第四章 一、白い獣『虎魔』
第四章 一、虎魔
我は虎魔である。名は未だ無いが、必要も無い。
虎魔猫などと、無粋な呼び方をする愚か者も居るらしいが、猫とは弱きモノ。我とは似ても似つかぬ。
人の智と言葉は、父が教えた。人魔を食らい、智を得たという。我も食らえと言われたが、人魔を食うなど在り得ぬ事。
元より、人の智など得ずとも、虎魔の智の網、記憶の網から共有出来よう。
父は黒虎。虎魔とは異なるモノゆえ、必要だったのだろう。
小さき人魔の子は面白い。我の本質を獣と並べ、騒ぐのが何とも言えぬ。
念話を使えば話せようが、我は面白く過ごしたい。あの人魔の子は、もっと我を楽しませる事だろう。
我の声も疑っておる。猫の物真似には自信があったが、どこまで隠せようか。疑う様が滑稽で面白い。あれは、我を楽しませる才がある。
他の人どもは、愚かモノばかり。我を見て魅了されるは、智の足らぬ証拠。されど、ゆえに人であろう。虎魔の記憶をいくら辿ろうと、愚かなまま。だが、それもまた滑稽で面白い。
人に混じる事など、虎魔は誰もせぬ。この好奇心は、父譲りだろう。
遠くから世を見るよりも、我はもっと楽しみたい。人どもが猫と侮るならば、猫として演じてみせよう。
人魔の子は、いつ確信を持って我に対するだろうか。人に交ざり過ぎて、己を信じられずにいる愚かな人魔。
ただ……普通ではないモノが混じっている。興味が湧いたのはそこだ。世の理の何かを、纏っているように見える。
小さき人魔。お前はどう生きるだろうか。我の楽しみとして、早死にをしてくれるな。
人であって人に非ず、人から生まれ人に追われる。悲しき人魔は、なぜ力を封じ、その宿命へと身を落としたのか。未だ健在であれば、人ごときに後れを取るまいに。
力の無い人魔では、記憶の網に触れることも出来ぬだろう。なぜかを聞くことは、やはり叶わぬか。
されども、生きた人魔に出会うのは久しい。人に交じれば、もっと出会うやもしれぬ。
彼奴ら……生来の魅力さえ、力を封じたせいで半端。祀られていれば分かり易いが、どうも妬みを買いやすい程度に半端。生きた人魔が稀有になるほど、人が人魔を下す程度には目立つ。
由々しき事とはいえ、それもまた人魔どもの選んだ道。
だが、人魔無き人は、このままでは滅ぼう。
『静観の決まり』も、ただ側で見るのみであれば、反さぬだろう。まさか虎魔が人に祀られようと、猫の振りを通せば、あるいは。
……珍しき黒虎が、人魔に出会う事すら稀。あまつさえ、それを食うなど本来ありえぬ事。その血から虎魔が生まれる事は、さらにさらに稀な事。そのせいか、好奇心を抑えられぬ。
ありえぬ事が我が身にも起きたという事は、人魔を側で見るというありえぬ思い付きも、世の理の導きやもしれぬ。
力を封じる前の人魔は、一瞥で人を虜にした。この小さき人魔も近いものを持つ。もしや封が解けたかと近付いたが、何やら別のモノが混じる。
これが解せぬ。が、面白い。
つまり、我は小さき人魔に魅入られたという事。魔が魔に魅入られるなど、これも本来ありえぬ事。世の理は、何かを変えようとしておるやもしれぬ。
面白い。
世を見ることが、これほど楽しみになるとは。これもまた、魔にとって在り得ぬ事。
何かは変わった。それは何だ?
我に、それを見届ける偶が巡るのは、我も稀なモノだからか?
面白い。
口の端が笑んでしまう。
我は今、とても面白い。
我は虎魔だが、今は猫を演じよう。
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*作品リンク
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『 オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』




