表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/113

縞紅瑪瑙(サードニクス)5




 二階に侵入した無数の礫を見送って、クロウが眉根を寄せる。あの程度であれば、シオンなら難なく叩き落すだろう。

 それでも、一つ舌打ちをした。

 すぐに駆けつけられないのがもどかしいのには変わらない。


 シオン達がいる建物の入り口を抑える様にして黒装束の男たちが四人、クロウの目の前にで油断なく『刀』を抜き放つのを見て




「あァ・・・。」

「・・・・・。」




「久し振りじゃん、クソ本家の使い捨て。元気してた?」

「・・・マザリモノの、マガイモノが。」




 

 久し振りに浴びせられる侮蔑の視線に、嘲る様な目付きで返して。


 クロウは嗤いながら、小烏丸を、鳴かせた。















 ガラスを割って侵入してきたのは、全部で三人の黒装束の男達だった。グレイス曰く『シキジマ』と言ったが、それを証明するかのように、彼らが得物を抜く。


「・・・・・。」


 それは、何者か(シキジマ)を証明するかのような『刀』であった。

 

 シオンが知る限り、今現在、その武器を扱うのは自身とクロウ、今は隣国に住む兄、そして人災の一人である『リュウシン=シキジマ』だけだ。


 人の世では珍しいとされる『刀』。

 刀技を確立し、相伝として伝わってるのは、人の歴史の中で、『オブシディアン』と『シキジマ』のみ。

 

 多少の長さのばらつきがあれど、反りのある片刃。それらを油断なく構える様は、確かに一朝一夕でできる構えではない。



 シオンが彼等を見ながら、あえて、『夕凪』を鞘へと納めた。


 それを合図に、一人がシオンへと向かう。振り下ろされた刀を『朝風』で受けたシオンが、


「ぐっ!?」

 黒装束がもう一人、距離を詰めようとするよりも先に、居合の如く抜き放った『夕凪』でその胴体を一刀両断とする。


 びしゃりと、飛び散る鮮血に、シオンが僅かに目を細める。


「あぁ・・・。」

 矯声の様な溜息が、シオンの口から溢れて



「グレイスさん・・・。」



「コレ、汚すわ・・・。弁償できないけど、いい?」

「・・・・・。」


 だけど、続く言葉は酷く物騒で。

 いけしゃあしゃあと、舌を出して言ってのけるシオンに、グレイスが、リシリィの背後でこくこくと頷くのが見える。

 

「悪ィ。」

 シオンが、夕凪の血を振り払う。

 赤い線と雫を白い床に散らして、黒装束を油断なく見据えれば、


 不意に、黒装束の一人が、シオンを見て僅かに目を見開いた。


「二振りの、刀技・・・。まさか、オブシディアン、か?」

 黒装束から覗く顔は皺が多く、シオンよりも遥かに年配だった。その声色が信じられない物を見る音を響かせる、が、焦る様子は聞き取れなかった。


 シオンが、それでも、小さく笑って見せる。


「男系の黒曜石は、一つは割れて砕け、もう一つは別国に転がったはずだが・・・。」

「さあ?どうだろうな?」

 すれば、不意に察したような顔をして。年配の黒装束が笑う――嗤う。

 喉を肩を震わせながら、


「あァ、何故そんな恰好をしているか知らぬが・・・、貴女が、彼の姫君か・・・。」

「亡国の、しかも三十超えた女に、いい加減姫君は止めてくんねぇか?毎度毎度、こっちが引くわ・・・。」

「ふ、ふふ、噂は聞いている。」

「どうせ碌なもんじゃねぇだろ。」

「あのマザリモノが大分懸想しているとか。」

「・・・・・。」

 ヒクリと、シオンの米神が動く。


 それに気付いてか否か、年配の刀使いが目を細めた。

「あぁ、なるほど。ゆえに、か。」

「・・・・・。」

「貴女の死体を持って汚せば、あのマガイモノは大いに――」




「やってみろよ。」

「・・・・・。」



 

