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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第四章 二、お世話係(一)

描写を加筆しました。2023.01/13

   第四章 二、お世話係



 森林から、わたしが王都に戻れたのは皆より数日も後だった。


 それもこれも、全部コイツのせい。

 王都に直接入れるわけにはいかないと、さすがにそこは、皆も冷静だった。

ただ、コイツを見張る適任者は、懐かれているわたししか居ないという事になった。城壁の外で、数人の護衛騎士と、そしてガラディオと一緒に。



 お風呂は用意してくれたけれど、いくら皆は覗かないだろうと思っても落ち着かなかった。


 言うなれば野宿中のお風呂だから、そもそも準備が大変そうだった。大きな鉄製のタルに水を満たして、下から火を焚きお湯にしたものを、さらに大きな桶に汲んでくれたのだ。そこを高めの板でついたてをして囲ってくれた。


 覗かれないとしても、わたしだけのために用意してくれたのが申し訳なかった。浸かりたいとも思ったけれど、湯冷めしないように裸になってから防寒マントを羽織り直して、お湯を絞ったタオルで体を拭くだけにした。


 少しの間でも、ブーツを脱いで足を洗えたのだけは嬉しかった。でも、着替えが冷たくなっていて、湯冷め対策はあまり意味がなかったかもしれない。



 新しい冬用のドレスは一応厚手に作られていたけれど、一度体を動かして温まらない事には冷えたままだったからだ。


 それでも、幾重にも重なったスカート部分は熱を籠らせるのか、膝から上は温かくなるのが早かった。その反面、ドレスの裾が長かろうと、足を動かすたび風が吹くたび、スーっと冷気が膝を撫でる。



 この膝周りがやっかいで、夜はここが冷えて固くなる。動きやすい綿のズボンを履いているけれども見栄え重視なのか薄い。


 ブーツは冬用の厚手作りで良いのだけど、分厚いので歩くのが少し難しい。ロングといえども膝下までだし、じっとしている時用の何かが欲しい。



 ちなみに、足はそもそもがすでに冷え切っていて、履いたものが冷たくてもあまり分からなかった。茶色いミトンタイプの皮手袋も、体温が馴染むまで冷たい袋でしかなかった。



(冬は近接戦闘なんて無理ね。寒いし、その上着ているものが分厚くて動けないもの)


 ただ、見栄えだけはよく出来ている。深い赤のビロード生地で、ゴシック調のスタイルはやっぱり貴族令嬢っぽい。


 首回りにも、何か巻くものが欲しかったけれど。それはフード付きのマントで間に合わせろという事なのかもしれない。



 寒くて眠れるだろうかと思っていたけれど、わたし用のテントには、簡易の暖炉と煙突が組み上げられて、簡易ベッドまで備わっていた。隙間風や地面からの冷え込みはあるものの、なんとか暖を取って眠れるのは本当に助かった。



 ともかく、焚火がなければ生きて行けない。これが冬なのだ。


 ……ちがう。あたたかさに慣れてしまったのだ。貴族の生活に。お義父様の優しさに。


(昔は薄着のままで、毛布一枚で、耐えていたのにね……)


 森林遠征中は、気を張っていて野宿も平気だったのに、いざ城壁を挟んでお屋敷が近くにあるのだと思うと、体が勝手に寒がってしまう。あの温もりを、心よりも体が先に思い出すのだから質が悪い。






 そんな弱さを痛感した二日後には、見事な突貫工事で、城壁前に大きな鋼鉄の檻が建てられた。


 何と言っても、ガラディオは一人で鉄柱を運ぶ、立てる、をやってのけるのだから、半分は彼一人で造ったようなものだ。皆は少なくても六人で運んでいる。その差は一体、何なのだろうか。



