三題噺弐
三題噺弐 お題「泣く 海岸 香辛料」
わっせ、わっせ、わっせ、わっせ。
海岸に謎の掛け声が響く。まるでお神輿を担いでいるみたいだが、今日は特に祭りなんかないし、近くの子供が遊んでいるのだろうと誰もが思っていた。
しかしその掛け声は子供が発するにはあまりに低く、まるで地の底から這い出てきた死人そのものである。それは言い過ぎにしてもどうしてその声を子供のものだと信じきれるのであろうか、というほどにはその声は低く、聞くものの鼓膜を震わせる重さがあった。
わっせ、わっせ、わっせ、わっせ。
一体誰が、何を運んでいるのだろうか。まさか霊ではあるまいな、と思い近隣の住人に聞いてみたところ、そのほとんどが「ああ、そういえば誰が何をやってるかなんて見たことないなぁ」という曖昧な答えである。
わっせ、わっせ、わっせ、わっせ。
せっかくなので調べてみようと思い海岸線に向かう。広い海岸線は道路に面しているわけでもなく、この寒い時期に海に入ろうとするものもいないため閑散としていた。時折サーファーのような人を見つけるが、その人たちも多いわけではなく少しすると帰っていった。そんな中、それでもまだ例の「わっせ、わっせ」という叫びは聞こえてくるのである。
一体どこから、と右往左往してみると、次第にどこから聞こえてくるのかがわかってくる。それは敷き詰められた砂浜の、その少しばかり上だった。踝ほどもないところで、宴がかわされているのである。小人とも妖精ともつかないような小さい生物が、搾り取るように「わっせ、わっせ」と叫んでいる図は、見ようによってはひどく滑稽であった。これだけ小さいものであるから、地元の人が見逃していたのも無理はあるまい。それはそういう類のものであった。残念ながらそれ以上言えることはないのである。よく見ると、彼らはその小さな体で香辛料のようなものを運んでいるようであった。小さな彼らにそれは大きすぎ、いくつかの個体が力を合わせて運んでいる。それを他のいくつかの個体が取り囲んで、力尽きたときにその代わりになることで少しずつ運んでいるのだ。中には倒れた上に他の個体に踏みつけられて、べそべそと泣いている個体もいる。その涙は視認するには難しいほど小さかったが、水ではないらしい。
夕方まで眺めていたが、その列は一向に進まなかった。距離を測ってみるとわずか1cmである。よくこんな速度でやっていられるな、と思うほどだ。その間も一瞬たりともその手を離さず、そしてあの奇妙な掛け声も続いている。
「わっせ、わっせ、わっせ、わっせ」
その時高い波が押し寄せた。夕闇にまぎれて随分と高くなっていたらしい。
彼らは流されて、二度と来ることはなかった。




