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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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紅縞瑪瑙(サードニクス)4







 厳しい目付きで警戒に当たるクロウを、人々が遠巻きに眺める。

 彼がこのルミナスプェラの首都において、時々警戒の為に歩を進めるのはありふれた事ではあった。

 それでも、その姿を、人々何か得体のしれない物を眺めるようにして通り過ぎる。

 それでいいと、彼自身は思っていた。その感情は、今も昔も変わらない。

 ただ、こうして歩いている時に、


「・・・・・。」


『どうした、見回りか・・・?』


 時折、声をかけられて振り返る。

 その視線の先にある姿が、日々、表情を変える。少しずつ、和らいでいく。

 それに合わせて自身もまた、どんどんと変わっていくのを感じていた。


 いつしか、警戒する視界の端で、その姿を探す様になって。

 見つけた相手の姿に、小さく胸を高鳴らせて。

 視線が合えば、相手も同じように顔を綻ばせて。運がよければ、その後の予定なんて合わせたりして。


 今は、もっともっと近い距離で、笑って、怒って、時折、頬を染める姿まで。



 その耳に自身の証である色を、左手の薬指には夢にまでみた円環―――

 


(・・・・・。)

 うっかり、顔をが綻びそうにあって、思わず眉間に皺を寄せる。

 警戒しなければならない時まで、その浮かんだ姿につい表情が和らいでしまうのは、メリットではない。

 それでも、今まで探して探して、求めていたこの途方もない幸福を、クロウはもう、手放すことはできなかった。

 

 気合を入れ直すかのように、クロウがふっと、息を吐いては――









「どうした?珍しいではないか。貴様が気を抜くなど。」

「―――・・・っ!」







 背後から耳元へと、酷く楽し気な老人の声が、響いて


 クロウが、露骨に剣呑な表情を浮かべ、小烏丸の柄へと手を伸ばす。


「・・・何でテメーがここにいるんだ、クソジジイ。」

「結構な言い草だな、久し振りだというのに。」

「一生会いたくねぇツラだよっ!」

「気が合うな、私もだ。」



 彼の背後には――『人災』



 リュウシン=シキジマが

 


 立っていた。






 

 












「うん、そっちも最高。」

「ホント、素敵・・・っ!」

 衣装チェンジをしたシオンに、リシリィがグッと親指を立てる。その隣でグレイスが頬を真っ赤に染めながらふるふると震えていた。


 少し珍しバーガンディと黒を基調としたスーツは、多分ウェディングドレスと揃えるためだろう。同色のベストの下に、黒のタイをしっかりと締めて、シルバーのタイピンを付ける。

 男性的な体格になる様に、胸元にしっかりと胸帯をしめ、肩にもパットを仕込めば、それだけで十分男らしくみえるから見事な物だ、とシオンは鏡を眺める。

 いつも下ろしている前髪を上げて、メイクも切れ長の眼になるように。普段よりも凛々しい表情にする為のメイクは、シオンによく似合い、タキシードと相まって様になっていた。