 でも、せっかく作ったのにコイツ――白い獣は檻に入るのが嫌だったらしく、納得させるのにはさらに半日以上かかった。


 どうやって入れたかは、思い出したくもない。


 一緒に入って、わたしだけ出ようとしたら捕まえられた。あげく、まるで鳥の抱卵のように、太い前足とおなかの下敷きにされたのだ。


 その時は、ドレスが汚れると思ったので、咄嗟に防寒マントで体を覆った。

 苦しくはないし重くもされなかったけれど、逃げられないように絶妙に塞がれていた。


 皆に心配されたついでに、討ち取ってもらおうと考えたけれど……王命は「檻に入ったなら殺すな」というものもあったらしく、わたしが無事である以上は討てないと言われた。


 そんなこんなで、本当に迷惑で、散々だった。





 今日も、国王が視察に来るというのでコイツのお世話係だ。


 一番悔しいのが、「こいつは全部理解してわざとやってる」と言っても、聞き流される事。単に懐いているのだという盲目的な感想に集約されるのが、何を置いても悔しくてたまらない。


 皆の前では、コイツは大きいだけの、ただの猫のように振舞う。それがわざとらしいハズなのに、やたらと見栄えが良い姿に美猫顔なせいで、可愛いだの何だのと誤魔化されている。



「やってらんない。ほんとにお前、今に見てなさいよ」


「こら~。またそうやっていじめるんだから。大人しくていい子じゃないの」


 国王は昼過ぎに来るらしいけれど、その前にリリアナが差し入れを持って来てくれた。



「リリアナ……何度も言いますけどこいつは、獣の古代種なんです!」


「あぁ、そう言われると、そう見えるわね。エラと一緒だわ。よかったじゃない。仲間が出来て」


「もう! そんな事を言ってるんじゃないんです。こいつは古代種だから、洗脳されてるんですよ皆!」



「んん? どういう事?」


 リリアナは、わたしの話を横顔で聞きながら、さっきからずっとコイツを見ている。


「皆が無条件にこんな恐ろしい獣を受け入れてるのは、こいつが皆を洗脳してるからなんです!」


「え、じゃあエラも、私達を洗脳してるの?」



「そ、そんな事してません!」

「そうよねぇ。だから、大丈夫でしょ?」

 何とも話がかみ合わない。



「あぁあ……もう! そうじゃなくて、違うんです」


 じれったくなり過ぎると、わたしは言葉が出なくなってしまう。


「もう。心配性ね。この子はこんなに賢いんだから。ちゃんと言葉も分かってるみたいな返事をするのよ? ほんと可愛い……」


「あぁぁあ。信じちゃダメなんですってばぁ」



 わたしの事などチラリとしか見なくて、物珍しいコイツばかりを見ている。それがまた悔しい。


「それよりエラ、この子にそろそろ名前付けてあげないと。考えてあげてるの?」


「……つけたくないです」

 わたしはあからさまに不機嫌に答えた。



「ちょっと。なんてやさぐれた目をするのよ。あなたに一番懐いてるんだから、ちゃんと考えてあげなさい。いいわね?」


「それならリリアナが付けてください。私はイヤです」


 コイツを睨みながら答えた。コイツに名前なんて、絶対につけたくない。



「まぁ。反抗期かしら……困ったわねぇ。シロエを呼び付けようかしら」


「なんでそこでシロエが出てくるんですか……」


 居てくれたら、色々とお世話をしてくれるだろうけど。


「だって、シロエはそういうの、得意よ?」

「どういう……」



「反抗期の子をあやすの、得意だから」


「リリアナ! 私は反抗期とかじゃありません!」


 信じられない。もはや聞く耳を持ってもらえていないのだ。


「きゃあ。ほら、すぐ怒るんだもの。とにかく、早く名前を考えてあげること。いいわね?」



「…………」

 イヤが過ぎて、答える気さえ起きないのは初めてかもしれない。


「じゃないと、口きいてあげないわよ」

「そ、そんなぁ!」



 リリアナに駆け引きで勝てるわけがないけど、言われている事は子供に対するものなのが、余計に悲しくなる。


「ほらほら、いい子だから。あの子と遊んできてあげたら? 仲良くなったら、気持ちも変わるわよ」


(それが出来ないからイヤだって言ってるのに……)



