表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小学生なのでEiken合格を目指します。  作者: 茜のパパ
第一章 フランチャイズ校オープン(オープンスタッフ私だけ?)
2/54

第一話 面接


島田楽器店本社3階会議室

第二新卒枠から外れた28歳大卒福本茜は、中途採用枠に初挑戦し、最終面接まで漕ぎ着けた。


役員面接をするのは、川崎ピアノ特約店 島田楽器社長、専務取締役、総務部長の3人だ。


中途採用といっても、茜は正社員経験が一度もない。大学卒業後島田楽器にボイストレーナーとして採用されたが、その雇用契約は業務委託契約であり、国民保険加入の個人事業主だからだ。


「では、自己紹介をお願いします」

右にいる総務部長が事務的に話す。


「はい、福本茜、平成⚪︎年生まれ、28歳。神奈川音大・声楽科卒です。現在は、御社のピアノ教室でピアノ講師として勤務しております」


「弊社の事務職を希望した理由についてお聞かせください。」


きたきた、マニュアル通りだ。


「はい、現在ピアノ講師として活動しておりますが、将来的には教室運営に携わりたいと考えています。元々御社のスタッフのきめ細かいサービスを尊敬していましたので、今回の求人をみて私もその一員として活動したいと思い希望いたしました。」


ホントは正社員になりたいだけなんだけどね。


総務部長が職歴を確認しながら質問する。「以前の配置はボイストレーナーでしたが、昨年からピアノ講師に変更になっていますね、何か理由はありますか」


やっぱりそこ聞くよね。


「はい、声楽家出身ということでボイストレーナーとして採用していただきとても感謝しています。私はもともと合唱団などで子供に教えることを希望していました。しかしボイストレーナーとしての仕事は、カラオケが上手くなりたい大人の方のレッスンが主体でしたので、2年目の契約更新の際、子供の指導機会が多いピアノ講師へ登録変更いたしました」


ホントは一部のオジサンからのアプローチがウザすぎただけなんだけどね。いつ歌手デビューするのって、もう引退したわ!オバサンたちからはヤキモチ妬かれるし、乙女のうちはボイストレーナーやるもんじゃないね。


「ほう。子供の教育が希望ですか?」総務部長が確認する。


「はい。御社は幼児を対象としたリトミックから大人のピアノ教室まで、幅広く事業を展開しています。可能であれば、幼児を対象とした分野で幼児及び保護者の顧客満足度を上げる仕事につきたいと思っています」


よっしゃ、就活キーワード「顧客満足度」言えた!


「また、顧客満足度か。今年の流行語大賞か?」社長がボソッと呟いた。


えっ。顧客満足度ダメなの?


総務部長がチラリと社長・専務を確認して質問を続ける。


「顧客満足度を上げるとおっしゃいましたが、事務職としてどのように上げるのですか?」


えっと。なんていうんだっけ。いやー。忘れた。


「ボイストレーナー、ピアノ講師として御社で働かせていただいていますが、お客様から一度も直接クレームを受けたことがありません。私はそれを私の実力だとは考えていません。

毎週行われるミーティングで、店長から各トレーナー・講師に対して、この時期にお客様からあった要望・苦情の説明があり、事前に注意喚起されています。具体的には運動会での振替とか、夏休みの帰省とか、お客様都合でのレッスン変更があることが多いので、予め講師からお客様に確認するように指示があり、毎回先手先手で保護者の要望に応える準備をしています。私も事務スタッフとして同じように活動して、顧客満足度を上げたいと思っています」


言えた。想定していなかったけど、キチンと答えられた。


社長は茜をジロリと見ていった。

「それはどこの店長だね」


「衣笠店の店長です」

茜が答えると社長が質問を続ける。


「講師として活動する点で、店長またはスタッフで困った点はありますか」


えっ、これっていわゆる圧迫面接?私回答間違えた?困った点?