 ただ、先のクロウの助言の通り、その腰には今、シオンの愛刀が二本とも下げられている。


「えーと、ちょっとでいいから外して・・・、いいよね?」

 グレイスが少し困ったように言うのを、リシリィが頷く。


「てか、リシリィはまだ着ないのか?」

 シオンが、腰に手を当てながら、リシリィの方へとむきなおれば

「うん、そろそろ着替える?」

「え、ええ、そうね。」

 不意に、グレイスがはっとしたように二つ三つ頷いた。彼女が時計を見る。十五時を指す針に、グレイスが、窓の外を見た。そっと目を細める姿を、シオンが目を止める。


「誰か、来るのか?」 

「・・・・・。」

 すれば、グレイスが、ちょっと困った様な笑顔を向ける。

「来る、筈だったの。」

「撮影関係か?」

「ううん。全然。」

 ただ、ただね?と、グレイスの表情が



「もう、来ないの。あの人は・・・。」


 不意に、空っぽになる。


「―――・・・っ!」

 シオンは、ぞの背をゾクリと震わせる。

 グレイスの変化に、リシリィは、夫を亡くした彼女の心境を感じてか、彼女の傍へと歩み寄ろうと、足を向ける。

「グレイス・・・」

 彼女を抱き締めようと、その手を伸ばして、包み込んで――


「リシリィ!」

「―――・・・っ!!?」

 グレイスの手に鈍く光る何かが見えて、咄嗟にシオンがリシリィに手を伸ばす。


 間に合ったその手がリシリィの腕を掴んで引き寄せて、閃いた刃は、間髪リシリィ右腕を掠めるにとどまる。


「・・・グ、レイス?」

 自身の腕に走るかすかな痛みに眼を向けたリシリィが、呆然とした眼差しをグレイスへと向ける。


 すれば、空っぽの顔のまま、グレイスが


「ねぇ、リリ?なんで?」

「グレイス?」

「なんであの人を殺したの?」

「違う!」

 それだけで、リシリィは何かを悟った様に、悲鳴の様な声を上げた。


「違う!グレイス!殺してない!」

「だって、全員死亡、なんでしょ?第四大隊が突入したんでしょ?」

「グレイス、違うの!」

「あの、『白銀』が、斬り殺したんでしょ・・・?」


 頬を伝う涙と共に、グレイスの理性も、正気も、流れ落ちていく様に。

 彼女の生き生きとした表情が打って変わって死人の様に変化していく。

 血の滴るナイフを、だらりとした手にして。


「グレイス!」

 初めて見る泣きそうな表情をしたリシリィに、一人状況を飲み込めないシオンが、それでもどうするかと思案する。

 グレイスを取り押さえるのは簡単だ。素人さながらの動きの彼女に、これ以上の事は出来ない。

 ただ、リシリィを傷付けた。

 軍の職務に関連した恨みで、彼女に傷をつけた以上、彼女の行く先は軍による拘束になる。


 クロウの事だ。そこに一片の容赦はしないだろう。


「グレイス!違うの!本当に、私たちは殺していない。」

「じゃあ、なんで死んじゃったのよ!!」

 泣き叫ぶグレイスの言葉に、リシリィがぐっと息を飲む。

「助けてって、あの人だけは許してって言ったのに!だから!あの人が内緒だって言ってた情報だって渡したのに!」

「・・・・・。」

「全部全部殺したじゃない!あのマザリモノが!全部殺してしまった!」

「殺してないの!ボスは殺してない!先陣切ってグレイスの旦那を探したの!」

「じゃあなんで助けてくれなかったのよ!!」

「―――・・・っ!!!」


「・・・・・。」

 二人の血を吐く様なやり取りを聞いて、何となくシオンにも状況が読めてくる。

 第四大隊からの突入を受けて、情報の出どころがグレイスだと夫は思わず口走ったのだろう。きっとそれで、その場で仲間から粛清を受けた。


 リシリィは、きっとその事実をグレイスには伝えたくは、ないのだ。

 彼女が後悔するから。後悔して、やまないから。

 もしかしたら、時間が経てば告げるつもりだったのかもしれない、が・・・


(いや・・・) 


 シオンはその考えを否定した。

 リシリィは、きっと墓場まで持って行く秘密として。彼女に真実は告げないつもりだったのだろう。ゆえに、今も必死で彼女をなだめようとしている。

 真実を告げればそれで済むだろう。

 だけど、きっと、グレイスは死んでしまう。


 それだけは、防ぎたいのだ、と。



「なんで、なんで助けてくれなかったの!?」

「・・・・・。」


 不意に、シオンは察する。グレイスは、半ば、理解しているのかもしれない、と。

 なんで殺したと、主張していたはずが、なんで助けてくれなかった、と。泣き叫び、悲鳴の様な声をあげながら、まるで懺悔をするように。

 わあわあと子供のように声を上げて、気付けば取り落としたナイフに気付かずに、膝を付き床に突っ伏し泣き叫ぶグレイスを、リシリィが今度こそしっかりと抱き締める。


「なんで、なんで死んじゃったの!」

「グレイス!」


 声を上げて泣く彼女を必死に抱き締めて、リシリィがグレイスの名を呼び続ける。

 その様を、見る事しかできないシオンが、


「―――・・・っ!?」

「リシリィ!!」

 不意に、ガラスの破砕音と共に、二人を狙った無数の礫を、シオンが二刀で全て叩き落す。

 シオンの声にリシリィがグレイスをその背にかばって、自身のレイピアを抜き放った。



 同時に、黒い影が他のガラスをも突き破って侵入するのをシオンが油断なく見据える。




「な、に・・・」

 リシリィの背後から見たグレイスが、肩を震わせながら、





「ま、さか、本当に・・・。」

「知ってるの・・・?」

 

 短く尋ねるリシリィに、グレイスがこくりと喉を鳴らす。





「あの人が言ってた・・・。」




「『絶対成功する』」




「『だって、仲間には、あの・・・』」










 黒い影がギラリと殺気混じりの目を向ける。その手が、柄を握り、淡く浮かぶような波紋の刃が、シオン達の前に晒される。




「『シキジマも、いる』って・・・。」



 刀の、独特のその刃の輝きに、シオンが目を見開いた。

 


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