「じゃあ、私はちょっと報告してくるから。また後でね」


「むぅううう」

 言葉にならない思いが強すぎると、こんなうめき声しか出なくなってしまう。


 人生で初めて出した気がする。悔しさのうめき声なんて。





    **



 結局、リリアナに逆らい続けるなんて出来ないし、したくない。という気持ちが勝ったのかもしれない。リリアナと入れ替わりのように来た国王の対応をした後、名前をどうにかしようと思った。


 それに、周りの皆……ガラディオや騎士達、視察に来た王からさえも、「名は?」と聞かれる。それに対して、コイツの怪しさを訴える事にも疲れてきた。誰もがわたしの話を聞き流すのだから。



「おい、お前。名前は?」

 白い獣は、素知らぬ顔をして空だかその辺だかを注視している。鉄檻の中で。



 地面に直接、深く差し込まれた太い鉄柱。それが並んで、十メートル四方くらいの檻を作っている。なかなかに単純で、それでいて頑強な造りだ。鉄柱同士は割と離れていて、わたしなら素通り出来る。要は、こいつが出られなければいいのだ。


 天井は網目に鋼を組んで、雨除けだろうか木製の屋根が付いている。接合部分が不安な気もするけど、懐き具合と大人しさから、もしかすると強度は重視されていないのかもしれない。



「何て呼ばれたいのよ。答えなさい」


 ソレは、そこに何かがあるかのように、一点を見据えていたと思えば視線を動かす。


「猫のフリなんていいから、答えなさいよ。私の言葉は分かってるんでしょ?」


 白と青銀のしっぽをふりふり。機嫌がいいのか別の事を考えているのか、わたしの言葉に反応する気がないようだ。



「無視しないで。聞きなさいよっ。答えなさい! 名前!」


 苛立ちが抑えられなくなって、檻の隙間から入り込んだ。そして白い獣の頬毛を掴んで、視線をこちらに向かせてやった。けれど、太い前足でちょこんと押された。やめろとでも言うかのように。


