紅縞瑪瑙(サードニクス)3
半年ほど前、ルミナスプェラのメイン通り、通称『中央通り(セントラル)』の商店で強盗事件があった。国でも有数の雑貨店が夜半に襲撃を受けた。それほどの店だから無論、昼夜問わず護衛がついている。それを根こそぎなぎ倒され、金品が強奪された。
怪我人は護衛全員、内二名が重傷。夜勤番の従業員三名も怪我をしている。その店の二階に住居を構える店の主人と夫人、二人のは子供は、幸い無事であった。元々の関係性も良く、金払いもよかった主人を、護衛達は必死に守ったらしい。
金銭的な損害は中々大きかったが、それでも命があったことを、商人の家族は安堵し、護衛達に感謝を述べていた。
その事件の密告者がグレイスだった。
夫がその件に加担しているのを偶然知ってしまったらしい。
そんな事をさせられないと、慌てて軍部に駆け込んできた彼女の情報を基に。
某日、第四大隊がその根城を強襲した。
総勢二十八名、全員死亡。
報告書には、そう提出された。
グレイスの夫は突入の最中、自身の妻が密告したという理由でその場で仲間に斬り殺されていた。
それを知るときっとグレイスは悲しむ。
彼女へは突入時には彼女の夫は死んでいた、ということだけを告げられていた。
悲しみ、生きる意欲をなくしていた彼女を気にして、頻繁にリシリィが足を運んだ。
時間を取り、付き添い、少しずつ、生きる意欲を取り戻していった、ようだった。
「シオン!」
「・・・あ、やべぇの来ちゃった。」
「リシリィ・・・。」
二人の姿を見つけたリシリィが、少し目を見開いて小走りに近寄る。
「ボス、色々終わった?」
「・・・うん。あとは、・・・個人的な私用でクールダウンできるとこ探すくらい、かな。」
「地下1階に人気のないトイ──」
「はいストップ。仕事中なんで。」
「え?なんで?ぬ──・・・」
「なんだってお前といいあの子といい、言動があけすけを通り越してぶっちゃけなのよ!」
「アンタに言われたくないわ。」
日が高い内に話すにしてはあまりに際どい言葉を、クロウが目を向くけど。
それでも、ため息一つ、不意に大隊長の顔を見せては、
「ちょっと一点注意しておいてほしいんだけど。」
「ナニ?」
クロウが建物の外を見つめる。外には特に目立った人影はない。
「今抑えたヤツ、意図してココに入って行ったから。」
「・・・・・。」
リシリィがピクリと反応する。
「建物内、仲間でもいんのかなって思ってた。」
故に先ほどの捕り物の際には、クロウのみ別の入り口から侵入し索敵を行っていたのだ。結果、先回りをし、男を取り押さえる事となったのだが。
「とりあえず、一階にはいなかったんだよね、誰も。今日ここは営業中?」
「・・・いや、定休日。ワタシとシオン、あとグレイス——例の協力者以外は、いないハズ。調べてはないけど。」
「そう・・・。」
クロウがふと、考え込む。
「帯刀してる?お前も、あの子も・・・。」
「無論。だけど、今は控室に置いてあるけど。」
「肌身離さず、で頼むわ。ちょっと腑に落ちないコトが多い。」
「・・・了解。」
「最悪、窓でも割って合図して。しばらく近辺捜索してるから。」
「了解。」
で、と・・・。
大隊長から、不意にオフレコな顔になって。
クロウがリシリィをまじまじと眺める。
「・・・君らは、なんの仕事?」
そうしてちらりと、花嫁姿のシオンを見るから、
「最高だろ?」
「ヤバい。」
質問には、答えず、それでもいつも通りの表情で、かつ、鼻息荒く。
親指を立てるリシリィに、同様にクロウがぐっと息を飲んで同じ仕草を返した。ちょっと鼻の下が伸びてる。
そのいつも通りの軽口に紛れさせながら、
「あ─・・・、ただ、さ?」
「ん?」
ニッコリ笑う、クロウのその顔は、正直、さっきとは別の方向で、ちょっと笑っては、いない。
「まさか、間違っても、公には、ならないよね?あの姿。」
「・・・・・。」
「誰か殺れば、その企画消える?」
「・・・そうきたか。」
滲ませる独占欲は、先ほどの自分の台詞よりよっぽど物騒だと。それでもリシリィは、承知しているとばかりにひらりと、手を振る。
「そうなると思ったから、コッチは出さない。」
「・・・コッチ?」
「ま、それは後のお楽しみで。」
「・・・・・。」
「花嫁はコレで退散。」
「・・・なら、まぁ、いいか。」
んー、と少し考えこみながら、クロウがシオンへと向き直った。
もう一度だけ、ウェディング姿のシオンを、上から下へとじっくり眺める。
なんなら、このままずっと見ていたい。
こうやって花嫁の衣装で、お披露目をして、自分の者だと知らしめたい。だけどそれは同時に、自身の立場故に伸し掛かる苦難を共に背負う事にもなる。
ただでさ『黒曜石』として、多重の重荷が彼女の肩には伸し掛かるのに、それ以上を背負わせるのは・・・、とクロウはふっとため息を吐く。手放すつもりは毛頭ないからこそ、と。クロウはひらりとシオンに手を振った。
「じゃ、頑張ってね。」
「あぁ。」
なにより、これ以上いると本気でリシリィが言った通り人目の少ないトイレに駆け込みたくなる事案になりかねないとばかりに、クロウが背を向けてハルオミ達の後を追う。
その姿を、シオンが目を細めて見送った。
── かしゃり
不意になるシャッター音に、シオンがリシリィを見る。
「・・・まて、今なんの音だ。」
「まぁまぁまぁ。」
「なんかアイツと同じ反応してるんだけど!」
「一緒にしないで。それは失礼」
「そうだね!なんかごめんね!でも実際そうだからな!」
そんなやり取りをしながら階上へと上がっていくリシリィとシオンを、出口で一度振り返ったクロウが、ちょっとだけ羨ましそうに眺めていたのを、シオンは気付かなかった。




