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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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101/113

金剛石(ダイヤモンド)1



 

 ノヴル=オルガヌスから戻って。

 一番最初の、クロウの休みの日に。


「時間、ちょうだい?」

 

 迎えに来るから、と。クロウに念押しされていた。

 以前話していた、欲しい物の買い物に付き合ってほしいのだと。

 聞いていたのはそれだけ。

 当日の、予定時間五分前に鳴ったチャイムに、シオンが玄関を開ければ、

「ん?あれ?休みじゃなかったのか?」

 見慣れた軍服姿の出で立ちに、シオンが目をパチパチさせれば、

「朝方に、ね?危うく休みが休みじゃなくなるところだったから。」

 そう言って、少し血走った目のクロウが、ため息を一つ吐く。

「・・・汚れてんぞ、ココ。」

 と、シオンが頬をしめせば、

「あぁ、返り血かな・・・?」

 半ば力付くで納めてきたから・・・、と。

 予想通りの、物騒な台詞に、シオンは困った様な笑みを浮かべながら、手の甲で無造作に拭うクロウを見つめる。


 そのまま、一度中へ促して、廊下を歩く最中


「シャワー使うか?」

「・・・借りたほうがよさそう?」

「とりあえず、これから行く店で返り血を指摘されたくなけりゃ、浴びたほうがいいかもな。」

「・・・て、ことは服も汚れてる?」

「一見はわかんねぇ、けど。着替えあんのか?」

「持ってこなかったねぇ・・・。」

 だけど、クロウの手には紙袋が一つ。

「これは?」

 と、シオンが中を覗き込めば、中には白い服らしきものが入っているから、

「なんだ、着替えあるじゃねぇか。」

 そう言って、中に手を入れて取り出せば、

「それ、オレのじゃないから。」

「ん?」

「着てほしくて、持ってきた。」

「え?」

 俺?と自身を指させば、クロウが頷く。上着を脱ぎながら、一通り確認して、大丈夫か、なんて小さく呟きながら。もう一枚、シャツを脱いで確認する。流石にそこまで染みることはなかろうと、安堵のため息、

「ちょっと、シャワーだけ借りるわ。」

「あぁ。」

「その間に、それ、着てみて?」

「・・・わかった。」

 素直に頷いてくれたシオンに、クロウが一度目を細めて笑う。


 脱衣所に消えていった姿を見送って、シオンが改めて渡された服を広げた。


 白いシャツタイプのワンピース。


 思いの外シンプルなデザインに、少し安堵した。前回の様な姿ならまだしも、今の成りでヒラヒラやキラキラなデザインは正直似合わないだろう、と。

 腰元を止めるベルト代わりに、コルセットタイプの腹当て。普段身に付けている防具と同じほどの強度を感じるのに、デザイン性がある。

 シンプルながら洗練されたデザインの服に、シオンが


「・・・綺麗、だな。」


 一瞬、躊躇する。


 本当に自分に合うんだろうか、と。

 戸惑いながらも、居間へ向う。


 袖を通せば、さらりとした生地の肌触りが心地よい。黒を基調としたコルセットタイプの防具も丁度良い閉め心地だ。前で止めるタイプだから、着脱も容易にできる。

 そのまま赤い飾り紐を結う。

 ズボンを脱ぐと、足がすーすーする。履きなれないスカートに、しばし考えて、自身のクローゼットを覗き込んだ。それほど多くはない服の中から、黒の細身のタイプのパンツを取り出す。すれば、馴染んだようにフィットするから。


 一度鏡をのぞき込めば、見慣れないものの、それでも違和感のない自身の姿に、小さく安堵する。

 くるりと一回転して、広がる白い裾に、心が躍るのを感じて、

「───・・・っ」

 今まで感じたことがない、新しい服に喜ぶ自分に、少し恥ずかしくなった。


 鏡の中の自分に、思わず目を反らせば、


「どう?」

「わ・・・っ!」

 かけられた声に、シオンの体が跳ねた。

「おまっ!急に声かけんな!」

「・・・・・。」

 思わず振り返ったシオンの姿に、上半身裸のまま、わしゃわしゃと髪をタオルで乾かしていたクロウが、


 上から下へ、視線を、這わせて。



「 ・ ・ ・ ・ ・ 。 」



 止まる。

 

 そのまま、静かに壁の向こうへ消えて行く。


「・・・・・。」

「・・・・・。」

 クロウのその様子に、何を思ったか、シオンが米神を引き攣らせた。


(・・・あの、クソったれ!)


