三題噺柒
三題噺柒 お題「最後 膝 ホッチキス」
私は君のシャツを握りしめる。離れたくないから、離したくないから。それでもきっと君の背中は私から遠ざかってしまう。私の手が、君の背中から遠ざかってしまう。
きっとこれが最後なんだね。そんなつぶやきすら、君には届かない。シーユーアゲイン、ハバナイスデイ……。
*
君を追ってここに来た時から分かっていた。君は私より先に行ってしまうし、私はここから出ることも出来ない。私にできたのはいつまでも楽しく遊んでいることだけ。
ある時は本を一緒に読んだ。肘同士がぶつかってくすぐったくて、そのたびにくすくす笑い合った。
ある時は君に花冠を作ってあげた。色鮮やかなそれに、君は恥ずかしそうに照れた笑みを浮かべて私の名前を読んだ。おお、上手だな。そう言われた私はこれ以上も無いほど舞い上がっていた。
またある時は喧嘩するようにじゃれあった。てのひらやおでこを合わせるたび、君の頬が一瞬だけ紅くなることを私は知っていた。
またある時は思いっきり抱き合った。膝がかちあってしまって少しだけ痛かったけど、その痛みすら幸せに感じられて笑顔が切れることはなかった。
私も、君もその状態に甘んじて、本来あるべき状態を忘れていたのかもしれない。私はここにいる事が出来ないし、君もずっと先に進まなきゃいけない。そんなことなんか、わかってたのに。
私は、君と一緒にいられないことがどうしても嫌になった。嫌になって、しまった。私にはそんな事、許されていなかったのに。君も、そうだったのかな。君もそう思ってくれていたのかな……。
*
私と君が別れなきゃいけなくなったのは順当な結末で、君は先に行ってしまう。だから私は最後の言葉を言うために君に会いに行ったの。だけど君はどこか空ろで、まるで私のことを考えてくれないみたいだった。君は、私に会うのが辛いのかな。それともホッチキスで留められたみたいな、希薄な関係だから気にしてないのかな。私には、どっちかすらもわからない。
だから私は、君のシャツを握りしめる。君がどこか遠いところへ行っても、せめてこのシャツの皺だけでもいいから私がいたことを思い出してほしいから。私のてのひらから抜け出した君が、私を憶えてくれるようなおまじない。
きっとこれが最後なんだね。そのつぶやきも、彼には届かない。
でもひとことだけでもいい。私の言葉が、君に届きますように。
「シーユーアゲイン、ハバナイスデイ」




