三題噺肆
三題噺肆 お題「欲望 咳 準備」
咳が止まらない。
二、三日前からなのだが市販の風邪薬も効果はない。インフルエンザというほど熱も上がっていないし、大丈夫だろうと油断したのがまずかった。今では咳ひとつするたびに呼吸器が痛むほど悪化してしまった。
昨日医者に行ったら「ただの風邪だよ、肺炎を起こしかけているからこの薬飲んでおいてね」と言われた。その通りに飲んだらさらに悪化した。
仕事にも行けないし、たいした知り合いもいないから誰も見舞いに来てくれないということでこの世の終わりだと思うほど退屈だ。本でも読もうかと思ったら引っ越してきてから本を一冊も買っていなかった。PCをつけようとしたら咳が酷くなって、おとなしく布団にくるまれていることにする。これも直ったときのための準備だと考えればいい。
ゲホゲホ、ゲーッホゲホとやっていたら隣に煩いと怒鳴られた。無茶を言わないでいただきたい。仕方なくかかりつけの病院にいくと「忙しいからまた後でね」と言わんばかりの雑な対応をされた。許しがたい。
この世を破滅させてやりたいという欲望がふつふつと湧き上がってくるのも、風邪と肺炎のせいと言うことにしておこう。誰も文句は言わないし。
時間がたつに連れてどんどんと酷くなる咳は、呼吸器系どころか体全体を蝕んでいるようだ。熱こそ上がらないが、体のふしぶしが痛い。なんだかのどの奥のほうに違和感もある。「まあそのうち直るだろう」だなんて言ってられないかもしれないな、なんて下らないことを考えてしまうぐらいには辛かった。
そのくせ人一倍の食欲があるからたまったものじゃない。口に詰めては咳き込まないように気をつけながら食べることのなんと難しいことか。100円で売っているドリンクゼリーをじゅるじゅる啜るのも(畳や布団にとって)命がけだ。抗生物質は何か食べないで服用するとキッツイ副作用が来ることもありますからね、と教授に注意されてから何か食べることなしに薬を飲めない自分がとても恨めしい。
布団に入ってああ、明日も欠勤するかなぁと考えながらうつらうつらするのは想像以上にだるかった。何よりきついのは咳が止まらないことか。
寝ている間に何回か、お隣さんが「うるさい」と怒鳴りに来たらしいことも、後で知った。
朝起きてみると、口もとにガムが張り付いていた。どうやらこの数日間、誤飲したのが引っかかっていたらしい。
ああ、これが張り付いてたらそりゃ苦しいな。
そう思いながら、自分のみに起きたくだらない現実に笑うしかないのだった。