 その力に抗えるわけもなく、わたしはぐいぐいと追いやられて、軽く突き飛ばされた形になった。



「きゃ」

 尻もちをついてしまって、自分でも驚くくらいの可愛い悲鳴が漏れた。


 いくら少女の身といえど、わたしが押された程度でこけるわけがない。



「こいつ……防げないように軸を崩したわね? そういう事が出来るのも、私の話を理解してるのも、分かってるんだから」


 お尻を地面に着けたまま、白い獣に抗議した。でも、それを聞く気がない事も分かっているから、不毛だ。事実、あれはわたしなどすでに見ていなくて、毛繕いを始めている。



「背中の毛がそんなに気になるの? 私が剣で梳いてやろうか。皮ごと引き裂いてやるから、乗せなさい」


「ちょ、ちょっとエラ様! そういう刺激をしないでください。怒って暴れ出したらどうするんですか」


 護衛騎士が、半身になって檻の中まで入って、私に手を貸しながら言った。それでも、彼もわたしの味方ではないような気がしてしまう。



「ありがとう。でも、あなたが檻に入っても、大丈夫という保証はないわよ?」


 わたしが入っても襲われないから、平気だと思ったのだろう。


「えっ! え、いや、それならエラ様も……一緒に出ましょう。危ない……のですよね?」


 及び腰になりながら、わたしの手を引こうとしている。



「一人で出て頂戴。わたしは、こいつに何かされてもいいから入ってるだけだから」


「そ、そんな!」


 そう言うや否や、彼は私を抱えるように檻から抜け出しそうとした。けれど、大人がわたしを抱えた状態で抜けられるほどではない。詰まってしまって、焦っている。



「降ろして。大丈夫だから。……気持ちは嬉しいけど、邪魔しないで」


 なんだか、八つ当たりをしている自分が少し嫌だったけど、その言い方以上に優しく出来なかった。


「すみません。……でも、お気を付けくださいね」


「ええ。ありがとう。平気よ」

 騎士を檻から出して、もう一度獣に向き直った。



「いい加減、反応くらいしたらどう? それに、話せるわよねぇ? 黒いトラが出来たんだもの。念話、出来るんでしょ?」


 ソレは形だけの毛繕いを早々に終えて、今度はこちらにお尻を向けて丸くなった。



「何よ。今度は寝たフリまでするの? 聞いた事に答えなさい」


 無視を決め込んだコイツに、完全にカチンときた。


 わたしは尻尾を掴んで、毛を毟ってやろうとぎゅーっと引っ張ってやった。すると一瞬、尻尾をびくっとさせた。



「ほらほら、喋らないと毛を全部毟り取ってやるわよ?」


 攻撃してきたら反撃してやるつもりだったし、わたしに危害を加えれば、さすがに処分されるだろう。そうすれば、わたしは犠牲になるかもだけど、皆がコイツに騙されずに済む。



 ぶちぶち。という音と共に、少しだけ、途中から毛が千切れた。


 案外、毛は普通の強度なのかな。などと思った瞬間だった。


「ひゃっ!」

 白い獣は、面倒臭そうにこちらに頭を向けると、尻尾でわたしをぐるりと捕まえた。



 もふもふとした毛が、少し……気持ちがいい。

「えっ、ちょっと!」


 毛の感触をどうのと思っている間に、わたしは尻尾で持ち上げられてしまった。

 痛くないようにされているけど、抜けない程度にはしっかりと巻かれている。



「お、降ろしなさい! お前とじゃれる気なんて、こっちにはないのよ!」


 大して長いわけではないから、せいぜい五十センチも浮いているか、というくらいだ。けれど、両手ごと巻かれた状態で、横向きに浮かされているのは不愉快だ。



 檻のすぐ側では、さっきの騎士があわあわとしている。

「だ、大丈夫だから。心配しないでください」


 コイツには苛立ちながら、こちらには気を遣う。

 なんて面倒なのだろう。



 そんな事を思っていると――。

「きゃあ」


 獣は、くるんと尻尾をほどきながら、わたしを転がした。わたしはまるで、コマのように二回転ほど回った。横向きに。ただ、帯剣しているから半分は自分で回ったのだ。受け身をして回らないと、剣が地面に掛かると腰が痛む。



「もう! 服が泥だらけになったじゃない!」


 いつまでも無視され、あまつさえこんな扱いを受けて、わたしは何だか悲しくなってしまった。腹が立つというより、悲しい。


 これまでは、良くされる事はあっても、こんな仕打ちを続けられた事が無かったから。ガラディオでさえ、ずっと突き放したりはしない。



「なんで……言う事を聞いてくれないのよ」


 怒りのせいか、急に悲しくなったせいか、頬を涙が伝った。

(わたし、泣いちゃった……?)



「エラ様。エラ様、今日はもう、お戻りになってください。送らせますので、ゆっくりお風呂にでもお入りください」


 ぽろぽろと涙を流すわたしを見かねて、騎士はそう言った。ここに来て、まだほんの十分程度なのに。名前を付ける……というか、聞き出しておかないとなのに。



「でも……」


「獣の名前は、また後日にでもつけましょう。さ、次は引っかかれてしまうかもしれません。檻から出て来てください」


 そう言われて、彼の言葉に甘える事にした。

 




 なんとも惨めな気分で入るお風呂では、初めて人恋しいと感じた。

 お屋敷の、広くて温かい湯船の中でほっとしたからだろうか。


 誰でもいいから、沢山甘えさせて欲しいなと。それから……。


 あの猫もどきの獣を、いい加減なんとかしてやろうと。

(……次は、泣き落としとかで案外いけないだろうか) 



お読み頂き、ありがとうございます。

ブックマークも頂戴しまして、嬉しく思っております。ありがとうございます。

応援を頂けると励みになります!


 **

読んで「面白い」と思って頂けたらば、ぜひとも他の人に紹介して頂いて、広めてくださると嬉しいです。

「つまらん!」という方も、こんなつまらん小説があると広めてもらえると幸いです。

ぜひぜひ、よろしくお願いします。

*作品タイトル&リンク

https://ncode.syosetu.com/n5541hs/

『 オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』

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