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Lapis-landiA  作者: 八広まこと
Season1

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28/74

EP7.:灰簾石(タンザナイト)①







「まぁ、俺らも知らない中じゃねぇだろ?」


 一見すると、涼し気な良い男が、床に転がされて壁にもたれる酒屋の親爺、ことグゥエイン=サカザキに視線を合わせて笑う。どう表現したところで、客を床に転がすような状況では、その場所の質が問われるだろう。

( ましてや、それがこの街の治安部隊の詰所たぁ・・・。 )

 世も末だと、小さくため息をはく。

 齢60を越えた体に容赦無く暴力を振るった痕が浮かぶ。



 開店準備にはまだ早いと、早々に一杯やりながら、煙管に火を入れたところだった。昼間の番組はろくなものがないと、チャンネル片手にしたところで店の引き戸があく音がした。

 シオンかとも思って、親爺はゆっくりと、立ち上がり、店まで出ていく。

「どうしたシオン?早ぇ───」

「邪魔してるよ、サカザキ。」

 どこかで聞いた声だと、思った。ただ、懐かしい思いはかけらも出てはこなかった。できるコトなら会いたくなかった。そんな感情が顔に出た。

「お前はこの町にいたんだなァ。」

 オレはつい最近、この町に呼ばれたんだ、と聞いてもいない事を喋りながら、涼し気な目元を細める。

「町の長から治安部隊の隊長職に誘われてな?」

「・・・・・。」

「先週着任したばかりなんだが・・・、早々に建国祭の警護なんざぁ任されるとは、まあ、やるしかねぇよなァ。」

「・・・そうかよ。」

「とはいえ、この国は随分軍が色々やらかしてんじゃねぇか。コッチには碌な予算も回っては来ねぇ。」

「・・・・・。」

「だからな?まあ、守られる立場の方々にも協力を仰ごうと思ったわけだよ。」

 スッと出してくる一枚の紙には、『建国祭警備目的の費用について』と記載がある。その一文で、サカザキは察した。要は金の無心だということに。年月が経っても変わらない。今この男はいくつになったか、と、外見だけはまともに見える西方種の男――アレス=フェデリオに目を向けた。自分よりは下でも、それなりの年齢であったはず。40か、そこらか。まあ、本人に変わる気がなければ、それはもう年齢ではなく、どうしようもないことなのではあろうが。

「帰ってくれ。」

 サカザキは、スッと紙を付き返す。

「アンタはまだ知らねぇかもしれないが、うちはアンタらと縁がねぇんだ。」

「ほお?詳しく聞いてもいいか?」

 サカザキの態度を、特に起こりもせず、アレスは笑みを浮かべたまま首をかしげる。

「なんてこともねぇ、ただうちはうちで何とかやってる。アンタらは今まで手出しも口出しもしなかった。それだけだ。」

「オレとアンタのなかじゃねぇか。」

「おいおいおい、すでに10年近く経っちまってるんだぞ?しかも、ただ同じ部隊だったってだけだ。特別なつながりはねぇだろう。」

「アイツもいるんだってなァ」

「・・・アイツ?」

「シオン、さ。」

「・・・・・。」

「この街にいると聞いた。どこにいて何をしてるんだ?お前なら知ってるだろう?」

「・・・言うと思うか?」

「思ってはいない。」

 スッと目を細めて、アレスは、

「でも、きっとお前のことだ。手放してはいないのだろう?」

「・・・・・。」

「場合によっては、まだお前とは縁深い可能性はある。ならここで・・・」


   ―― お前に手を出す理由も、わかるだろう?


 瞬間、ざっと入ってきたのは、この街の治安維持の為に集められた男達だ。

ざっと10名。どの顔も、どこかすさんでいて、まともな職業に付けるとは到底思えない顔をしている。

 元々は、そういった掃き溜めに暮らす荒くれ共に首環を付けるのが目的ではあった。しかし、想定よりも厳つい男たちに、首環の鎖を持つべき人物が徐々に懐柔された。結果として、賄賂や汚職が横行する場所となったが、反して腕っぷしだけは強く、街の管轄としての権力を与えてしまうこととなり、手に負えない集団ができてしまった。

