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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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104/113

軟石(ネフライト)


 ノヴルから戻ってしばらくして、親爺の店の仕入れの手伝いの最中、シオンが軽い頼まれごとに足を延ばした先で久し振りに第六大隊に所属するエッダに会った。

 軽い立ち話をしていれば、更に通報対応の帰りのリシリィに、中央に雑務を済ませたハルオミの二人ともかちあう。

 

 考えてみれば、ノヴルに立つ前と、滞在期間を合わせると一か月半は会っていなかったのか、と。不意に嬉しさを憶えたシオンが、三人を昼食に誘った。

 すれば、リシリィとハルオミは一も二もなく頷き、エッダは

「いや、オレこの容貌で・・・どこで食べるの?」

 なんて。

 三人にとっては今更なことを呟くから

「どこでもいいだろ?」

 なんで、と言わんばかりのシオンと、

「何か言われたら黙らすから平気。」

 露骨にレイピアをちらつかせるリシリィに、

「・・・まあ、この二人がいればなんとでもなるよね。」

 そんな二人を呆れながらも、大丈夫だよとひらひら手を振るハルオミに、エッダは少し気恥ずかしを覚えながら、じゃあ、まあ、と頷いた。


 四人の組み合わせを少し物珍しそうに、通りがかる人達が見送るのを、それでも、エッダ以外は平然と歩く。

 その三人を見あげながら、

「・・・アンタ等は、どうしてそんなに、平気なんだ?」

「ん?」

 振り返った三人が、エッダの顔を見てきょとんとした表情を浮かべる。

 いくらルミナスプェラとはいえ、それでも、表立って魔人が歩いていることは、ない。

 それも軍の人間や、シオンの様な相手を伴ってらだ。

 魔神に対する人の偏見は、エッダは、十分に承知している。

 無論、逆も、然り。

 エッダとて、シオンと関わることがなければ、その考えを変えることはなかったはだろう。


 それでも、出会ってしまった。


 この先の生き方を変える出会いに。


 そんな、自分を変える彼らは、どうやって、今の自分になったのか・・・


「平気も何も・・・」

「私等のボス、アレだから。」

「いや、だから・・・。」

 苦笑するハルオミと、表情を変えないリシリィが浮かべる、自分等のボスは、銀髪緋眼の唯一無二の色をしている。そんなのと普段から歩けば、

「初めは、そりゃ嫌悪と好奇と珍獣を見る目と・・・もう、ありとあらゆる視線のオンパレードだったかな?」

「でも、慣れた。」

「慣れ、た?」

 さらりと言ってのける、二人に。エッダが目を見開く。そう簡単に慣れるものなのだろうか、と。


 すれば、黙って聞いていたシオンが、


「別に、周囲がどうこう、じゃねぇだろ?」

「え?」



「自分が、相手と一緒にいたいかどうか、だろ?」



 静かな、だけど愉しげなシオンの笑みに、ハルオミが同調するように小さく笑う。


「まぁ、面白いですしね。あと、仕事上一緒に、行動する必要も多かったから。それほど気にならないものだよ?」

「一緒にいたいかどうかは別だけど。」

 ふん、と悪態を付くようにリシリィが呟くけど、それでも、その響きはそれほど嫌な音を含んではいない。


「気にするとキリがないしな。そりゃ、美味い物食ってる時に横から不快な視線やヒソヒソ声がする時は、自分から遠ざかることもあるさ。でも、そればかりを気にして動くことを止めたら、何もできなくなっちまう。」