「特に困った点はありません」


「何もない?そんなことはないでしょう。完璧な人間なんていないんだから。よーく考えて答えなさい」


ややややっ、これって圧迫面接だよね。ホントないんだけど。殆ど口聞かないし。


「困った点はありませんが、こうしたら良くなるのにと思うことはあります」


「何ですかそれは?」

右に座った専務が質問する


「生徒さんのお休みに伴う空きコマの処理です。私たちは、歩合制で活動しており、空きコマ中に待機していても賃金になりません。生徒さんの中には、早い時間に来たいけれど、空きがないので遅い時間に来ている方がいます。空きコマが事前にわかっているのであれば、その情報を生徒さんに配信して、時間割変更を可能にしても良いと思います。講師としては連続で効率よく勤務したいですし、早い時間に来たい生徒さんはその希望が通るのでwin-winだと考えます」


社長も専務も何かメモを続けたままで、質問しない。


「次の質問に移ってよろしいでしょうか」総務部長が社長・専務に確認する。


「弊社では原則副業を認めていません。現在弊社以外にどちらか勤務している会社はありますか。また退職することは可能ですか。」


「個人事業主ですので、役務契約になりますが、御社の他、家庭教師のチャレンジで小学生から高校生に英語を教えています。また、地元の幼稚園のピアノ教室で補助教員をしています。家庭教師のチャレンジは、他に先生がいると思いますので、御社で勤務する際にはキチンと引き継ぎをします。幼稚園も人気のあるポジションなのですぐに後任は決まると思います。」


「ピアノだけでなく、英語も教えているのですか?」専務が急に質問する。


「はい、元々小学生から中学一年までロンドンで育った帰国子女ですし、イタリアでの留学経験もあるので、英語は得意です。大学受験でセンターを受ける必要から文法事項もしっかり学習しました。おかげさまで、中学受験のために英検®️3級合格を目指す小学生や、大学入試のために英検®️準1級を目指す高校生を指導しています」


社長と専務、総務部長が目を合わせる。


「英検®️準1級をお持ちですが、いつ取得しましたか?」


「高校1年生の時です。」


えっ、どういうこと。なんか空気が違うけど。長所とか聞くんじゃないの?学生時代に頑張ったこととか、将来の夢とか。


「弊社は楽器の販売がメインですが、ピアノ教室のほかに、カルチャースクールやそろばん教室も展開しています。先ほど衣笠店長の話が出ましたが、ピアノ以外の教室の事務になることもありますが大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です。社員になるということは、転勤があるものと認識しています」


これは採用されるかも。

島田楽器は三浦半島しか展開していないから、どこでも転勤しますよ。


「専務から質問はありますか?」


「外国人とのコミュニケーションは大丈夫ですか?」


「はい、在学期間中、1年間イタリアに留学し、寮生活を送りました。その間は英語とイタリア語で全てコミュニケーションをとりました。何も問題ありません」


「私から以上です。総務部長」


「社長、お願いします」


「求人欄には、高卒以上、月給19万円から、と記載していますが、よろしいですか」


「はい」


「厚生労働省の統計によれば、大卒の初任給は通勤手当含むで、228,500円です。卒業して社会経験を積んでいることですから、それぐらい欲しいのではないですか?」


「はい。現在御社からの報酬が月21万円で、国民年金を払っています。給料が19万円でも社会保険に入れるのと通勤手当がいただけるのを考えると、そんなに手取りは下がりません。

いただけるのであれば、大卒のお給料をいただきたいのですが、高卒事務員に応募しているので、それは高望みだと思います」


「はは。安い報酬ですみませんね」社長が苦笑いする。


「いえ、労働時間が短いだけです。時間単価は2300円頂いていますので、一日8時間、20日勤務したとすると月給換算で36.8万円です。決して安くはありません」


「フォローありがとうございます」総務部長も苦笑いする。


「私から以上です」社長がニッコリ笑う。


後日。採用通知が来た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