

「アンタ、この間、ふらっといなくなったと思ったら昼前だっつーのに、『今から有休とる』とか、ふざけた電話かけてきた時あっただろ?」

「・・・・・。」

 唐突に突き付けてきた出来事。明らかに思い当たる事柄に、クロウの背中には、一筋の汗が伝う。

「その後のコッチ、どれだけ大変だったと思う?午後のアンタの予定代行して、自分の仕事こなして、足りない人手を第一大隊長んとこ頭下げにいって?」

「・・・・・。」

「しかもその日、例の日のラディアン警備人員配置図の提出期限だったの忘れてただろ?」

「あ・・・。」

 今、思い出したと言わんばかりのクロウの表情に、ハルオミが露骨に舌打ちしてこめかみに青筋を浮かび上がらせる。

「今更か?今更だなアンタ。第三大隊長に嫌味言われながら作ったのオレだクソッタレ。」

「・・・す、すみ、ませ・・・。」

「おかげで、オレの夜のプライベートはキャンセル。アンタが昼間っから職務放棄してお目当てとしけ込んでたせいで、オレは彼女と今月唯一の予定だったデートもホテルもキャンセルだド畜生が。」

「・・・ひ。」

「プライベートではしばらく顔見せんな、だとよ。オレの大事な大事な『三ツ名』が『二ツ名』になったら、しっかり落とし前つけてもらうからな?」

「・・・・・。」

 一応、一度付けた三ツ名は、原則は取り消せないハズではあるが、もはやそんなんことを口に出したところで、今のハルオミには火に油を注ぐようなものだ。

 もう、何も言わずに、クロウは静かに台所の板間に両膝を付いた。

「・・・本当に、本当に、申し訳ございませんでした。」

「ごめんで済んだら軍(オレ達)はいらねぇ。」

「・・・ご、ごもっともでございます。」

 今までにないハルオミの激昂っぷりにに、正座になったクロウがどんどん青く、小さくなる。

 シオンも、一応誘った方として、一抹の責任を――と、いうか、ハルオミの被った被害と、あまりの怒りっぷりに身震いして、小さく謝罪の声を上げる。

「ハ、ハルごめん、その、俺も、何も、考えず・・・。」

「いやいや、シオンさんは全然悪くないですって!悪いのはこの、自身の仕事の把握も管理もせずに、欲求そのままに行動したクソ野郎!ですから。」

 ハルオミは赤ら顔のまま、シオンへはいつも通り変わらない笑顔を向けてぶんぶんと手を振りつつ、クロウを思いっきり、突き落とす。

「・・・・・。」

 けなされるがままに、うつむいて黙って受け入れるクロウを尻目に、ただ、と目の座ったハルオミが空いていない缶酎ハイのプルトップを開ける。

「まあ、ただ?今度から?ぜひ?一報頂けると、同じ鉄を踏まないですむ、かなぁって?」

「・・・親爺のところから必ずかける。」

「あっは!助、かり、ますぅ!」

 土下座するクロウを、ハルオミは容赦無く足蹴にしながら、シオンににこやかな笑顔を見せた。眼は少しも笑っていないが。


 ちなみにリシリィは、というと・・・

 同僚の鬼畜ッぷりと、上司の残念っぷりをしっかりと写メにとり、

「どうする?ハル。共有L●NE、晒す?」

「・・・・・。」

「オレんとこいらない、アイツ単独で。一応面倒見の良い、優しい健気な副隊長で通してるから。」

「おっけー。」


「・・・・・。」

( ・・・やべぇ、コイツ等、怖ぇ・・・。 )

 シオンはふるりと震えた。








「ま、そういうわけで・・・!」

 ダイニングテーブルから、隣の8畳一間へ移動し、恐怖の二次会が始まる。

 すっかり出来上がっているハルオミを、戦々恐々とした顔でシオンは見つめつつ、味のしない日本酒を舐めた。いつも通りの顔のリシリィには、もはや感心しかない。


 クロウは、というと・・・


「・・・・・。」

「まさか帰るとは言わないですよね?」

「・・・・・。」

「針の筵のまま『あの子』に散々恥じ晒しまくった挙句、精々泣いて反省してください、本当に。」

「・・・・・。」

 もはや厄日というしかない状況に、膝を抱えたまま顔を伏せてうんとも言わない。

 ただ、この状況に一番堪えているのは、

( 俺・・・、どうすれば、いいの・・・。 )