 大股で壁の向こうへ行くや否や


「隠れて笑ってないで、似合わないなら似合わないと――」

「・・・・・。」


 腹を抱えて笑いをこらえていると思った光景は、反してもっと静かで。

「・・・ナニ、してんだ?」

「・・・・・。」

 体育座りで蹲って、突っ伏したまま頭抱えて。

 覗く耳元は自身の目と同じくらい真っ赤。


「いや・・・、なんつーか、想像、以上に、その・・・。」

「だから似合わないならそうと――・・・」

 シオンがため息交じりで告げた言葉は、その手が即座に振られて違うと訴える。なのに顔は微塵も上げてこない。

「・・・どうしたよ?」

「・・・・・。」

 幼い子供にするように、目線を合わせようと膝を付いて、その髪にシオンが手を伸ばした途端、


「───・・・っ!!!」

「うおっ!?」

 感極まった様な顔のクロウが、そのまま首筋を抱き込んでくる。その勢いのまま床に押し倒されれば


「いったぁ・・・。おま、ナニ・・・」

「・・・ダメだ。」

「あァ?」


「剥きたい、てか・・・抱きたい。」

「は?」


 顔の横に両手を付いて見下ろしてくる影を、怪訝な目で見上げれば


「・・・お前」

「・・・うん。」

「・・・鼻血。」

「・・・あ、やっぱ出てる?」

「・・・うん。」

「・・・大興奮デス。」

「垂れるからどけ。」

「・・・いいよ、もう剥くから。」

「・・・・・。」


 理解が追いつかず、一瞬シオンの表情が消えて、クロウの言葉を噛み締めて理解する。

 そして、


「はぁぁあああ!!!? 」

「最高、最高です、ホント良い、凄ェ、似合う。オレのって感じがする・・・!」

「なら剥くんじゃねぇ!出かけんじゃねぇのかよ!」

「そう!そう、なんだけど!・・・ほら、ラッピングされてるプレゼントって、早く剥きたいじゃん!?しかもラッピングが、秀逸すぎると、もう、余計嬉しい、というか!中身が気になるというか!」

「・・・・・。」

 もはやどこかズレた男の、興奮のまま語られる言葉の羅列。そのまま首筋に顔を埋めようとする勢いだ。このままなら、間違いなく、服が汚れる。


 それでも暫くは黙って耐えていたシオンだった、が・・・


「・・・・・。」


 痺れを切らした・・・


 明らかな、『怒』の表情。





「・・・ちっ。」

「・・・あ。」





 露骨に、舌打ちをしてみせる。



 すれば調教済みの犬が反応するように、ビクンと肩を跳ねさせて。

 そのまま、ぐっと瞳孔の引き絞られた表情。


「これ以上、手間取らせるようなら・・・。」

「・・・・・。」


「二度と、行かない、が・・・?」

「すみません。イキたいけど・・・、あ!いや、あの、行きます、行きます、から・・・。」

「・・・・・。」

「すみません!失礼しました!一緒に来て欲しいです!お願いします、ホント!すみません!!」


 半ば絶叫で、ちょっと軽く前かがみのまま。

 それでも緩みそうになる口元と、鼻血を抑えながら、上から退くクロウが、



「・・・クソったれが。」

「・・・すみません、でした。」




 文字通り、『こうべを垂れてつくばう』クロウに、


 


 シオンが、しっかりと、鬼の形相で、見下ろしていた。

 


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