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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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紅柱石(アンダルサイト)1






 翌日が休みの、夜に・・・


 もはや定番になった家呑みに訪れたクロウを、シオンが台所から顔を出して迎える。


「買い物悪いな。」 

「いやいや、酒の準備ありがとね。」

 台所のダイニングに荷物を置きながら、クロウが軍服の上着を脱いで、手袋を取った。そのまま、頼まれたもの以外の、ほうれん草や牛蒡を取り出す姿に、シオンがぱっと表情を綻ばせた。


「何か作ってくれるのか!?」

「ま、酒だけってわけにはいかないからね。」


   ――― 簡単でも、いい?


 そう聞けば、急に空腹を覚えて、シオンがこくこくと頷く。その素直な仕草に、内心で悶えながら、クロウは顔には出さずに了解した。

 冷蔵庫をさっと確認しながら、いくつか取り出す。

「そうだな・・・。」 

 なんて、小さく呟きながら、人参と牛蒡、それに、今日までの期限の牛肉の細切れが、わずかに隅に押しやられているのも取り出す。

「時間かかるか?手伝う?」

「そうでもないよ?」

 クロウの返事に、なら、と、

「俺も切ったりするから。一緒に飲みながら作ろうぜ?」

 そういって、シオンが珍しく淡い色のエプロンを身に着けるから。


「・・・・・っ」

「ん?どした?」


 ぴしりと、固まるクロウに、シオンがひらひらと顔の前で手を振れば

「なんか・・・、色々な思いが混ざり混ざって・・・」

「色々?」

「一緒に料理、とか、飲みながら料理、とか・・・」

「あぁ!そういうのってちょっと良いな!」

 そう言ってはにかむような笑みに、クロウが更に喉を鳴らして、

「そのエプロン残して剥きたい、とか、むしろこのまま台所で押し倒したい、とか──・・・」



「人参一口大でいいな?てめーのシタは寸刻みか?」

「はい!スミマセンでした!」



 一度、ガンッと、包丁がまな板を叩く音に、クロウが思わず下半身を庇って平謝りする。



 そんなやりとりはありつつも・・・



 ほこほこと、湯気が立つ三品。

 

「これ、うまい。」

「そ?よかった。」

 クロウが手際良くサッと作ったほうれん草の胡麻和えに、シオンは舌鼓を打つ。

「あ、でもこれもいいな・・・。」

「これ、いいよね。根菜がイイ感じなのよ。」

「教えてもらったのか?」

「義理の親から、ね。」

 牛肉と根菜の煮物は米にも合う一品で、熱燗が一合容易に消える。


 そして、思案した三品目。


 湯豆腐に柚子味噌。


「ン、この味噌好きだな。」

「その言葉がほしかった・・・ッ!!」

「そうか?どれも美味いぜ?」

「うん、そうなんだけどね!」

 思いっ切り『好き』の言葉に反応して、クロウは、一人ガッツポーズをする。


 三品と熱燗、焼酎、泡盛などが卓上にそろい、二人がいつもの席で杯を合わせる。


 飲み進める内に、シオンの視線がチラチラとクロウの、方へと向けられる。

 どうしたのかと問えば、実はずっと気になっていたとばかりに、シオンがじっとクロウの上着へと目を向けた。

「軍の服って重そうだな。」

「ま、オレ等のはね。これ一枚でそれなりの防弾・防刃機能もあるから。頻繁に戦闘にもなるし、命に直結となると、どうしても普段から、ね。」

 そう言ってクロウは脱いでそばへと置いていた上着を広げた。

 黒を基調として、銀の縁取りがされたそれは、良く見ると特殊な繊維が織り込まれているのがわかる。シオンが袖に手を伸ばしてみると、以外と硬さを感じて驚いた。


「下にプレートとか、そういうんじゃないんだな?」

「あー・・・、昔は一枚あててたよね。」

「ああ、結構重量合ってきつかった。」

「そうだよねぇ。武器もこれだけーってわけじゃないしなぁ・・・。」

「やっぱ色々改良されてんだな・・・。」

「ナニ?興味ある?」

 クロウが覗き込む様に、上目遣いでシオンを見れば、当然と言わんばかりにシオンが頷く。

「そりゃな。他のも特別なのか?」

「んー、上着とズボン、それに手袋、かな?シャツは普通の。靴も耐久性と耐火性が高い物にはなってるか。あと手袋は、登城用の普通のと、あと、一見普通に見えるけど、通常用は手の甲に薄手の鉄板と掌には滑り止ね。オレは原則登城でもコッチ。突発的に戦闘行動にもなるし。」