 シオンは小さく米神を抑える。針の筵なのはもはや自分も同じだ。本当なら、今頃、余った食材で簡単に何か作ると言ったクロウに台所を任せて、のんびり日本酒に舌鼓を打っているころなのに・・・。

 シオンは、ふと、あごに手をあてる。

「あ、のさ?」

「はい?」

「とりあえず、アイツ台所に立たせてもいい?」

「台所?」

 きょとん、とした顔でハルオミとリシリィがシオンを見る。

「元々、親爺のところで余ってた食材もらってきたから、何か作ってもらうつもりだったんだ。お前らも少し腹に納めれば、さ?」

「へェ・・・?」

 ハルオミが少し馬鹿にしたように笑って、



「アンタがまともに料理ができたってこと、初めて――・・・。」


 ふと・・・、考え込む。


「・・・じゃないね。」


 リシリィも、思い当たる事があるのだろう。物思いにふけるハルオミの方を見ながら、目を細めて小さく笑う。

 

「まぁ・・・、そんな、大したもの、作れないし・・・。」


 クロウが、ぽつりとバツが悪そうに呟いて、立ち上がったまま、台所へと消える。


 ぱたんと閉められた襖。

 ふとシオンが考え込むハルオミを見ながら、

「アイツ、よく作るの?」

「・・・そんなに作りませんよ。基本、ほとんど仕事ばっかしてるんで。」

「そうなのか?」

「元々、もっと淡々としてたから・・・。」

 リシリィが頬杖をついて、過去を見るように遠くを見た。

「あんまり、食べたり、呑んだりしている印象無いね。基本仕事してるか、殺伐としたコト、してるか。」

「『毛色が違う』ってよく言われてるでしょ?」

 不意に、ハルオミがため息交じりに言い放つ。

「・・・・・。」

 シオンもよく耳にしていた。クロウを説明する時に使われる言葉。人は基本的に『東方種』『西方種』『中央種』の三種に分類され、それらが混ざり合う様にして多種多様な人種が生まれた。その中に置いて、人だけなら、決して現れない、白銀の髪と緋色の瞳。



「あの人、魔人と人との相の子です。厳密には、その子供の、子供。」 



「ハル・・・。」

 少し咎める様に眉間に皺を寄せたリシリィがハルオミを制するが、ハルオミは首を振る。

「ずっと、言わなきゃって気にしてたの、知ってるんで。だからオレが言ってやるんです。嫌がらせ。これは。」

 そう言いながら、ハルオミが、もう元の彼に戻っているような気がした。シオンが静かに彼を見つめる。ハルオミが軽く目を伏せる。

「一目で違うってわかるでしょ?そのせいで散々嫌な思いしてきたのに。あの人、今までほとんど気にしなかったんですよね。」

 缶酎ハイを軽く振って見せる。

 残りを気にするフリをしながら、もうほとんど口を付けていなったのをシオンは知っている。

「だから、自分に魔人の血が流れてるってのも、誰にでも簡単に言ってたんですよ。まあ、大方、それで皆離れていきますから。でも、それすらもどうでもいいって感情の揺らぎが少ないみたいに淡々としてるんです。」

