第2話 銀髪の少女と初めての町
陽の光が眩しい。
洞窟から出た俺の目の前には、広がる緑の草原とその奥に見える石造りの城壁の町。まるでファンタジーRPGの世界そのものだった。
「ここが、最初の冒険の拠点ってやつか」
自分が「勇者」として異世界に転生したことをまだ完全には実感していなかったが、これから何が起きるのか期待に胸が膨らんでいた。
腰の剣を確認しながら、俺は町へ向かって歩き出した。
石造りの門をくぐると、目に飛び込んできたのは活気ある市場の風景だった。
露店では果物や野菜、武器防具が売られ、行き交う人々の笑い声や話し声が響いている。あまりの賑わいに圧倒されていると、突然後ろから声をかけられた。
「そこのあなた、初めて見る顔ね。旅人かしら?」
振り向くと、そこには銀髪の少女が立っていた。透き通るような白い肌に、鋭さと優しさを併せ持った青い瞳。そして、肩には小さな白いドラゴンが乗っている。
「……えっと、君は?」
思わず聞き返すと、彼女は軽く笑いながら答えた。
「私の名前はリリス。この町で魔法士をしているわ。あなた、少し他の人と雰囲気が違うわね?」
「え? ああ、まあ、ちょっと……事情があって」
俺が戸惑っていると、リリスは何かを察したように目を細めた。
「なるほど。異世界から来た人間、ね?」
「……なんでそれがわかるんだ?」
驚いて聞くと、彼女は肩のドラゴンを撫でながら答えた。
「この子、ファルミナが教えてくれたの。普通の人間とは違う『特別な力』を感じるって」
俺を見つめるリリスの表情には驚きはなく、むしろ好奇心が混じっていた。
「興味深いわ。ねえ、あなた、名前は?」
「篠原悠斗……って呼んでくれればいい」
「悠斗ね。いい名前だわ。ねえ、ちょっと付き合ってもらえない?」
「付き合う?」
突然の申し出に戸惑う俺をよそに、リリスは俺の腕を掴んで引っ張り始めた。
「さっき魔物が暴れてるって噂を聞いたの。よかったら力を貸してほしいのよ」
「魔物、か……まあ、放っておけないよな」
俺はしぶしぶ頷き、リリスに連れられて町の外へ向かった。
リリスに案内されて着いたのは、町外れの森だった。森の中に踏み入れると、突然周囲の空気が冷たくなり、妙な緊張感が漂い始める。
「ここ最近、森の魔物が妙に活発なの。原因を調べてたら、大型の魔物が縄張りを広げようとしているらしいわ」
リリスの言葉に頷きながら、俺は剣を構える準備をした。すると、前方から地響きとともに黒い影が現れた。
「こいつが……?」
現れたのは巨大な狼の魔物だった。鋭い牙を持ち、全身から黒い霧のようなものが漂っている。
「《ダークウルフ・リーダー》ね。倒さないと、この森に被害が広がるわ!」
リリスが詠唱を始めると、彼女の手に青白い魔法の光が集まり始めた。俺も剣を抜き、魔物に向かって突っ込む。
「《絶対防御》!」
頭の中に浮かんだスキル名を唱えると、全身が透明な光の膜で覆われた。魔物の鋭い爪が俺を狙うが、その防御を破ることはできない。
「よし、これなら――!」
次に俺は剣を振りかざし、もう一つのスキルを発動する。
「《無限斬撃》!」
剣から放たれる光の刃が魔物に次々と命中し、その巨体を斬り裂いていく。リリスの魔法も同時に炸裂し、魔物は一瞬のうちに息絶えた。
「はあ……なんとか倒せたな」
戦いを終え、俺は深いため息をついた。リリスも少し疲れた様子だが、満足げに笑っている。
「さすがね。あなた、本当に異世界から来た勇者なのね」
「まあ、そんなところだ」
素直に認めるのは少し恥ずかしかったが、リリスは俺のことをじっと見つめて言った。
「ねえ、悠斗。よかったらこれからも一緒に行動しない? あなたみたいな人が仲間にいてくれると助かるわ」
「俺を仲間に?」
「ええ。これからも魔物の討伐や、他の問題が出てくると思うの。あなたが一緒にいてくれたら心強いわ」
悩む必要はなかった。この世界に来たばかりの俺にとって、リリスのような存在は頼もしいし、一緒に冒険するのは悪くない。
「わかった。これからよろしくな、リリス」
俺が手を差し出すと、彼女は笑顔で握り返してくれた。
こうして、銀髪の魔法士リリスが俺の最初の仲間となった。新たな冒険の始まりを予感しながら、俺たちは再び町へ戻るのだった。