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天体観測とネメシス  作者: 彗
1/5

木星の死

 ごく普通の生活を送る彦星。彦星の幼馴染の布良星。天体観測を共にする真珠星と水星。消息不明の木星。木星の居場所は近くで遠い。

 

 「アルタイル!」

 僕を呼ぶ声に導かれ、僕は夜の星座山を登っていった。

 このいつもの天体観測の時間が、僕の心のなかに一生刻み込まれることになる。

 

 

 僕の名前は星野塔弍。

 北海道の田舎にある幌冨中学校に通う1年生だ。田舎の学校らしく、1学年には1学級しかなく、1クラスの人数も約30人と、全校生徒が100人に満たない。

 星が好きで、趣味が天体観測。いつも家の近くの星座山で天体観測をしている。

 将来の夢は天文学者で、いつかこの星座山に天文台を作ることが僕の夢だった。

 星座山の麓に、僕の家はある。星座山の山頂部分は開けているため、天体観測には最適である。

 星座山の麓に広がる星座村は、四方を山に囲まれた盆地である。旭川市の北東側に存在し、鉄道はおろかバス路線もなく、タクシーでさえサービスの対象外となっている、典型的な田舎である。

 コンビニやスーパーなどもないため、買い物には隣の旭川市に出るしかない。

 昔、1軒だけあった商店も国鉄の星川線という路線が廃線になってから閉店したと聞いている。

 「塔弍ー遅刻するぞー」下の部屋から父親の声が聞こえ、時計を見ると8時を指していた。

 学校までは約1kmあるので、だいたい20分ほどかかる。始業時間が8時25分だから、、、

 「やばい!行ってきます!」と言い、急いで学校に向かった。

 5分ほど走ると、線路跡の遊歩道に入る。そこから更に15分歩くと、星川駅舎を改装した中学校に辿り着く。

手早く靴を脱ぎ、教室に入ると、

 「アルタイル!おはよう!」元気な声が飛んできた。

 アルタイルは僕のあだ名で、星言葉が「冷静」だからだ。

 「学校ではその名前で呼ばないでよ」と、理久に言った。

 三浦理久は小学校の頃からの友達で、親戚だ。中学校のときから一緒に天体観測をしている。僕にとっては天体観測に付き合ってくれる、大切な友達だと思っている。

 「ごめんごめん。その名前は星座山だけだって約束だったな」

 いつも天体観測をしている星座山では、みんなのことを星の名前で呼ぶ約束になっている。

 僕はアルタイル、理久はカノープスと呼ばれる。

 カノープスは「優しさ」の意味を持ち、他の仲間の3人にも性格に応じた星の名前が付いている。

 「おはよう」短く、だが通る声が響いてきた。彼は風間詠斗。頭が良く、天体観測に参加する友達の1人だ。

話が上手いため、マーキュリー(水星)の名前が付いている。星言葉は「知性とコミュニケーション」だ。

 理久と詠斗と話していると、いつのまにか始業時間になっていた。チャイムがなり始めたとき、教室に滑り込んでくる生徒がいた。

 「走ったー!ギリギリセーフ!」元気な声で話すのは、クラスの人気者の沙河亮司だ。彼も天体観測に参加していて、スピカと呼ばれている。星言葉は、「センスと直感力」である。美術が得意教科で、先生から絵のセンスが良いと褒められていたことに由来する。また、勘が鋭いことも理由の1つだ。

 「亮司は毎回、遅刻ギリギリだな。今日も寝坊か?」理久が聞くと、

 「いやーちょっと寝坊しちゃって、、、」

 みんな「、、、やっぱりか」という顔をしている。亮司はいつも遅刻ギリギリだが、憎めないキャラなのだ。

 「席につけー朝の会、始めるぞー」先生が入ってきて、亮司は席についた。

 午前中の授業を終わらせると、みんなで学校の敷地内にある小屋に集合した。外から見ると倉庫のように見えるが、中には星の写真が貼られており、みんなでお金を出し合って買った天体望遠鏡が1台置いてある。