 ふと、以前クロウがつぶやいていた言葉を、思い出す。



『 オレの外見なんかも迫害のいい例だし。  』



『 所詮、世界はまだまだ人の物、だよ。 』



 吐き捨てる様な言葉には、彼自身が体験してきたことが乗せられていたのか、と。シオンは小さくうつむき、眼を閉じた。

「誰がそばにいても、誰が離れても気にしない人だったけど。だけど、そばにい続ける人間は少しずつ覚えてくれるようになって。」

「そっか。」

「てか、僕等の名前覚えるのだって半年くらいかかってんですよ、あのバカ。他人気にしなさすぎです」

 そう言って、不意に、あっと、小さく呟く。

「そうか。そうだ、その時だ。」

「ん?」

「その日、仕事立て込んでて、僕もリリも一日、碌に飯食う暇もなくて。」

「・・・・・。」

「そんな時、あの人、ふらっといなくなったと思ったら、10分くらいで戻ってきて、ね?」

「うん。」

 ハルオミの言葉に、リリが珍しく頬を緩ませる。二人で何かを思い出したように、笑う。


「「親子丼!」」


「・・・へ?」

 二人が声をそろえたセリフが、あまりに予想外過ぎて、シオンは眼を見開く。思い出したら、と、言ったように二人が大きく肩を震わせる。

「まだまだ仕事残ってるのに!あの人何もってきたかと思ったら、ガッツリ親子丼作って来たんですよ?」

「そんなの食べたら寝るに決まってるじゃない?なのに、何も食ってないからって。少し眉根寄せて、さ?命令だって。そんな命令、聞けるわけないじゃない?」

「そうそう。でもせっかくだからって、二人で食べて・・・。そうして案の定、おなか一杯になって、僕ら二人そのままボスの部屋で爆睡。」

「結局仕事は、ボスが一人で貫徹して終わらせるっていう・・・。」


 あの時、クロウの部屋のベッドでリリーと爆睡して、絶叫しながら目が覚めた二人を、



  『 ・・・おはよ、ハル、リリ。 』



 眼の下にガッツリ隈を作った状態で、資料の山に突っ伏しながら、何でもない様な顔で初めて二人を呼んだのがその時だったらしい。その時のクロウの表情はなかなか面白かったと二人で笑いをこらえる。少しでも食べさせなくてはと、焦って準備して食わせたら、爆睡されて。でも、そんな二人を起こすに起こせず、結局そのまま寝かせていたらしい。

 思い出し笑いを、結局こらえきれず、ハルオミは腹を抱えて笑い出す。

「も、ホント馬鹿だあの人!」

「―――っ!」

 リシリィも肩を震わす。

「そ、そういえば・・・」

 リシリィが、思い出したように、あれあれ、と手を振る。

「フェルナンドさんが買ってきてくれたお土産!」

「・・・・・。」

 今日知ったばかりの面倒な名前が早々に出てきて、シオンは思わず顔をしかめる。

「シオン、知ってるの?」

「・・・今日ちょっとな。」

「へえ?いい人でしょ?面倒見が良くて。」

「・・・正気か?」

「酒飲まなければまともよ?酒飲んでるときは近づかない。面倒くさいから。」

「あ、なるほど・・・。」

 ここまでお酒の有無で評価が変わる相手も珍しいな、と思いながら、シオンが納得する。

「フェルナンドさんのって、確かドライフルーツとチョコレートのやつね。」

「早々、どっかのお土産って言ってたけど、うちのボスだけ食いっぱぐれたって話。」

「しかも目の前で!」

「あの時の顔が、ちょっと、思い出すだけでも・・・!」

 そのままうずくまって床を叩くハルオミと、そのハルオミをバシバシ叩いて身体を震わすリシリィ。そしてそのまま起き上がったハルオミがひーひー言いながら、

「なによりさ!後日、共有の台所でなんかしてんなぁって思ってたら、作ってるの!試行錯誤して!似た様なもの!」

「してたしてた!わざわざ休み使って何してんのかって思ったホント。やることなくて・・・とか言ってた。」

「アイツ、あの時の休みが数か月ぶりの一日フリーなのに!やることないって!」

「てか、今まで休みの日に何してたんだよ、ホント――・・・」

 はた、と二人が止まる。


 顔を見合わせて


「・・・仕事。」

「・・・仕事だ。」

「それこそ、フェルナンドさんが勝手に振り分けてきた仕事、単独でこなしてたわ、あのバカ。」


 あ、と思い出して、散々笑っていた二人が、はぁ、っと重いため息を吐く。


 確かに、さっきも階下で似た様な話をしていた、とシオンは首をかしげる。

「休みの日まで、こなしてた仕事って?」

「・・・まあ、休みのフリして市中の掃除、みたいな奴ですかね。」

「・・・は?」

「シオンさんも知ってるかと思いますが、この街の治安って、場所によってはちょっとイマイチ、なんですよね。」

「まあ、そうだな・・・。」

 浮かんだ顔に少し眉間を寄せる。街の治安を守る者、というには少々柄が悪すぎる連中ばかりだったし、実際の行動も治安を脅かす方が得意そうだ。実際、シオンも何度かもめた挙句、お互いが不干渉という状態に落ち着いている状態だ。

