第8話 エスブイ?
スマホに登録されているのは、専務、総務部長、本社、ABC本部、そして長谷川SVの5名だけ。
セスブイ?
13時にナトリ金沢文庫店に長谷川スーパーバイザーが来るというので、急ぎ移動する。
横浜駅まで徒歩5分、京浜急行で16分、金沢文庫駅から徒歩10分、お昼を食べる時間あるかな。
支給のPASMOで入ったけれど、うっかり出る時にスマホでタッチしてしまい、自動改札が閉まったのはご愛嬌。
一階のナトリキッチンでドリアを食べる。
12:50 教室に来るということなので、鍵を開けて待つことにする。
しかし本当に何もない空間だ。
ガラス張りなので外からは丸見え。
チラチラとお客さんと目が合うのが辛いので、外でスマホをいじることにする。
「福本さんですか」
三揃のスーツを着たちょいワル親父が声をかける。
「はい、福本茜です」
「株式会社 鶉秀塾 フランチャイズ事業部 ABCKIDS東日本担当スーパーバイザーの長谷川裕斗です」
ヴィトンの名刺入れに名刺を載せて渡してくる。
慌てて、私も名刺が入った箱から一枚取り出し、箱の上に載せてわたす。
「株式会社島田楽器、グローバル事業部、ABCKIDS金沢文庫校 校舎長の福本茜です。よろしくお願いします」
ボール紙の箱に載せた私の名刺を見て、止まっている。
習ったよ。名刺の渡し方。
でも名刺ケース買ってなかったんだもん。
「頂戴いたします」
やべ、先に言われちゃったよ。
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名刺を渡す時のマナー
名刺を渡す際は、相手が読みやすい向きにした名刺を名刺入れの上に乗せ、両手で持ちながら差し出します。相手に差し出すタイミングで、社名や部署、氏名を名乗りましょう。相手が差し出した名刺よりも低い位置から自分の名刺を差し出すことで、より謙虚で丁寧な印象を与えることができます。
名刺を受け取る際の基本は、渡すときと同様、両手で扱うことが望ましいのですが、名刺交換のタイミングによっては、渡すことと受け取ることを同時に行わなければならない場合もあります。
このようなときは、右手で自分の名刺を差し出し、左手で相手の名刺を受け取るようにします。
受け取った相手の名刺は、すぐに右手を添え、両手で持つようにし、名刺を受け取ったら、「頂戴いたします」と感謝の意を伝えます。
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「福本さんは今日が初出勤日と伺っていますが、午前中は忙しかったのですか」
「はい。本社で島田と松本から色々教わっていました」
「なるほど、本日午後は簡単な調整で、GW明けから本格的に校舎長研修を始める予定です。まだ、什器もないことですし、フードコートに行きましょうか」
ジュウキ?
一階のコーヒーショップに行く。
「何飲まれますか?」
「キャラメルフラペチーノ・無脂肪ミルク・キャラメルシロップ・ホイップクリーム抜き・キャラメルソース追加で」
長谷川SVが固まっている。
パートナーさんは普通にメモしているぞ。
えっ、私、なんかやっちゃった?
パートナーに注文しただけだよね。
「今のをグランデで、それと本日のアイスコーヒーを氷抜きのグランデで」
「ご注文を繰り返します。キャラメルフラペチーノ・無脂肪ミルク・キャラメルシロップ・ホイップクリーム抜き・キャラメルソース追加をグランデサイズでおひとつ。本日のアイスコーヒーを氷抜きグランデサイズで。以上でご注文はよろしいでしょうか」
長谷川SVが少し遠い目をしている。
「松本校舎長は、先月までピアノを教えていたそうですね」
「はい。衣笠店で働いていました」
「営業経験はないと伺っていますが、アルバイトでもないですか?」
「はい。アルバイトは家庭教師しかしたことがないんです」
また。遠い目をしている。
「ファーストフードとかコンビニとか、マニュアル通りに行う仕事に就いたことはないですか」
「ないですね」
「学校の校則は守る方ですか、ルールは破る人がいるからあるという方ですか」
「校則は守ります。破ったことはないですね。厳しい学校だったので、身に染み付いています」
「そうですか」
ドリンクを受け取り、テーブル席に座る。
「本日の目標としては、5月中にやることをリストアップしてスケジュールを固めたら終わりです。
リストアップといってもマニュアルどおりやるだけですので、肩の力を抜いてください」
「は、はい」
「こちらがマニュアルです」
紙袋から5cmほどの厚さのA4ファイルを数冊取り出す。
なにこの厚さ。