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Lapis-landiA  作者: 八広まこと


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EP.4:燐灰石(アパタイト)③






「シオンさん、不躾を承知で頼みますが・・・」


    ─── ボスのトコ、行ってもらえませんか?








 娯楽施設『ラディアン』。一悶着あったあの周辺から徒歩圏内にこの国の中央施設がある。華やかさは僅かに劣るものの、人通りの多いこの国の中心部。

 その中の軍の施設内に、軍関係者の宿舎もあった。関係者と申請された身内以外は立ち入り禁止にもなる施設を、ハルオミやリシリィの口利きで入る。許可書の札を下げて進んでいくと、赤茶色のやけにでかい建物が見えてきた。

 目的の場所は三階。

 男性用の、高官専用宿舎フロア。

 そこまでは、眠い目を擦りながらも、ハルオミが案内してくれた。

「スミマセン・・・。変なこと頼んで。でも、なんていうか・・・。シオンさんが一番いいと思うんです。」

「・・・何もできねぇと思うけど。」

「ま、それならそれで。そこまで面倒みてやる必要はないですよ。」

 そう言ってハルオミは自室だと言う場所に入っていった。

 クロウの場所は更に奥だ。白い、無音の廊下を少し見回しながら歩いていく。



 と、静かな足音が耳に入って、シオンは音の方向へと視線を向けた。廊下の奥から、いつもの見慣れた紺色のズボンにシャツだけを羽織って。裸足に、サンダル。肩にタオルを掛けたクロウが歩いてくる。ラフな様子だが、その腰には小烏丸はいつも通り帯びている。

 まだ、こちらには、気付かない。

 濡れた髪をタオルで適当にぬぐいながら、隈の浮いた視線は手元の書類に落ちたまま。珍しいのは、眼鏡をかけている事。

 ふと、人影に気付いてレンズ越しに視線を上げたクロウが、目を丸くして、

「な、んで、いんの・・・?」

 立ち止まる。

 なんと返事をすれば良いものか。路上で出会ったら悪態の一つや二つ、簡単に出てくるのに。咄嗟にシオンは何も言えず、ただ

「・・・いたら悪ィかよ。」

 それでも、口をついて出た言葉は、やはり悪態でしかなかった。

 クロウはふぅっと、一つ息を吐きだし、眼鏡をシャツのポケットにしまう。

「普段、いないでしょ?こんなとこには。」

「・・・・・。」

 当たり前の反論に遇の音も出ない。ただ、何となくわかる、いつもよりも少し違ったようなクロウの言葉に、シオンは少しだけ居心地の悪さを感じた。

「で?なに?なんの用事?」

「・・・・・。」

 そんな事はコッチが知りたい、シオンは、心の中でハルオミに対して悪態をつく。

「黙ってちゃわかんないよ?」

「・・・ちょっと様子見てくれって言われたダケだ、アイツ等から。」

 すれば、

「あぁ・・・そーゆーこと。」

 引き攣った笑みが浮かんで、クロウはガシガシと、頭をかきむしる。

「大丈夫だよ、ちょいと責任放棄しすぎて心配されたダケ。」

 少し投げやりな言葉に、シオンが眉間にシワを寄せた。

「責任放棄?」

「関係ないよ。」

 問いかければ、間髪入れずに、突き放つような言葉。やはり、今日はいつもと違う、とシオンは思う。言葉な端々から、近付くなと、警告されている様な気になる。

 普段はアレだけ不躾に自分から来る男が、何をきっかけとしたか知らないが、態度がここまで変わると、シオンとしても少し癇に障る。

「・・・・・。」

「ま、次はからなるべくちゃんとするから。心配すんなって依頼主にいっといてー。」

「そうかよ・・・っ。」 

 そんな態度だから心配されているんじゃないか、と。口に出して教えてやるほど、シオンは優しくも甘くもない。

「なら、勝手にしてくれ。」

「・・・はいよー、ご苦労さん。」

「・・・・・。」

 そう言って踵を返そうとした、瞬間


 目の前に佇む老人。ただ、年齢にしては、ヤケに姿勢の良い。軍の関係者だろうか、よく見ればクロウと同じような軍服を着て、顔には片眼鏡を付けている。

( 片眼鏡なんて珍しいな・・・。 )

 あまり見かけないそのレンズに、そういえば、昔、一度何処かで見かけたな、と物思い。


( でも、その人は、人ではなくて・・・ )


 過去の記憶、唐突に、シオンは

「―――・・・っ。」

 小さく息を飲んだ。




 また老人も、目を僅かに、見開いていた。


 シオンが急に立ち止まるから、老爺の姿が見えていないクロウが、訝し気に首を傾げる。 

「?なに止まってんの・・・。」

 そうして、目の前の老爺がファウストと気づき、徐に嫌な顔をして。


 シオンの顔が視界に入るや否や、ハッとする。



「そうか・・・、そう、そうか!」

「う、ぁ・・・。」


 シオンは、真っ青になっていた。

 そして、反対に。


 ファウストは、これ以上ない、と言うほど、愉悦に顔を歪め、笑い出した。



「ふはははははははは!!!なるほど!!そういうことか!」



「純潔の東方の血、二刀使い!」






「貴様、レグラの!レグラリアの!あの腐った男の愛娘か!!」


 



 


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