その後
生徒会室からそのまま『2人の部屋』に連れて来られた。
「クレア、おいで」
椅子に座る彼が自分の足の上を指差す。
(そこへ座れと!……失礼します)
恥ずかしさに向かい合う彼の顔がまともに見れない。
「ククッ、さっきまでの元気はどこ行った?」
「だって…」
私の顔を覗き込んできた彼の嬉しそうな表情に身体の力が抜ける。
優しいキスを何度も交わす。
「それにしても驚いたな、まさかメリッサがキースを好きだったなんて」
「ね」
「でもだからこそ残酷よね。キースの前で彼女はあなたを好きなフリをしなければいけなかったのよ。悲しすぎる」
「クレアはいつ気づいたんだ?」
「剣術大会のときよ」
「剣術大会?」
「ええ。メリッサったらね、ずっとキースを見ていたの。本来ならあなたを見ているはずでしょ。なのに彼女はキースから目をそらせずにいたの。それもね、ものすごく心配そうに見ていたの」
「心配そうに?」
「ええ。そりゃあそうよ、好きな人が剣で戦っているのよ。勝敗より、お願い怪我しないで、て思うものだわ。私もあなたを見ながらそう思ってた。でもだからかも。彼女も私と同じだって気づいたの」
「キースをねぇ。クレアも鈍感だけど、キースは更に鈍感だからなぁ、気づかないだろうなぁ」
「私は鈍感なわけじゃ…」
「いや、クレアもたいがいだったな。どうなることかと思ったよ、『思い人がかわいそうですぅぅ!』」
「もう忘れて!だってあの時は……」
「ふはは、ウソだよ、ごめんね」
先ほどより強く唇を押しつけられた。
(ああ…沼)
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その日から事態は一気に動いた。
怪我をした弟の為とはいえ私を突き落としたことで激しい自責の念にかられていたモリスは、尋問される間もなく泣き出し全てを語った。
モリスの父であるクローズ侯爵も、息子の処遇を王室が保証すると伝えたとたん罪を認めた。モリスの処遇を気にする様子はなかったらしい。
それを聞いた時の私の罵詈雑言はローレンスとウェルツを怯えさせた。元の世界ではたいしたレベルの罵詈雑言ではなかったのだが。
ハングウェイ侯爵は最後まで抵抗したが、全ての証拠が揃っていた為、単に自らの首を絞めたにすぎなかった。
ちなみにメリッサが語った父親からの数々の仕打ちについても全て真実でメリッサが嘘を言っていたわけではないことが確認された。
メリッサは父親の罪を証明したことで、最後に一矢報いたと言えるのかもしれない。
彼女が負った心の傷はそれで癒えるわけではないだろうけれど。
ハングウェイ侯爵家、クローズ侯爵家は共に爵位剥奪となった。
被害者である私とローレンスが陛下に恩情を申し入れた結果、モリスは修道院へ入ることとなり、彼女の弟はその修道院の管轄にある病院に入院した。
メリッサは父親の弟夫婦に養女として迎えられた。
叔父夫婦はメリッサの処遇に対して彼女の父親に抗議したことがあり、それ以来、会うことが叶わずにいたらしい。
今回、母親と暮らすか叔父夫婦と暮らすかの選択を迫られたメリッサは叔父夫婦を選んだ。
子どものいない夫婦は「何も出来なくて申し訳なかった」と泣きながらメリッサを迎え入れてくれたらしい。
環境が一変したことで学園を休んでいたメリッサとは、何度も手紙をやりとりし、これらのことを教えてもらった。
とにかく彼女が安心して暮らせる場所が出来たならそれが一番だ。
2ヶ月ほど学園を休んだメリッサが再び登校した時はそれなりに大変だった。
(久々の彼女の美しさに私の網膜も大変だった)
なんといっても私とメリッサが一緒にいることに生徒達は衝撃を受けたようだった。
しかしローレンスが、メリッサの言動は全て父親から指示されたもので彼女は操られていたにすぎない、という事を前もって意図的に流布していたことで、彼女には好奇の目より同情の目が集まった。
よって私と仲良くすることも、驚かれたのは最初の数日だけだった。
そうして私達の新たな学園生活が始まった。それはもう最&高だった。
それから数ヶ月後、王宮で舞踏会が開かれた。
そこで私は結婚の申し入れを受けた。
隣国の王太子に。