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天体観測とネメシス  作者: 彗
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水星の暴走

 犯人と断定された水星。彼に呼ばれ、星座山に赴く彦星。水星の暴走は既に始まっていた。



 詠斗が犯人だと知ったときから、僕は詠斗のことを意識的に避けるようになった。7月に入ると尚更だった。

 僕は不登校になった。友達3人の連続殺人と信じていた詠斗が犯人だと知ったショックのせいだった。

 不登校のまま夏休みを迎えた。僕は不登校になった間、幸太と亮司の検死結果をずっと待っていた。

 

 7月も終盤に差し掛かった頃、塔壱兄さんに呼ばれた。

 「幸太君と亮司君の検死結果が出たぞ」と言われた。僕は「待ってました」とばかりに飛びついた。

 「まず幸太君は、首吊りによる窒息死。亮司君は、首を絞められたことによる窒息死だそうだ」

 淡々と語った。現場からは詠斗や僕の指紋が検出されていないようなので、詠斗はロープなどを使って首を絞めたのだろう。

 「わかった。ありがとう」

 僕は礼を言い、自分の部屋に入ろうとした。すると兄さんが、

 「おいおい待てよ。詠斗君からお前宛に手紙が来てるぞ」

 

 僕はその場で固まった。

 

 「わ、わかった。見ておくよ」

 しどろもどろになりながら答え、僕は素早く部屋にこもった。

 震える手で開封すると、

 


 ”塔弍へ。明日、星座山で話したいことがあるから、夜5時頃に来てくれ”

 


 と書かれていた。僕は悟った。

「詠斗は明日、僕を殺すつもりだ」と。

 僕は眠れぬまま夜を過ごした。


 翌日の夕方、僕は星座山の登山道に足を踏み入れた。念の為、スマートフォンは緊急通報画面に設定しておき、すぐに通報できるようにしておいた。また、兄さんからもらった警察の防弾チョッキを身に着けた。

 今の星座山は8合目で亮司の遺体が発見されたことから、今の立ち入りは6合目までに制限されている。

 

 6合目に到着すると、丸太ベンチに詠斗が座っていた。僕の中の緊張感が一気に跳ね上がった。

 

 「、、来たか。塔弍」

 詠斗はなぜか緊張していた。

 「ああ。それで、話って何?」

 僕もだいぶ緊張していた。

 「お前に話しておきたいことがあるんだ」

 

 僕は身構えた。今更、”俺が殺した”なんて言うつもりなのか?

 「実は、、、幸太と亮司を殺したのは、お前の兄さんだ」

 「、、、は?」


 意味がわからなかった。自分の罪を認めるわけでもなく、兄さんに罪を着せるなんて暴論すぎるだろ。

 「お前、、何言って、、、」

 頭ではそんな事ないと思っていても、心の内では動揺していた。

 「本当だ。俺は見たんだ。幸太と亮司を、お前の兄さんが殺す瞬間を!」

 詠斗は声を荒らげた。僕は非常にばかばかしくなり、

 「もういい。帰るからな」

 と言い、登山道を下り始めた。

 、、、あれ?俺は、詠斗が”ネメシス”なのか聞きに来たんだっけ。そうだ、聞かないと。

 振り返ると、縄を持った詠斗がこちらに突進してきた。その顔は、なぜか酷く怯えているようだった。

 

 「っ!」

 

 僕は咄嗟に躱した。詠斗は笹薮の中に突っ込んだが、すぐに立ち上がり、

 「塔弍、、、頼む、死んでくれ」

 といい、縄で首を絞めようとしてきた。僕は逃げながら携帯で警察へ通報した。

 「もしもし!警察ですか!早く来てください!星座山6合目!」とだけ言い、僕は逃げ続けた。

 「早く殺されてくれ塔弍!俺は、、、俺はあぁぁ!」

 「詠斗!一回落ち着け!何の話をしてるんだ!」

 僕は話し合おうとしたが、無理なようだ。

 気がつくと、巨木の幹まで追い詰められていた。逃げ道を探していると、また詠斗が突進してきた。

 

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 発狂しながら迫る詠斗に対して、何かないかと辺りを見回すと、巨木の裏に僕達の望遠鏡があった。

 僕はそれを手に取り、迫り来る詠斗を殴りつけた。

 

 「ぐぁっ、、、」


 鈍い音と詠斗の呻き声が響き、彼は地面に倒れ込んだ。脳震盪を起こしているようだったが、意識はあった。

 「塔弍、、、殺、、いと、、、”ネメシス”に、、、」

 詠斗はとぎれとぎれに話していた。言葉の断片しか聞こえてこず、意味は理解できなかった。

 

 「詠斗、、、」


 僕がそう言った瞬間に、警察が到着した。その中に、私服姿の兄さんがいた。 

 「塔弍、、、話は後で聞く」

 とだけ言い、兄さんは詠斗の方へ歩いていった。すると詠斗は、

 「嫌だあぁぁぁぁぁぁ!許してください!お願いします!殺さないでください!」

 再び発狂した。まるで、兄さんに怯えているかのように。

 「さあ来い!」

 兄さんが言い、詠斗を連れた警察一行は下山していった。僕は安堵と疲労で呆然としていたが、詠斗が山を下る途中に放ったであろう声が聞こえたところで我に返った。

 

 僕はかつてないほどの達成感に包まれていた。同時に、友達を失ってしまった悲しみや虚しさにも包まれていた。真逆の感情どうしを抱えたまま、僕は山を下った。

 この後、村に一時の安寧が訪れたのだった。


 1年後の7月、僕は星座山の山頂に作った社に花を供えていた。一連の事件が終わった後、作った社だ。

 石が立っているだけだが、僕は毎月、花を供えに来ていた。備え終わった後、同行していた兄さんが、

 

 「北海少年院にいる詠斗君の面会許可が降りたそうだ。千歳市にあるから、明日行ってみるか?」


 と言った。詠斗はその後、裁判で有罪となり、少年院に収監されていたが、今月ようやく面会許可が降りたのだ。

 

 「分かった。明日、北海少年院に行こう」


 詠斗に、事件の真相を聞きに行くのだ。

 

 僕は、登山道を兄さんと2人で下り始めた。



 警察に逮捕、収監された水星。この世を去った友の安寧を願う彦星。彦星の隣で事件を傍観する織姫。事件の根底がついに明らかになる。

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