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天体観測とネメシス  作者: 彗
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真珠星の狼狽

 木星の死を目の当たりにする4つの星。駆け付ける織姫。狼狽する真珠星。今夜の真珠星は月とともに。

 

 僕達の中で、最初に口を開いたのはマーキュリーだった。

 「、、なぁ、、どうする?」声が震えていてよく聞き取れなかった。これほど詠斗が動揺しているのを見るのは初めてだった。

 「、、警察に通報するか?」遅れてカノープスが口を開いた。普通に考えれば、その考えが普通だろう。

 「わかった。俺が通報する」この中で唯一、携帯電話を持っていたスピカが警察に通報した。通報から15分ほど経って、4人の警察官が到着した。そのうち1人が僕達の方へ来て、

 「星座駐在所の星野です。どうしましたか?」と聞いてきた。

 「、、、星野?」僕以外の3人が聞き返した。

 「僕が説明するよ。塔壱兄さん」僕は警察の制服を来た自分の兄に言った。

 「塔弍!」塔壱兄さんは事件現場に自分の弟が居て、驚いているようだった。

 「塔弍の兄貴って、警察官だったのか、、、」他の3人以外そうな眼差しで僕を見ていた。

 「その話は後。それより、僕が状況を説明するよ」僕がもう一度言うと、塔壱兄さんは手帳を取り出して、

 「わかった。説明頼む」といい、手帳にメモを取り始めた。

 僕がこの一連の状況を説明し終わると同時に、他の警察官が僕達の方へ来て、

 「心中お察しします。こちらの方の遺体は、我々、警察がお引取りします。1週間ほどで検死結果が出るでしょう」と言った。僕は幸太の死因より、どうして彼は死んだのかが気になっていた。村の人達はみんな顔見知りのような存在だから、いじめが原因とは考えにくい。だとすると殺人?なぜ?

 このような考えが渦巻いていたところ、塔壱兄さんが、

 「とりあえず、みんな今日は家に帰りなさい。明日、駐在所で事情聴取をするから、各自空いてる時間に来てくれ」と言い、僕達は警察の人たちに連れられて星座山を下山した。

 そのとき、山頂に天体望遠鏡を置いたまま下山していたことに気付けなかったことを、僕は深く後悔する。

 山を降りると、僕達4人は、1人ずつ警察官が付き添ったまま帰宅した。僕は塔壱兄さんと一緒に家に帰った。

 「塔弍。そんなに落ち込むな。お前のせいじゃない」塔壱兄さんの励ましの言葉は僕には聞こえていなかった。さらには、「兄さんに僕の何がわかるんだ」と兄さんに対して苛立ちまで覚えた。

 4人それぞれの思いを抱いたまま、今日の夜は終わりを告げた。


 翌日、僕は初めて悪夢を見た。幸太が何度も死んでゆく夢だ。だが最後、夢の中の幸太が、僕に”なにか”を伝えようとしていたことだけ、僕の頭に妙に鮮明に残っていた。

 朝食を取り、支度をすると塔壱兄さんの居る駐在所へ向かった。駐在所は町役場の向かい側なので、村の中心部まで歩かなくてはいけない。ぼーっと歩いていると、道を曲がってきた人にぶつかった。

 「あ、、すいません、、、」元気のない声だったが、聞き覚えのある声だった。

 「あれ、、亮司、、」それは亮司だった。

 「ああ塔弍、、」亮司は見たことがないほど元気がなかった。目には光がなく、昨日とは比べ物にならないほどやつれていた。

 「お前、、寝てないのか?」亮司が聞いてきた。僕より亮司の方が寝ていないように見えたので、

 「亮司こそ、寝てないんじゃない?」と聞き返した。

 「ああ、、、ちょっと眠れなくてな、、、」ちょっと眠ってない程度でここまでやつれるのか心配になったが、駐在所に着いたので会話は中断となった。

 「すいませーん」と言うと、奥から塔壱兄さんが出てきて、

 「ああ、来たか。じゃあ、ここに座って」駐在所の奥の居間に案内され、事情聴取は始まった。

 あの日、君たちは何をしていたか、なんであの遺体を発見したのか、、、など様々なことを聞かれ、1時間弱経った後、

 「最後に、、君たちは、彼の死に関与していないかい?」意味がわからなかった。僕達が、友達を手に掛けるとでも思っているのか。

 「そんなわけないっ!」今まで静かだった亮司が急に声を張り上げた。亮司には、友達を馬鹿にされているように感じたのだろう。

 「ああ、変なことを聞いて申し訳ない。これで事情聴取は終了です」と言われ、僕達は帰路についた。

 「またね、亮司」ぼくが言うと、

 「じゃあな。塔弍」と言い、亮司は去っていった。

 、、、おかしい。亮司はいつも帰るときは「またな」と言うはずなのに、今日は「じゃあな」と言ったことが妙に気になった。

 この引っかかりをそのままにしておいたことが、後で後悔を生むことになる。

 僕はこの妙な引っかかりを鎮めるため、星座山に登った。山頂広場は立入禁止になっていたため、8合目の広場のベンチに座った。この山から見える正座村と、奥に見える旭川市の街のコントラストが僕は好きだ。

 「この休憩所も、随分使ってなかったな、、、」と思い中に入ると、奥の暗がりに先客が居た。

 休憩所は小さなログハウス風の建物になっていて、部屋の中心にある1つの電球のみが光源である。そのため隅の方は暗がりになっていて、入口からはよく見えない。

 村の人かと思い、

 「誰ですか?」と聞いてみたが、返事がない。寝ているのかと思い、顔に目を近づけてみると、亮司ことスピカだった。

 驚いて、のけぞってしまった。天体観測以外で星座山でスピカにあったことがなかったので、新鮮な気分だった。だが、その新鮮な気分は次の瞬間、跡形もなく消し去られることとなる。

 スピカを起こそうと、僕は彼の体を揺すった。

 妙だった。揺すった感覚自体が変だった。スピカの体は揺すっても動かなかった。硬直していた、と言った方が正しいかもしれない。

 もっと強く揺すろうと首周りに触れた時、僕は衝撃を受けた。

 、、、冷たかった。

 スピカは死んでいた。

 そして瞬時に、あの「じゃあな」の意図も理解した。

 僕の引っかかりは、最悪の形で解消された。

 山頂に放置された望遠鏡のおよそ半分が赤く染まり始めていた。

 空には、満月の隣にスピカが煌めき、月とともに休憩所を照らし出していた。

 夜空に煌めく真珠星。彼を発見する彦星。彦星が受けた疑問の残酷な解消。赤く染まる望遠鏡。この望遠鏡の闇とは、、、

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