「・・・・・。」

「俺は、まだまだアイツと色々行きたいしな。新しい呑み屋も見つけたって言ってたし。」


「お揃いもつけたことですしね!」

 不意に珍しく、ハルオミがニンマリと笑ってシオンの耳元を眺める。

 両の耳たぶに添えられた赤い花を揶揄しながら、似合ってますよー、なんて笑えば、少し笑ったシオンが、

「・・・なんか、聞いたのか?」

「いいえ、本人からはなにも?それに、一見はいつも通りです。」

「一見?」

「えぇ。」


「午前は訓練、午後は執務室で淡々と仕事していつも通り。ただ・・・」

「ただ?」

「時々、隠れて耳元触ってだらしない顔晒してるから、その尻三回ほど蹴り飛ばした。」

 それほど表情は変えないものの、それでもさもうざったそうに、舌打ち交じりに話すリシリィに、シオンが思わず吹き出す。

「そ、うか。今度会ったら真面目に仕事しろっていっとくわ。」



「仕事は真面目にしてますよーだ。」

「「おわっ!」」



 シオンとハルオミが同時に叫び、リシリィがビクリと肩を跳ねさせる。

 エッダだけが、気付いていたのか、静かにクロウを見上げて


「お疲れ様です。」

「お疲れさん、翁の使い?」

「そうです。」

 すれば、クロウが理解したように小さく頷いて、その頭を子供がするように、ぽんと叩こうとして、エッダがその手を掴む。

「やめてください。見た目の年じゃないんで。」

「そうだった。オレも野郎の頭撫でる趣味はないや。」

 その様に、エッダがわざとだろう、と睨むのを、クロウが平然とした顔で受ける。


 一方で・・・


「てめー・・・、この場所でやることじゃねぇだろうが。」

「えー?お前なら気付くと思ったんだけどなぁ?」

 すれば真底腹立たしげに舌打ち交じりのシオンに、

「それでも!気配消して近付くのやめてくださいホント!アンタのはマジで心臓に悪い!」

「まだまだだねぇ?」

 ハルオミの主張に、自身の未熟を指摘してみせたり。


 リシリィだけは、変わらず。


「・・・このクソ上司。」

「うん、お前は少し、言葉遣い、考えようか。」


 コイツには勝てないのか、と逆にクロウがジト目でリシリィを見る。ため息一つ、


「で?ナニ?人の奥さんを三人で連れ回して。」

 そう尋ねる、クロウの、


「「「・・・・・。」」」

 

 その表情を見た三人が、それこそ呆れたような顔で鼻で笑う。


「・・・頬が緩んでますよ?」

「うん、凄ぇ言いたかったから。満足。」

 当人はひどく満足そうに、告げた言葉を噛み締めるようにへらりと頬を緩める。

「死ね。」

「聞こえませーん。」

 今はリシリィの辛辣なひと言も、右から左に交わして、

「・・・・・。」


 その、目の前の『奥さん』が、口パクで



( ば か 。 )


 と、告げるのが、たまらない。


 思わず抱きしめたくなるのを、クロウがぐっと奥歯を噛み締めてこらえる。往来でこれ以上の事をすれば、瞬間、蹴り飛ばされるのが目に見えているし、なによりその後のプライベートに差し支える。