 瞬間、シオンの沸き立つような殺気と怒気に、年配の黒装束が言葉を止める。もう一人の男が僅かに足が引くのが目に入り、臆したその気配に、年配の男が小さく舌打ちをした。

 油断なく、見据える年配の男が、


「なるほど、女でも『オブシディアン』は伊達ではない、か・・・。」

「どうでもいい。」

 漆黒の瞳が、引き絞られる。見たことがないシオンの様に、リシリィが思わずレイピアを握る手に力を込めた。

 彼女自身が、鋭く斬れる刀の様に。ピンと張り詰めた剣気が、その空気を凍て付かせる。


「終わらせるから、とっとと来ればいい。」

「この、若造が・・・っ!」

 黒装束の年配の男が、シオン嘲笑に激高したかの様に、上段へと刀を振りあげた。

 その動きに合わせて、一歩腰が引けた黒装束の男が慌てた様に続く。

 年配の男の刀を『朝風』で再び受け、そのまま力が籠められるのを幸いとばかりにシオンが背後へふわりと飛んだ。

 その姿を追いかける様に距離を縮めるさまに、シオンがちらりと視線をその頭上へと向ける。

 すれば、年配の男の刀が僅かに反応するのを見て、シオンが姿勢を低くしその足を──


「ぐ、あ・・・ッ!」


 斬り飛ばした。


 すれば、びくりと怖気づいたようなもう一人に、底冷えがするほどきれいな笑みを浮かべて



「よぉ?」

「ひ・・・っ」




「まず、表、出ろや。」

「───・・・っ!?」





 その首根っこを掴むや否や、足を斬り飛ばした黒装束の身体に、体当たりをするように、


「シオン!?」


 リシリィが叫ぶ目の前で、シオンが二人を連れて、窓から外へと躍り出る。


 

 空中で怯えた男から手を離せば、宙を掻くように藻掻きながら落下していく姿には目もくれず。

 そのまま、年配の男の身体を足蹴に、容赦なく地面へと叩きつければ


 僅かな悲鳴と血反吐を吐いて、その身体が事切れる。

 土埃舞う最中、突然振ってきたモノに、周囲の食う気が固まる。 

 ゆらりとゆれて立ち上がるシオンに、



「なんつー登場だよ、カッコイイねホント。」

「いらねぇ茶々いれんな。」

 

 聞きなれた声に、シオンが頬に付いた血を拭いながら視線を上げた。

 呆れた様な、だけどどこか愉し気な顔のクロウが、相対していた人物と同じ黒装束の格好をした男を地面に串刺しにする。


「・・・・・。」

 バーガンディーの凛々しいタキシード姿を着崩して、頬に飛び散るその血糊に彩られらシオンの姿に、クロウが少し考え込む様に、下から上へと眺めながら、


「お色直しにしては、なんか違くない?」

 ウェディングドレスからタキシードって、中々ないよね、なんて。 

 クロウが小烏丸を振り、まとう血糊を払いながらシオンを見れば、

「コッチが本命だと。」

「えー、オレとしてはやっぱドレス・・・。」

「どちらにせよ返り血塗れになるけどな。」

「縁起でもないね!祝いの衣装なのにね!」


 二人の軽口を遮る様に、飛んでくる礫を避ければ、その相手と距離を詰めたクロウが、二つ三つ斬り結ぶ。

 その横でシオンが別の男の太刀筋を避け、その足を払っては膝をつく相手の、顎を蹴り飛ばして地面へのひっくり返す。その背後から振るわれた一刀を『夕凪』で受けて、二刀三刀、の次には、クロウの刀がシオンの背後の黒装束の身体を貫いた。 


 残る二人に、シオンが今更ながらの言葉を口にして見せる。


「・・・そういや、ナニ?この失礼な奴ら。土足で上がって来やがって。」


 知らないフリをしてシオンが、クロウへと問えば、彼は案の定と言った言葉を口にする。


「ん?『シキジマ』の刺客。」

「・・・・・。」

 やっぱりそうか、と。シオンがちらりと向けた視線の先で、クロウが意地悪そうな笑みを浮かべる。


「お前関連?」 

「どうだろうね?たまにこうやって『使い捨て』が遊びに来るよ。」

 茶化す様にクロウが告げれば、残された『シキジマ』の黒装束の二人がギリギリと奥歯を噛みしめるのがわかる。


「迷惑はしてるけど、こればっかりはねー。長い付き合いになるかもだからよろしく。」

「──したくねぇよ。」

 不意に、クロウが舌打ちする。『朝風』を肩に担いで、『夕凪』を残った二人へ向ける。

 

「悪ィが、以降の対応は門前払い、で、いいな?」


 すれば、クロウがひゅーと口笛を吹いて、


「ごめんね。オレ嫁さんの尻には敷かれたいんで。」

「それ初耳だぞ?」

「夜だけガッツリ主導権握れればそれでイイ――」

「絶対嫌だ。」

「え!?お前三歩後ろでついてくるタイプじゃないでしょ!?」

「・・・三歩後ろから思いっきり蹴り飛ばしたい。」

「なんで・・・っ!?」


「ふざけるな!!!」


 放っておくといつまでも続くと思ったのか、二人の漫才の様なやり取りに、怒りを滲ませた黒装束が叫ぶ。


「貴様を殺して、『シキジマ』の正当な証である『小烏丸』を取り返す!それが課せられた使命だ。」

「本当に、『課せられた』事だよね。自分のやりたい事ないわけ?」

 

