Episode 5
屋上での話を終え、峰村涼太とサラ・ツインベールはカレン・トーマスランドの元へと戻った。
「あれ、カレン先輩いない。教室に戻ったのかな」
先程までの場所にカレンの姿は無く、辺りを見渡すと、生徒達がある場所へと走り向かっていた。耳をすましてみると、何やら修練場にてカレンがある人達に絡まれていると言う。
「カレン……」
「行こう、サラ」
二人は急いで修練場へと向かった。
~修練場にて~
「カレン、お前まだ団体戦のメンバーがいないみたいだな」
「そうですが、貴方になにか関係ありますか? トモヤ先輩」
「いやなに、同じ剣士名家の人間として、心配してるだけだよ。なにせあのトーマスランド家の人間だ。ツインベール家と並んでいる、な」
「それがなんですか?」
「俺はエルデン家の息子、トモヤ・エルデン。お前らに比べて知名度こそ薄いが、剣士名家の一角。カレン、俺らと決闘しろ」
「なぜ私が決闘を?それに私は一人で、トモヤ先輩方は三人。果たして正当な勝負でしょうか」
「なに、大会前の肩慣らしだよ。別に修練場での立ち合いは禁止されちゃいない。双方の合意があれば、許可されてるだろ?」
「それはそうですが、私が合意すると?」
「なんだ?トーマスランド家はエルデン家の様な下級の家系とは勝負できないと?」
「そんなことは……」
「それとも、負けるのが怖いのか?」
「は?」
「そりゃあ魔法の適正がなく、トーマスランド家では落ちこぼれの烙印。そりゃあ逃げたくもなるよな、いくら負け犬でも、負ければトーマスランド家に傷がつく。落ちこぼれは大変だな」
トモヤ・エルデン、トーマスランド家とツインベール家が大きすぎるだけで、彼の家系もいくつもの強き剣士を生み出した一家。決して弱くはない。
だがトモヤはカレンを侮辱する。父親が酷く一族の認知を気にする人間で、家や学校でそれなりの成果をあげても、トーマスランド家は、ツインベール家はもっと凄い、そう言われ続けてきた。
トモヤはカレンが憎かった、カレン自身はなにもしていないが、落ちこぼれの癖してトーマスランド家に生まれた事が、才能があるのは、生まれが良いから、落ちこぼれだろうが、ただトーマスランド家の人間と言う理由で、カレンに八つ当たりをしていた。
「ちょっと」
そんなやり取りを聴いて、彼女は現れた。
「アンタ何様よ」
「おや、これはこれは、ツインベール家の天才剣士、サラ・ツインベール。なんの用かな?呼んだ覚えは……」
「撤回しなさい」
「は?」
「カレンに言った事、撤回しなさい。そして、土下座して詫びろ、クズ」
「ツインベール家の天才剣士だからって、調子に乗るなよ小娘。俺はエルデ……」
「アンタの事は、どうでもいいわ。エルデン家には、仲の良い友達もいるし、尊敬している。可哀想だわ、あんたの様な人間が自分の一族なんて」
「なんだと」
「三年生で、先輩だろうが、カレンを侮辱する奴は、私が許さない」
サラは怒りで気づいていないが、カレンの前で初めて、彼女を認めている事、大切な存在だと言うこと、そんな事を言ってくれた彼女に、心の中でカレンは、とても嬉しく思った。
「カレンが出るまでもないわ、カレンが相手なら、アンタらなんてもって二秒。だから、私が叩き潰してあげる」
「さっきから聞いてれば、いいぜ。その勝負受けてやる。ただし負けたら、俺の奴隷にしてやる。一生逆らえないよう調教してやるよ」
「女生徒に対して、卑猥でキモイ、最低ね。なら私が勝ったら、この学園から消えなさい。そして、二度と私達の前に現れない事」
「良いだろう、カレンの味方をする奴は敵だ。何人だろうが叩き伏せる」
トモヤらは抜剣し、構える。同じくサラも、魔法で剣を出現させ、構えをとる。
「いざ、勝負!」
勝負開始と同時に、トモヤの側にいた二人は、サラに魔法を放った。
一人は周りに煙を、もう一人はチーム全員に透明化の魔法をかけた。
「(これで……)」
だが彼女の前では、無意味だった。
「魔法解除」
「!?」
サラは、煙も透明化の魔法も、全ての効果を打ち消した。
当然彼らには隙が生まれ、全員の横腹に一撃を加え、彼らは敗れた。
「くだらない小細工、同じ剣士名家として恥ずかしいわ」
「……」
正面からやり合って勝てないと踏んでのこの作戦、だがそんな小細工をした所で、彼女にはなにも届かなかった。
「くそ!」
悔しさに押しつぶされた彼らは、修練場から去っていった。
「さすがですね、サラちゃん」
「それはカレンもよ、気付いてたでしょ?彼らの位置」
「煙の動きで、なんとなくですが」
「まぁカレンなら、魔法発動前に仕留めてたわね」
「そうですかね。サラちゃんが褒めてくれるなんて、嬉しいです」
「カレン、アイツに……峰村君に言われたってからもあるけど、ごめんなさい」
「え、どうして謝るのですか?」
「私、貴女に憧れてた。いつだって私の一歩先にいるカレンに。なのに私は、言い訳だけど、貴女に当たって、思ってもない事を、ホントに、ごめ……」
言い終わる前にカレンは理解し、サラを優しく包む様に、抱きしめた。
「大丈夫です、サラちゃん。私は怒ってません。でも、素直なサラちゃんが見れて、本音が聞けて、嬉しいです。ありがとう」
「カレン……ありがとう」
ずっと抱えていたモヤも、ここにきて晴らす事ができた。サラの心は、青空の様に晴れ渡っていた。
修練場から逃げるように去り、憎しみが増していたトモヤ。
「くそ……あのアマ、絶対許さない。カレンより先に、あの女を」
「見苦しいですよ」
「!?」
「これ以上彼女達の邪魔をしないでください」
「誰だお前、見ない顔だな」
「峰村涼太、一年です」
「一年が三年の俺になんのようだ」
「もう違うでしょ」
「は?」
「さっき約束してましたよね?負ければ出ていくと」
「バカかお前、あんな約束守る訳ねーだろ」
「でもサラが負ければ」
「あぁ、俺の奴隷にしていたよ」
「自分が負けたら帳消しなんて、都合良いですね」
「世の中はそうして回ってるんだよ、お前も、剣士として生きていくならもっと賢く……!?」
トモヤの身体は、金縛りにあったかの様に、突然動かなくなった。
「どうかしました?急に固まって」
「こ……これはお前の」
「僕は彼女に約束しました。彼女の味方であると、障害を取り除くと、このまま学園を自主退学と言う形で去ってくれるなら、僕もこれ以上はなにもしません。ただ……もし彼女と、カレン先輩になにかするなら、僕も、《《なにか》》しますよ?」
「分かった!出ていく!自主退学する!だから……命だけは……」
後輩に脅されてるトモヤだったが、とても十六歳の人間から出るとは思えない、狂気とも言える圧と恐怖に耐えきれず、自主退学すると宣言し、その後彼らは約束通り、学園から去っていった。