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まさかの転生

よろしくお願いいたします

 果てしなく続く緑の大地の向う、青い空と交わる先に海が見える。

(どこだろう?夢?)


「あの海の向こうにはなにがあるの?」

「さぁ、いつか君を連れて行ってあげるよ」

「ほんと?約束よ」

「その代わり僕のそばに一生いると誓って。そうしたら僕は君が行きたいというならどこにでも連れて行くし、欲しいものはなんでもあげる」

「欲しいものはないわ、あなたがそばにいてくれるなら」

(誰だろう…素敵な夢だわ)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ん?ん!?んんんん!?!?!?」

 目を開けた先には黄金で描かれた花が咲き乱れる天蓋、その周りではレースが優雅に揺れている。

(キラキラ、サラサラ…いい香りも…)

「って、え?ここどこ??」

 驚いて起き上がると、激しい頭痛に襲われた。

「痛っ」

 いや、頭だけではない身体中が痛い。私は再びベッドに身体を横たえた。


「お嬢様!お嬢様!」

 驚きに目を見開いた若い女性が駆け寄ってくる。

「お嬢様、お目覚めになられたのですね!今、ご主人様と奥様をお呼びいたします!」


(お嬢様とは????って、待って、頭痛い、身体痛い)

 激痛に身悶えしながらも、私は自分がイエローカラーのナイトドレスを着ていることに気づく。

(これ、明らかに高級シルクだよね。高級シルクなんて見たことも触ったこともないけど…見たことも触ったこともないのにわかる高級さよ)



「クレア!」

 勢いよく部屋の扉が開いたかと思うとバタバタと数名の男女が走り込んできた。

「クレア!!」

 1人の女性が泣きながら私を覆うように抱きしめた。身体を気遣ってくれているのだろう。

「ああ〜クレア!クレア!良かったわ!」

 見た目からも、その様子からも彼女が奥様だろうことは明白だった。そしておそらく『クレア』の母親だろう。

「ララ、少し離れなさい。ホグマン医師、こちらへ」

 これまたひと目でこの家の主人とわかる男性が奥様に声をかけつつ、優しく私に微笑みかける。こちらは父親か。

「そうね、そうね、ごめんなさい」

 彼女はそう言うと涙を溢れさせたまま私に微笑み、後ろに一歩下がった。


 医師の診察を受け、いくつかの質問をされる。


(まずい、何もわからない。ここがどこなのかも、私が誰なのかも。とにかくここは病人モード全開で逃げ切るしかない)

 そう思った私は目を閉じ、『身体がつらすぎて今は何も考えることも答えることも出来ません』オーラを放ち続けた。


 それが功を奏したのか、彼らは数分後には部屋から出ていった。

「どうかくれぐれもご安静に」

「クレア、何も心配はいらない。ゆっくり寝ていなさい」

「クレア、大丈夫よ、ゆっくり寝ていてね。また様子を見にくるわ」

 そう優しく私に言葉を残して。


 1人になった部屋で考えを巡らす。頭と身体の痛みはひとまず置いておこう。それより大切なことがある。さっきからチラチラと視界に映る見慣れないもの。その正体を探るのが先だ。


 私はそっと自分の髪に触れた。すーっと指を通し、髪を目の前に引き寄せる。

(違う!違う!私の髪はくせ毛でショートだ!それに、私の髪は、私の髪色はこんなに…こんなに………これ何色?)


 柔らかく細い絹糸のような長い髪は、オレンジとブラウンにゴールドが混じったような色をしていた。薄い紅茶のようでなんとも美しい。


 こうなったら解決方法は1つしかない。

(鏡、鏡はどこ?) 

 痛む頭と身体を無理矢理起こし、ベッドから少し離れた場所に置かれた鏡台へゆっくり歩を進めた。


 そこには私が覚えている私の顔ではない私がいた。

 顔の左半分に大きく貼られた傷口シートもとりあえず今はそれどころではない。

「え、え、え」

 語彙とは。

「誰?え、誰?え、いやいやいや…誰?」


 そしてふっと頭をよぎった思いが更に私の混乱を助長する。

(知ってる。私はこの顔を知ってる。どこかで見たわ。どこかで…どこかで…)

(誰だっけ、絶対絶対知ってるわ。でもわからない、思い出せない。誰?クレア、クレア、クレアとは!)



「クレア!!」

(次は誰!?)

 扉に立つ若い男性を見たとたん私の中で何かが弾けた。

(あああぁぁぁ!!!知ってる!!知ってるわ、この金髪と恐ろしいほどの美形。彼は、彼は、ウェルツだ!)


「クレア、何をしているんだ。ダメだよ、さぁベッドに戻ろう。君は絶対安静なんだよ。さぁ」

 彼は私をベッドに寝かせると、シーツをかけてくれた。そして私の横に腰をおろした。

「目が覚めて本当に良かった。心配で頭がおかしくなりそうだったよ。ごめんね、守ってあげられなかった。

 でももう二度とお前にこんなツラい思いはさせない。誓うよ。もう大丈夫だからね。

 さぁゆっくり寝るんだ、眠るまでここにいるからね、僕のかわいいクレア」

 彼はひたすら私に優しい言葉をかけ、頭を撫で、額にキスをした。一瞬ドキリとしたが、柔らかなキスは心と身体をほぐしてくれるようだった。



 ウェルツ・ラインベルト。私はこの人を知っている。

(とはいえ友人でも知人でも上司でもない。彼と話をしたこともなければ、会ったこともない)

(だって彼は、私がハマりにハマったマンガ『孤高の白薔薇は愛に咲く』のキャラクターの1人だもの!)


 隣に彼の気配を感じながら目を閉じ眠りに落ちる。

(って眠れるわけないじゃない!夢にまで見た大好きな『白薔薇』のキャラクターが隣に座って私をひたすら撫で続けているのよ!リアルよ!3Dでもなんでもない。彼は今この瞬間、ここにいて息をしている。手は暖かいし、しかもめちゃくちゃイケボ。それでどうやって眠れと言うの!?)


 それでも私は目を閉じた。今はむやみに会話をするべきではない気がした。身体が鉛のように重いのも事実だ。


 しばらくすると

「おやすみ、クレア」

 ウェルツは静かにそう言って、もう一度私の額にキスをすると部屋を出ていった。

 眠れるはずないわ!なんて思いつつ、私はそのまま深い眠りに落ちた。

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