 だから使い捨てなんだよ、と。クロウが露骨に下げずんだ目で残された二人を見る。


「お前らいつ来ても同じ事ばっかり。『シキジマの為』『シキジマの為』。あの腐った家にナニがあるっていうのよ。」

「―――っ!」

「刀使いの家って、だけじゃん。それも当代継承の最中に、当時の当主も次代も、そろってアンタ等が蔑んでた『マザリモノ』の『マガイモノ』にイイ様にされてさ?」

 クロウが不意に嘲笑うかの様に、告げる。


「それ以外も全員半殺しにされて?悠々と持ってかれたってダケでしょ?小烏丸コイツ。」

「・・・・・。」

 初めて聞く小烏丸を手にした経緯に、シオンがクロウを見る。飄々としたその顔にさ、『シキジマ』への絶対的な嫌悪が浮かんでいて、シオンは僅かに眉を潜める。


「それに、オレは別に何のルール違反も犯してないよ?『その時に最も強いシキジマが小烏丸を受け継ぐ』ってダケでしょ?オレはそれを証明しただけ。」

「どうせ卑怯な手を使ったに決まっている!」

「どうやって?」

「・・・・・っ。」

「魔力行使の事言ってんの?オレのこの程度の魔力で?それも当時一対三十八の状況下で?」

「・・・・・。」

「ちなみに、その時ぶっ倒した三十八人の中の奴等、その後に一人でも遊びに来たことあったかなぁ?」

「―――・・・っ!」

 嘲る様な顔で、クロウが黒装束の男を見下す。

 図星を刺された様な顔で、シキジマの男がクロウを見やるから。

 更にその顔に、嘲りの表情を浮かべて、クロウが更に言葉を続けようとするのを・・・




「もう、いい。」



 シオンがそっと、クロウの前へと進み出た。クロウの目が驚きに見開かれる。

 彼を背に隠す様に、シオンが黒装束の男達の前へ立ちはだかっては


「悪ィが、これ以上はやっても同じだ。無論それでもやるってんなら止めない。」

「・・・・・。」

「だけど・・・、正直俺も、言われるがままで動いているアンタ等とやり合うのは、別に好みじゃない。」

「・・・・・。」

「アンタ等が本当に『小烏丸』を持ち帰りたいというなら別だ。だけど、ただ命令で、ってだけなら・・・。」




「本当に、その命を懸ける意味、あるのか・・・?」

「―――・・・っ!」


 

 

 シオンの、射貫く様な眼と言葉に、男達の手足が竦む。

 無言のまま、口を二度三度と開いては閉じ、を繰り返すと。

 臆病であった男が、不意に駆け出す。這うようにして、その場から逃げ出すのを、もう一人が、唖然とした様子で見つめた。

 それを追うこともせず、シオンが、真っ直ぐに残された男を見つめる。

 

 僅か、なのか。

 長い間、なのか。


 残された男が、シオン達を警戒しながら、それでもゆっくりと、その場から立ち去った。


 クロウが、駆けていくその背を、何かを堪える様に見つめるのを、シオンが片手を広げて制する。


「構うな。」

「・・・・・。」

「お前がそれ以上、手を下す必要もない。」

「・・・・・。」


 すれば、クロウが一つ、吐き出す様な、溜息。

 

「・・・ホント、格好良すぎるわ、オレの嫁さん。」

「阿呆。」


 背後から、その首筋にクロウが顔を埋める。

 自身が考えていた以上に殺気立っていたのが、今になればわかった。


 クロウのその様をいち早く感じて、シオンが歯止めをかけてくれていた。

 そうでなければ、勢いのまま、力量差のある相手を、甚振り殺していたかもしれない。

 そんな獣のような生き方は、クロウは望んでいなかった。それでも、時と場合によっては、歯止めが効かないことがある。『シキジマ』の件は、その一つだ。


 背後からそっと腕を回せば、いつもより遠慮がちな手付き故か、シオンは拒否をしてこない。こんな明るいうちから、しかも外で抱き締めるなんて事、悉く張っ倒されてきたのに。


「ま、そういうコトもあるさ。」

「・・・・・っ!」

 何もかも見透かしたように、シオンが改めてクロウへと向き直る。そうして、酷く優しい表情を浮かべながら、その頬をこつんと当ててきた。

 珍しい、彼女からする触れ合いに、さっきまでの殺伐とした感情が風に吹かれた様に、綺麗さっぱり

消えてなくなる。


 少しだけ泣きそうになって、クロウがより強くその身体を引き寄せれば、




 ふと、見知った気配を感じて、





(・・・お邪魔虫め。)



 なんて、唇を尖らせながら、視線を上げた



「シオン!ボス!」


 

 


 時・・・。




「───・・・っ!!!?」








「リリ・・・ッ!」


 クロウがばっと走り込む。

 建物から下りて来たリシリィと


 その背後から駆け寄るグレイスの、その背から抜き放たれるのは――刀


 一足飛びにリシリィにまで距離を詰めるのを、クロウが咄嗟に投擲ナイフを抜き放つ。

 三本のナイフを容赦なく投げ放てば、にやりと笑ったグレイスが、それらを全てその身に受けてなお、怯むことなくリシリィに向かって刀を振り被る。



「―――・・・っ!」

 


 間髪、リシリィの前にその身を躍らせたクロウが、小烏丸を抜き放てば、






 両者の間に、血飛沫が舞うのを、



 リシリィが、呆然とした顔で、見ていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