 そう言ってクロウが手の甲同士を合わせれば、一見白い普通の手袋の、手の甲から僅かに金属音がした。

「へえ!」

「あと、これとは別に、特殊作戦なんかの為により耐久性と防弾防刃機能の高いタイプもあるかな。あんまり使わないけどね。」

「やっぱ凄ェな・・・。」

 納得したように、シオンが頷く。が、そのあとすぐ、考え込むように眉根を寄せた。


「てか、そういうのって聞いてよかったのか?」

「んー・・・。」

 お銚子を持ちながら胡座をかいて、クロウは僅かに天井を見上げる。

「まぁ、誰にも言わないでしょ?」

「・・・どうだろうな?」

 ニヤリと、イタズラめいてシオンが笑えば、それすら見越して、クロウもニッコリと微笑んだ。

「そうかぁ・・・。なら、今から拘束して、一生閉じ込めておく。」

 考えながら、指を一つ立てる。


「それとも、絶対に口にできないように、なにか、弱みを握るか。」

 そして、もう一つ。


「個人的には、前者希望かな。そのままずっとオレといられるし。」

「いや、それただ呑みたいだけだろ!」

 笑って指摘すれば、バレたとばかりに、クロウが指先を口元へとあててみせるから。

「ま、お願いだから黙ってて。」

 その様子に、シオンが小さく笑ってみせた。

「仕方ねぇな、黙っててやる。」

「じゃあ、代わりに、その秘密の軍服、着てみる?」

 その提案に、シオンが顔を綻ばせれば、クロウが上着をそのままよこしてきた。

「いいのか!?」

「ま、羽織るくらいだけどね。」 

 上着を受け取ると、くるくると目の前で動かし、感触などを確かめる。そして、自身が羽織っていた上着を脱ぐと、シオンはそでを通した。


「・・・・・。」

 その様を、食い入る様に、クロウが見つめる。


 肩に、ずっしりとした重みを感じて、シオンが驚くように目を開いた。


「・・・ホントだ、結構重い。お前、こんなの来て動いてたのか?」

「・・・うん、まぁ。」

 長い袖を少し折ってみるけど、防刃繊維が織り込まれているせいか、袖がうまく折れない。クロウに合わせられた制服は、シオンには少し大きかった。

 肩がおち、袖が少しだぶつき、指先が覗くのを、せめてとばかりに袖を上へと引き上げる。


 立ち上がってひらひらと動いて見せれば、長めの裾がそれに合わせて揺れ、その度にシオンが裾を確認するようにまくり上げる、のを、クロウはますまふギラつく眼で熱い視線を注ぐ、から。


 ちゃんと、ズボンは履いてると、わかっては、いるのに・・・。


「お前、よくこんなの着て動けるな。」

「・・・・・。あ、ほんと、脱ぐとカラダ軽い、ね。」

「まさか、他の奴らのもこんなに重いのか!?」

「・・・いや、大隊長の上着が超重量、あとは、比較的軽量、かな。」

「すごいな・・・。」

「・・・・・。」

 簡単な息を吐きながら感心するシオンに、目が釘付けになりながら、クロウはどくどくと早鐘を打つ心臓を感じながら、後ろ手に、ズボンのポケットへ入れていた携帯電話を確認する。

「手袋も。」

「・・・・・っ!あ、はい。どうぞ。」

 咄嗟声をかけられて、ビクリと跳ねる肩を隠しながら。

 取り外した手袋を渡せば、シオンの手にそれがはめられて、彼女がその感触を確かめるように、手を、閉じたり開いたりしてみせる。

「なるほど、こうなってるのか!」

「・・・・・。」

「これ、すごいな!手袋なんてして、武器振り回せるのかって思ってたけど、以外と感触が悪くない。」

「・・・そうだね。」

 少し興奮したように、柄を握る感触を確かめるシオンが可愛くて仕方ないと、クロウがこくりと喉を鳴らす。


 握り締めた携帯を、そっと、構えて・・・


「これ、滑り止めが悪くないな。これならっ!振れる!」

「・・・・・。」

「凄ェ!・・・やっぱ重いな!クソ!」



   ――― かしゃり



 ぴくりと、シオンが反応して顔を上げた。


「なんだ、今の音?」

「いや、いやいやいや・・・」

 いそいそと後ろ手にしまおうとして、失敗した携帯が、ごろん、と畳の上に転がる。


 シャッター音と共に撮られた写真が、画面越しに光っていて・・・。


「お、ま・・・」

「あ。」

 それを見て、シオンが思わず携帯に手を伸ばす──よりも、先に横からクロウがかっさらう、のを更に取ろうとシオンが追いかけて。

 たちまち押し問答になって、クロウが携帯をシオンから遠ざけた。


「手前ェ!勝手にとるんじゃねぇよ!消せ!」

「嫌だ!レンタル料だもん、コレ!」

「だもんじゃねぇよ!消せよ!」

「絶対ヤダ。それだけは譲らない。」

「なんでだよ、そんなもん、何にすんだよ。」

 瞬間、クロウの目が、泳ぐ。


「ナ、ナニって、別に、そんな・・・。」

「誰かに見せるんじゃないだろうな?」

「それは絶対にしないから!約束する!」

「・・・なおさら、ナニすんだよ!」


 ―― 話のネタにするわけでもないんだったら。


「・・・それは、もう聞かなくて、いいんじゃないか、な?」

「売り捌かれちゃたまったもんじゃねぇし。」

「だからそういう事には使わないって!」





「センズリぶっこむ程のモンでもねぇだろ」

「ぶほぉ・・・っ!!!」





 舌打ち交じりの爆弾発言に、クロウの思わずむせて、突っ伏した。





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