EP6.:紅石英(ローズクォーツ)⑤
時間は少し戻って・・・。
公開剣技会で、柔剣道場での演目が全て終わってから、少し経過した頃。
リュウシン=シキジマは、すぐそばの模擬店の前に立っていた。串焼き、綿飴、ドリンクと賑わう中で、
「さて、どれにしようか・・・」
と、周囲の人間同様、リュウシンは悩む楽しさを味わっていた。少し小腹が空いた、と。串焼きの屋台に、並び、鶏肉と温かいお茶を購入して、側の植え込みに腰掛ける。杖を片手に、『よっこいせ』なんて呟く姿は、どこにでもいる御老体の姿だ。
鶏肉の串焼きにかぶりつく。じゅわりと染みた鶏の油に、舌鼓を打ちながら、目を細め、何度も頷く。
「おいしそうですね。」
「旨いよ。香ばしくて最高だ。」
背後からかけられた声にも、臆する事なく。リュウシンはニコニコと応える。背後の人物も笑顔を浮かべたまま
「私は綿飴にしました。」
その手には、水色の大きな綿飴が握られている。
「ほぉ・・・。」
リュウシンが興味深そうに振り返った。背後には黒の燕尾服を着こなした、優しげな長髪の男が立っていた。
「これは、甘いのかな?」
「そうですね、結構甘いです。」
「少し、もらってもいいかな?」
「もちろんです。」
どうぞ、とリュウシンに、綿飴を差し出す。リュウシンが少しつまむと、綿飴は、ほどけるようにして、塊から離れる。
ベタつく指先ごと口に入れて、リュウシンは確かめるように口を動かした。
「うむ、うーむ・・・」
「如何です?」
「うむ、・・・甘いな。」
「砂糖菓子ですからね。」
リュウシンは直ぐ様お茶を口に入れて、潤す。
「腹にはたまらなさそうだ。」
「女子供が喜ぶシロモノですよ。」
─── ああ、そういえば・・・
あの方も、実は甘い砂糖菓子が好きだった、と燕尾服の男が物思いにふける。
そんな男を見て、リュウシンが
「例のお嬢様、かぃ?」
「ええ、私の大切な思い出ですよ。」
「そうかそうか、思い出は大事だ。」
リュウシンが目を細める。
「私も、妻との思い出が何より大事だ。」
「・・・そうですか。」
リュウシンの目が仄暗く光る。老人の詳細を知る男は、そのまま小さく微笑んだ。
「そう言えば、お孫様には会えました?」
その言葉に、リュウシンの目が鋭くなる。変わらない笑顔故に、酷く恐ろしげな気配を纏う。
「私に孫はいないが・・・。目的のモノは見つけられたよ。」
それでも、臆する事なく、男は恭しく一礼した。
「そうでしたか。それは、失礼しました。」
「マザリモノで、マガイモノだよ。」
「そうでしたね。」
「なんの価値もない。」
「ふふふ。」
「君の方は見つかったのかぃ?」
リュウシンの、笑顔は再びもとに戻る。今度は燕尾服の男の表情が変わる。縋るような、乞うような。
「残念ながら、まだ・・・。」
「そうか。」
しかし、と、恍惚とした表情で、男は呟いた。
「直ぐ側まで来ているのは、わかるのです。私の、お嬢様は、直ぐ側・・・。」
「セレン様・・・。すぐにお迎えに参ります。」
自身に言い聞かせる様な男の、その眼は、確実に
( 狂っているなぁ・・・。 )
リュウシンは小さく笑う。それは、自身も一緒であった。魔によって、狂わされた自身達。故に許せず見出せず、縋るものに執着し、失われた者に救いを求めて、今はただ、破壊を希う。
「まさしく、『人災』よ。我らは・・・。」
自らを、例えて的を得た表現に、リュウシンは酷く愉快そうに、嗤った。




