Episode 3
「団体戦? それってなんですか?」
「アンタ、そんな事も知らないでこの学園に来たの?」
「ま……まぁ」
「はぁ……あきれた奴ね。 団体戦ってのは、三人のチームを作って優勝を目指す競技。 名の通り皆で勝つ団体戦よ」
「そして個人戦と違い、チームで勝ち残った人数で勝敗が決まります」
「じゃあ極端な話、人数が多い、それこそ全員が勝ち残ったら、それで勝ちって事ですか」
「はい。 峰村君のおっしゃる通りです」
「体育館の場所知らなかったり、アンタは何を思ってこの【ミスト】に入学したのよ」
「それは……」
「まぁサラちゃん。 彼のプライバシーな事ですし」
「それに、私入らないわよ。 アンタらのチームに。というか、カレン・トーマスランド、貴女と同じチームなんて、ごめんよ」
「サラちゃん……」
「話ってそれだけ? なら失礼するわね」
サラは、カレンの言葉に耳を傾けず、立ち去って行ってしまった。
「……えっと、カレン先輩とツインベールさんって、仲悪いんですか?」
「まぁ、彼女はきっと、私が嫌いでしょうね」
「どうしてです? 同じ剣士名家の人間同士なのに」
「同じだから、かもしれませんね。 峰村君、少し、聞いてもらっても、構いませんか?」
「はい」
カレンは、剣士の名家であるトーマスランド家とツインベール家の話を始める。
「峰村君は、八十年前の話はご存知ですか?」
「隕石が地球にってやつですよね」
「はい。 今私達の血にも流れている力の源。 全ての始まり、戦争、その終焉に学園の立ち上げ。 その当時、隕石が地球に飛来して、当然世界には混乱がもたらされました。 そして、隕石に眠っていたであろうエネルギーは、空気中にばら撒かれ、その力に適合した人間は、今の我々と同様、もしくはそれ以上に、驚愕の身体能力を手にし、一部の人間の間では、魔法まで使える者すらも現れた」
今でこそ、平和な世の中が出来上がってはいるが、その当時の世界には、恐怖、混沌、醜さ、そして争い。
まさに地獄のような世界。一部の人間のみが超人へと進化し、優越感に浸らずにはいられなかった。
必要以上に力を振るい、世界は少しずつ、確実に、終わりへと向かっていった。
「そんな世界を救ったのが、ツインベール家、そしてトーマスランド家の人間だったそうです。 私自身も、祖父から聞いた話なので、どこまでが正確かは定かではありません。 しかし、そうでなければ、ここまで大きく名家として名が通っていないはずです」
「確かに、ニュースとかをほとんど見ない俺も、その家の話はよく聞きます」
「祖父の時代は、正に世の終わりだったそうです」
「凄い人、ですよね。 カレン先輩のお爺様」
「今も尚生きている方や、当時戦った人は、とても強いです」
「刀にエネルギーを込める方法も、ですからね」
「えぇ、銃にも、一応の適合はしたそうですが、威力が核爆弾並で、危険すぎるあまり、銃に関するものへの適合は、実験含め法によって止められています。 刀が唯一、威力を制御でき、あの時代で戦い抜く為に、必要不可欠だった」
「今学園があるのは、また来るかもしれない脅威から、世界を守る為、ですもんね。 その為に剣士を育成している」
「まぁ、ニュースではそうですね」
「ニュースでは?」
「いえ、こちらの話です。 話が脱線してしまいましたね。 要するに、剣士の名家であるツインベール家とトーマスランド家はその功績故に、その子供や孫にも影響があるのです」
「どちらも天才剣士の名が目立ちますからね」
「えぇ、そして私は、エネルギーである魔力こそあれど、魔法の適正がなく、剣を振るうしかできない、家では落ちこぼれの烙印です」
「先輩が!?」
「えぇ、そしてサラちゃんは天才剣士」
「でも、それがどうして仲が悪いに繋がるんですか?」
「引き分けですからね。 私とサラちゃん」
「引き分け?」
「私とサラちゃんに限らず、ツインベール家とトーマスランド家は、名家故に子供でも実力こそあれば、剣士大会へと参加を義務付けられました。 他で言うなれば、合同練習もですね。 その時、私と歳が一番近いのがサラちゃんなのですが、よく……というより、会っては毎度決闘していましたね」
「もしかして」
「えぇ、峰村君の考えてる通りだと思いますよ。 落ちこぼれと天才が引き分け、これが何を意味するか」
「……」
「サラちゃんにとっては、きっと憎まれてもいますよ」
「……それは、多分無いと思いますよ」
「ん? どうして、そう思うのですか?」
「お二人の事は、良く知ってる訳では無いですけど、ツインベールさんは、そういう人ではないと、直感ですが思うからです。 それに、カレン先輩の手、その手は、血のにじむような、絶え間ない努力の証です」
「……引かないのですか? 女の子の手じゃないって」
「引きません。 むしろカッコイイです。 それに先輩の女子としての魅力は、それ含めたとて、素敵だと僕は思います」
カレン・トーマスランドは、落ちこぼれの烙印だけでなく、実力が付くに至るまで、剣士としても女子としても見られず、家では肩身の狭い思いをしていた。
後輩にこうして言われたのは、生まれて初めてだった。
「ありがとうございます。 峰村君」
「いえ、僕はなにも」
「男の人にそう言われたのは、生まれて初めてで、嬉しくて」
カレンは、気づけば涙を流していた。
「え!? いや、その」
「ごめんなさい、嬉し涙です。 ホントに、ありがとう」
「いえ、あ! 俺、やっぱりツインベールさん誘って来ますよ!」
「え……ですが」
「思うんです、カレン先輩とツインベールさんは、同じチームになるべきです! では!」
峰村涼太は、急いでサラ・ツインベールを追いかけに向かった。
「……やっぱり、峰村君は素敵な人ですね。 流石は、貴方の息子です。 凛さん」
峰村凛、峰村涼太の母親にして、カレン・トーマスランドの 師匠。
そして、元人類最強剣士。