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剣術大会

「ウェル、キース、それより大事な話があるんだ。ヒューダルトマン病院、ずっと引っ掛かっていたんだ」

「ヒューダルトマン?」

「モリス嬢の弟が入院した件か」

「ああ、ヒューダルトマンはメリッサの母親の実家だ」

「なんだって?」

「繋がったな」

「ただ、だからと言ってクレアの件に繋がるとは限らない。むしろ繋げるのは難しい」

「弟を入院させてやる代わりに、て話だろ」

「うーん、たしかにウェルの言う通りだろうけど、そこをどう証明するからだな」


「その通りなんだ、キース。入院が条件だとしたら口約束の可能性が高い。となると証明はかなり難しい」

「しかもブラッドの話じゃ弟はもう入院してるらしい。ということはもう契約は成立、過去の話ってことか」

「くそっ。クレアがあんな目に遭ったのに」

「もう少しどうにか出来ないか関係者に知恵を出すよう伝えてある。それでも無理ならモリスから話を聞く許可は父上から頂いている」



「わかった、ローレンス、ありがとう。それと…メリッサとモリスの動機が繋がったら、それをクレアに話すべきだと、ずっと考えていたんだ。やはりクレアに警戒させるに越したことはない。ただ手を尽くして調べてくれたのは2人だから意見を聞きたい。証拠がなくても俺は話すべきだと…どう思う?」

「お前の判断に任せるよ。悔しいが、俺よりお前のほうがずっと近くでクレアを見てきたんだ。お前がそうすべきだと思うなら尊重する」

「俺もローレンスと同じだ。あーだこーだ言っても、怪我から目を覚まして記憶のないクレア嬢を支えてきたのはお前だからな。それにそもそも俺は何もしてない。ブラッドがお楽しみついでに情報を集めただけだ」

「そんなことない、感謝してる。2人ともありがとう」


 ーーーーーーーーーーーー

「つまりモリスは弟の為にメリッサの命じられる通り私を突き落とした、てこと?」

 いつも通りベッドに入った私の隣に腰を下ろし、ウェルツが一連の話をしてくれた。


「まだ推測だけど、信憑性はかなり高いと思うよ」

「そう…」

「だからクレア、メリッサとモリスにはこれからも警戒してほしい。もちろんモリス以外でもメリッサと共にいる連中にはね…間違ってもメリッサに挨拶するようなバカなことはするな」

 そう言うと「コラッ」とでもいうように私の鼻をつまんだ。

「…はい」


「全くいつから俺の可愛いクレアはそんな大胆になったんだか」

「ごめんなさい」

「フッ…いいよ、お前の面倒をみるのが俺の喜びだからな。なのにローレンスなんかと仲良くなりやがって」

「!!!」

 思わずシーツに顔を隠した。

「ウソだよ、ローレンスになら安心してクレアを任せられる、嬉しいよ」

 ウェルツはそう言うと、これまたいつも通り額にキスをした。

「けど、キスはやめる気はない。俺の特権だ」

「ふふふふふ」

「おやすみ、クレア」

「おやすみなさい、ウェル」



 ウェルツがいなくなった部屋で、今聞いた話を反芻した。

 3人が調べてくれてそうだというならそうなんだろう。だろうけど…調べてもらっているのに申し訳ないけれど…やっぱり私は自分でも確かめたい。

「ごめんなさい、ウェル」


 ーーーーーーーーーー


 剣術大会は元の世界の体育祭や文化祭のようだった。授業はなく、参加するしないに関わらず生徒らは誰も彼も楽しそうで興奮が抑えきれない笑い声があちらこちらで響いていた。


 私もスザンヌとフローラと共に競技場へ向かった。中央の広場ではいくつもの試合が同時に行われ、観戦の生徒らは思い思いに選手を応援した。


 私はもちろんローレンス、ウェルツ、キースを応援したが、残念ながらウェルツは準々決勝で負けてしまった。

 残すは準決勝、決勝の2試合のみ、という段階で昼休みになった。



 昼休みが終わろうとしていた頃、私の座っている場所にメリッサが1人でやって来た。

(メリッサ!)

 スザンヌとフローラ、周りの生徒らの視線が集まる。


「クレア様、少しいいかしら」

「なんでしょう」

「2人でお話できるかしら」

「私達も行きます」

 スザンヌとフローラが立ち上がった。心強かった。自分で確かめたいとはいえ、やはり昨夜のウェルツからの話が頭をよぎったからだ。


「………」

 メリッサが沈黙した。

(ん?)