 そういえば・・・


 と、


 シオンが、ふとエッダに、ずっと気になっていたいたんだと、彼に向き直った。

「なんですか?」

「さっき、見た目の年じゃない、って言ってた、だろ?」

「ええ。」

「実際、エッダはいくつになるんだ?」

「あぁ・・・。」

 なるほど、と。エッダは納得する。彼の今の外見年齢は十か、それをすこし超えた程に見える。

「この外見は、ファウスト様の魔力行使です。僕の魔力に反応して、僕の意思で元の姿に戻るようにもしてくださってます。」

「ファウスト翁の・・・。」

「相変わらず、桁が違いますね。あの人が神様だと言われても頷いちゃいそうですよ。」

 素直に笑ったエッダが、


「で、年齢です、よね・・・。」

「あぁ。」

「確か、二百はまだ越えてないかと・・・。」


「「「・・・二百。」」」


 想像以上の年齢に、純粋な人である三人が呆気に取られたような顔をする。


「ええ。まぁ、大方の話ですが、魔人の平均年齢が、八百歳前後と、言われていますから。」

「八百、かぁ・・・。」


「そう、なると・・・」

 シオンが、クロウへと目を向けた。


「お前は、どうなるんだ?」

「・・・・・。」


 シオンの問いにクロウの視線が少し泳ぐ。


 あまり語りたくはない事でもあったらしい。

 それでも、先を考えるには知るべき事だと。シオンは目をそらさずに彼を見る。

 すれば、一つ息を吐いて、クロウが

「・・・寿命や、成長も、多分魔人の血の影響はうけるんじゃないかってのが、爺さんの推測。」

「て、ことは・・・。」

「寿命は・・・二百、前後?推定だけど。」

「今、は?」

「んー・・・、実年齢は三十二歳。」

「だよな。」

「だけど、肉体的な年齢は・・・、十八歳から二十歳、くらいに、なるの?」

「そうですね。そうなるでしょうね。単純に人の半分、とすればいいわけではないでしょうが。」

 クロウの問いにエッダが、少し腕を組んで考えるような仕草を見せる。


 すれば、ハルオミやリシリィも初めて聞いたような反応を見せるから

「知らなかったのか?」

「ええ、まぁ。あまり聞くのもって思って。」

 ただ、そう考えると、と・・・。ハルオミとリシリィが顔を見合わせた。




「「あー・・・。」」

「・・・ナニ?その、反応」




 二人の反応に、クロウが眉間に皺を寄せる。


「道理で、か。」

「納得した。」

 うんうんと頷く二人に、シオンも同調するように、

「確かにそのくらいの年齢だと、反射速度とか筋力量とかは、最盛期、か。それに三十年分の技術と経験が加わるんだもんな。」

 今まで近い年齢だと思っていたクロウの、ずば抜けた刀裁きや戦闘能力の高さの理由の一つをまた理解したと、納得するように頷く。


 けれど、二人はぶんぶんと左右に首を振る。


「「・・・・・。」」

「あれ?違、う?」

 シオンが、ハルオミとリシリィの、そこじゃない、と言わんばかりの表情に、思わず反応する。


 すれば、二人は、肩を落として、


「いや、三十路超えてんのに、全然落ち着かない男だなぁ、と・・・。」

「・・・え?外見の話でしょ?あの子の言う通り、筋力とか瞬発力とか、でしょ?」

 思わずクロウが反論すれば、

「いやいやいやいや・・・。」

 ハルオミとリシリィが首を左右に振り、過去を振り返るようにして溜息を吐く。


「血気盛んだわ、血の気が多いわ、いつまでもたっても単独で前線張りたがるわ張れちゃうわ。」

「・・・・・。」

 思い当たる事があるのか、クロウが、すーっと視線を逸らす。

 すれば、

「欲望に忠実だわ、自制効かないわ、性欲ケダモノだわ・・・。」

 次いでリシリィが、ケダモノを見る様な目で見下しながら、スススッと、シオンを守る様にその前へと立ちはだかる。

 その様に、クロウが米神を引き攣らせて、


「・・・お前ら、なんなの?」

「どうもこうもない。このままじゃシオンの身体がもたないってこと。」

「オレだって自制する。頑張ってる。今だってできてる。」

「まだ味占めてないだけだから。一度でも挿入れたら、もう、あとは止まらなさそうだから。」

「・・・そ、んな、こと、は・・・。」

 ギリギリと、奥歯を噛み締めて反論の余地を探るが、

「そこはしっかり否定してくださいボス。」

「ぐ・・・。」

 結局図星と言わんばかりに言い返せないクロウを見ながら、ハルオミが呆れた声を上げた。

「できないんかーい。」

「自信ある。」

「お?」

「・・・止まらない、自信がある。」

「・・・そっちかよ。」

 

 三人の、どうしようもない会話を聞きながら、エッダは引き攣った笑みを浮かべ、少し離れたシオンには十分に聞き取れなかったらしく、


「・・・なんの話してんだ?」

「いや、知らなくていいかと。」

「・・・・・。」

「とりあえず、昼ごはん、行きませんか?」

「・・・そうだな。」

 

 そうして、エッダと二人並んで歩きながら。

 結局、同部隊三人の、なんだかんだ仲の良さげな様を、シオンは一度振り返っては、小さく笑って目を細めた。









【閑話休題】


「そうなると、ナニ?シオンが六十くらいの時に、アンタ、三十手前、とか?」

「その可能性もあるよね・・・。」


「「「・・・・・。」」」


「シオン、死んじゃう!」

「絶対無理ですよそれ!」

「・・・いや、オレだって自制する、多分。」

「絶対無理でしょ!」

「六十代でも、シオンだから!絶対綺麗じゃない!」

「あ─・・・。」



「「「・・・・・。」」」



「・・・うん、全っ然イケるわ、オレ。多分、あの子なら何歳でも・・・、普通に、こう、☓☓☓した──・・・」

「だからそれが駄目だって!」

「アンタが自制する、とか考えられない!」

「いや、そんなこと言われても◯つもんは◯つし。」

「頼むから、セリフもそろそろ自制してもらえませんか?」






「・・・なんか、無駄に楽しそうだな、アイツ等」

「・・・そうですね。」

「ナニ話してんだろ・・・?」

「知らなくていいです。やめましょう、ほんと。」



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