 ハルオミがうーん、と悩む様に頭を抱えて、

「一応、ね?おいおい国としても動く予定なんですが、治安維持は街々に任せていたところもあるんで・・・。」

「・・・・・。」

「ちょっとその辺りをどうするかって上でも考えてるみたいで。でもやっぱ待ってられないって時、あるじゃないですか?」

「そう、だな・・・。」

「そういう時、いわゆる、プライベートで出くわしたってことにしちゃえば、どうにでも都合つくんですよね。」

「・・・そういうこと、か。」

 納得したように、シオンが頷く。

「フェルナンドさん、そういう悪知恵上手だから。うちもボス利用して、うまく大事になる前に抑えててくれてるとこもあって・・・。」

「・・・・・。」

「しっかり勤務表も休日ってトコ使って。むしろ、ボスの場合、そういう事になりそうだから休日ってことにしてて。」

「それはもはや休日じゃねぇよ。」

「まあ、そういうことですよ。だからあの人がマトモに休むのって、年に数えるくらい、なんですよね。」

「・・・・・。」

「なーのーにー!この数ヶ月は、やれ有休だの、休みの前日は早々に切り上げたいだの・・・。人並みに、文句いうようになったのは、やっと、『何かしたい』って思いが、出てきたって、ことなんでしょうけど、ね。」

 じとっと、少し恨みがましいような、だけど決して怒ってはいないような、複雑な視線をハルオミはシオンにむける。リシリィも同じようにシオンを見つめるが、その眼はいつも通りどこかやさしかった。

 思わず目を瞬かせたシオンだが、二人を交互に見ながら

「別に、何もしてねぇぞ・・・?」

「そうですね、しいて言えば、そばにいた、くらいでしょうか。」

「は?」

「仕方ないよね。見つけちゃったんだから。」

「何を?」

「さすがにその答えを言うほど、僕等も野暮じゃないですよ。てか・・・」

 ふと、ハルオミが首を傾げる。


「遅くありません?ボス・・・。」

「そういえば・・・。」


 不意に、台所に消えた存在を思い出して、三人で顔を見合わせる。そのままこっそりと襖を開ければ、ダイニングテーブルで、あーでもないこーでもないと何やら紙面を開いて苦悶するクロウの背中が見える。

 その向こうのガスコンロの上には、鍋の中で何かがくつくつを音を立てており、また、隣のフライパンには、茄子とひき肉が味噌で炒められたものが湯気とともに良い匂いを立てていた。

 不意に、ハルオミとリシリィの腹の虫が鳴る。

「・・・・・っ!」

 その音に、びくっと肩を跳ねさせたクロウが、恐る恐る三人の方へ向き直れば、ハルオミとリシリィがジト目で彼をにらむ。

「飯テロ。」

「出来てんなら早く持ってきてくださいよ。腹減ってんだからこっちは。」

「・・・はい、すんません。」

「俺、やるから。皿の場所とかまだわかんねぇだろ?」

「・・・・・。」

 クロウがテーブルから立ち上がろうとするのを、制して、シオンが、食器棚から小皿を人数分取り出す。味噌炒めは大皿に盛り付けて、鍋で煮えていたのは根菜と牛肉の煮物だったから、それはせっかくなので温かいまま深皿にそれぞれの分をうつす。

 予備の箸を三人分取り出して、順番に八畳間のテーブルへと運ぶ。ついでに缶酎ハイの空き缶をビニールに移しながら、ハルオミの了解を得て持ってきてもらった日本酒を癇につける。お猪口四つはないから、自分の分を湯呑で代用する。