 今日の彼女からはいつものような憎しみの籠もった『圧』のようなものが感じられない。

「では、すぐそこなら。スザンヌ達から見える場所で」

「ええ、いいわ」


 私達はすぐ角の校舎の裏へ回った。少し離れてはいるがスザンヌとフローラもついてきてくれている。


「昨日…」

「はい」(今日も綺麗だなぁ)

「昨日、あなたがおっしゃったことを考えたわ」

「え?」

「あなたが私本人はどうしたいのかと」

「ええ」

「で、考えたの」

「は…い」

「やはり謝るべきではないと」

「………そうですか、残念で…」

「でもっ、あなたのおっしゃったことにも一定の理はあるかと思う…ので…だから、だから…」

「だから?」

「あの方にこれを」

「え?」

 メリッサが差し出したのは綺麗なハンカチだった。メリッサが顔をほんのり赤く染めている。

「あなたから渡して下さるかしら」

「ええ、もちろんです」

「悪かったと…」

「泣きそう」

「は?」

「だってぇ、メリッサ様、考えてくださったんですよね、私の言ったこと。そして新しいハンカチまで」

「………」

「嬉しいです」

「別にあなたに感謝されることじゃないわ」

「いいえ、やっぱりメリッサ様は素敵な方です」

 その瞬間、メリッサの顔がそれまで以上に真っ赤に染まった。

(えっ、可愛い!!)

「では、これで」

 メリッサは私から顔を反らし、足早に競技場へ戻って行った。

(ツンデレかよーっ!)

 私は心の中で叫ばずにはいられなかった。


 競技場に戻ると準決勝の準備が始まっていた。この2試合も同時に行われる。

 右側で行われる試合にはローレンスが、左側で行われる試合にはキースが出場する。

 ローレンスが広場から私の方へ手を振ってくれた。


 試合が始まる。

 ローレンスの試合にキースの試合、右、左、右、左と目線を動かしていた私の視界に、離れた場所に座っているメリッサが飛び込んできた。そして私は彼女の不自然な表情に気づいた。

(ん?ん?んんん???)


 準決勝はローレンスとキースが勝ち残り、決勝は2人で行われることになった。

 2人には申し訳ないが、その時には既に私は試合どころではなくなっていた。

 メリッサの表情を読むことで必死だったのだ。


 剣術大会はキースの優勝で幕を閉じた。さすがのローレンスもキースには敵わないようだった。




 その日から毎日、私はメリッサのことを考えた。様々な可能性と理由を。そして推測だが、ある答えに行き着いた時、私は自分を恥じた。

 こんな簡単なことを忘れていたなんて薔薇リストとして失格だ、と。


 ウェルツやスザンヌ達は、私がここ数日うわの空になっている理由をローレンスに会えないせいだと思っているようだった。彼は王太子としての公務で異国へ出向いていた。



 自分なりの答えに行き着いた私はその時を待った。メリッサと2人きりになれるその機会を。

 そしてそれは突然やって来た。剣術大会から1週間ほど経っていた。


 その日は午前中までの授業だった。

 帰り支度をしていると、メリッサの声が聞こえた。

「私は少し図書室で勉強してから帰るわ」

 彼女が1人教室を出て行った。


(よしっ今だ!)

 私はスザンヌとフローラに少しばかりの嘘をつき、1人メリッサを追った。



「こんにちはメリッサ様」

 私が隣に座るとメリッサはあからさまにイヤな顔をした。

「……席は他にたくさん空いてますわ」

「そうですね、でも私はここがいいんです」

 ガタンッ

 メリッサが立ち上がり、別の場所に移った。私もすぐにそこへ移った。


「ふざけてらっしゃるのですか?」

 図書室だけに大声で文句を言えない分、余計に苛ついているのがわかった。

「いいえ、とんでもない。私はメリッサ様の隣に座りたいんです」

「は?」

 メリッサがその綺麗な眉をひそめた。


「メリッサ様、少しお話しませんか?出来たら自習室で」

「お断りします」

「ではここで話しますか?」

「あなたと話すことなどありません。何を話せと?」

「私はメリッサ様と恋バナがしたいんです」

「恋…は?恋なんですか?」

「恋バナです。恋の話で恋バナ」

「………あなたと殿下の惚気話でもされるおつもりですか?」

「いいえ、メリッサ様の恋のお話です」

「いい加減にしないと本気で怒りますよ。馬鹿にするのも…」

「馬鹿になんかしていません。では単刀直入に言いますね。メリッサ様って…」

 私が耳打ちしたことに驚いて固まってしまった彼女を見て、私は推測が当たっていたことを確信した。


「ということで、少々込み入ったお話があるのですが、自習室に行きませんか?」

 戦意喪失したメリッサは何も言わず私の後をついて来た。

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