 元々は使われていない廃屋だったが、中を掃除したらなかなか綺麗だったので、僕達の秘密基地になっている。

 「なあなあ。次の天体観測、いつにする?」天体観測は、僕の家の裏にある星座山でいつも行っている。みんなの予定が合う日にいつも行うので、2,3週間に1回程度の頻度で実施する。今週が丁度、前の天体観測から3週間後なのだ。

 「明日の土曜日で良いんじゃない?みんなの予定はどう?」僕が聞くと、

 「明日は空いてるな」詠斗が言うと、みんな「俺もー」「同じく」みんな明日の土曜日は空いているらしい。

 「じゃあ、明日の土曜日の午後5時に塔弍の家の前に集合で!」理久がまとめ、天体観測は明日に決まった。

 次の日、僕は昼頃に秘密基地へ行き、望遠鏡を取りに行った。望遠鏡は僕が管理していて、集合時間までに望遠鏡を取りに行き、山頂の広場で望遠鏡をセットするのが僕の役割だ。だが、僕の力では望遠鏡を持って山を登るのは厳しいので、理久と亮司が交代で持ってくれている。

 家の前まで望遠鏡を持ち帰ると、みんなが待機していた。

 「おう塔弍!来たか!」亮司と理久が同時に出迎えてくれた。

 「少し早いけど、行こう」詠斗が言った。珍しく感情が表に出ていた。

 「わかった。亮司と理久、お願い」今日も同じように望遠鏡を亮司と理久に持ってもらい、僕達は山に入った。

 「アルタイル、今日はどんな星が見えそうだ?」スピカが聞いてきた。

 僕は、「土星が横に見えて、火星が頭上に見えるよ。あっ、あと、木星が見られるよ」土星、火星、木星の3つの星を挙げた。

 「じゃあ、今月はジュピターの月か、、、」望遠鏡を持ちながらカノープスがしみじみと言った。

 ジュピター、つまり木星は、かつてこの天体観測に参加していた加持幸太に付いていた名前だ。この集まりのなかでは最年少で、今は小学6年生になる頃だろうか。天体観測を心から楽しんでいたが、今年の僕達の中学校入学から天体観測に来なくなった。学校にも来ておらず、今は消息不明になっている。

 「なんで、来なくなったんだろうな」マーキュリーが言った。詠斗は気にしていないように見えて、実は心配していたりする。今は声が少し震えていたので、心から心配していることがわかった。

 「まあ、今気にしたってしょうがないって!それより、もうすぐ山頂だぞー」重い空気を和ませるようにスピカが言った。こんな話をしているうちに、山頂に着いていた。

 山頂部は広場になっており、周りは林で囲まれている。広場の中央に陣取り、望遠鏡を上に向けて、僕はセットを始めた。

 木星を探していると、スピカが言った。

 「あっちの林に、”なにか”がある」

 北の方の、僕達が登ってきた登山道とは反対側の林を指差した。

 「”なにか”?”なにか”ってなんだよ?」カノープスが聞くと、

 「わからない。けど、”なにか”が絶対ある。俺、見てくる」スピカはそう言うと、林へ入っていってしまった。

 「どうする?追いかけるか?」マーキュリーが問いかけた。スピカの行動に、理解が追いつかないようだった。

 「1人で行かせるのも危険だ。追いかけよう」僕が言い、みんなでスピカを追いかけた。林に入ると、すぐにスピカが居た。何故か、1本の木の前で佇んでいた。

 「居た!スピカ、どうしたんだ。何かあったのか?」詠斗が聞くと、

 「、、、これ、、、見てみろよ、、、」

 震えた声でスピカが言った。彼が指差す方を見ると、1人の人が木にくくりつけた縄で首をつって死んでいた。その顔をよく見ると、見覚えがあった。

 この人の顔は、ジュピターこと加持幸太だった。

 みんな、声が出なかった。その木の前でずっと佇み続けていた。

 そのとき、山頂広場に置いてある天体望遠鏡の一部が赤く染まっていたことに、僕達は気付けなかった。



 死を遂げた木星。それを見つけた真珠星。驚愕する布良星、水星、彦星。次の犠牲は、、、

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