 そこに、なんの繋がりかは知らないが、この男が、アレス=フェデリオが来てしまった。

 人外戦争下にて、戦争に従事していた。剣の腕もまあ、悪くない。ただ、やっかいなのは、戦争参加者であることをかさに着て、或る意味やりたい放題していた事だ。近隣の村に出向いては従軍を盾に、女を要求する。何度か諫めたこともあったが、そんな彼を慕い甘い汁を吸おうとする連中だけは多かったから、正直性質が悪かった。

 そんな中、現れたシオンに、彼らはこぞって浮足立った。確か18歳頃の、まさに瑞々しい美しさが際立つ娘だった。しかも、元々はどこかの貴族だったという。そんな少女が、獣だらけの檻の中に放り込まれたのだ。

 たとえ少女といえど、従軍する仲間だからと、サカザキはそれとなく彼女を見守ったが、すぐに、余計な心配だったと悟る。彼女は恐ろしく強かった。早々に力づくという手段を取ったアレスたちに、目が覚めるような美しくも冷たい眼をして。当時18歳の少女は、全員をなぎ倒したのだ。東方種の『刀』扱う種族がいくつかあるとは聞いたが、まさしく彼女はその中の一つだった。


 ただ、それでもアレフはあきらめず、あの手この手で彼女を物にしようと画策した。しかし、結局は戦争終結とともに彼女は所在が分からなくなってしまったのだが・・・。


「まだ、諦めてなかったのか。アイツぁもう30超えたぞ?」

「それもまたいいだろう。いっそお前のお古でも、いいさ。あんなに匂い立つような綺麗な女は早々いない。いるなら探し出して、是が非でもヤッてみたい。」

「シオンにとっちゃぁ、最悪な野郎だな・・・。」

「関係ないな。」


   ―― で、知っているだろう・・・?


 アレスは確信を持った顔でこちらを覗き込む。

 サカザキが、出会い頭にシオンの名前を出したことを思い出して、舌打ちする。

 そもそも、シオンは過去に治安部隊の連中といざこざも起こしている。もはやこの男にシオンの存在を知られるのは時間の問題だろう。ただ、それでも・・・

「知らねぇ。」

「そういうと思ったよ、グゥエイン=サカザキ元隊長。」

「・・・・・。」

「アンタならきっとそう言ってくれると思ってた。これで大手を振ってアンタを甚振れる。街の治安を脅かすでも、何でも難癖をつけてでもな。」

「難癖つけるなら理由なんざ必要ねぇだろうが。」

「そこは、まあ、腐っても治安部隊、だからなぁ?面目は立てさせてくれよ。」

「立つか馬鹿野郎。」

「さあ、詰所でゆっくり聞かせてくれ。『アイツ』の所在をな?」

「お前と話なんざ虫唾が走る。」

「安心しろ、オレもお前が嫌いだ。」 

「・・・・・。」

「『あの女』共々シオンの周りをうろちょろしやがって。散々邪魔してくれた礼は、いつか返したいと思っていたよ。」

 物騒すぎる話をしながら、サカザキは、何とかクロウに情報を残せないかと考える。それよりも、今ここでシオンが来る可能性の方が圧倒的に高い。そこからでも、クロウに何かしら情報を知らせてくれれば、いいが、最悪のパターンは今ここで鉢合わせすることだ。

( まぁ、きっと数日もすれば、小僧も気付くだろう。 )

 アイツの事だ、シオンが絡む内容だと分かれば

、迅速に適切に、対応してくれるだろう。

( まあそこまでオレの命があるかどうかは、別だろうけどな・・・。 )

 それでも、以前ほどの心配や焦燥感が、グゥエイン=サカザキの中にはなかった。今のシオンの周りには、第四大隊の彼らがいる。きっと誰も彼女を一人にはしておかないだろう。最悪、自身の死が、シオンの安全を確保できる手段にもなりえる、なら―― アイツになら、安心して、『大事な娘』を託せる、と、笑う。

「・・・何がおかしい?」

「いーや、アイツも大概面倒なのにつかまったなぁ、てな。」

 今ので、自身とシオンのつながりを示すような意味にもなるが、もう、それはそれで大丈夫なのだと、




 酒屋の親爺は朗らかに、笑った。







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