 そうやってシオンが手際よく準備している間、クロウは、紙面に何かを書き込んでいる。そうして・・・。

「ハル、リリ・・・。」

「なんですかー?」

 クロウが、紙面を彼らの目の前で広げなおす。

「ココなら多分調整きく、てか、調整すっから。建国祭があるから、それ超えて・・・。ちょっと先で悪いけど。」

「え?。」

「ここ。ここなら連休、二人でいけるから。」

 いくつか赤字で修正された箇所の、中でも、後半の二日に赤丸しるしがついている。

「え?」

「・・・マジで?」

「一応、マジですよー。」

 後頭部を掻きながら、クロウが八畳一間の畳に腰を下ろす。そうして、二人に深々と頭を下げた。

「ほんと、申し訳ありませんでしたー。」

「・・・・・・。」

「君らが頼りになりすぎて、正直、がっつり甘えてました、すんません。」

「・・・甘えすぎ。」

「はい、すんません。」

「僕らは所詮、副隊長です。ボスは、アンタだ。」

「本当、すみませんでした。」

 ふう、とハルオミが一つ息を吐く

「僕らも、ちょっと勘違いしてました。今まで淡々と仕事をこなしていたアンタと、今のアンタは違うってこと。」

「・・・・・。」

「アンタの中でも優先順位が変わってるってのを、間近で見ているハズなのに、ちょっと失念してましたわ。」

「ハル・・・。」

「それでも!当日突然の有休消化は沈着冷静な考慮をお願いします、ええ、ホント。」

「はい、すんません・・・。」

 素直に謝罪する自分の上司に、ハルオミがようやく肩の力をぬいて向き直る。そして、

「さ、お腹空きました!」

 卓袱台に広げられた飯に向き直れば、シオンが

「一応、白米もあるけど、どうする?」

「いただきます!」

「私も欲しい!」

「・・・定食屋かよ。」

 ニコニコ顔で茶碗を受け取るハルオミとリシリィに、クロウが呆れた様な顔で、ようやく日本酒を口にする。

「仕事終わってからなにも食わずに酒かっくらってましたから。」

「はいはい、ごめんなさい!」

「シオンさんも、迷惑かけました。」

「いや、むしろ悪かったな。」

「電話は本気ですので。」

「・・・あ、はい。」

 ニコリと笑うその顔が怖くて、シオンは思わず丁寧に頷く。そのまま、勢いよく飯をかき込むハルオミとリシリィは、出されたものをおかずに、白米を三杯平らげ、食べ終わるや二人で早々に退散していった。


 ようやく静かになった部屋で、

「・・・なんなんだよ、今日は。」

「それは、こっちの台詞だ・・・。」

 八畳一間で転がって、でも、ようやくこれで・・・、と、クロウが小さく含み笑いをしていると。

 やけに静かになった室内の、すぐ隣で、小さく寝息を立てるシオンの様子が見えて・・・


「・・・・・。」

 壁の時計は、日付を超えて大分経過している。これは、もう・・・

(今から起こすよりも、いっそ起きたら買い出し行って、昼間から飲み始めた方が、正解、か・・・)

 そう開き直ってクロウは一つため息を吐き、肩を落とした。本当なら、シオンをベッドに運んぶのが良いのだろうが・・・と、少し思案する。

 そして、寝室にお邪魔して、そこから掛け布団を一枚拝借した。そのまま、畳で転がっているシオンに掛ければ、自分も上着をぬぎ、シャツの胸元を緩めると、その横へと潜り込む。

 今日はあまりに色々ありすぎた。いや、後半は確かに自業自得の件もあれど、それでも、少しくらい良い目をみたい。

 自分の、そんな欲求に素直に従って、クロウはスヤスヤと眠るシオンに腕枕をするように首下へ腕を通して、そのまま、軽く抱き込む様にして身を寄せる。普段じゃ決して許されない距離で、シオンを見る。その顔に掌を充てがうと、うっかりムラムラと沸き上がる邪な感情を無にした。強引に目を閉じて、小さく

「・・・おやすみっ。」

 投げやりな挨拶だけこぼせば、何となく直ぐ側の顔が、ふんわり笑ったように見えて・・・



「・・・あー、もう、なぁ・・・。」



 クロウは、強引に、目を閉じた。






 余談だが・・・


 言うまでもなく、翌日シオンにはしっかりとフルタイムのシゴトが入っており、早々に起きては準備を整える姿に、『仕事とオレと、どっちが・・・』なんて定番の台詞を、クロウは一生懸命飲み込む羽目になった。


 ただ、その一方で、昨日の残りを、朝食代わりに平らげたシオンが、『ご飯、凄い美味かった!』と満足気な顔で出て行ったことに関しては


(・・・彼女かよっ!!)

と、浮つく気持ちを、己の中で突っ込みつつ・・・。



 取り敢えず、二度寝のために、(家主の了解を経て)そのまま布団の中へと潜り込んだ。

ブチ切れたハルオミが、仕事中の自分に被る。この間普通に『ふざけた指示出すんじゃねぇくそったれ』とか言ってたわ。

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